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2、共同生活から始まる何かを期待するのは、プライベートを確保した後の話。

 

 

 共同生活も2週間経過いたしました。

 こちらでは5日で1週間と数えますので、つまり10日経ったということですね。そして1か月は50日ありますから、ディズの引継ぎが完了するまであと40日となります。


 んで。

 私は今、健康体かつ、まだ青年期である男性2名と1つ屋根の下で生活しているわけです。

 あ。イティスによると、エルフは800歳くらいまで現役らしいのですが、そんなことはどうでもよろしい。

 

 この20日間。多少イティスの求愛と恋人扱いがウザイくらいで、夜這いされたりだとか、襲われたりなんてことはありません。

 この借家は夫婦に2人の子供といった家族構成を想定して建てられているからなのか、トイレには針金フックのような簡易の鍵が付いていますが、各私室にはついていないんですけどね。


 え?いわゆるにゃんにゃんを期待していたのかって?

 いや、まさか!そんなはしたない事を望むわけないじゃないですか!

 ただ・・・ただ、ね。男性2名とも私へ好意を示しているにもかかわらず、そういう方面のアプローチが何にもないものだから。女としての魅力が足りないのかな、なんて。

 いやいやいや!

 2人とも紳士だという事ですから、いい事なんですよ!非常に真っ当な事なんですって!


 そんな感じで安心、安全に過ごしている私の唯一な不満点。


 それはお風呂でございます!これを癒しとしている日本人は多いはず!

 例に漏れない私もお風呂に入りたい!


 そこで私は考えました。

 入浴の習慣が無いこの国に、バスタブなんて物の存在を期待しても無駄でしょう。あったとしても高価に決まっている。

 そして私が触れている間しか発動しないらしい、異世界人特典と言っていいのかわからない謎の力を駆使して作ったとしても。手を離した途端にバスタブが消えてしまうのでは、おちおち湯をためることもできません。


 でも、でもですね!

 留置所内で試行錯誤したウォーターベッドを応用すれば、いけるんではないかと!そう思うのですよ!


 昼間は何をするにもイティスがくっついてきますし、部屋に籠ろうものなら私の気を惹こうとアレコレ騒いで天岩戸あまのいわとゴッコをしてくるのは経験済み。

 そんなわけで、皆が寝静まった深夜。早速、実験を開始します。


 とりあえず床の上に体育座りをして、お尻の下へウォーターベッド温かいバージョンを作りました。岩盤浴のような感じで気持ちいいですが、こうして乗ったままでは入浴できませんから、中へ自分が沈むのをイメージします。あっさり成功して、腰まで湯につかり、服が濡れました。

 どうせ離れれば消えて乾いてしまうと思って服を着たままですが、服が濡れる感覚はやはり気持ち悪い。


 うーん。服、脱いだらまずいかなぁ。

 ドアに鍵はありませんが、紳士どもはノックなしに開けることをしませんし、許可を出しても私の部屋へ足を踏み入れたことなんて一度もありません。それにぐっすり眠っている時間です。実験が成功したら脱いでしまいましょうかね。


 腰から下だけ湯に入った状態の半身浴もいいけれど、今は肩までつかりたい。という欲求に従い、ウォーターベッドの厚みを増していきます。

 いい感じに肩の辺りまで増やした私は、その場で立ち上がりました。


 よし。脱ごう!


 膝上までお湯の中へ入った状態で、いそいそと寝間着を脱ぎます。べったり張り付いている服を脱ぐのに手間取りましたが、近くの椅子の背へ投げれば、乾いた状態でヒラリと引っかかりました。

 こういう時、私が触れていないと存在しない魔法の水って、便利ですよね。


 鼻歌が出そうになったのを危ういところで止め、物音をたてないようにそっと座り直します。熱くもぬるくもない、絶妙な湯加減に思わずため息が漏れました。


「はあうぅぅぅぅぅ」


 気持ちいい~。癒される~。


 頭も濡らしたくて上を向いたら、お尻が床から離れて、上半身がお湯の上に浮いているような状態になってしまいました。

 ウォーターベッドを参考にしたのですから、お湯の塊は当然ベッドサイズです。私が手足を伸ばしても湯からはみ出ることはありません。

 非常に気持ちが良かったため、そのまま脱力して全身を浮かせることにしました。


「はあぁぁぁうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 先程より長くため息を吐いて、目を閉じました。

 完璧です。異世界人特典ばんざい!

 

 冷めないお湯を堪能していて―――いつの間にか眠ってしまったのでしょう。

 はっと目を開けたら、自分の全身が湯の中に沈んでいて慌てました。


「ごがぼぼぼぼぼぼっ?!?!?!」


 かいた腕が上手く床に触れなくて、さらにパニックになり。なんとか床へ触れた足が滑った拍子に、思いっきり息を吸ってしまいました。


「ずごぼぼ・・・・・・・・・ぼ?」


 あ、これ死ぬかもしれない。


 と、思いましたが普通に呼吸ができてしまいました。

 何故だかよくわからないけれども、私が出したものだからなのかな。まあ、素っ裸で溺死を免れたので、結果オーライなのですが。


「ぶっ!ぼぼぼぼぼぼぼぼっ!!!」

 

 緊張からの安堵。その落差のせいでしょう。

 なんだか笑えてきて、水の中なら大丈夫かと爆笑します。

 どうせなら気が済むまで笑ってやろうとお腹を抱え、背中を丸めて、水中で笑っていたら、唐突にドアが開きました。


「どうした?!何がっ?!」


 寝間着姿に剣を構えた状態のディズと目が合います。


 硬直は一瞬。

 次の瞬間、私は悲鳴を上げました。


「ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!!!!!」

「待ってろ!今助ける!!」


 赤面して部屋を出て行くはずだったディズが駆け寄ってきて、湯の中へ手を突っ込んできます。そして私の腕を掴むと、湯の中から引っ張り上げました。

 私は茫然としている間に腰を抱かれ、彼の脇へ立たされます。その間、ウォーターベッドから目を離さなかったディズは、私が出た途端、跡形もなく消え去ったそれに目を丸くしました。


「なっ!どこへ行った?!奇妙な四角いスライムめ!」

「・・・・・・・・・」


 うん。察しました。

 どうやらディズは私が作り出した温かいウォーターベッドを、魔物の一種と勘違いしているようです。

 確かに、先程の私をはたから見たら魔物に飲み込まれてもがいているように見えなくもないと思います。


 しまった。

 異世界の騎士の聴力を甘く見ていました。きっと隣室で眠っていたディズに、水中でゴボゴボ騒いでいた音が聞こえてしまったのでしょう。

 

 反省は尽きませんが、とにかくまず全裸なのをどうにかしたい。

 ディズがこちらへ視線を向ける前に・・・と、私はキョロキョロと辺りを見回す彼の腕からそっと抜け出ようとします。しかしがっちり捕らえれていて、できませんでした。私の寝間着とタオルがかかっている椅子は遠く、手を伸ばしても届きそうもないし。


 困り果てた私は、ディズに密着することで彼から見えないよう、局部を隠してみました。

 

「・・・・・・・・・」


 痴女だ。痴女がいる。

 

 偶然、部屋の隅にある姿見に映った自分は、明らかに不審な女でした。

 丈の長めな白シャツに、ゆったりとしたブラウンのズボンをはいたイケメンへ、全裸で体を押し付ける冴えないアラサー。

 泣ける。


 しょっぱい気持ちでいっぱいになった時、ようやくディズがこちらへ視線を向けました。


「大丈夫かヒヨ・・・ヒヨッヒヨ・・・ヒヨヒヨヒヨッ?!」


 眼光鋭く周囲を警戒していたディズが目を見開いて、震え出します。そして「可愛い小鳥(ヒヨヒヨ)」を連発してきました。そのヒヨヒヨが重なるにつれて、ディズの顔が真っ赤になっていきます。

 ついに私から手を離し、さらに持っていた剣まで落としてホールドアップの姿勢をとるディズへ、私は必死でしがみつきました。


 だってこちらを向いたまま離れられたら、体を見られてしまうではないですか!

 貧相かつ、アラサーであったとしても、同年代の男性に全裸を見られて平気でいられるほど、枯れていないのですよ!


「ひっ!ヒヨ・・・ヒヨッヒヨヒヨ・・・ヒヨリっ!もう大丈夫だ!魔物はいない!大丈夫だからぁ!!」

「だっダメ!離れないで!!」


 ジリジリ後退あとずさるディズと、追いすがる私。

 せめて顔だけでも逸らしてくれればいいものを、彼はじっとこちらを見下ろしたままなのです。30歳間近(まぢか)の私にだって、負けられない戦いがあるのだっ!


「ひっ?!」

「ほぁっ?!」


 何かへ足を取られたディズが、仰向けに倒れます。その上に乗っかる形で、しがみついていた私も倒れました。


 バランスを崩した一瞬で覚悟したほどの衝撃はなく、逆にディズの上にない私の足へ、心地い柔らかさを感じます。運のいい事に倒れた先はベッドでした。よって、私の下敷きになっているディズに怪我をした様子はありません。

 ほっと力を抜いたら、ディズの胸の上にあった私の手へ、彼の心臓がこれでもかと早く打っている感触が伝わってきました。不意にその音が聞きたくなって、頭を傾け、耳を寄せます。

 

 生きている。

 つい2週間前に死にかけたデジデリウスが、ちゃんと生きている。


 他人の心臓の音には、何か癒しの効果でもあるのでしょうか。気分が落ち着く心地よさに誘われて耳を傾け続けます。暫くそうしていたら、観念した表情のディズがやっと私から視線を外してくれました。


 どのくらいそのままでいたでしょうか。

 そう長くもなかったと思いますが、居心地悪そうにディズがモゾモゾし始めて我に返ります。手っ取り早くシーツで体を隠そうと、そちらへ手を伸ばした時、私の背後から声がしました。


「ほうほう。扉が開いたままなのは、私も一緒にどうかと言う意味に違いないな。では、早速・・・」

「んなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 飛び起きたディズが私をシーツでグルグル巻きにしました。

 そして―――いつの間に脱いだのか。下着を纏っただけのイティスの首へ腕をひっかけて引きずりながら、ディズが部屋を出て行きます。ヒラヒラ悪びれもせず手を振ってくる変態を視界から完全に外したくて、顔を手で覆おうとした私は、自分が顔だけ出したミノムシ状態でベッドの上に転がっている状態な事に気が付きました。

 

 扉が閉まって、1人残された私は悩みます。

 これ。どうやって抜け出たらいいの?




入浴シーンが欲しいとの要望を頂きましたので(笑)

でもきっと、御意見を頂いた方のイメージとは違うと思います。

ごめんなさい。


続きは明日。

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