36話 魔王、本職を復活させる
その日、俺は王都最大の大聖堂にたくさんの客を呼び集めた。
ここが一番王都でたくさんの人間が入るところだったのだ。
定刻になったので、その場に俺は出ていく。
「ごきげんよう、バンド・ルシア北部辺境伯だ」
よく通る声で言う。
「私は魔王として悪事を成すつもりは今後もない。だが、魔王であるという事実までは消えない。私に魔王らしい活躍を望む魔族がいるのも事実だ。そこで年に一回、魔王らしい歌を歌うことで、魔王であることを平和な行事の中に落としこもうと思う。こうすれば誰も魔王を忘れることもなく、かといって魔王に恐れることもなくなるだろう」
我ながら苦しい理由付けだな。
なにせ、理由付けでしかないからだ。
これは元ロックバンド、ディアボロスのヴォーカル、ルシアが歌を歌いたくて開いた行事なのだ。
マイクはこの世界にないので、大きな声で歌う。
大聖堂はそれなりに声が反響するし、肺活量も魔王になって増えているのでどうにかなる。
「おお、やけに上手いな!」
「やはり、魔王だからなのか」
そんな感想が聞こえてくる。
いや、魔王であることは関係ないだろう。
ちょっと、俺は誇らしかった。
この大聖堂にはおそらく3000人は入っているはずだ。
ディアボロスのライブ動員数は一会場最大で2000人ほどだった。
つまり、俺は魔王に転生して記録を更新したのだ。
「これまでに聞いたことのない曲調だ」
「魔族の民族音楽なのではないか」
いえ、ヴィジュアル系の曲です。
まあ、ヴィジュアル系って曲のジャンルではないかもしれないが。
どっちかというと、ハードロックとかメタル寄りなのか。デスヴォイスの曲もある。
20曲を俺は歌い上げた。
久しぶりだけど、意外とやれるものなんだな。
楽屋に戻ったらザフィーラたちが花束を持ってやってきてくれた。
「魔王様、すごくかっこよかったです!」
魔族にも受けたようでよかった。悪魔系のロックバンドをやった自分にとっての面目躍如だ。
「音楽人生における一区切りがついた」
言ってからふと思った。
人生においても、一区切りをつけたほうがいいか。
「なあ、ザフィーラ」
ほかにもいろんな面子がいたが、気にせず言った。
「はい、なんですか、魔王様」
もう、ザフィーラも魔王様と気兼ねなく言える。
「正式に結婚式をあげようぜ」
◇ ◇ ◇
結婚式は王都で、一応、人間のやり方かつ、邪神神官ベルクのやり方を足したもので行った。
この結婚式自体も魔族と人間の和解的な意味合いがあるのだ。まあ、新郎新婦、両方魔族だけど。
ザフィーラとしては人間のやり方が入るのはちょっと不満だったらしいが、結婚式自体が幸せらしい。
人間側の花嫁用民族衣装を着たザフィーラと王都を練り歩く。
俺の側も民族衣装みたいなのを着ている。
なお、角や牙ももう隠してはいない。
沿道には祝福してくれる民衆が出てきている。
俺が人間に害をなさないということもやっと広まってきたらしい。
ザフィーラが俺の手を握る。
「魔王様……私、本当に幸せです……。魔王様のお嫁さんになれるんですから……」
「俺もだよ、ザフィーラ」
「これからもらぶらぶしましょうね」
「もちろんだ」
俺たちはお互いの手をさらに強く握る。




