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灯りが点いた。

作者: 徳坂 新太郎
掲載日:2016/05/21

「どこから入った。」

「窓からです。」

窓には半径10cm程度の円状に穴が開けられていた。

「何をしている。」

「泥棒です。」

男は上は黒のパーカー、下は黒のチノパンを纏っていた。

「なぜここに来た。」

「ここが社長室だからです。」

8階建のビルの最上階フロアに設けられたその部屋は、社長専用のものであった。

「社長室がなぜ理由になる。」

「社長っていうのはだいたいピンキリではありますが、周りよりは経済的に豊かなもんです。」

「ふむ。」

「何の面接ですか。これは。」

侵入者を発見した背広姿の男は、ゆっくり来客用のソファに腰掛けた。

「警察に通報したらどうするかね。」

「困ります。」

「ではどうする。」

「できれば、できればですが、ここであったことはなかったことにしてほしいです。」

「しかし、窓が割れている。」

「あぁ、これは誤って割ってしまったことにしましょう。」

背広姿の男は窓を眺めながら言う。

「誰が修理代を出すと思っている。」

「それはもちろん私も出したいところですが、それでは泥棒に入った意味がなくなってしまうというか。」

「しかしそうなるとだな、私は泥棒に入られたうえ、窓の修理費まで出さないといけないわけだが。」

「そうなりますね。」

「それはいささか理不尽じゃないか。」

上下黒の男はいつの間にか、挙げていた手を下ろしていた。

「しかし、それが泥棒に入られた証でもあるので、どうしようもないです。」

「なら、警察の出番じゃないか。」

「そうですね。」

背広姿の男は思い立ったように目を瞬き、言った。

「ところで、何を盗った。」

「え、ああ、大した物ではありませんが、この金庫の中にあった札束と、この骨董品を。」

背広姿の男は聞こえない程度に舌打ちをした。

「人の物に大した物ではないとは失礼だな。」

「申し訳ございません。ですが今、これは私の物になりましたので。」

「なるほど。」

上下黒の男は腕時計に目をやった。

「しかし、あなたがこんな時間にここに来るのは想定外でした。」

「下調べと違ったかね。」

「ええ。あなたは遅くても19時には退勤。その後警備員の巡回が21時、23時とあって、その後は完全に閉鎖されるはずですからね。」

背広姿の男は壁にかかった時計に目をやる。

午前1時。

辺りは静まり返り、建物内で灯りが点いているのはこの部屋だけだ。

「なるほど、それでこの時間に。」

「ええ。何か忘れ物でもしたんですか。」

上下黒の男は投げやりにそんな質問をする。

「まぁ、そんなところだ。」

「どうしますか、ところで。」

「私は警察が嫌いでね。通報はしないでおいてやろう。」

「それは、それはとても助かります。」

「しかし、監視カメラの映像があってな。」

上下黒の男は工具セットの様な物を取り出した。

「それならこの部屋だけですが、回線を切ったので問題ないです。」

「そうか、それは安心だな。」

「安心できるのは私だけですよ。」

「そうだったな。よし、ほら、逃げなさい。今回だけだぞ、こんなのは。」

「あ、ええ、はい。それはもちろんそうさせていただきます。」

背広姿の男は立ち上がり、部屋中を見渡し始めた。

上下黒の男は自分の仕事道具を片し終え、窓に足をかけた。

「ああ、それから、私、一応万が一の時の為に、ある程度の社員の名簿リストは顔と共に頭に入れているんです。降りたら監視カメラの映像は回復させます。5〜10分ってところです。」

と、言い残して降りていった。

「ふん。とんだ誤算だよ。今回だけだぞ、こんなのは。」

背広姿の男は踵を返すと、部屋を後にした。




〜end〜

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