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恋はしょうがない。〜Side Storys〜  作者: 皆実 景葉
古庄の安らげない場所
32/39

お仕置きだ! Ⅰ

 


 古庄が食事を終え、そのままになっていた宴会の片づけをし、風呂に入って先ほどの部屋に戻って来れたのは、ずいぶん夜も更けてのことだった。



 襖をあける古庄の気配に、撃沈していた真琴の意識が浮上する。



「……はっ!和彦さん!?…私…。えっ?!」



 戸惑って起き上がる真琴を顧みて、古庄は呆れたように息を抜いた。



「親父の怪しい酒を飲まされて、ひっくり返ったんだろう?…それでなくても、普段は飲まないのに、飲みすぎだ」



 古庄の諌めるような口調に、真琴は布団の上で肩をすくめて小さくなった。



「……黙ってここに来てしまったこと。…怒ってますか?」



 上目づかいでそんな顔をされると、古庄の中に、怒りなんてこれっぽっちも込み上げてこない。

 逆に、神妙すぎる態度に、笑いが湧き出してくる。その笑いを押し隠して、古庄は真琴に向き直った。



「怒ってはいないけど、……すごく心配したよ」



「…ごめんなさい」



 そして、こんな風に素直に謝られると、それ以上責めようなんて気持ちさえ失せてしまう。



「もとはといえば、俺が連れて来なかったのがいけなかったんだよな。君は何度も『行きたい』って言ってたのに」



 挙句の果ては、責めるどころか、古庄は自分の非を認めてしまった。



「…どうして、今まで連れてきてくれなかったんですか?」



 真琴からその質問をされて、古庄はため息を吐く。



「俺の家族、“普通”じゃないだろ?ぞんざいで遠慮がない。君がオモチャみたいな扱いをされるんじゃないかと恐れてたんだ。君は真面目だから、それを真っ向から受け止めて、きっと翻弄されるだろうと…」



 それを聞いて、真琴は古庄を見つめて首をかしげた。



「〝普通〟じゃないことは、恥ずかしいことでも何でもなくて、むしろ誇るべきことです。あなたの家族と知り合えて、私の世界はずいぶん拓けました」



 ある意味コンプレックスを抱いていた家族を、そんな風に言ってもらえて、古庄はとても心が軽くなった。



 全てを受け入れてくれる真琴がとても愛しくて…。止めどもない想いが溢れてくる。



「……ありがとう」



 古庄は気がつくと、真琴の側に膝をつき、真琴を抱きしめていた。



「…あなたのこと、もっといろいろ知りたいんです。あなたの…どんなことでも…」



 真琴も古庄の腕の中でそう言いながら、ギュッと古庄を抱きしめ返す。



「…うん」



 胸がキュンと震えるのを感じながら、そう思ってくれる真琴がとても可愛くて、かけがえのない大切な宝物を愛おしむように、古庄はいっそう抱きしめる腕に力を込めた。



「だから、ここに来れて、ホントによかったです。…でも…」


「……でも?」



 古庄は腕の中にいる真琴に向かって、優しく囁きかける。



「でも、あなたの実家がこんなに遠いとは思ってもみませんでした」



 苦く笑いながらの真琴の言葉を聞いて、古庄の中に一つの疑問が浮かび上がった。



「…そういえば、君はどうして俺の家を知ってたんだ?」



 そう問われて、真琴は顔を上げて古庄を見上げる。



「実は、校長先生に教えてもらったんです。スマホの地図にピンを立ててたんですけど、途中で電波が来なくなって、道が分からなくなって…」



 ――…なるほど。そういうことだったのか…



 この一件に、校長も一枚噛んでいたとは。確かに、古庄の高校時代にクラス担任でラグビー部の顧問だった校長ならば、古庄の実家のこともよく知っている。



「それで?道が分からなくなって、どうしたんだい?」


「ちょうど稲刈りをしていたお義姉さんに出会ったんです」


「稲刈り?今頃…?」



 稲刈りをするには遅すぎると訝りながら、運良く晶がいてくれたおかげで、無事に真琴がここにたどり着けたと知って、古庄は胸をなでおろした。



「とにかく、姉貴がいなかったら、どうするつもりだったんだ?…道も知らないのに独りで来るなんて、君は思いのほか無鉄砲なんだな」



 内緒で行動を起こされたこともあって、古庄はチクリとささやかな意地悪を言ってみる。すると、真琴は恥ずかしそうに唇を噛んだ。



「やっぱり、あなたがいないと心細くて…寂しかったです…」



 その言葉に、古庄の胸はまたキューンと痺れて、同時に鼻息も荒くなる。



「俺に内緒で来たりするからだ…!…そんな悪い子は、お仕置きだな」



「………!」



 古庄の物言いに、真琴は目を丸くして古庄を見上げた。


 けれども、それから真琴が何も反応しないので、古庄はいささかヘンタイじみた自分の言葉を軽蔑されたのでは…と、後悔し始める。





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