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恋はしょうがない。〜Side Storys〜  作者: 皆実 景葉
古庄の安らげない場所
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稲刈り Ⅰ

 




「…おい!このまま帰れると思ったら、大間違いだ。お前にはやってもらわないといけないことがある!」



 いきなり気道を塞がれ、古庄は激しく咳き込みながら、乱暴な姉を振り返った。



「まだ、稲刈りが残ってる。あれを手伝ってもらうぞ!」



「はあ?!」



 古庄の表情は不服そうに歪んだが、真琴の目はその一瞬に輝いた。



「…稲刈り!?私、やってみたいです…!!」



 どうも…、血を分けている古庄よりも嫁の真琴の方が、古庄家の人間と波長が合うようである…。


 真琴もそう言い出して、古庄もしぶしぶ稲刈りをすることになった。と言うより、初めからこの晶には逆らえないのだが…。




 晶に連れて行かれたところは、昨日晶が稲刈りをしていたところとはまた別の、山あいにある田んぼだった。



 真琴は、昨日と同じく母親から借りた作業着に身を包み、初めての体験にウキウキして、晶の後を跳ねるように付いて行く。




「…何で今頃、稲刈りなんかしてるんだよ。普通はもうとっくに終わってる頃だろ?」



 古庄の質問に、晶がしたり顔で返してきた。



「昨日の田やここの田は、できるだけ『自然農』のやり方で作ってみてるんだ。本当は田植えも稲刈りも機械を使わないで、手作業でやりたいんだけど、家族経営じゃそこまで手が回らない。だけど、農薬も肥料も一切使っていないんだよ。だから、稲熟するのも稲次第。温度や日照も田ごとに違うから、時期を見はからって、時期は遅くてもベストの時に収穫するのが一番おいしい米になるってことだ」



「へえぇ~~っ!!」



 質問した当の古庄よりも、傍で聞いていた真琴の方が感心している。



「…お義姉さん…すごい。ホントに農業のプロなんですね…」



 軽トラの荷台から、稲刈り用のバインダを降ろす晶を遠目に見ながら、真琴が古庄に耳打ちした。



「プロかどうか知らないけど、小さい頃から手伝ってきてるし、元農水省の官僚でだからな。農業には思い入れがあるんだろ」



「……は?農水省って、お義姉さん、霞が関の官僚だったんですか…?」



 真琴が驚いた顔をして、晶から古庄へと視線を移す。

 その驚きに対して、古庄は眉を動かしてそれを肯定する。



「それも、タダの官僚じゃない。東大卒のキャリア官僚だったんだけど…、5年前に辞めて戻ってきたんだ」



「…はあ…」



 真琴の関わってきた中で東大に入れる人間なんて、高校の同級生はおろか、教え子の中でも数人しかいない。

 晶が、想像もつかないような世界にいた人間だと知って、真琴は絶句する。


 そう言えば、昨日、キャリアがどうの…という母親との会話があったのは、そういうことだったのだ。



「年齢も、見た目も、頭脳も…、どれも姉貴に勝てるものがないわけだから、俺は結局姉貴には頭が上がらないんだ…」



 古庄はそう言って、自嘲的に笑みを浮かべた。

 真琴はそれに同意も出来ずに、少し困ったように微笑みを返す。


 確かに、これだけ完璧に見える古庄なのに、それを鼻にかけたり思い上がっていないのは、身近に晶という存在があったからかもしれない。


 そんな晶も、華々しい経歴を捨てて田舎に引っ込んでしまったのは、挫折をしたり失敗をしたり、何か理由があったのかもしれない…。



 真琴が、自分たち姉弟とはまた違った古庄家の姉弟の在り様に思いを馳せていた時、晶から声をかけられた。



「おーい、和彦!お前はバインダで稲を刈ってくれ。真琴ちゃんは私と一緒に、細かいところの手刈りと、その後、かけ干しの作業を手伝ってもらえるかな」



「はーい!」



 待ってましたとばかりに、真琴はすっ飛んで行く。

 古庄は手慣れた感じでバインダのエンジンをかけ、稲を刈り始めた。





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