表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋はしょうがない。〜Side Storys〜  作者: 皆実 景葉
古庄の安らげない場所
20/39

義父と義母 Ⅱ

 



 見た目も大きな屋敷だけあって、内部もとても広い。

 縁伝いの廊下を歩きながら、家の中でも迷子になれそうだと真琴は思った。


 屋敷の北側にも土間があり、そこには土づくりの(かまど)やポンプの付いた井戸があった。その土間から上がった所には、10人以上で囲めるくらいの囲炉裏がある。…さすがは〝文化財〟になっている住宅だけのことはある。



 しかし、台所は土間ではなく、現代的なシステムキッチンが設えてあった。

 居間はその南隣、年季の入った立派な彫刻のある座卓が置かれ、大きな窓からのどかな風景が見渡せる場所だった。



「ご連絡もせず、突然押しかけてしまって、ご迷惑をおかけします」



 座卓に着く前に、真琴はきちんと正座をし、再び深々と頭を下げた。失礼があってはいけないと、真琴の神経はピリピリと研ぎ澄まされている。



「なあに、迷惑なんかじゃないよ!」


「そうよ。そんなに緊張しないで、楽にして」


「いや、そんな風にちょっと緊張してる真琴ちゃんも可愛いなぁ…」



 古庄の父親のその声といい、言い回しといい、まるで古庄から言われているように感じて、真琴は思わずドキッっとする。

 何と返していいのか分からずに赤くなると、それを見て今度は母親が微笑む。



「あら、赤くなって、照れてるのも可愛いわねぇ♡」


「和彦のやつ、こんな可愛い子を一人で来させるなんて、どういうつもりなんだ?」


「そうね。こんなに可愛いのに、何かあったらどうするのよねぇ?」



 こんな風に『可愛い』を連発する夫婦の会話に、真琴は口を挟む暇も見つけられない。出会ったばかりなのに、このフレンドリーな感じにも、真琴は戸惑った。



 思えば、これまで古庄以外から『可愛い』と言われたことなんて、ほとんど経験がない。何かにつけて、自分のことを『可愛い』と言う古庄のことを、「変な人だ」と思っていたのだが…。



 古庄家はそろって、普通ではない特殊な感性の一族なのだろうか…?



「…真琴ちゃん?」



 面食らって固まっている真琴を、両親共に覗き込んだ。


 両親どちらも、古庄や先ほどの晶のような、奮い立つような美形ではなく、真琴の目にはあまり似ていないように思われた。


 でも、この覗き込む仕草が、同じことをする古庄を思い出させる。やはりこの二人は古庄の両親なのだと、真琴は思わずにはいられなかった。



「あっ!あの、和彦さんは、今日は花園の予選があって…」


「ああ、ラグビーの試合ね」



 母親の方が相づちを打つ。



「部員たちの引率してるんです。一旦、家に帰ってから、こちらへ来ると思います」



 真琴はそう答えたものの、当然古庄にはここへ来ることは告げていない。しかしその代り、アパートには置手紙をしてきた。



『和彦さんの実家へ、ご挨拶に行ってきます。  真琴』



 古庄は、誰もいない暗いアパートに残されたそれを読んで、血相変えてここへ飛んでくるに違いなかった。




 それから真琴は、自らいろいろと語るまでもなく、フレンドリーで真琴に興味津々の古庄の両親から、あれこれと質問された。


 真琴も教員をしていて、世界史を教えていること。古庄とは今の職場で知り合ったこと。そして、真琴の実家のことなど。


 古庄の両親は、古庄や晶のように特殊なオーラを醸すこともなく、真琴も身構えることなく、すぐに打ち解けられた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ