稲刈り Ⅱ
それから、古庄の動かすバインダのエンジン音が鳴り響く中、真琴は鋸鎌を使っての稲刈りと、竹で組まれた稲木に束ねられた稲を掛けていく作業に精を出した。
「こうやって干しておくと、コンバインで刈り取った米よりもずっと美味しくなる」
「へ~、そうなんですか~!」
古庄がバインダで刈り取った稲の束を集めてきては、稲木に掛けていく単純作業を繰り返しながら、真琴は本当に楽しそうだ。
そんな真琴の様子を見て、古庄も少し作業の手を休め、嬉しそうに微笑んで息を抜いた。
「こんな作業でも、一人でやるとけっこう大変なんだ。今日は手伝ってくれて助かったよ」
晶がそう言って真琴をねぎらうと、真琴は恥ずかしそうに肩をすくめた。
「私はいつも、和彦さんと一緒に何かできるだけで、とても楽しいんです…。それが、お義姉さんのお役にたてるのでしたら、もっと嬉しいです」
真琴の素直で可愛らしい物言いに、古庄は顔を赤くし、さすがの晶もいつもの毒気を抜かれてしまう。
「和彦は子どもの頃からやってることだけど、真琴ちゃんは慣れないことだったから、疲れただろう?明日の仕事に差障らなければいいけど…」
そんな晶の心配にも、真琴はニッコリと笑って応えた。
「確かに、明日は筋肉痛になるかもしれませんけど、この苦労が美味しいお米になって食べられると思えば、これくらいどうってことありません!自然農で作ったお米、どのくらい美味しいのか、本当に楽しみです!!」
「……あ?……えっ?」
真琴のこの算段には、さすがの晶も目を丸くして、返す言葉に困ってしまう。
そんな風に調子を狂わされている晶の様子を見て、古庄は思わず吹き出した。
「真琴ちゃん。可愛いだけじゃなくて、案外しっかり者なんだな……」
畑中に散らばっている稲束を集めに、再び向かっている真琴の後姿を眺めながら、晶がポツリとつぶやいた。
「そりゃ、俺の嫁さんだから……」
古庄も微笑みながら愛おしそうに真琴を見つめ、その表情を幸せで満たすと、晶もそれによく似た穏やかな笑顔で弟を見上げた。
「お義姉さーん!もう稲を掛けられるところがなくなりましたー!」
作業に精を出す真琴が、遠くから叫ぶ。
「…それじゃ、稲木を足さないと…」
晶がそう言いながら、トラックの方へ向かう。
古庄は深まる秋に色を変える山々を見渡し、その山々が囲む青く高い秋の空を見上げた。
稲わらの匂いのする澄んだ空気を吸い込むと、子どもの頃に戻ったような気持ちになる。
だけど、この見慣れた風景の中に真琴がいる…。
そこに真琴がいてくれるだけで、懐かしい故郷の風景は、また新たなものになって古庄の心に刻まれた――。
―― 完 ――
恋はしょうがない。Side Storys
※ この後、あとがきを更新します。ぜひ、お読みくださいませm(_ _)m




