灯りが点いた。
「どこから入った。」
「窓からです。」
窓には半径10cm程度の円状に穴が開けられていた。
「何をしている。」
「泥棒です。」
男は上は黒のパーカー、下は黒のチノパンを纏っていた。
「なぜここに来た。」
「ここが社長室だからです。」
8階建のビルの最上階フロアに設けられたその部屋は、社長専用のものであった。
「社長室がなぜ理由になる。」
「社長っていうのはだいたいピンキリではありますが、周りよりは経済的に豊かなもんです。」
「ふむ。」
「何の面接ですか。これは。」
侵入者を発見した背広姿の男は、ゆっくり来客用のソファに腰掛けた。
「警察に通報したらどうするかね。」
「困ります。」
「ではどうする。」
「できれば、できればですが、ここであったことはなかったことにしてほしいです。」
「しかし、窓が割れている。」
「あぁ、これは誤って割ってしまったことにしましょう。」
背広姿の男は窓を眺めながら言う。
「誰が修理代を出すと思っている。」
「それはもちろん私も出したいところですが、それでは泥棒に入った意味がなくなってしまうというか。」
「しかしそうなるとだな、私は泥棒に入られたうえ、窓の修理費まで出さないといけないわけだが。」
「そうなりますね。」
「それはいささか理不尽じゃないか。」
上下黒の男はいつの間にか、挙げていた手を下ろしていた。
「しかし、それが泥棒に入られた証でもあるので、どうしようもないです。」
「なら、警察の出番じゃないか。」
「そうですね。」
背広姿の男は思い立ったように目を瞬き、言った。
「ところで、何を盗った。」
「え、ああ、大した物ではありませんが、この金庫の中にあった札束と、この骨董品を。」
背広姿の男は聞こえない程度に舌打ちをした。
「人の物に大した物ではないとは失礼だな。」
「申し訳ございません。ですが今、これは私の物になりましたので。」
「なるほど。」
上下黒の男は腕時計に目をやった。
「しかし、あなたがこんな時間にここに来るのは想定外でした。」
「下調べと違ったかね。」
「ええ。あなたは遅くても19時には退勤。その後警備員の巡回が21時、23時とあって、その後は完全に閉鎖されるはずですからね。」
背広姿の男は壁にかかった時計に目をやる。
午前1時。
辺りは静まり返り、建物内で灯りが点いているのはこの部屋だけだ。
「なるほど、それでこの時間に。」
「ええ。何か忘れ物でもしたんですか。」
上下黒の男は投げやりにそんな質問をする。
「まぁ、そんなところだ。」
「どうしますか、ところで。」
「私は警察が嫌いでね。通報はしないでおいてやろう。」
「それは、それはとても助かります。」
「しかし、監視カメラの映像があってな。」
上下黒の男は工具セットの様な物を取り出した。
「それならこの部屋だけですが、回線を切ったので問題ないです。」
「そうか、それは安心だな。」
「安心できるのは私だけですよ。」
「そうだったな。よし、ほら、逃げなさい。今回だけだぞ、こんなのは。」
「あ、ええ、はい。それはもちろんそうさせていただきます。」
背広姿の男は立ち上がり、部屋中を見渡し始めた。
上下黒の男は自分の仕事道具を片し終え、窓に足をかけた。
「ああ、それから、私、一応万が一の時の為に、ある程度の社員の名簿リストは顔と共に頭に入れているんです。降りたら監視カメラの映像は回復させます。5〜10分ってところです。」
と、言い残して降りていった。
「ふん。とんだ誤算だよ。今回だけだぞ、こんなのは。」
背広姿の男は踵を返すと、部屋を後にした。
〜end〜




