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恋はしょうがない。〜Side Storys〜  作者: 皆実 景葉
真琴の安らぐ場所
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私の居場所 Ⅱ

 


 真琴は衝動的に起き上り、居心地がいいはずのベッドを立った。


 暗く寝静まった家の中を歩いて、古庄のいる和室へと向かう。隣の部屋には両親が眠っているので、そっと起こさないように。


 古庄だって、もう眠っているに違いない。


 ……でも、一目だけでも安らかな寝顔を見たい。

 一目見て心が満たされたら気持ちも落ち着いて、自分の部屋に一人で戻っても、きっと眠れると思っていた。



 音を立てないように襖を開け、ほの暗い和室に入ると、常夜灯に照らされた古庄の背中が見えた。足音を忍ばせて近づき、枕元にひざまずく。


 すると、真琴が覗き込む前に、古庄は寝返りを打って目を開けた。



「あっ…!ごめんなさい。起こしてしまいましたね」



 古庄よりも、真琴の方が驚いて身をすくめた。



「真琴…?いや、うとうとしていただけだよ。…どうした?」



 と、寝床から見上げられる。

 どうした?と訊かれても、別にどうもしていない。

 ただ、顔が見たかっただけだ。…ただ、離れて眠るのが寂しかっただけだ。

 真琴は口ごもったけれど、切ない想いは目に、表情に表れる。


 古庄は布団をはぐって自分は端に寄り、真琴のための場所を作ってあげた。



「……おいで」



 古庄が招き入れると、真琴はそれに素直に応じ、古庄の隣に体を横たえた。


 布団の中で、古庄の腕に包み込まれる。規則的な鼓動の響く胸に頬を付け、目を閉じると、真琴は安堵のため息を吐いた。



 ――…ここが、私の居場所……。



 今の真琴にとって、一番安らげる場所は、古庄のこの腕の中――。

 自分の育った懐かしい場所よりも、ここが大事な場所になっていたということを、今日真琴は改めて知った。



 こうやって抱きしめられて、満たされ安らげているはずなのに、心がキリキリと痛んでくる。


 それは、寄せては返す波のように、尽きることのない古庄への甘く切ない慕情のせい。

 そして、古庄が自分の家族に対して味わわねばならなかった、苦い思いに思いを馳せて…。



「…今日の、正志ちゃんやお父さんのこと…。ごめんなさい。あんな態度…、気分が悪かったでしょう?」



 真琴は古庄の胸から囁いた。



「気にしてないって、昼間も言っただろう?大丈夫。そのうち打ち解けられるよ」



 と、古庄は真琴を抱きしめる腕に力を込めた。



「それに、俺は君さえこうやって傍にいてくれれば、他には何もいらないんだ。世界中の全部が敵になってもいい。…でもそれじゃ生きていけないし、君だって幸せじゃなくなる。君が幸せじゃないと、俺も当然幸せじゃない。だから、努力はするよ。…いや、君を愛しいと思えば、こんなこと努力でも何でもない」



 そう語りながら、古庄は真琴の髪を撫で、頬を撫で、真琴の顔を覗き込んだ。

 真琴は何も言わず、涙で潤んだ目で見つめ返してくれている。


 そんな、かけがえのない愛しい存在を見つめると、想いが溢れてきて、その額にキスをした。

 真琴のまぶたや頬や、その輪郭を形作るように唇を滑らせ、そして唇に口づける。



 真琴も、古庄がそうしてくれるのを待っていたかのように、何度も自分から唇を重ねた。


 すると、古庄の想いはますます熱を帯びて抑えが利かなくなり、腕の中にいた真琴を組み敷いた。

 真琴の首筋に古庄の熱い息がかかり、唇はそのままそこを滑り降りていく。



「……待ってください。これ以上は、ダメです…!」



 と、真琴は古庄の胸を押して、古庄の行為を中断させた。



「隣の部屋に両親が寝ているんですよ?…声が漏れたりしたら……」



 真琴を組み敷いたまま、古庄は不服の表情を浮かべる。



「もう眠ってるだろうし、声は我慢できるさ。それよりも、一つの布団で君を抱きしめたまま何もできないことの方が、まるで拷問みたいだ」



 古庄はそう言いながら、真琴のパジャマのボタンを上から順番に外しにかかる。

 強行しようとする古庄に、真琴は焦りはじめた。



「…そ、それじゃ、…私。もう、自分の部屋に戻ります」



 と、真琴が身をひるがえして布団から出て行こうとすると、



「ダメだ!行かさない!!」



 古庄は真琴の両肩を掴んで、布団に押し付けた。


 真琴は、古庄の怖いくらい真剣な目に、心も体も貫かれる。

 古庄の優しい微笑みは誰にでも向けられるが、この目で見つめられるのは真琴だけだ。この視線はその鋭さにかかわらず、真琴を甘い衝動に駆りたてる。


 真琴は観念して、パジャマの前を開いた。



「……ゆっくり、優しく、お願いします」



「…わかってるよ」



 古庄も満ち足りたように微笑んで、自分のパジャマを脱ぎ捨てた。






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