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恋はしょうがない。〜Side Storys〜  作者: 皆実 景葉
真琴の安らぐ場所
13/39

父親と婿 Ⅰ

 



 朝食が済むと、正志は今日も午前中に部活があると言って、ほどなく出かけて行った。

 スクリューパスが出来るようになったからか、その足取りは軽快で弾んでいた。


 父親も本来ならば、こんな天気のいい休日には、トレッキングにでも出かけるのだろうが、今日は出るに出られないみたいだ。

 かと言って、古庄と話をするでもなく、昨日と同様、リビングで新聞を読んだりテレビを見たりしている。



 このままでは、せっかくの休日なのに、父親は好きなこともできず、心身ともに休むこともできない…。そう考えた真琴と古庄は、とりあえず今日は帰ることにした。



「それじゃ、お義父さん、お義母さん。お世話になりました。ありがとうございました」



 車に乗り込む前、古庄が律儀にそう言って、頭を下げる。



「いえいえ、何のお構いもできませんでした。また近いうちに来てくださいね」



 母親はそう言って答えてくれたが、一緒に玄関先まで出てきてくれている父親は、やはり無言だった。



「近いうちに来たいけど、和彦さんの実家にも行かなきゃいけないし、もう少しすると週末には花園の予選も始まるから…、当分はきっと来られないと思う」


「あら、そう…」



 頭の中で周到にスケジュールを組んでいる真琴が、これからの予定を打ち明けると、母娘ともども残念そうに眉を寄せた。



「それじゃ、正志ちゃんによろしくね」



 真琴もそう言って、車に乗り込もうという時、母親があることを思い出す。



「そうだ。北海道の叔母さんからジャガイモがたくさん届いてるのよ。少し持って帰る?」


「えっ!?ジャガイモ?持って帰るわ。少しじゃなくて、たくさん頂戴!」


「まあ!しっかりしてること!」



 母親が笑いながら、その場を離れる。

 真琴も開けかけていた助手席のドアから手を離し、母親を追って勝手口の方へと向かった。



 そこに取り残されたのは、古庄と父親…。

 この気まずいシチュエーションは、もう何度目だろう…。車の横にたたずんで、手持ち無沙汰の時が流れる。


 父親の方から話しかけてくれるはずはないので、何か話題はないかと、古庄は思考をフル回転させた。



「……和彦くん…」



 古庄は、自分の耳を疑った。

 けれども、今この場で、自分をこんな風に呼ぶのは真琴の父親しかいない。


 ゆっくりと父親に視線を定めると、父親もしっかりと見つめ返してくれていた。



「……はい」



 突然襲ってきた緊張のせいで、古庄の声はうわずっている。



「…真琴を、よろしく頼みます」



 父親は、最初に古庄がしたように、深々と頭を下げてそう言った。

 古庄も釣られて、頭を下げる。



「…あっ、あの。……はい!」



 もう少し気の利いた答え方をしたかったが、焦ってしまってただの返事しかできなかった。


 頭を下げ合う二人の男の間には、それ以上の言葉もなくギクシャクとした空気が漂った。



「和彦さん、ちょっと手伝ってください。これ、ジャガイモ重くって…」



 真琴の声に、古庄が頭を上げる。同時に父親も声のした方に、振り返った。



「ちょっと、欲張りすぎよー。そんなに食べられるの?」


「食べられるわよ。週末は、和彦さんも一緒なんだから」



 母親とそんな会話をしている真琴の側に、古庄は駆け寄り、その手にある重そうなレジ袋を、軽々と持ち上げる。


 そして、ジャガイモをトランクに積み込むと、二人は車に乗り込んだ。



「それじゃ、ね」



 真琴が車の窓を開けて短く別れを告げると、古庄も一礼して車を走らせ始める。



 しかし、数十メートルほど走ったところで、突然古庄は車を止めた。



「…忘れ物ですか?」



 そう問いかける真琴には応えず、ギアを切り替えサイドブレーキを引くと、ドアを開けて走り出る。

 急いで賀川家の門まで戻ると、真琴の父親と母親は玄関を入るところだった。





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