お仕置きだ! Ⅱ
「……私、お尻をペンペン叩かれたりするんですか…?!」
不安げに発せられた真琴の言葉に、今度は古庄の方が目を丸くした。
――ま、真琴…!そ…、そんな趣味があったのか…?!
そんなことが頭に過ると、古庄の鼓動がにわかに乱れてくる。
「だって、『お仕置き』って、小さい子にはそんな感じのことしますよね?」
真面目な真琴の言葉には、何も色っぽい他意は感じられず、古庄は自分の行き過ぎた勘ぐりが恥ずかしくなる。
「そうじゃなくて、これが『お仕置き』だ!」
と、古庄は自分の中の恥ずかしさを押し隠すように、真琴を布団の上で組み敷いた。
そして、有無を言わさず、その唇を唇で塞ぐ。
深く長いキスを交わして、古庄の唇が真琴の首筋から胸元をたどる反面、真琴の唇は戸惑いの声をあげた。
「…ちょ、ちょっと待ってください。今日はダメです」
止められて、古庄が不服そうに頭をもたげる。
「どうして?月一行事の日じゃないだろ?」
「だって…声…。聞かれてしまうかもしれないでしょう?」
真琴は自分の実家に行った時と、同じことを心配した。それを聞いて、古庄は〝その時〟のことを思い出す。
いつも、コトの最中に思わず漏れ出てくる真琴のか細い声は何とも言えず可愛いが、それ以上に、懸命にそれを堪えようとしていた帰りながら〝その時〟の真琴は、どれだけ可愛かったことか。
あんな真琴をもう一度味わいたくて、古庄は行為を強行しようとする。
「だから…ダメです…!あそこの襖が開いてます!」
古庄の肩越しに見えた襖が、数センチ開いていることに気がついて、真琴が指摘する。
「なにっ…!?」
古庄は即座に立ち上がると、襖の開いた所へと直行して、襖を閉めるのかと思いきや、スラリとそれを開け放った。
するとそこには、晶が驚いた顔をして、つっ立っている。
「何やってるんだよ?今、覗いてただろ?!」
「いや…、真琴ちゃんのことが心配で…」
「何の心配だ?!余計な心配しなくていーよ!」
言い訳をしながらの悪びれない晶の笑顔はろくに見もせず、古庄は何かを気取って「はっ!?」と振り返った。
反対側の襖へとツカツカと歩み寄り、ピシャン!と再び開け放つ。
なんと今度は、そこに、父親と母親が襖に耳を付ける体勢のまま並んで立っていた。
真琴がとっさに胸元を押さえながら、赤面して布団の上に思わず起き上がる。
古庄は、それぞれに隣の部屋にいて、古庄と真琴の様子を窺っていた晶と両親を睨みつけて、
「ああ、もう!!……くそうっ!!」
と、それ以上の怒りはあまりにも強すぎて、言葉にもならなかった。
真琴へと足早に歩み寄ると、その腕を取って立ち上がらせ、寝床のある部屋を出て行く。
玄関に降りて靴を履き、真琴を車の助手席に押し込むと、自分は運転席に乗り込んでエンジンをかけた。




