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異世界列島  作者: 黒酢
第4.0章:戦火の章ーThe War
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01.敗北を受けて

1年半以上投稿が空いてしまいまして申し訳ありません!!

第4.0章の準備ができましたので投稿を再開します。


第3.0章までのあらすじ

覇権主義国家スラ王国の毒牙が友好国ウォーティア王国に迫っていた。日本国は集団的自衛権を行使し、邦人保護を名目に参戦。スラ王国東方遠征軍に占拠された交易都市クレルを解放した。



 ♢

【中央大陸/スラ王国/王都ベム/王城ベリア/白亜殿/10月下旬】


 覇権主義国家―――スラ王国。人口約2500万を抱える大国。


 この国は国土の大半を巨大な砂漠(中央砂漠)に覆われているが、決して恵まれない土地という訳ではなかった。国土の約3割を占める緑豊かな台地、そして、そこから大湖に向かって伸びる2つの大河(ユフラ川・チグリ川)が、たびたび氾濫を起こしては、台地の肥沃な土砂を下流に運ぶからだ。


 台地と大河流域には巨大な穀倉地帯が広がり、この国の食を支えてきた。もっとも、2500万の人口を養うには穀物の量が不足するので、足りない分は外国からの輸入に頼っている。


 かつてはもっぱら北に位置するモルート王国から輸入していたが、ひと月ほど前にモルート王国と戦争になって以降は、西方世界からの輸入に頼っていた。


 そんなスラ王国の首都である王都ベムは、そんな2本の大河に挟まれた穀倉地帯に建設された人工都市だ。全人口のおおよそ1割にあたる200万弱の人々が集住し、東方世界一の大都会を形成する。


 そんな大都会の中央部にある、二重の堀に囲まれた白亜の城〝ベリア城〟では、国王ドランポルⅢ世の臨席の下、最も格式高い会議―――御前会議が招集されていた。議場には巨大な白亜の円卓があり、最奥の一段高くなった椅子に国王が臨席。国王の膝下を避けるように扇状に大臣が列席し、その後ろに文官と武官がそれぞれ控える。平時は「ほほほ」「ふふふ」と表面上は穏やかな議場も、今日ばかりは紛糾していた。


「神も知らぬ蛮族に敗れるとはなんたることか。嘆かわしい」

「軍部はこの責任をどう取るつもりなのですか?!」


 金縁のロイド型眼鏡を掛けた財務大臣ジャンマルが嘆くと、続けてウェーブした黒髪を女性のように束ねた外務大臣ムタリスがヒステリックに声を荒げる。すると、すかさず。


「陛下の軍を愚弄するか貴様!!」

「これしきの敗北で泣き喚くな青二才!!」


 空軍大臣ムヒターと陸軍大臣ナジャルが仲良く応戦。一般的に仲が悪いと言われている陸軍と空軍だが、意外にも上層部はツーカーの仲だったりする。


「侯爵たる儂に貴様とはなんだ!!貴様」

「侯爵がなんだ!!私は空軍元帥であるぞ?!」


「これしきの敗北とは何を抜かすのですか!数倍の兵力を動員して、ウォーティアなどという小国ごときに2割も損害を出すなど、大敗北もいいところです」

「王国軍の全戦力の1割にも満たぬ損害。局地戦で負けたに過ぎん。素人は黙っていろ!!」


 文官と軍部の醜い言い争い。そんな彼らの横で、海軍大臣アラカルトは涼しい顔で椅子に座っていた。海軍といっても湖に展開する水軍に等しいが、150を超える艦船を有するその戦力は各国の海軍にも引けを取らず、大湖の制海権ならぬ制水権はスラ王国が独占している。そんな彼ら海軍は今回の一件には一切関わっていないから呑気な物だった。


「(陸軍さんと空軍さんは大変そうだべなぁ)」


 訛りのある西方共通語を話すアラカルト。スラ王国は分類上は東方世界に含まれるが、旧イース帝国で構成される北東諸国ではなく、独自の文化圏を形成している。


 古来から西方と東方の真ん中にある国として、交易で栄えてきたこの国は、自然と両方の言葉を会得した。本来の言葉は北東諸国語だったのだが、今では西方への帰属意識から、公の場では好んで西方共通語が用いられている。


 ハラハラと推移を見守る者、両者の争いを楽しむ者、そして双方に加勢する者。白亜殿は喧噪に包まれていた。ますますヒートアップする両者の言い争いを止めたのは、一段高みから見下ろすこの国の最高権力者、国王ドランポルⅢ世だった。


 国王ドランポルⅢ世は齢50を迎えるが、髪の色は綺麗な真紅のまま。身に着けている服はアラブ装束に似たドゥルガと呼ばれるこの国の民族衣装で、最高級の絹を使った白地の布に、金と赤の刺繍が施されたそれは、まさに権力者にふさわしい出で立ちである。


 国王ドランポルⅢ世は、金でできた豪奢な椅子に肘をついたまま、リンゴに似た果実―――リゴの実をシャクリと頬張った。リゴの実は大陸西部原産の果物で、スラ王国では高級品として知られている。


「そのくらいにしたらどうだ」


 最高権力者の一言に、喧噪に包まれていた白亜殿がシンと静まる。興奮し立ち上がっていた外務大臣ムタリスはいそいそと席に腰を下ろし、陸軍大臣ナジャルは振り上げていた拳をそっと下した。


「此度の敗北は軍の失態には変わりない。違うか?ナジャル」


 国王ドランポルⅢ世の言葉に「仰せのとおりです」と俯くナジャルと空軍大臣ムヒター。それ見たことかと鼻を鳴らす文官閥の大臣たちの顔が憎らしいと、ナジャルとムヒターは円卓の下で拳を握りしめる。


「しかし―――朕は軍を責めるつもりは毛頭ない。軍部を吊るし上げれば此度の敗北はなかったことになるのだろうか?ムタリスよ」


 不意に話を振られた外務大臣ムタリスは、「へ?」と間抜けな声を出し、慌てて弁明する。


「め、滅相もございません」


 ムタリスの言葉に、国王ドランポルⅢ世は「で、あろう?」と満足げに頷き、ナジャルに視線を移した。


「朕は建設的な話がしたい。ナジャルよ」

「はっ」

「此度の敗因、見当は付いておるのか?」


 国王ドランポルⅢ世の純粋な問いに、陛下の忠実なる臣下であるナジャルは、包み隠さずに真実を口にする。ニホン国の介入とニホン軍の力。その報告はまるで御伽噺か、悪い冗談のような話だった。


 炎竜を凌ぐ強大な竜と、異様な姿をした羽虫、どう猛な地竜を使役するニホン軍は、圧倒的な力でもって10万の兵力をウォーティア王国から叩き出した……と。


「(炎竜を凌ぐ竜……そんな化け物が存在するのか?)」

「(何を信じておるのだ……軍部の保身に決まっておろう)」

「(大方、敗北の理由を無理やりこじつけているのでしょう)」

「(然り然り。事実は、連戦連勝の軍部の慢心が原因と見た)」

「(いい気味です。軍部の態度には前々から据えかねていました)」

「(武官こそ役人という顔で王城を闊歩していましたからな。これで少しは王城内の空気もよくなるというもの)」


 陸軍大臣ナジャルの荒唐無稽ともとれる報告に、文官閥の大臣や、その部下である文官たちは嘲笑を浮かべた。しかし、国王ドランポルⅢ世は、真剣な表情で思案する。


「炎竜を凌ぐ竜……よもや古竜ではあるまいな?」


 国王ドランポルⅢ世に問いかけられた空軍大臣ムヒターは、「恐れながら」と前置きした上で。


「すべての竜の始祖、古竜は伝説上の存在です。ゆえに、古竜とはまた違った何か(・・)、なのではないかと考えます。それが何かは今のところ不明ですが……」

「ふむ……竜とは違った何か、か」


 再び思案に耽る国王ドランポルⅢ世を見て、宰相のユゲル・カルドゥールが立ち上がり発言の許可を求めた。彼は国王ドランポルⅢ世の遠縁にあたる公爵(皇族)で、国内においては国王に次ぐ権力を持つ。王家の関係者であることを示す深紅の髪は、整髪剤でガッチリと固められオールバックに。40歳になった今も、その顔には若干の若々しさを残している。


「陛下、発言してよろしいでしょうか」

「うむ。申せ」

「真偽のほどは分かりませぬが、ニホン国は異界から転移してきた大国であるとか」

「東方遠征軍の報告ではな……。転移国家など、それこそ御伽噺だな」

「しかし現に存在する脅威であります。何せ、この長く続く戦争で初めて、我が軍に大打撃を与えた唯一の国……転移国家という真偽は別にしても、です」


 そこでカルドゥールは両手を広げ、円卓を見回した。


「皆様ご存じのとおり我が国は現在、北方のモルート王国、南方の獣人ども、そして東方のニホン国及びウォーティア王国と、三方面に戦線を抱えております。どこか一つでも破られれば、すべての戦線に影響がでかねない。故に、まずは全力をもって東の敵―――すなわちニホン国の脅威を排除する必要がある。幸いにも東方遠征軍の兵力はほぼ健在。私の見立てでは此度の敗因の一つは、狭い市街地において大軍という利を生かせなかったことと愚考します。いくらニホン軍が強かろうと、物量で押し切ればよいのです」


 カルドゥールは国王ドランポルⅢ世に向き直り、腰を折る。


「陛下、東方遠征軍の速やかなる再編と、ニホン国の早期平定を進言します」


 カルドゥールの進言に、国王ドランポルⅢ世は「そうであるな……」と首を縦に振り、新たなリゴの実を口に運んだ。


「陸軍大臣ナジャル」

「はっ」

「ラシャール将軍と奴の配下から2万の兵を派遣し、東方遠征軍の再編を行え」

「ラシャールといえば、王都守備軍の将。それに配下2万は王都守備軍のほぼ全軍です。王都の守備に影響が懸念されますが……」

「どのみち敵は東にいる。出し惜しみはなしだ」

「ぎょ、御意」


 国王ドランポルⅢ世は次に、空軍大臣ムヒターに視線を向ける。


「空軍大臣ムヒター、卿には空軍の再配置を命じる。遊ばせている部隊を纏めて、東方に派遣せよ」

「はっ……数はいかほどでしょうか?」

「飛竜を80騎は揃えよ」

「飛竜80騎ですか……?!北方と南方に各1個大隊が展開しています。出せるのは休暇中の2個大隊のみ。されど、2個大隊を合わせても飛竜58騎、炎竜2騎にしかなりません」


 スラ王国空軍の保有する戦力は、飛竜150、炎竜30。これを飛竜30騎+炎竜1騎の4個大隊、飛竜30騎+炎竜5騎の1個大隊、炎竜21騎の1個大隊の計6個大隊に分けて運用している。うち、炎竜21騎は先の戦いで喪失していた。


「第1大隊も出せば足りよう」

「恐れながら、第1大隊は王都守備の―――」

「先も申した通り王都に留めていても意味がない」

「ぎょ、御意」


 国王ドランポルⅢ世はさらに、居並ぶ大臣に矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。


「外務大臣ムタリスは西方諸国に対して更なる軍事物資の援助を要請せよ。財務大臣ジャンマルは占領地での徴税を見直し戦費を捻出せよ。この際、多少無理をしても構わん」


 こうして、上位下達で東方遠征軍の再編と空軍の再配置、その他諸々が決定されていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お久しぶりです、第4章お待ちしていました。いよいよ本格的な激突、世界情勢への介入がどう変化するのか楽しみです。 [気になる点] ハイヤード侯が捕虜になったことは伝わってないのでしょうか。1…
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