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泪滴の紋  作者: 黒織黒
迷獄
3/7

三ノ点 水月-ミナヅキ-

1972年9月16日午前11時04分。

 最上町金澤家の裏手にある階段を上った先にある三叉路の片道にある進入不可という警告看板。その先は、木々が生い茂り昼間というのに先が見えないほどの暗さだけで体感温度が下がっているように感じる。

 残暑が続く九月というのに寒気がするほか、先ほどまでセミたちが大合唱していた音も消えている。なぜこのようなところに来ているかというと、妹の凛が被っていた母の形見の帽子が風に飛ばされたから。


 警告看板からどれくらい過ぎただろう。いや、通り過ぎてからはそこまで進んではいないはずだが暗いせいか遠くまで来たような錯覚を覚える。振り返っても警告看板は見えない。

 好奇心旺盛で活発な妹の凛でさえも、この暗さでは元気を振りまくことはできない。ましてや母の形見である帽子、大切な物が無くしかけているせいでもある。凛はもう泣きそうな顔で辺りを見渡している。私も必死で探しているが帽子は見当たらない。


  

 地面をよく見ると人間か動物のものか分からないが足跡がある。道とは呼べないが、歩いている地は少しずつ勾配ができているのが分かる。周りは木々、雑草が生い茂り突然動物が飛び出してきてもおかしくはない。

 私は昔から虫は嫌いな方であったが、そんなこと考えるほどの余裕はないが。虫の音すら聞こえない。


 

 どれほど進んだだろうか。そこまで帽子が飛ばされることは考えられない。もっと道の端へ飛ばされたか、もっと奥へ飛ばされたのか。凛はそれほど考えるほどの余裕はない。

 話しかけようとしたとき、凛が立ち止まる。私は考えごとをしながら探していたせいか、凛が立ち止まる行動に合わせることができずぶつかってしまう。



お姉ちゃん、誰かいる。あの人に帽子が落ちていたか聞いてみよう。


 

と凛が言うのだった。

 真っ直ぐ、曲線の道の先に墓参りの際に見かけた着物を着た女性が曲がっていくのが見えた。凛は走ってその女性を追いかけた。それに続き、私も凛の後を追いかけた。凛が曲線の道の先、木で姿が消え曲がったところで止まっていることに気がつかず再び凛にぶつかってしまった。



あの女の人がいなくなってる。



 凛の言った通り、曲がった先に女性の姿がない。もっと他の道に行ったのかと思うが。他に道がなく目の前には一台の車が通れるほどの横幅、高さは大型トラックは通れないほどのトンネルがあった。辺りは静かで、足音一つ聞こえない。肝心なトンネルの先は、通り抜けた先の日の光で見通すことができない。



行って・・・みる・・・?



 不思議な光景に、凛は恐る恐る口を開いた。見通すことができないトンネルの先へ女性は行ったかもしれない。そのことを考え、凛の言ったようにトンネルの先を目指すことにした。

 トンネルの入り口は石が崩れているところも多く、(つた)が伸びているとこもある。廃れたトンネル、というほかになかった。今にも崩れるように見えたトンネルに足を踏み入れた。


 トンネルの中は吹き抜ける風によってさらに肌寒く感じる。トンネル内も外と同様に崩れているところも多数ある。トンネル内に吹き抜ける風のせいで微気圧波のような音が聞こえる。それほど長くないトンネルの先に近づくつれて日の光により視界が悪くなる。眩しさのせいで目が半開きになりながらトンネルの先を目指す。

 

 トンネルを抜けた先の道の端のほうに小さな標識が置かれていた。かなり汚れており読み解くには多少時間がかかった。標識の根元から蔦が伸びて絡み付いている。その標識には、


水月(みなづき)


と書かれていた。最上町の隣に村があるとは聞いていなかった。村の風景はお世辞にも綺麗とは言えず、どの家も廃れて所々に罅が入っている。ここからは、先ほどいた女性どころか村人の姿は見ることができない。



いない・・・ね。誰も。



凛が私の服の裾を引っ張り言う。村であるはずのところに誰もいないことに薄々、恐れているかのよう。姉妹は引き返すことも考え始めたが、誰かに帽子を拾われたことも考えて村に入っていく。一軒一軒通りすぎるが、人の気配はないがどこからか視線を感じる。

 凛はとある家にノックして在宅かを確認する。しかし、思っていた通り返事がない。何軒か通りすぎたところで凛が家戸の隙間から人が見えたという。その家も他の変わらず所々罅が入っている。表札も汚れていて読めない。その家に凛はノックする。

 しかし、返事はないが凛は鍵がかかっていないことに気づく。扉を開け、



すいません。誰かいませんか。



と尋ねるも、返事は返ってこない。凛は玄関内に入りもう一度大声で尋ねるが返事がない。私も続き呼びかけてみても変わらなかった。

 玄関から見た家の中は埃が被っており、到底、人が住んでいるとは思えなかった。だが、何かに引き寄せられるように凛と共に家の中へと入っていくのだった。

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