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恋はしょうがない。〜Side Storys〜  作者: 皆実 景葉
古庄の安らげない場所
19/39

義父と義母 Ⅰ

 



 林道を抜けて、再び田畑の広がる場所に出て、見えてきたのは大きな茅葺の屋敷。


 晶の運転する軽トラは、細い小路を上って、同じく茅葺の大きな門をくぐり、その前庭に駐車した。

 ともかく何とか、真琴は古庄の実家まで辿り着くことができたようだ。



 軽トラを降り立って、真琴はその屋敷のあまりの大きさに目を見張る。



「うちの家は、戦国時代は地侍でね。江戸時代はここら一帯の名主をしていたんだ。この家も築300年以上。今どき茅葺なんて不便なんだけど、県の文化財になっているから、勝手にいじれないんだ」



 晶が説明してくれるのを聞いて、真琴はますます驚き入って声も出なかった。

 古庄の生育環境は、真琴が何となく思い描いていたものとは、遠くかけ離れているらしい…。



 玄関を入ると大きな土間があり、空気はひんやりとしていた。見上げると天井は高く、何本もの梁がむき出しになっており、茅葺屋根の裏側が見えた。



 晶が奥へ向かって大声を張り上げる。



「おーい!父さん、母さん。和彦の嫁さんが来てるよー」



 しばらくして、奥の方から物音がし、「えぇ?!」と言うような不審がる声も聞こえてくる。



「…和彦の嫁さんって…?」


「あの結婚は、破談になったんじゃ…?」



 そんな会話が聞こえてきて、真琴はとっさに“静香との婚約”という古庄の過去を思い出してしまう。それに伴って、真琴の鳩尾がキュッと切なく反応した。



「あ……」



 そして、奥から出てきた古庄の両親は、土間にたたずむ真琴の姿を見て、言葉をなくす。


 きっと両親の頭の中に思い描かれていたのは、容姿端麗な静香だったに違いない…。


 そんな風に想像すると、真琴は居場所がないような気持ちにもなったが、このことは初めから想定済みだった。

 想定はしていたけれども、静香のことが心に過るだけで、今でも真琴は罪悪感と切なさに苛まれる。



 真琴は静香のことを振り払い、勇気を奮い起こして、両親が言葉を発するよりも先に行動を起こす。



「ご挨拶が遅くなってしまって申し訳ありません。賀川真琴と申します。9月に和彦さんと入籍しまして、古庄真琴になりました」



 そう言いながら、深々と頭を下げる。

 そして、頭を上げるタイミングを計っていると、母親の方の声が響いた。



「ホントに、和彦のお嫁さん!?もう結婚してるのね?んまあ!嬉しいわ!!こんなに可愛い『女の子』で!ねえ?お父さん?」



 母親の顔は歓喜に沸き、父親を振り返った。

 …すると、父親は眉根を寄せて、先ほどの晶と同じように小さく「チェッ」と舌打ちした。


 この舌打ちに、真琴の心は再びズキンとし衝撃を受ける。静香に比べて劣ってしまう自分が、嫁として歓迎されていないように感じて、いたたまれなくなった。



 しかし、そんな父親も一瞬後には笑顔になる。



「真琴ちゃん。遠い所をよく来たね!さあ、上がって上がって!」



 その豹変した態度に、真琴は訳が分からず唖然とし、目をパチパチさせた。

 さっきの舌打ちは、いったい何だったのだろう…。



「さあ、遠慮しないで。ここは、もうあなたの家みたいなものなんだから」



 母親からも促されて、真琴は靴を脱ぎ、高い段差を上がって畳に足を付けた。



「それじゃ、私は田んぼに戻るから。…ゆっくりして行って」



 晶はそう言って真琴に極上の笑みをくれると、土間を出て行く。

 真琴は晶にお礼を言おうと思ったが、古庄の両親はその猶予も与えず、真琴の腕を引っぱって屋敷の奥へと連れて行った。







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