「白ふわたぬき」
第1話 「白ふわたぬき」
−「世界樹」−
それは生きとし生けるものを育み、また新たに生命をも創りだす神聖なる樹。
それが世界樹だ。
この世界「マヴェリース」には13本の世界樹が存在する。
ある世界樹は大国の中央に存在し、樹の元で暮らす人々に豊穣が約束されている。ある世界樹は海底に存在し、人魚、魚人、甲殻人を創り出したと言われている。また、最上位の世界樹は天界に存在し、天使達の楽園の築き上げているとも噂されている。
だが、他所様の事情などは知った事ではない、領主の立場である私は
自分の領土を豊かにするので一杯一杯である、領土と言っても家が3件ポツポツと点在する小さな村だ。
私の名は「ロック・フライド」ひと月前、隣国の国王よりこの土地を与えられた。
王曰く、「お主のその類まれなる力でこの地を開拓して見せよ」だそうだ。
類まれなる力と申されましても王よ、あなたはたまたま私の仕事を見てて、
ふとした思いつきで言っただけでしょうよ。私は元樵夫。木こりのおじさんだ。
少し前に仕事で城内の木を取り払って欲しいという国からの依頼が来た。城内での仕事は珍しく、報酬も破格のものだった。器材や装備を万全に済ませ、いざ王宮へ。
久々に訪れる王宮はやはり目を見張るものがある。とは言っても私が作業するのは城壁の内側にある庭園だ。なんでも庭園を花でいっぱいにしたいらしく、
背が高い木が邪魔だったらしい。
作業にとりかかり1時間程で王に見つかり・・・・失礼。王の目に止まり
この土地を任される事となった。王が言っていた「類まれなる力」というのは
恐らく私の肉体的な力の事だろう。
確かに私は普通の木ならば斧2撃で倒せる。でもだからと言って、
人々をまとめあげたり、リーダーになれる様な人間では断じてない。
何やかんや駄々をコネて断ろうと思ったが、いざ王宮へ行き。
玉座の前に立ち、王とその臣下の前で「嫌です」何て言える筈もなく
気がつけばこんな事になってしまっていた。昔から図体はデカいのに肝っ玉の小さい奴だとよく言われていたものだ。
そんな私がこの「ヲトノハ村」に来て早1ヶ月となる。最初はどうなるかと不安だったが、この村の人たちはすんなり受け入れてくれた。
大人6人、子供3人、私を入れて計10人の本当に小さな村、集落と言った方が近いかもしれないがまぁいいだろう。
3件の家にはそれぞれ一家族が貧しいながらも幸せそうに暮らしており、
家族同士の付き合いもそれはそれは良好なものだ。
中でも子供達が本当に仲良しで。毎日の様に遊んでおり、私がここに来てまだ30日程度だが、一緒に居なかった日を見なかった事がない。時々一人、別の村の子が来て一緒に遊ぶくらいだ。
かく言う私は領主らしい事は何一つ出来ていない。むしろ。家作りを手伝ってもらってしまった。いやぁ、面目ない。
さすがに私も何か仕事をせねばと思い立ち二日前に畑を作った。本当にそれぐらいしか仕事らしい仕事は出来てない。村民は畑が出来、これから農耕が出来ると喜んではいたが大きな問題に直面した。
この村に水がないのだ。村民は遠く離れた川から水を汲み、それで生活していると言っていたがあまりに効率が悪い。私も実際に川まで案内をしてもらったが距離が離れすぎだ。10キロは下らないだろう。
成人男性が一度に運べる量はだいたいバケツ数杯分これでは生活は苦しい。
川を汲みに行ったその日、川の近くの村から空樽を4コ譲ってもらい
それに水を入れて持ち帰ると、ひどく驚かれたのは何故だろうか。
ヲトノハ村の課題は見えてきた水だ。当面この問題を解決する事こそが領主である私の責務だろう。そんな時村民のローレンが私にアドバイスをくれた。
私はその話に非常に興味を持った。
「ローレンさん、それは本当ですか?この村に世界樹があるってのは?」
世界樹はこの世界に存在すると言われている伝説の樹
その13本のうちの1本がこの小さな小さな村に存在すると言われてもにわかには信じる事が出来なかった。
「あんたが疑うのも無理はないよ。言ってもこの村、俺たちが移り住んで来たのも本当につい最近の話だ。世界樹を見つけたのもつい最近。あんたがここに来た時期より少し前ぐらいかな?」
「そんな最近に・・・世界樹の発見となると大発見ですよね、国には報告したんですか?」
この世界に存在する世界樹は13本。その内発見されているのは9本。今回のが本物の世界樹となれば正に値千金の大発見となる。しかし、
「いやいや、そんなリスクがデケぇ事はしねぇよ。国に報告したとしてもし間違ってたら?それだけで罪になっちまう」
世界樹を見つけたとなれば、貴族への成り上がりも夢ではない。
だが同時に虚偽の報告をしたとなれば国外追放。財産も全て差し押さえられ
行き場を無くしてしまうのである。
過去に一度、貴族へと夢見た愚か者が嘘の報告をし、国の鑑定家達に見破られ
追放となった例があるのだ。
「世界樹だと確信した証拠は?」
「それなんだがな・・・・・」
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私は話を聞いてすぐに、世界樹の元へ向かう事にした。
いても立っても居られなくなったのだ、ローレンさんの話しを聞くと娘さんは子供同士で遊んでいる際中、事故に遭ってしまったらしい。たまたま村の近くを通った行商の馬車に跳ねられ、娘さんは頭からひどく流血し、街の医者まで運ぼうと思ったその時、子供の一人が一枚の【葉】を持ってた来た。
「その葉が採れた樹がコイツってわけか・・・」
その樹は世界樹と言われても、すぐに信じてやれる程の物ではなかった。
何よりも小ぶりなのだ、大きさはリンゴの木程度。
確かに幹や枝、葉から魔力を感じ取れる。魔法に精通していない私でも魔力というものを感じるのだからそうなのだろう。
だが、この葉には傷を癒す力があるらしい。
ローレンの娘の額にこの世界樹の葉を当てた所、みるみる傷が引いていったそうだ。葉を持ってきてくれた別の村の子から話を聞いた所、確かにこの樹から葉を頂戴したとの事。
「どれ、では私も一枚ほど拝借するか・・・ン!?」
ちぎれない。おかしい。自分で言うのもなんだが私は力持ちの方だ。
こんな小枝に生っている葉がこれだけ力を入れて引きちぎろうとしてるのに
抜ける気配がない。
「いいだろう・・・30%の力で行かせてもらう。・・・・んひぃ!!!」
久しぶりに力を込めたせいか変な声が出た。気にしないでもらいたい。
「もう少しだ・・・!!!」
枝がこれでもかと言うぐらいのしなりを見せている、そしてついに、枝と葉が離れる瞬間が来た
ブチィッ!!
ついに葉を一枚ちぎるのに成功した。やり遂げた達成感と高揚感がとても清々しい。
「これが噂の世界樹の葉か・・・・」
見た目はただの葉っぱ、本当にこの葉に治癒力など宿っているのだろうか
私は葉をマジマジと見つめ観察し終えると匂いもついでに嗅いでみる事にした。
「臭ッツさぁあああぁあ!!!」
匂いを嗅いだ事を後悔した。この臭いは何んとも形容しがたい。まるで
てんこもりの生魚を丸三日外に放置し、腐らせた様なひどい臭いだった。
控えめに言ってちょー臭い。
「なはははははははっ!!!」
するとどこからか幼子の笑い声が聴こえてきた
「んう、ぬぅ、誰だ!?」
私は鼻を抑え、悶絶しながら声の主を探す。
「たわけが。人のモノを無断で盗るからそうなるのじゃ。」
声の主は樹の頂上で手足を組み、腰かけていた。
座っていてわかり辛いが、恐らく身長は私の腰元ぐらいだろう。
整った顔立ちに美しい白髪の髪の毛、長さは背中まで届くロングヘアで外側にハネており、くりくりとした大きな目には愛らしさを感じるが、緑色の瞳がこちらを睨見つけている。
何よりも驚いたのが耳だ。遠くからでも分かるぐらいのモフモフした耳が頭の上でひょこひょこ動いている。
人・・・ではない・・・
白髪でケモミミの可憐な少女の姿がそこにあった。