1話 ゼウスとの出会い
フリーター、荒井裕翔は暇を持て余していた。
一流大学に入り大企業に勤めるという目標。
それだけを目指し毎日楽しくもない大学に通い遊ぶ時間を削りきついバイトに明け暮れる。
それなのに。それなのにーーだ。
裕翔は失敗してしまったのだ。
大学卒業するまで勤め先が決まらず、ズルズルとフリーターに落ち着いてしまった。
正社員にならなければ。
しかし、中途半端な企業では自分のプライドが許さない。
そんな複雑な心境の狭間で揺れていた。
穏やかではない心中を諌めながらパソコンで求職サイトを漁っていたところ、裕翔の頭の中に耳障りで不快な声が響く。
「おい裕翔!おい!返事をせんか!」
声質は50代くらいのおじさんのダミ声。
裕翔は驚きはしなかった。またかーーーそう落胆すると肩を落とす。
いや、正確には突然発せられた不快な声には驚いたのだ。
しかし頭の中で他人の声が聞こえる現象、これにはもう慣れていた。
もちろん初めてこの声が聞こえた時は驚いた。
今から二週間ほど前だろうか、なんせバイトを終え入浴している時に語りかけられたのだ。
もちろん家は一人暮らしだし家の中に誰もいるはずはない。
腰にバスタオルを巻き家中に警戒態勢を敷いたが、それらしき人物は見つけられなかった。
もしや、と思い大家に隣人の情報を聞いたが裕翔の住んでいるアパートは基本大学生専用アパートみたいなものでそんな年齢の男性は住んでいないと言われた。
また、プライベートを重視するため部屋の壁もある程度の防音仕様になっており、隣人の声が響き渡るということもないそうだ。
まぁ気のせいか、と忘れようとしたが、大家が念の為に部屋の鍵を変えましょうか?と言ってきたがフリーターには家賃を払うだけで精一杯なため断っておいた。
そんなことがあってから、この不快なダミ声は毎日のように聞こえるようになった。
はじめの頃は不気味なのでとても気にしていたが、ネットで調べると
幻聴
というやつらしく、ストレスが原因どのことらしいので、放っておくことにした。
しかし幻聴とはこんなにはっきりとした声で聴こえるものなのか、次聴こえたら怒鳴り散らしてやろうかと思っていた翌日に聴こえたものだから裕翔は我慢できなかった。
「おい、うるさいんだよ。こっちは人生に悩んでイライラしてるんだ放っておいてくれ」
そう声を怒りで震わせながら囁いた。
「おぉ、やっと返事をしてくれたか。荒井裕翔君、君に大事な話があるんだ」
返事などは期待していなかった、いや返事が来るなんて考えてもいなかった。
裕翔の、想定外だ、という態度を気にする様子もなくダミ声の主は続ける。
「おめでとう、君は神聖で高尚なゲームのプレイヤーに選ばれたのだよ」
「な、なんのことだ」
「まぁ君たちの世界でいう人生ゲームだな、区別するためにワシらは«神゛聖ゲーム»と呼んでおる」
「つまり君は、この〝全知全能の神〟ゼウスに選ばれた駒となりワシと共にスリリングで魅力的な人生を歩んで行くことを許されたのだ」
ゼウスと名乗る声の主が高慢ちきに話すが、裕翔には何が何だか理解が追いつかなかった。
ただ分かるのはこれが幻聴や妄想の類ではないというのと、これから様々な厄介事に巻き込まれてしまうのだろうということだけだった。
裕翔は怒り、動揺を落ち着かせようと目を閉じた。目を閉じたところで現実は変化しないことなど百も承知だったが、そうするしかなかった。
目を開けばこれは夢で俺の勘違いだったと、そうなることを信じてーーー。
ペース配分苦手です。コメントなんでもいいのでください…。