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異世界列島  作者: 黒酢
第2.5章:幕章―Intermission
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02.異世界研究Ⅱ

不定期投稿宣言から早三ヶ月が経過してしまいました。この間何の音沙汰もなく、読者の皆様には大変なご迷惑をおかけしており申し訳なく思っております。なお、感想返信は後程、必ず行いますのでご容赦ください。なお、予告では「三章:激動の章」を告知しておりましたが、幕間として一話投稿させていただきます。


【登場人物の名前変更】

異世界研究Ⅰで登場の獣人カーラ→カラン


【二章までのあらすじ】

異世界に突如飛ばされた日本列島。混乱の一ヶ月を乗り越えた日本は、東岸地域に自衛隊を派遣した。そこで出会ったのは、スラ王国の侵攻から逃れた狼人族カル村の部族の避難民たち。この世界の情勢と、ヒト種国家の情報を得た日本は、満を持して東方世界・北東諸国の一つ、ウォーティア王国と接触した。数ヶ月に及ぶ折衝の末、両国は国交を結ぶことに。だが、条約締結と首脳会談のために王国を訪問した藤原総理は、不幸にもその命を異世界の地で散らした……。

【中央大陸/東岸地域/古代遺跡/1月某日】


 日本とウォーティア間で交渉が続いていた頃。日本領・東岸地域に十人の科学者チームが上陸した。彼らは考古学者を中心に構成されたチームで、長らく放置されてきた古代遺跡の調査を政府から依頼されている。


 長崎県佐世保市までは陸路で。佐世保からは海自の艦艇に乗り換えて中央大陸・東岸地域を目指し、完成したばかりの港に入港。東岸駐屯地(領土編入と同時に拠点から駐屯地・基地に変更)で手続きを済ませる。


 そして今日。調査チームは、陸自の輸送ヘリコプターCH-47JA(チヌーク)に乗り込み、荒野と平原の境界を目指した。旅程は順調そのもの。魔物や魔獣といった異世界(ファンタジー)な代物は最早、この地から駆逐されたのではないかと学者らは思った。


 そうこうしているうちに、CH-47JA(チヌーク)は目的の場所に舞い降りる。古代遺跡の周辺は施設科の技術と重機の力ですっかり姿を変え、鉄筋コンクリート造りの建物とアスファルトで整地された道路が敷かれていた。


「遠路遥々、お疲れ様です」


 部下を引き連れて出迎えに来たのは、小倉(こくら) 元喜(もとき)一等陸佐。彼はここ、遺跡分屯地の基幹部隊である第303内陸部監視隊の隊長を務めるとともに、分屯地司令を兼任している。


 小倉の出迎えに、調査チームのリーダーを任されている考古学者、伊牟田(いむた) 三郎(さぶろう)が帽子をとって会釈する。


「出迎えありがとう。実に楽しい旅だったよ」

「それはよかった」


 伊牟田は東都大学で考古学を研究している六〇代の男で、彼の髪の毛は綺麗に剃り上げられている。曰く、無残な頭皮を晒すなら、いっそ剃り上げたほうが格好が付く。と言う話だ。


「しかし、こうも開発されると日本と大差ないね」


 伊牟田の呟きに、小倉は苦笑する。


「仕方の無い面もあるのですがね。今後、東岸地域に民間企業の投資が始まれば、更に開発されていきますよ」

「まあ、そうだろうね」


 伊牟田と小倉が言葉を交わす間に、すべての学者がCH-47JA(チヌーク)から降りた。皆口々に、興奮を共有しているようだ。


「素晴らしい。これが例の遺跡か」

「中にはどんな世界が広がっているのでしょうね」

「興奮が止まらんよ。興奮が」


 小倉は全員がそろったのを確認すると、調査チームを先導して隊舎に向かった。調査チームの面々は、調査期間中は基本的にこの隊舎の一画で寝泊まりすることになる。


 一旦荷物を置くと、調査チームたっての希望から直ぐに、遺跡へと足を向ける。本来は、明日からの予定であったが、我慢ができなかったのだ。


「ここが遺跡の入り口か」


 小倉に案内され、調査チームがやって来た場所は、数ヶ月前に相馬小隊が使った入り口。ぽっかりと穴を開けていることは相違ない。


「中も明るいな……」


 誰かが発した感想に、小倉が補足する。


「遺跡内部に巣くっていた魔物は駆除してあります」


 小倉の説明によると、古代遺跡内部の探索は全ての層で終了しているとのことであった。当然、遺跡に住み着いていた魔物や獣の類は駆除されている。また、安全を恒常的に確保するため、交代制で遺跡内部を警備させているそうだ。


「遺跡内部には灯りもありますし、情報通信設備や電源の類もありますよ」

「それは驚いた。快適な調査が出来そうだ」

「支援は惜しみませんので、先生方は思う存分研究に没頭していただければと思います」

「お心遣いに感謝する」


 こうして伊牟田を筆頭に、調査チームの古代遺跡での仕事が始まった。







 ♢

【日本国/京都府/京都市左京区/帝京大学/同日】


 一方、その頃。京都に所在する名門国立大学、帝京大学の大学院文学研究科の研究室では、古代遺跡から持ち帰られた書物サンプルの研究が進められていた。


 相馬小隊が逆蝙蝠(リバース・バット)を屠った後、散乱した遺跡内部で発見したそれは、不思議な書物であった。というのも、荒れた遺跡に放置されていたにも関わらず、まったく腐食していなかったのだ。


 遺跡の状態から見て、書物が元の状態のまま保管されているなど考え難い。


 何か危険な物なのではないか。そう考えた政府は、暫くの間、東岸拠点(現・東岸駐屯地)にて保管してきた。


 自ら志願して東岸拠点に向かった科学者曰く、研究設備の整った日本で研究すべきだとのこと。彼らの要望を受理した政府は、昨年末になってようやく日本へ書物を持ち出した。


 政府から依頼された研究機関は、放射性物質や有害物質の有無を検査。結果は、無害。といっても、異常な書物に違いはない。慎重な取り扱いを要した。


 その中で、この書物の解読に名乗りを上げたのが帝京大学大学院の文学研究科・考古学専修の教授、佐藤さとう 直樹なおきであった。佐藤は、自ら異世界考古学研究室を立ち上げて研究を始めた。政府の支援もあって研究環境に不自由はない。


 余談であるが、相馬たちも東岸拠点でこの書物の解読に挑戦したことがある。が、さっぱり理解できなかった。


 どうやら、相馬たちは聴覚情報のみを理解できるようで、そのことは脳の研究でも判明している。また、ミラたち避難民やポーティア爵グランも理解できない文字らしい。


 佐藤は今日も研究室に籠って、書物に目を通している。


「何らかの規則性があるはずなんだ」


 佐藤は書物に記された解読不能な文字を一文字ずつ記録していく。と、同時に、ウォーティア王国から取り寄せた書籍や古文書、イース帝国時代の書物にも目を通す。


「佐藤教授。根を詰めては体に障りますよ」

「ソウデスヨ。キョージュ」


 佐藤は聞きなれた声に顔を上げ、椅子ごと背後を振り返る。そこには大門陸士長とカランが立っていた。大門は旧相馬小隊の一員で、現地調整隊の隊員である。そして、カランはカル村の避難民の一人であった。


 二人は数ヶ月前、研究のために日本に渡っていたが、研究室発足を受けてそのまま佐藤の補佐を行っている。


 ちなみに今この場にはいないが、ポーティア爵グランの城で働くガウスという名の若い男の文官と、ラティファという名の若い女の学者も助手として出向している。


「大門さんに、カランさん。今日は休日では?」

「カランさんが忘れ物をしたらしいので。自分は只の付き添いです。しかし、休日なのは教授も同じでは?」


 大門はそう言って苦笑した。分かっていなさそうなカランに、大門は佐藤の言葉を翻訳して伝える。数ヶ月で簡単な日本語を覚えたとは言え、まだ理解できているとは言えない。大門の翻訳を聞いたカランも、口を押えて笑みを漏らす。


「私はいいのですよ。仕事が好きですから。それに皆さんが翻訳してくれた資料は山ほどあります。私が作業を滞らせる訳にもいきません」


 この研究室では、まず、ガウスたち異世界人が書籍や古文書の内容を大門に口頭で説明する。それを受けた大門は、日本語で書き記す。そして、文学部の学者がそれを元に、単語や文法を整理していく。……と、いう方法で現代の東方諸国語を体系立てていた。


 それと並行して、佐藤たちは遺跡の書物に異世界各国の言語との関連性を見つけ出そうと試みている。しかし、どうも関連性が見つからない。


「無理も程々に。仕事量が多いのでしたら、人員を補充しては?」

「そうですねぇ。いっそ、現代語の体系化からは足を引こうかとも」


 現在、佐藤の研究室では、現代の東方諸国語の体系化と遺跡にあった書物の解読を並行している。


 一方、前者については大門たちの協力の下、他の大学などでも研究を行っていた。佐藤は、この際それらは外部にすべて任せようかと考えている。


「その方がいいかも知れませんよ。その分、例の書物の研究が進むでしょう?」

「ええ。やはり欲張りはいけませんね」


 そう言って、佐藤は再び机に噛り付いた。いつか、書物の謎が解き明かされる日が来るのだろうか。

最後までお読みくださりありがとうございます。宜しければブクマ・感想などをお願い致します。


【次回】

三章:激動の章「01.訃報を受けて」

6月15日17:00(予定)


※今後もしばらくは不定期に投稿します。ご迷惑おかけして申し訳ありませんが、今後とも宜しくお願い致します。

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