インシデント三沢 Another Story
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あかん。また負けてしもた。
「バキッ!」
親父の拳がとんでくる。
親父「てめえみたいなのは、俺の息子じゃねえ!いい加減恥ずかしいだろ。いつになったら努力すんだ?走り込め。足腰鍛え足りねえんだ。毎日スクワット千回はやれ。」
三沢「はい。」
親父の声は震えていた。感情を完全に抑えきれてない。
空手大会会場の観衆の視線は試合ではなく、試合後のワイと、親父に集まっていた。
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朝起きてすぐに部活の空手の練習のことを考えてしまう。今日はどう怒られるのか。想像するだけで辛い気持ちでいっぱいになる。
学校へと向かう。中学二年生となり、学校生活には充分慣れてきていて、普通に楽しかった。でも、やっぱりどこかで空手の練習のことが出てきてしまう。
ななみ「三沢くん、おはよー!」
同じクラスのななみちゃんが近寄ってくる。
ななみ「どうしたの?元気ないね。」
三沢「いや、普通やわ」
ななみ「明らかふつうじゃないやーん。気になるよー。」
三沢「ええからワイのことなんてほっといてくれ!」
ななみ「ええー。そんなこと言わんといてー。」
ななみから離れ、逃げるように校門を駆け抜けていく。
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授業が始まるも集中できない。
理科の先生「じゃあ、三沢!原子番号7の元素はなんやったっけ!?」
三沢「・・・。」
理科の先生「三沢!当ててんねやで!!」
三沢「は、はい!!強調を表す助動詞です、!」
理科の先生「国語の時間はさっき終わってんねんで!廊下に立っとき!」
三沢「す、すみませんでした!」
廊下に立ちながらも、空手の練習を想像する。
「オエッ!」吐き気がした。
持たされたバケツを床に置き、トイレへと駆け込む。
トイレで吐き終わると涙が出てきた。ただただ、毎日が辛い。生きてるのが辛い。
もういっそ、親父を殺してしまおう。
そんな残酷な考えが脳裏をよぎる。
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全ての授業が終わり、これから部活が始まる。体育館の二階に武道場があり、更衣室で着替え、軽く準備体操を行っておく。
部外コーチである親父が入ってくる。
「お疲れ様です!!」
武道場にいる全員が挨拶する。
親父「今日は顧問が仕事で遅くなるねんで。俺のメニューの日だ。てめえら覚悟しとけよ。」
「は、はい!!」
親父「アップは済んでるだろうから、サーキットトレーニングから行う。道場の端から端までダッシュ、そんで、腕立て伏せ、バーピー、腹筋、スクワット、反復横とび、かがみ跳躍の順で行っていく。これを10セット。いいな!?」
「はい!!」
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練習がなんとか終わる。
ワイは他の部員の三倍くらいしごかれた気がした。
「もう決めた。親父をこの世からケシテシマオウ。」
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ただ、簡単に親父が死なないことはわかっていた。
親父を殺せないならホンマにワイの生きる価値なんかあらへん。
お前が死ぬか、ワイが死ぬか。
人生をかけた、たった一度きりのゲームやで。
その夜中、親父の寝室にこっそり入る。
親父はイビキをかき、熟睡していた。
ラッキーなことに横を向いて寝ていた。
イケる。確信した。
首の根元をめがけ、裁縫で使っていた針を
ゆっくりゆっくり、親父の
背骨の一番上から左側に少し位置したところ
一ミリもずれたらあかん。
ここだ!
その瞬間親父が少し動いた。
刺す位置がずれる。
ブスッ。血が滲み出る。
ヤバい。すぐに部屋を出る。
いてぇ!
親父の声だ。
ウッ!
前もって用意していたロープが締まる。
今だ。部屋に入り、練炭を燃やす。
一酸化炭素が蔓延する。苦しむ親父の顔がピンク色に染まっていく。
「親父、ワイが死ぬか。親父が死ぬかのゲーム。ワイの勝ちやで」
そう言い放って、自分の部屋へと帰る。