魑魅魍魎の世界
小説の中でしか味わえない、『ありえない』物語。どうぞお楽しみくださいな。
―今は昔。それは、多種多様な妖怪がいたころの、1人の妖怪から始まった物語り。―
「やーい!弱虫白夜!弱虫白夜!また泣いてやんのー。」
「お前も妖怪なのになんで弱いんだよ!」
「お前のせいで俺たちまで、人間に馬鹿にされんだからな!」
「もう近づいて来るなよ。」
「ばあちゃーん。うえぇーん。」
「おやおや、白夜。どうしたんだい?」
「みんなが弱虫って馬鹿にするんだ!」
泣きながら部屋に入ってきたのは、一見人間にも見える5歳ほどの男の子だった。しかし、おでこをよく見ると、まだ生え途中なのか、小さい2本の角がちょこっと見える。
その白夜という男の子は、ばあちゃん、と呼んだ女性の所へ駆け寄り抱きついた。
その、ばあちゃん、と言われた女性は、夜月といい。白夜よりもはっきりと角が生えていた。
夜月は、微笑みながら白夜に言った。
「お前は弱くなんかないよ。闇鬼族の人鬼は強いんだから。そして、なによりお前は優しい。それがあれば充分だ。」
「ありがとう。ばあちゃん。それより、人鬼ってなに?」
「人鬼はね、外見は人だが、鬼の強い力と妖力がある鬼のことだよ。妖怪や鬼の中では珍しく、人間の世界でも生きられるもんだから、いろんな奴らが羨みその力を欲しがっているんだ。」
「そうなんだ。それで、僕たちは、人鬼のなかの闇鬼族なんだよね?」
「そうさ。他にも、暁鬼族と昇鬼族とわしらを含めて3つ鬼族がある。」
「なんで、闇、暁、昇っていう名前なの?」
「あぁ。そういえばこの話はまだしたことがなかったねぇ。」―
ばあちゃんは、これは今から2500年も前の話だよ、と前置きをして話しはじめた。
―2500年前―
あるところに、とても強くとても優しい鬼がいたとさ。優しいが見た目が見た目だったため、山から街におりても、いつも気味がるわれ、怖がられ、1匹だった。
そんなある日、いつものように1匹で街から出て山を登っていると、後ろから物音がした振り返るとそこには、とても美しい女がいたそうな。鬼は驚いたが、女に尋ねた。
「お前は何者だ。俺が怖くないのか?」
すると、女は微笑んで言った。
「私は夕歌、24歳。街の者よ。あなたが怖いかって?怖くなんかないわ。」
「怖くない?」
「えぇ。だって、あなたは優しいじゃない。」
「そうなのだろうか...。」
「そうよ。それより、私はあなたに用があって来たの。」
「なんだ?」
「あなた、お腹空いてないの?」
「えっ...いや...その...」
訊かれてから気づいたが、鬼は街に下りても人間の怖がる姿に耐えられずにいつも何も買わずにすぐ山に帰ってきていた。そのためいつもお腹を空かせていたのだった。魚や動物を狩ってもいいのだが、なにより鬼は優しかったため、なにも狩らないで山に戻っていた。
すると、鬼の腹が夕歌に、腹が減っていることを訴えるように、ぐぅ~、っと鳴った。
「ほら、やっぱりお腹空いてるんじゃない。」
角から赤い顔をさらに赤くしている鬼には目もくれず、夕歌は鬼に言った。
「おにぎり作ってきたから、向こうで一緒に食べましょう。」
夕歌は近くにあった木を指して言った。
「ありがとう。」
「そういえば、あなたの名前は?」
「名前は...ない。」
「じゃあ、私が決めるわね!整った赤い体に、夜空のように澄んだ黒い瞳に長い髪。そうね、紅夜はどう?」
「紅夜...良い名だ。ありがとう。」
「これから、よろしくね。」
―それから2人はよく会い、仲を深めていった。
そんなある日、2人に、3人のこどもが生まれた。見た目こそ人間の男の子そのものだが、よく見ると、おでこから2本の角がのぞいて見える。これが人鬼が初めて生まれたときだった。
夕歌は喜んで3人を育てた。なぜなら夕歌は生まれてすぐに、親を亡くしていて家族がいなっかたのだ。
そして夕歌は、3人に名前をつけた。
長男は、闇に包まれたように暗い夜に生まれたので、闇夜。
次男は、太陽が昇る前の暁の時間帯に生まれたので、暁。
三男は、太陽が昇った時に生まれたので、陽昇。
3人はすくすくと育っていった。しかし、年が経つにつれ喧嘩などでは済まない争いごとが増えていき、夕歌も紅夜も止めようとしたが、成長した3人はもう手に負えなかった。
争いのなかで3人は、あることに気がついた。それは、生まれた時間帯になると妖力があがるということだ。
妖力とは、人間の体力のようなもので、稀にその妖力を自由に操ることができる鬼もいるという。
そして、その稀な人鬼として生まれたのが3人だった。本人たちはそんなことなど知らずに妖力を振るい続けた。疲れた夕歌と紅夜はその後亡くなった。3人は悲しんだが、今度は紅夜が持っていた土地や財産を誰がどのくらい貰うかで争いがおきた。争いは何年か続いたがきりが無いので、休戦というかたちとなった―
―それから何年か経ち、それぞれ家族ができ闇鬼族、暁鬼族、昇鬼族ができた。土地と財産は争いではなく、しっかりと話し合いで決め、平等に分けられた。だがやはり仲は良くならず、今でもその仲は変らないのだと。」
「今でも?」
僕が訊くと、ばあちゃんは言った。
「あぁ、今でもだよ。お前の父ちゃんも闇鬼族の将鬼として他の鬼族とはつるんでいないだろう?」
「うん。」
将鬼とは、鬼族のお頭のようなものだ。そして、闇鬼族の将鬼は白夜の父・夜空だ。白夜も父によく、他の鬼族には関わるなと言われていた。
そのため、白夜は闇鬼族の領地の外に出たことがなかった。
...外に行ってみたいなぁ。
―そんなことを思ってから数週間後―
白夜は立ち入り禁止の森にいた。
感想・評価よろしくお願いします!