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4話 魔王、奴隷を作る

 五分ほど走っている時に思い出した。

 そういえば、ステータスを見た時にいいのがあったな。

「レヴィテーション!」


 俺が叫ぶと、体がふわりと舞い上がった。

 体を浮遊させる魔法だ。

 有名バンドにこういう曲名の歌があるので空を飛ぶものだと知っていた。


 どこからから、

「魔王は空を飛ぶんだ!」

 といった声が聞こえてきたが、無視することにする。


 高度を上げていくと、遠くに光が見えた。

 あれはそこそこ大きな町だな。


 ただ、あそこに行ってもトラブル起こすだけだしな……。


「これだけステータス高いんだから、姿を変える魔法ぐらい持ってろよ……」


 なんで破壊の魔法に特化してんだよ。魔王かよ。まさに魔王だった……。


 仕方ないので、森のほうに飛んでいくことにする。


 これまでの経験則から、人がたくさんいるところはダメだ。

 誰かがパニックになると、それが伝染してしまう。


 そうなると、俺は魔王じゃないと言っても信じてもらえない。


 しかも、困ったことに本物の魔王っぽいんだよなあ……。


 まだ絶対そうだと信じたわけではない(だって、法的に魔王であることを証明することなんてできない)が、あのステータスを見る限り、俺が魔王に見えるのはやむをえん。


 森の中に小さな一軒屋があった。


 灯かりがついているので、上空からも目立ったのだ。


 よし、ここで泊めてくれと交渉しよう。

 一軒家なら説得しないといけない数も少ない。

 農作業だとか仕事も手伝うからと言えば、話も通じるんじゃないか。


 俺は扉の前に降りると、どんどんと扉を叩いた。

「すいません、泊めてください」


 何度か叩いてると、ぎいぃっと嫌な音を立てて、扉が開く。


 出てきたのは、黒いローブを着た栗色の髪の、まだ少女と言っていいもいい年の女の子だった。


 ただ、もう慣れてきたけど、俺の顔を見た瞬間、びくっとされた。

 角のせいだろう。


 こうなれば事前に自分の情報を言うことにしよう。

 モンスターと無関係と言い続けるとボロが出る。


「ああ、魔王に見えるかもしれないけど、俺、怖くない魔王なんだ!」


「なっ! あなた、自分から魔王と名のるのね!」


 あれ、正直に言ったの、逆効果だった?


「ここが魔王軍第7軍団長の、魔女ザフィーラの隠れ家と気づいてるわけね……」


 え……?


 魔王の部下の隠れ家なの……?


「そして、魔王を自称するとは魔王様に対する挑発行為そもの! 許しはしないわ!」


「余計なこと言わなきゃよかった!」


 ああ、そういえば、すでに魔王がいるって女神が言ってたよな……。

 それの部下か……。


「じゃあ、俺、魔王じゃなくていいです。一般人ということでお願いします」


「もう、遅いわよ! だいたい、一般人がそんな髪の色をしてないわ。勝負したいなら、外でやりましょう。あなたぐらい、魔女の炎で焼き払ってやるわ!」


 とてつもなく面倒くさいことになった。


 一軒家の前にある原っぱに移動する。


「あなた、いったい、何者なの? 魔族の統合でも狙ってるの?」


 相手も魔王の配下みたいだし、本当のことを言っても差し障りないか。


「魔王をやれと言われて、この世界に転生した」


「また魔王様を侮辱したわね。第7軍団長として負けられないわ」


 何を言っても聞いてもらえない。


 ザフィーラと名のった魔女はぶつぶつと呪文の詠唱を行った。


 幹部クラスだけあって、相当な迫力を感じる。


「紅蓮の業火を喰らいなさい! ヘルファイア!」


 巨大な火球が俺の体にぶつかる。


 そこそこ熱かった。


「ああ、カイロみたいでほかほかする」


「なっ! 効いてない!?」


 HPがクソ高いから影響が小さいのだろう。


 あと魔法耐性みたいなのもあるのかもしれない。


「多分、俺、魔王候補なんで強いらしい」


「ちっ! まだ負けたわけじゃないから!」


 そこから先も攻撃の魔法をいくつも受けた。


 だが、想像の通り、無傷だった。


「そんな……。魔王様だってここまで平気ではいられないはず……」


 前の魔王よりはよくやってるらしい。


「じゃあ、次はこちらからやるな」


 無詠唱のスキルがあったはずだし、手を出すだけでいいよな。


 強くなりすぎても困るので、気持ち弱めで。


 ヘルファイアよ、出ろ。


 ザフィーラの軽く15倍ぐらいの威力の炎が飛び出る。


「ま、まさか、こんな威力がぁ!」


 やっぱりとんでもないパワーらしい。


 しかし、ザフィーラも幹部だ。

 目の前に透明なガラスじみたバリアーを張る。


 防御系の魔法なんだろう。そのまま直撃したら悲惨なことになるもんな。


「耐熱障壁最大出力ぅぅぅ! 耐えてっっっ!」


 どうにかザフィーラも防ぎきったらしい。

 炎が消えるのと、バリアーが消えるのが同時だった。


 ただ、もう向こうは体力を使いきっているようだが。


「はぁ、はぁ……なんて威力なの……。まさか、勇者の一味……?」


「いや、魔王候補なんだけど」


「で、でも……あれだけのヘルファイアを出せば、しばらくの間、何もできないはずで――」


 俺は手に炎を灯す。


「今のやつの数倍の威力の炎を出すつもりなんだけど、降伏してくれないかな?」


 俺のほうにまだまだ余力があるのはそれで理解してもらえたらしい。


 ザフィーラは膝をついた。


「まさか、別の魔王様が現れただなんて……」


 そのまさかということなのかな。


 ザフィーラはゆっくりと頭を下げる。


 これで一泊ぐらいはさせてもらえるだろう。

 ついでにこの世界の情報を聞き出せば、明日からどうにかなる。


 しかし顔を上げたザフィーラの顔は――


 やけにうやうやしいものだった。


「あなたこそ、新しい魔王様でございます。どうか、ザフィーラのご無礼をお赦しくださいませ……」


「まあ、間違いは誰にでもあるし、いいんじゃないかな……」


 なんか、この子、態度が豹変したぞ……。


 ちょっと目がキラキラしている。


「私、ずっと魔王様を待ち望んでいたんです……。それでこの森に潜伏していました」


「まあ、そうみたいだね……」


「てっきり今、封印されている魔王様が復活するものとばかり思っていましたが、新しい魔王様が召喚されたのですね! ついに出会えました! 本当にうれしいです!」


 この気分、なんか記憶にある。


 そうか、ファンの子に向けられた視線と近い。


「今から、私はあなた様の下僕にして奴隷です。なんなりとお申し付けくださいませ!」


 奴隷か……。

 バンド時代もたしかに奴隷と書いてミニオンと呼んでたけど……。

 これって本当の奴隷って意味だよなあ。


「あの、奴隷はやりすぎなんで、友達ぐらいからお願いします……」

「いえ、魔王様に仕える魔族はすべて奴隷のようなものですから!」


 なんか、奴隷ができてしまった……。


「さあ、魔王様、このザフィーラにどんなご命令でも!」


「じゃあ、泊めてください……」


★魔王軍の配下

現在1人

次回は本日夜6時か7時頃の更新予定です。そのあと、夜11時ぐらいにもう一度更新予定です。

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