35話 魔王、魔王と認められる
「現在、魔族は大変静かに暮らしております。どうか、魔族の存在を認めてやっていただけないでしょうか?」
しばらく王は思考停止していた。
そんなわかりづらい言葉を言ったつもりはないから、俺の発言がパラダイムシフトということなんだろう。
人間にとって魔族と共存するなんて概念がなかったのだ。
「少なくともこっちは人間を滅ぼす気はないです。両者が平和に暮らせるなら戦争もしなくていいでしょう。違いますか?」
「そ、そうだな……。それもそうかもしれんな……」
なんとか強引に納得させた。
「魔王様、せっかくだし滅ぼしませんか!?」
だからザフィーラ、話をこじらせないでくれ。
「ザフィーラ、俺はお前とのんびりだらだららぶらぶあまあまで暮らしたいんだ」
あえて恥ずかしくなるようなことを言ってやれ。
「あっ……私、本当にうれしいです……」
「そのためには平和なほうがいいんだ。そうだろ?」
しばらくザフィーラは黙っていたが――
「わ、わかりました……」
と同意してくれた。
俺は倒れているシャンファにも声をかける。
「というわけなんで、人間をなだめる仕事はお前たちに任せた」
「我々は魔王を倒すのが仕事……なんだぞ……」
「それは悪い魔王だろ。俺は悪くない」
「たしかにあなたからは悪意のようなものも感じられない……」
そういうことだ。俺は平和主義者だ。
「王様、こちらも王国を守るためにやるべきことはやりますので、どうか国民に魔族との共存を説いてやってください」
「わかった……善処する……」
なんとか落としどころはついたかな。
そのあと、まず王国の高位の神官たちを集めて、俺が直接演説した。
「俺は無害なんです。人間に悪いことをしようという意思もないです。あと、村が焼けたのは火の不始末です」
高位の神官が納得すれば、勝手に下の神官たちを説得させて、その神官たちが民衆も説得してくれるだろうという発想だ。
「疑問に思うことがあったら何でも聞いてください。こちらもすべて答えますので!」
最初は怖がられたが、しつこくしつこく話を続けて、ようやく人間の宗教の信者になることで妥協してもらえた。
そのあと、王も魔王が復活したこと、今回の魔王が人間との共存を望んでること、勇者が魔王と戦って負けてしまったことなどを全部明るみに出した。
予想通り、一部でパニックも起きたようだが、勇者サイドにも魔王が平和主義者で侵略を行う気がないことを話してもらって、一応混乱は収めている。
それでも納得しない冒険者にはたまに王都に俺が行って対応している。
会って話せばわかってくれる奴もいるし、戦って俺が勝てば諦めてくれる奴もいる。
とにかく、ちょっとずつでも改善していけてるとは思う。
これで人間側の問題はどうにかなった。
ただ、魔族側の問題も残っているのだ。
まず俺を魔族として讃える奴がよく城までやってきた。
まあ、これ自体はいい。
ただ、かなりの数が人間滅ぼしましょうと言うので、これをなだめるのが大変だ。
「なっ、考えてみろ。魔王は滅ぼされてもまた次の奴が復活してる。でも、人間はそうじゃないだろ? 滅んだらもう復活しない可能性が高いぞ。だから残しておいたほうがいいんだ。それに俺は勇者にも勝ったんだから、そういう意味で魔族の勝利とも言えるだろ。だろ? だから人間滅ぼすなんてことは言うな」
こうして、なんとか落としどころを作っている。
あと、そもそも俺を魔王として認めない奴もやってくるのだが、これは俺が圧倒的な力でねじ伏せるとだいたい言うことを聞いてくれるのでどうにかなる。
しばらく面倒ごとは続きそうだが、その分、これ以上面倒にはならないからいいだろう。
それで空き時間のほうはザフィーラとらぶらぶで過ごしている。
らぶらぶにしている間はザフィーラも人間を滅ぼそうとか言わないからな。
「現在、世界はすべてルシアさんの手のひらの上です。さすが魔王様です」
ベッドの中でザフィーラが俺に抱きつきながら言う。
まあ、間違いではない。実際のところ、そうだし。
長い目で見ると、どんどんだらだらできるようになるはずだ。
「空き時間ができれば、もっとお前と長くいられるからな」
「ルシアさん、うれしいです……」
思ったより俺はよくやれてるだろう。
無欲で、しっかり世界の均衡を保つためによくやっている。
しかし、そんな俺にも一つやりたいことが生まれた。
よし、王様にお願いしよう。




