深夜の気配
自宅の居間で面白くもないテレビ番組を見るともなく眺めながら、漫然とアルコールを喉に流し込む。
趣味らしい趣味もない私だが、金曜の夜の楽しみ方としては下の下だろう。
誰に気兼ねすることもない気楽な独り暮らしだが、こんなときはつまらない。
そういえばこのマンションは幽霊が出ると聞いたことがある。その噂を聞いたときは一笑に付したものだが、こんな日は幽霊でもいいから酒やテレビに付き合ってほしくなる。
いや、本当に出てきたらそんな気分にはなれないのだろうが。
そんな埒もないことを考えて、小さくため息をつく。
こんな時間潰しのようなことをしていたところで、誰かがやってくるわけでもないのだ。
意味がない。もう寝てしまおう。
私はグラスをテーブルに置き、テレビを消して立ち上がると、浴室へ向かった。
シャワーを浴びていると、外で人の気配がした。
お湯を止めて浴室のドアに耳をつけると、間違いなく人の話声が聞こえる。
まさか泥棒が入ってきたのでは……
恐怖で体中の筋肉がこわばる。
髪の毛からタイルへ水滴が滴り落ちる音が、やけに大きく聞こえた。
音を立てないように浴室のドアを指一本分くらい開け、そっと居間の方を窺う。
居間には誰もおらず、ただテレビがバラエティ番組を垂れ流しているだけだった。
なんだ、テレビの音だったのか。私は安堵するとともに、自分の臆病さが可笑しくなった。