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シャボン玉日和  作者: とろとと
第二幕 おっさんと少女と魔女
5/12

クラスメイトと

「それじゃあね」

「おう」


 学校に到着し、圭人とは廊下で別れ自分の教室へと入った。すでに何人かは登校していて、それぞれのグループで会話を楽しんでいる。私は自分の席に着き、目の前の席の彼女に向かって挨拶をした。


「おはよう千夏」

「あら、おはよう瑞希」


 千夏はくるっと振り向き、私と顔を合わせた。相変わらず振り向くたびに良い香りがする。

 彼女の名前は国枝千夏(くにえだちなつ)。長く伸びた艶やかな黒髪が印象的で、大人びた雰囲気を全身から醸し出している。いわゆる美人だ。クラスの男女共に人気があり、学級委員長もこなす。それに千夏って名前が女の子らしくて可愛い……羨ましい。


「今朝、堺君と登校してたでしょ。相変わらず仲が良いわね。付き合ってるの?」

「そんなんじゃないよ」


 千夏はことあるごとに私を茶化すのだった。


「圭人は私にとってあれよ、弟みたいなものなのよ。子供の頃から一緒にいるし」

「ふーん。でもいくら幼馴染だからって、高校まで一緒だなんて偶然なのかしらね?」

「たまたまよ、たまたま」

「本当にそうなの?」

「そうよ」


 千夏は私の机の上に肘をつき、ニヤニヤしながらこっちをじっと見つめてくる。その綺麗なおでこにデコピンしてやろうかと思った。


「それに今、誰かと付き合うとか考えられないし。そういった事に時間を費やすくらいなら、家の手伝いや勉強を頑張らなきゃ……」

「瑞希は真面目ね。でも学生のうちにしか出来ないことだってあるのよ? そういった事に少しは目を向けてもいいんじゃない? 家の事情もわかるけど、瑞希は考えすぎなのよ」

「……まぁそうかもね」


 確かに千夏の言うとおりなのかもしれない。恋愛をしたりスポーツに励んだり、学生の内にしか出来ないことは山のようにあると思う。でも、私にとってそういった事よりも、お母さんが一番大事なのだ。お母さんの手助けがしたい。私を一人でここまで育ててくれたんだ、迷惑をかけたくない。そんなことをボーっと考えていると、


「というか私の彼氏になってくれていいのよ?」


 目の前の美人が突然、愛の告白をしてきた。


「それは嫌」

「なんでよ!!!」


 冗談に対して冷たく即答するや否や、千夏は腕を組んでほっぺを膨らまし、ぷんぷんとあからさまに不機嫌なポーズをとった。彼女は良い事があれば満面の笑みを浮かべ、悲しい事があればすぐ泣く。平たく言えば、裏表の無いわかりやすい子なのだ。まぁそんなとこが可愛いし、皆に愛される所以なのだろう。


「ほらほら拗ねない、週末買い物付き合ってあげるからさ」

「そう、なら許してあげる」

「相変わらず切り替え早いわねあんた……」

「それはそうと瑞希、あなた誰か気になる人とかいないの?」

「そう言われてもなぁ……どうしたの急に」

「昨日の恋愛ドラマ見てたら、他人の恋路が気になって」


 なんて傍迷惑な……そう思いつつ、私もそのドラマを見ていたので千夏の気持ちが分からなくも無かった。ドラマや映画、漫画、小説の恋愛モノを見るとつい恋愛がしたくなったり、他人の恋愛話を聞きたくなってしまうあの感覚。私も興味が無いわけでは無いので少し考えてみた。でも、お母さん以上に今大事な人なんていない。気になる人と言われても――。


「あっ」


 思わず声が出た。脳裏にあのスーツ姿の魔法使いのおっさんを想起してしまったのだ。


「ん? 瑞希どうしたの? やっぱり堺君のことが気になるの?」

「いや、なんでもない。気にしないで」

「怪しいわねぇ~何を想像したのか教えなさいよ~!」


 ねぇねぇ、と千夏がぐいぐい顔を近づける。近い近い! キスしそうなくらい近寄るな! 両手で千夏の顔を押し返し、元の席に戻した。周りの子の視線が気になる。


「もう、瑞希ったら大胆」

「周りに誤解されそうな行動したあんたが悪いのよ。っていうか照れるな」


 今日も千夏は絶好調のようだ。……疲れた。満足したのか、千夏はこれ以上何も聞いてくることは無かった。それにしても、まぁ確かにおっさんのことは気になる。もちろん異性としてではなく。いつからいるのか、この町で何をしているのか、どんな魔法が使えるのか。考えたらキリが無い。それともう一つ、今朝のことを思い出した。


「ねぇ千夏、今朝学校に来る途中、公園で小さな女の子見かけなかった? 白いワンピースを着た長髪の子」

「どうだったかしら、公園には誰もいなかった気がするけど。どうかしたの?」

「いや、たまたま公園で見かけてさ。一人でいるのに周りに保護者らしき人がいなくて。それに目を離したらいつの間にかいなくなっちゃって」

「うーん近所の子とかじゃないかしら。家に帰ったんじゃない?」

「そうだといいんだけど……ありがとう」


 どうやら知らないみたいだ。私が通った時、たまたま居合わせただけなのだろうか? ちゃんと保護者に連れられて、帰っていればいいんだけど……。気にし過ぎかな? 今となってはどうしようも出来ないので、それ以上考えるのは止めて、少女の無事を心で願っていた。きっと会うことも無いだろう。

 チャイムが鳴り響く。さて、気を取り直して今日も一日頑張って学業に勤しむとしますか。

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