03.食糧問題
予定を変えまして幕間をもう一話投稿します。第3章開始を延期します。よろしくおねがいいたします。
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【日本国/東京都千代田区霞が関/農林水産省/1月某日】
これまた、両国が国交交渉を行っていた頃に遡る。
列島転移において最も問題となることは何か。
この話を始めたなら、多くの意見が出るだろう。エネルギー、資源、工業、金融、インフラ……などなど。その中でも、良く問題として挙がる最たる例の一つが、食糧事情についてではないだろうか。
日本はそのほとんどを輸入に頼っている。食料自給率は約40%。
食料自給率に関して、カロリーを基準とする日本は世界では異端であり、むしろ出荷額ベースでの食料自給率を重視すべきだとの意見もあるが、人間が生きていく上ではカロリーを気にしなければならない。
輸入の途絶えた日本において、これまでのような消費生活を享受することはもはや叶わない。
この日開かれた「第10回食糧生産方策緊急合同会合」の議事録の一部を抜粋する。
ちなみに、この会議は従前の農業資材審議会に設置された分科会の一つで、列島転移災害後の国内食糧生産に関する多くの審議が行われている。
なお、例により敬称、敬語等は省略。
―――国内の食糧事情は?
「米、米、芋、魚……」
「今は戦時中かね?」
「(笑い声)」
―――食糧は現状行き渡っていると考えて良いか?
「質を考慮しなければ食糧は行き渡っている。カロリー的には問題ない」
「耕作放棄地の収容や、政府主導の作物転換は順調だ」
「〝緊急食糧生産特措法〟様様だ」
―――エンゲル係数は大幅に上昇した。国民からは不満の声が上がっているが?
「確かに砂糖や乳製品、果実は高級品と化していて庶民には手が出せない」
「現実問題としてビタミンやタンパク質不足が懸念される」
「旧来の消費生活を求めるのであれば大陸を開発する必要があるだろう」
「早いところ広い耕作地が欲しいものだ」
―――異世界の国々から輸入できないか?
「ウォーティア王国を介して輸入すればいい。こちらは工業製品を輸出だ」
「中世に毛が生えた程度の国々に、我が国の年間消費量を賄えるとでも言うのか」
「今の発言は少し差別的だ」
「……訂正する。しかし、現実的に難しいことに変わりはない」
―――輸入するとなると安全面も気がかりでは?
「同感だ。彼らに安全でも地球人に安全とは限らない」
「国民の口に入るものだ。徹底的な調査が必要だ」
「しかし、既にこの世界の水を飲み、魚を食しているわけだが」
「それもそうだ。兎角、輸入するには相手がいなくては話にならない」
「外務省と政府の外交努力に期待する」
―――農業に優先的に配分していたリン鉱石が不足し始めている。対応策はあるか?
「我が国ではリン鉱石は全く産出されていない」
「国内消費分をリサイクルすれば年間使用量を上回る量が確保できると聞く」
「しかしその技術は開発されていない」
―――現行の技術でリンをどうにか採取できないか?
「昆布から採ってはどうか」
「昆布?」
「乾燥コンブ1gにはリンが1~2㎎含有されているそうだ」
「我が国の年間消費分を補うには?」
「ざっと北海道数十%ほどの海域に昆布を養殖すれば良い」
「……それは今後の検討材料に」
―――最近、中央大陸でリン鉱山が見つかったのでは?
「確かに。埋蔵量は僅かだが見つかっている」
「では早急に確保すればいい」
「採掘から輸送までとなるとある程度、時間と費用が必要だ」
「昆布よりは遥かに現実的だ」
―――結局は大陸の開発しかないと?
「当然。農地及び資源の確保のためには、それが必要だろう」
「農水省として来年度の予算案に開発費用を計上してある。予算案は今国会で審議中だ」
「予算案は問題なく成立するだろう」
「では、来年度以降の大陸開発に期待しよう」
この日開かれた会議は二時間ほどで解散ムードとなり、議長の総括をもって終了した。
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第三章は明日以降の投稿予定になります。申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。




