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異世界列島  作者: 黒酢
第3.0章:激動の章―Violent Change
67/99

01.訃報を受けてⅠ

予告から時間が空いて申し訳ありません。数話分書いたところで、なんか違うと書き直しておりました。


【第3.0章:激動の章―――Violent Change】

 ♢

【日本国/東京都/千代田区/永田町/総理官邸/3月18日_夕刻】


 現職の総理大臣が海外訪問中に暗殺されるという、前代未聞の事件に日本政府は慌てた。


 関係省庁の担当者は霞ヶ関を駆けずり回り、総理官邸では事務官が対応を協議する。一方、岩橋は訃報を持って、内閣総理大臣臨時代理に就任した。


 臨時代理は、国務大臣の中からあらかじめ指定されており、死亡・病気・海外出張等で総理が不在となった場合にその職務を代行する存在だ。


 内閣官房長官以外の国務大臣が第一順位に指定される場合、一般に副総理と呼ばれる。そして、その臨時代理の第一順位に指定されていたのが、藤原の盟友である岩橋であった。防衛大臣が副総理を務めるのは、藤原内閣が初めてのことだ。


 その岩橋によって急遽、招集された閣議。集まった大臣は官邸内の慌ただしさに触発されてか否か、ひどく動揺していた。


「総理が海外で暗殺など前代未聞だぞ」

「これはどこの責任だ?外務省か?」

「護衛は公安の管轄では?」


 責任の所在を押し付けあう大臣たちの声に、岩橋は苛立ちを覚えた。


 彼はその怒りの丈を、円卓に拳を振り下ろすことで発散する。ドンッ。という激しい音が室内に響くと、ようやく室内の声は収まった。


「藤原が死んでるんだぞ?くだらないこと抜かしてんじゃねぇ」


 ドスの効いた岩橋の言葉。有無を言わさぬ迫力に、大臣たちは乾いた喉を鳴らした。静まり返った室内に、岩橋の声が響く。


「安西さん。テロリストの正体は?」


 安西は国家公安委員長。


 素早く背後に視線を泳がせ、事務官に資料を出すよう目で訴える。すると、若手の事務官は慌てて、一枚のメモ紙を手渡した。メモに目を通しながら、安西は声を上げる。


「テロリストは自称二ホン軍騒動の被害者遺族かと」

「犯人たちの身柄は?」

「王国政府側に引き渡す予定です」

「条約の施行前か……処罰は王国側に一任する」


 続いて、岩橋は外務大臣、瀬戸に視線を移す。


「瀬戸。先方は今回の件に関して何と?」

「先程、特使団を通じて謝罪と補償の提示がありました」

「内容は至って当然だが……随分と素早い対応だな」

「あちらも我が国との関係を繋ぎ留めたいのでしょう」

「だろうな。そっち方面は外務省に任せる」


 岩橋の指示に、瀬戸は大きく頷いて見せた。各所から情報を集約した後、岩橋は次の話題に話を移す。次の話題……それは。


「総辞職だ」







 ♢

【中央大陸/ウォーティア王国/港町ポーティア/ポーティア城/貴賓室/同日_夜】


 国王の滞在先であるポーティア城では、王国政府の役人が慌ただしく動き回っていた。外国の宰相が領内で暗殺されるなど、王国にとっても前代未聞。少なくとも現国王の治世では初めてのことだ。


 文官は今後の対応に、武官は騎士団の不始末に頭を抱えていた。頭を抱えていたのは、国王モード・ル・ウォーティアとて同じである。宛がわれた貴賓室で、国王と宰相プレジールの二人は頭を抱えていた。


「何故、斯様なことになった」

「まったくでございますな」


 そんな二人の下に呼び出された近衛騎士団長マルコ・ウォリア。戦々恐々とした思いで跪いていた。警備を行っていたのは近衛騎士団。如何なる理由があろうとも、警護対象を暗殺されるなど許されない。


 執行日を待つ死刑囚。彼の心境を的確に表すならこの表現が最も適している。


「ウォリア……面を上げよ」

「はっ」

「朕に事の次第を報告せよ。嘘偽りは認めぬ」


 国王の命令を受け、ウォリアは事件の推移を話し始めた。話は、数時間程前に遡る。


 港湾商業地区から平民街地区へと入ってすぐのこと。二ホン国宰相・フジワラの乗った竜車から白煙が上がった。それを合図として、群衆の中から飛び出た十数人の不届者が竜車を襲撃したのだ。


 本来ならばその場で斬って捨てられても可笑しくは無い咎人だが、その全員が日本国の護衛団によって無力化され、捕縛された。


 その間、近衛騎士団はただ指を加えて見ていた訳ではない。混乱し逃げようとする群衆が竜車に向かわないよう、周辺の治安維持に尽力した。


 しかし、本来ならば日本国の護衛団に加勢すべきところ。日本国側の不信感によってか、はたまた、騎士が自ら足手纏いになると感じたからか。近衛騎士団はその大捕り物には参加していない。


 国王は「待て」とウォリアの話を遮った。国王は目を細めてウォリアに視線を送る。


「我が方の騎士は何故、咎人の接近を許した?」

「現場の担当曰く、平民が武装して集団で襲うなど思わなかった……と」


 ウォリアの報告に国王は眉間に皺を作る。あらゆる事態を想定してしかるべき騎士にとって、それは言い訳にはならない。宰相ポールは溜息と共に叱責を口に出す。


「近衛騎士ともあろう者がそのような……職務怠慢も甚だしい」

「宰相の言う通りだ。して、その者の名前は何という?」

「南部辺境貴族タイラー家の次男、ジャック・タイラーと申す者です」


 ウォリアの言葉に、国王は「そうか」と呟いた。


「近衛騎士の身分を一時剥奪し、数ヶ月間の謹慎を言い渡せ」

「ははっ」


 国王はそこで、ふと「そもそもなぜ王室保有の馬車から白煙が昇った?」と疑問を抱く。それをウォリアに伝えると、彼も同様の疑問を抱いていたようで、表情を固くした。


「襲撃の後、フジワラ閣下が乗っていた竜車を見分したところ、天井の一部の留め具が外されていることが確認されました」


 それはつまり天井裏に誰かが潜んでいた可能性があるということ。その可能性に思い至った国王は、目を丸くした。


「咎人に協力した者が城内にいると?」

「可能性の域を出ませんが……恐らくはそうかと」


 身内に協力者がいるなど考えたくはなかった。しかし、王室保有の竜車―――御料車の整備は宮廷府傘下、竜馬寮と呼ばれる役所が担っている。竜馬寮は城壁の内側にあり、見張りの目を盗んで細工をするなど到底不可能だ。


「朕の与り知らぬところで斯様なことが……な」

「近衛騎士団には竜馬寮の捜査を命じております」

「順当な采配であるな。良くやった」


 国王はそう言って、ウォリアの働きを褒めて見せる。警備の責を問われている状況での国王の言葉に、ウォリアは自身の肩に乗っていた重圧が少しだけ外れた気がした。


「それで。咎人はどうなった?」

「先方から引き渡しを受け、バラン牢獄に収監致しました」


バラン牢獄は港町ポーティアの外れ、城郭の外壁傍に立つポーティア爵領の牢獄である。王都にあるガラゴフ牢獄と並ぶ大きな牢獄であり、普段はポーティア爵家の私兵団が管理している。


「何?二ホン国は宰相殺害の犯人を我が国に引き渡したのか?」


 国王は「信じられない」と傍に控えていた宰相プレジールを振り返る。しかし、プレジールもウォリアの言葉に同意するように、首を縦に振った。


「ウォリア。何故、二ホン国は我が国に引き渡したと思う」

「我が国の領内で行われた犯罪……だからでしょうか?」

「否。先方は我々を試しているのだ。直ぐに、尋問……いや、拷問して事実を吐かせろ」

「それが終わりましたら?」


 ウォリアは既に聞かずとも分かりきった質問を投げかける。国王は笑みを浮かべることもなく、唯、淡々と今後の行動を示唆する。


「処刑だ。ポーティアの港に咎人を立たせ、苦しめながら嬲り殺しにせよ。咎人の死体と真相、それに金品を包んで二ホン国に対して誠意を見せるのだ」

「畏まりました」


 ウォリアの返答に満足したらしい。国王は「うむ」と大仰に頷いた。


 そこに。


 近衛騎士の叫び声が割って入る。


「陛下。伝令が参っております」


 どうやら、扉の外に立たせてある近衛騎士の声のようであった。プレジールは国王に判断を仰ぐ。国王が頷き返すと、プレジールは重厚な扉を開けた。そこには、息を切らした伝令の姿があった。国王の代わりにプレジールが言葉を掛ける。


「騒々しいぞ。何事か申せ」

「はっ」


 伝令は直ぐに跪き、要件を手短に伝達した。


「報告します。バラン牢獄から咎人が脱獄致しました」

最後までありがとうございました。宜しければブクマ・感想をお願い致します。次回分は近いうちの投稿を目標としておりますが、時期は未定です。申し訳ありませんがよろしくお願い致します。

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