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異世界列島  作者: 黒酢
序章
2/99

02.転移後の国内Ⅰ

 ♢ 

【日本国/転移1日目】


 東の空からゆっくりと陽が昇る―――。


 この日の気温は例年より少しばかり低く、昨日の猛暑が嘘のような過ごしやすい気候であった。


 早朝のことはまるで何事もなかったかのように、普段通りの慌ただしい朝が始まる。


 通勤・通学ラッシュのため郊外から都心に向かう電車やバスは普段通り満員。


 人々の手にはスマホやタブレットなどの通信端末が握られているがそれも普段と変わらない。


 通常であればこのかん、ほとんどの人が〝時間を有効に活用するため〟か、はたまた〝手持無沙汰から〟かそれらに視線を落としている。


 そう。通常(・・)であれば。しかしこの日は様子が違った。


 多くの人が困惑の表情を浮かべ、スマホやタブレットから顔を上げていたのだ。


 顔を上げれば自然と周囲の乗客と目が合うことになり、普段は言葉を交わすことのない者どうしが声を掛け合う。


「あなたもですか?」

「それじゃあ……あなたも?」

「はい……。開けないサイトもあるようで」

「GPSも使えないですよ。ほら」


 大手掲示板〝6ちゃんねる〟。動画投稿サイト〝WeTube〟。短文投稿サイト〝TWITTE〟。それにGPSまでもが機能しない。それを一言で言い表すなら、まさしく異常。


「本当ですね。今朝の地震と何か関係があるんですかね?」

「どうでしょう……そう言えば地震の直前にちょうど激しい頭痛と眩暈に襲われましてね」

「えっ!?あなたもですか?」

「まさかあなたも?」


 地震直前の激しい頭痛と眩暈。それを周囲が皆体感したと言う事態に、人々の困惑はますます深まる。 

 一方、会社に着いた彼らを待ち受けていたのは通信障害の影響で混乱する職場。


 先に出社していた社員は皆、慌ただしくデスクの間を行ったり来たりしている。


 国際電話にインターネット、衛星電話すら使用不可能な異常事態にオフィス街は慌ただしい朝を迎えたのである。







 ♢

【日本国/東京都中央区日本橋兜町にほんばしかぶとちょう/同日】


 東都とうと証券取引所があるこの街は日本金融の中心の一つであり、ニューヨーク・ロンドン・香港に並ぶ世界金融の中心でもある。


 明治時代初頭に第一国立銀行や現在の東都証券取引所が開設されたことで金融街としての歴史を歩んできたこの街には現在、数多くの銀行や証券会社が密集している。


 時刻は午前9時00分―――。


 前場ぜんばと呼ばれる午前の取引が始まった。


 マーケットセンターの環状電光掲示板には、上場する企業の銘柄がゆっくりと動くように映し出される。


 普段であれば国の内外を問わず多くの投資家が激戦を交わすのだが、今日に限っては海外の投資家にまったく動きが無かった。


 海外の投資家が多数を占める外資系企業の株は高止まりといっても過言ではない。


 さすがにおかしい、と判断した東証は急遽、全銘柄の取引停止を決定する。


 全銘柄の取引停止は2005年以来のことである。


 まさかシステム障害だろうか?と、東証は気が気ではない。


 過去にシステム障害を起こし全銘柄の取引を停止した際には、その信用が大きく揺らいだ。


 だが今回は東証に限らず全国の取引所が同様に、株の取引を停止する。


 その事態に日本金融界は大きな混乱に陥った。


 現・東証社長は後に「最悪の事態も覚悟しなけければならないと思った」と当時の胸中を新聞社の記者に明かしている。







 ♢

【日本国/東京都大田区/東京国際空港/同日】


 通称、羽田空港と呼ばれるこの空港は24時間営業する、数少ない空港の一つである。


 年間の航空機発着回数は約38万4000回、航空旅客数は約6670万人であり、世界の空港の中で4番目に旅客数の多い空港として知られている。


 そんな名実ともに日本一の規模を誇る東京国際空港の国際線ターミナルは大きな混乱の中にあった。


 それは、すべての国際便が運航を見合わせていたためである。中には、離陸後すぐに空港に引き返してきた便もあったという。


   日本から帰国する予定であった観光客や外国人ビジネスマン、それに出国予定の日本人ビジネスマンまでもがこの影響をもろに受けた。


『現在、諸事情により国際線の全便でフライトを見合わせております』


 日本語や英語、中国語を始めとする様々な言語で繰り返されるアナウンス。


 しかしなぜ飛行機を飛ばせないのかという説明は一切なく、空港の職員はただ謝罪を繰り返すのみである。


   外国人観光客の一部は、事情をまったく説明しない空港職員に苛立ちを隠さず、職員に詰め寄り、時には罵声を浴びせた。


 もちろんこれは羽田空港に限ったことではない。


 国際線を開設している日本中の空港で同様の混乱が見られた。そして、この混乱が収まる気配は一向に見えていなかった。

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