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海の家  作者: 夏樹聡
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第1話「前日」

「ただいまー」

買い物から帰った綾人は畳部屋へ入った。「おかえりー……あれ、またそれ買ってきたの?」

くつろいでいた夏海が綾人が手にしているものを見て言った。

「うん、だって好きだから」

綾人はそう言ってがぶ飲みのブルーハワイ味の蓋を開けて、一口飲んだ。綾人も床に座り、くつろいだ。

「あー、疲れた」

夏海が笑って応える。

「お疲れ様」

綾人はジュースを床に置いた。

「明日から高校かぁ。中学はあっという間だったな」

「そうね。中学、楽しかったね」

綾人と夏海は明日から津雲里浜島高校(通称「津雲高」)に入学する。

「まぁな。でも中学で一緒だった友達はほとんど同じ高校だからあんま変わんないかもな」

「うん。私もそう思う」

綾人はもう一度ジュースを手に取り、一飲みする。

「あの4人は?」

「みんな自分の部屋にいるよ」

「そっか」

ふと、夏海は壁に掛けられた時計を見た。

「あ、もうこんな時間。そろそろご飯作らなきゃ」

本来、料理は園長が行うのだが、夏海は善意でいつも代わりに作っている。

「手伝おうか?」

「いいよいいよ。綾くんはゆっくりしてて」

「いつも悪いな。ところで、今日のメニューは?」

「カレー。レトルトだけど」

「そっか、今日は手作りじゃないのか……」

「ごめんね、私ちょっと今日は疲れちゃって」

「やっぱり手伝うよ」

「レトルトだから作るの簡単だから大丈夫だよ。気にしないで」

「そう……わかった。じゃあ俺部屋に戻ってるわ」

「うん。お疲れ様」

綾人は部屋から出て、階段を上がり、自分の部屋に入った。

「ほんっと、あいつは優しいな……」

綾人は床に寝転がった。


「綾くーん!ご飯できたよー!」

夏海の声で綾人は目が覚めた。

階段を降りて畳部屋に入ると、もうみんな並んでいた。

「おっそいぞ綾人ぉ」

涼が不満を漏らした。

「そうだよ。なっちゃん、3回も綾ちゃんのこと呼んだんだよ」

柚が言う。

「あと一回呼んでも来なかったら叩き起こされてたな」

涼が冗談気味に言うと、あわてて夏海は否定した。

「ちょっと、そんな乱暴なことしないよ」

「そんなことはいいから、さっさと食おうぜ」

諭が気だるい声で言った。

と、ここで綾人があることに気づいた。

「あれ?そういえば園長は?」

「あぁ、園長なら今繁華街の方に買い物に行ったとこよ。先に食べてていいって」

月夜がそう答えた。

「そっか」

「じゃあ、いただきます」

夏海の掛け声で皆が口を揃える。

「いただきます」

そして、皆一斉にカレーを食べ始めた。

「うーん、レトルトもいいけど、やっぱ夏海の手作りの方がいいな」

涼がそう言うと、夏海は申し訳なさそうに言った。

「ごめんね。今日ちょっと疲れてたから……」

「ふーん、それなら仕方ないか。あ、そうだ。月夜と諭は美浜高に行くんだよな?」

「ええ」

「ああ」

美浜高とは、海の家から自転車で15分ほどで行ける「美浜町」にある「美浜高等学校」のことだ。

「あそこって津雲高より偏差値高いよな?やっぱすげぇな月夜と諭は。もしかして、諭が好きだから同じ高校に通おうと思ったのか?月夜」

月夜は冷静に返した。

「そんなんじゃないわよ」

「お、おう、悪い」

それからは特に会話もなく、食事は終わった。

「ごちそうさまでした」


「じゃあみんな、おやすみ」

6人はそれぞれの部屋に入った。

明日から新学期。皆、期待と不安を胸に秘めながら

眠りについた……。


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