表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界列島  作者: 黒酢
序章
7/99

07.混乱と暴動Ⅲ

 ♢

【日本国/栃木県宇都宮市街地/転移8日目_午前】


 市街地の真ん中を、高機動車(HMV)73式大型トラック(カーゴ)が進む。


 高機動車は所謂いわゆるジープのような乗り物であり、陸自では高機こうきとも呼ばれている。そして73式大型トラックは正式名称を31/2tトラックと言い、東日本大震災ではその耐久力をいかんなく発揮したことで知られる。


 この二つの車両には相馬率いる小隊のメンバーが分乗しており、相馬は先頭を疾走する高機動車に乗り込んでいた。高機動車を運転するのは城ケ崎三曹である。


「まさか、治安出動とは……」

「政府も思い切ったことをしたもんだ」

「ま、まぁ、異世界の怪物が攻めてきたとか、霊的な何かと対峙たいじしろなんて命令じゃなかっただけましっすかねー?」

「自分が死ぬ可能性が高い任務か、それとも人を殺してしまう可能性がある任務か……どっちがましなんだろうな……」


 相馬はそう言って車窓から街を眺める。この辺りは昨日まで暴徒に占領されていたらしく、一般人の姿はない。破壊された車と、ところどころで火がくすぶる様はどこかテレビで見た外国の様子に酷似しており、妙に現実感がないと相馬は思った。


「それなんすよね……人を殺めかねない任務ではあるわけですし」

「実際、それだけの覚悟のあるやつはどんくらいいんのかね、俺も含めて。命令であれば、愛する人や国を守るためであれば覚悟はできてる……と自分では思っているがいざとなったら分からんよ」


 相馬と城ケ崎は自身らの言葉に、複雑な気持ちを抱く。そして次の言葉が出てこなかった。


 シンとなった車内。城ケ崎は気分を変えようとあえて場違いな話題を振る。


「……て、てか、この世界って魔法とかあるんですかね?」


 相馬も城ケ崎の意図に気づき、城ケ崎の話題に食いつく。


「魔法?あー、どうだかな」

「俺、異世界転移とかあこがれてたんですよ!魔法使いとかエルフとか会えたら最高っすよね!」

「案外、ホラー的な異世界だとか、タコ型宇宙人が支配する惑星だったりしてな」


 相馬はそう言って意地の悪い笑みを浮かべ、城ケ崎を振り返る。そう言う相馬も異世界転移だとか転生ものの小説は好んで読んでいたし、城ケ崎とは趣味があっていた。


「それは勘弁してほしいです……」


 しばらく走らせると、自衛隊車両と警察車両、それに消防車や救急車が集まる場所に出た。すぐ近くで雄たけびのような声が響いているのが分かる。


「城ケ崎」

「はい」


 真剣な顔つきに変わった相馬に、城ケ崎も気の緩んだ口調を改める。相馬は既に一指揮官の顔付きになっていた。素早く後部座席に指示を飛ばすと、隊員の一人が通信機のマイクに手を伸ばし、後続のトラックにも指示を伝達する。


「全員降車」


 相馬は号令をかけると、89式5.56㎜小銃を手に高機動車から飛び降りた。腰の9㎜拳銃を触り、その存在を確認する。


 89式5.56㎜小銃は64式7.62mm小銃の後継として開発された陸自の現主力小銃であり、9㎜拳銃は新中央工業がドイツ製拳銃をライセンス生産した自動式拳銃である。


 相馬が飛び降りるとほぼ同時に、相馬に続くように前後の車両から小隊の隊員総勢32名が飛び降りる。


「相馬小隊長!全員、準備が整いました!」


 茂木(もぎ)健司(けんじ)陸曹長はそう言って隊員を整列させた。茂木陸曹は現場からの叩き上げで、まだ若い相馬を何かとサポートしてくれる。


 相馬は茂木に頷いて見せると、視線を小隊全員に回した。


「分かっているとは思うが、武器の使用は最小限に限られる。特に無駄に人を殺すようなことはするなよ」


 隊員は相馬の声に「「「はっ!」」」と返答する。かくして、相馬小隊は戦後史上初の〝治安出動〟の任に就いたのである。







 ♢

【日本国/転移10日目】


 自衛隊の投入から僅か3日。全国に広がった暴動は、早くも沈静化へと向かっていた。


 暴徒からは約一〇〇名の死亡者が出たものの、大概の者は拘束された。


 全国規模の暴動、実に数一〇万人が参加したと言われるこの大暴動で、たったこれだけの死者しか出さなかったのは、海外では例がないことだろう。


 それは日本の警察や自衛隊が人命を大切にする組織であるからだ。そしてそれは警察や自衛隊の力量を示す事例でもあった。在日外国人の多くは彼らの姿勢に感銘を受けたとインタビューで答えている。


 現に、相馬率いる小隊は、暴徒にも小隊にも一人の死者も出さなかった。相馬を含め、多くの自衛官が自衛隊の役回りは主に威圧と警戒であると理解していた。彼らは治安回復のための警察活動のサポートに徹したのである。


 しかし残念ながら、一部市民団体や野党、マスメディアからは政府や自衛隊、警察の行動への非難の声が上がったのも事実である。


 〝自衛隊が初めて人を殺した!〟というマスメディア。〝政府も警察も自衛隊もけしからん!〟と声高らかに責める者。一方、それとは対照的に、“よくやった〟〝一般市民を暴徒から守ってくれた!〟と褒め称える者。


 平和ボケした日本人にとってこの出来事(イベント)は何を残し、何を問いかけたのか。これは今後、この世界で日本が生き残っていく上で、避けて通ることの出来ない問題でもあった……。

【主要人物】


相馬そうま 和也かずや(男)

肩書:三等陸尉/中央即応連隊・小隊長

特徴:容姿はわりと整っている。黒髪。

備考:上下関係には無頓着。部下からの信頼に厚く、上官からの評価も高い。


■城ケじょうがさき 亮人(りょうと)(男)

肩書:三等陸曹

特徴:黒髪。

備考:相馬小隊一班の班長。普段はお調子者だが、いざとなると真面目に任務をこなす。正義感に厚い。生粋のオタク。松野とは一般陸曹候補生課程からの同期。


茂木もぎ 健司けんじ(男)

肩書:陸曹長

特徴:日焼けした肌。

備考:相馬小隊・本部付き。現場からの叩き上げで、経験豊富。まだ若い相馬のサポート役。部下や上官からの信頼も厚い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ