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恋はしょうがない。〜Side Storys〜  作者: 皆実 景葉
古庄の安らげない場所
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真琴が危ない?




 夕刻になり、真琴のアパートに帰り着いた古庄は、ホッと息を吐きながら玄関のドアのチャイムを押した。


 ……しかし、ドアの向こうからは何の応答も気配もない。



「…………?!」



 真琴は買い物にでも行っているのかと、玄関口から下の駐車場を見てみる。……すると、真琴の車はそこにあった。


 古庄の胸が、突然激しく鼓動を打ち始める。もしかして、真琴に何かあったのではないかと…!


 あたふたと鍵を取り出し、玄関のドアを開けて、暗い室内へと入る。



「…真琴?いるのか……?」



 玄関の照明を点け、居間の照明も点けて辺りを見回しても、真琴の姿はそこにはなかった。


 訳が分からず、古庄はパニックになって、今更ながらに携帯電話を探し始めた。自分の着ている服のポケットを探ってもあるはずなく、ベッド脇に置きっ放しになっていたそれを探し当てると、即座に真琴へと電話をかけた。



『おかけになった電話は、現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため…』



 と聞こえて来て、古庄はもっとパニックになる。


 まさか、真琴に愛想を尽かされて、逃げられたのだろうか…!

 それとも、何か事件に巻き込まれて、失踪したのだろうか…!


 絶望感が古庄を支配し始めたとき、居間のテーブルの上に置かれた小さな紙切れに気がついた。



『和彦さんの実家に、ご挨拶に行って来ます。  真琴 』



 それを読んだ古庄は、思いもよらなかった真琴の行動に目を剥いたが、すぐにその驚きを呑み込んで、携帯を持つ手の指を素早く動かし、実家へとダイヤルする。


 しかし、電話に出た母親は案の定、真実を喋ってるのかどうか…、全く話にならなかった。

 けれども、真琴は自分の実家にいるに違いない――。


 古庄は携帯電話をポケットに突っ込むと、照明を落とし、真琴のアパートを飛び出していった。



 試合の引率前に、着替えをするために一旦自分のアパートへ戻り、車で出かけたことが功を奏していた。


 古庄は少し離れた場所にあるコインパーキングまで走り、寸分も無駄もない動きで車に乗り込むと、エンジンをかけ、発車させる。父親譲りの運転テクニックで、車を爆走させ、自分の実家へと向かった。



 と言っても、実家まではずいぶん遠い…。

 高速道路で1時間、それから一般道を2時間近く。しかも実家付近は、つづら折の山道だ。


 しかし、古庄は一刻も早く実家にたどり着かねばならなかった。


 あの“普通ではない”自分の家族たちの中に、“普通すぎる”家庭で育った真琴が一人でいるかと思うと、気が気ではない。



 特に曲者なのは、姉の晶だ――。

 古庄の中に、過去の忌まわしい記憶が甦ってくる。


 あれは中学生の頃。古庄は女の子から「つきあってほしい」と告白されたことがあった。

 その頃の古庄は、まだ“恋”というものを知らず、その子のことを好きでも嫌いでもなかったが、それなりに可愛い子だったし、つきあうこと自体に興味を持ち始める年頃だったこともあって、その子の想いを受け入れた。


 ある時、その子が古庄の家に遊びに来たことがあった。

 その時、紹介された姉の晶を一目見て、その子の態度がそわそわと落ち着かなくなった。

 その頃高校生だった晶は、もうすでに眉目秀麗なオーラ全開で、その容姿の端麗さはこの近隣では知る人ぞ知る存在だった。


 晶の方もその子に興味を持ったらしく、古庄のことはそっちのけで、二人で盛り上がり始める。古庄は蚊帳の外にされた挙句、晶に命令されて、お茶やお菓子を運ばされた。


 釈然としないながらも、姉の言うことには逆らえず、せっせと古庄が給仕をしていた時に、襖の隙間から目撃してしまったのだ…!


 晶がその子とキスをしているところを……!!


 晶を見上げるその子の、うっとりとした夢を見ているような眼差し…。

 まだ幼い中学生だった古庄には、その光景は強烈過ぎた――。愕然として何も言えず、見て見ぬふりをすることしかできなかった。


 それ以来、その出来事をずっと忘れたいと思ってきたが、その時の光景は、今でも古庄の脳裏にしっかりと焼きついたままだ。


 その時の女の子と、真琴の姿がオーバーラップする。

 もちろん真琴の方がずっと可愛いが、そう言えば少し似ているかもしれない……。だからこそ、晶は真琴にも興味を持つだろう。


 こうしている間にも、真琴は晶の毒牙にかかってしまっているのではないかと、古庄は心配で爆発しそうになった。



 ――俺の真琴に手出ししやがったら、タダじゃおかない…!!



 …と心の中で叫んでみても、実際のところ、古庄が今まで晶に逆らえたことは、ただの一度もないのだが…。


 それでもとにかく、愛しい真琴が無事に実家にいるところを早く見届けなければ、古庄は安心できなかった。

 そのために、自分にとっては鬼門ともいえる、〝安らげない場所〟へと、車を走らせた。


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