3話 魔王、村を焼き尽くす
逃げ場がほしいが、完全に取り囲まれていた。
これだけきれいに包囲されるって、ファンの子に集まられる時でもそうそうないぞ。
とにかく、どんな手を使ってでもここから脱出せねば。
殺されてしまう。
こんな男臭い連中に殺されるのは勘弁だ。
「あっ、もしかして魔王を討伐するクエストを受けた方ですか? その魔王だったら、あっちで見かけましたよ。ドラゴンみたいな姿をしてました」
防犯カメラに顔が映ってるわけでもないだろうし、これで誤魔化せ――
「なわけねえだろ。お前みたいないかにも魔王ですって格好の一般人が偶然いるか!」
樽みたいに太った男に言われた。
くそっ! ばれている!
「本当に勘違いなんだよ……。俺も困ってるんだ……助けてくれ……」
「助けろだと?」
あ、かろうじて話し合いには応じてくれそうだ。脳筋野郎じゃないんだな。
「どんな報酬をくれるんだ? たとえば、世界の半分をくれるとか」
そんなの出せるわけないだろ。
ていうか、この世界の金なんて銅貨一枚も持ってない。銅貨があるか知らんが。
「え、ええと……歌なら歌えるが……」
ヴォーカルだから、こんな時でも美声で歌えると思う。
「ふざけんな! それだったらお前を粉砕して、たんまり報酬をいただくほうがよっぽどいいんだよ!」
樽の男がついに棍棒を振り下ろしてきた。
しかも、これ、ただの棍棒じゃない。
つまりトロールやオークが振るうような木製のしょぼいのじゃない。
重金属の、まさに打撃攻撃に特化した冒険者用の協力殺傷アイテムだ。
リーチも野球のバットぐらいあって、剣を持つ相手ごと吹き飛ばせそうな威力がある。
こんなのを喰らったら、大ケガだ……。数発喰らうだけで死ぬ……。
しかし、こっちには防御手段などない。
だって、魔王のコスプレみたいなもんなんだからな。
ああ、ここで死ぬのか……。
もう一度、ヴォーカリストに転生できたらいいな……。
棍棒が肩にぶつかった。
これで肩の肉がえぐれ――てない。
というか、綿菓子で殴りましたってぐらいに痛みがない。
むしろ、棍棒のほうが折れ曲がっていた。
「なっ! 俺の特注の棍棒が……」
樽の男は本気で驚愕している。
あれ、様子がおかしいぞ……。
俺はためしに樽の男を軽く右手を当てて、払いのけるようにした。
「ぶおふっ!」
男はそのまま三十メートルぐらい吹き飛ばされた。
芸人に吹き飛ぶ芸をする人とかいたかもしれないが、あんなには飛べないだろう。
となると――
俺におおいなる力がある。
そう考えるしかない。
もうちょっとためそうと思って、鎖鎌を持っている奴にデコピンした。
「ぐおあーっ!」
また吹き飛んだ。
その横の剣を持ってる奴も足で軽く蹴った。
「あぼふhにhんkkぽおおお!」
声にならない声を出して、また吹き飛んだ。
「もしかして、俺、本当に強くなってるのか……?」
じっと手を見る。
ごく普通の手なんだけどな。
漫画的に気が立ち上るだなんてこともないし。
「た、助けてくれぇーっ!」「本物の魔王だぁーっ!」
残り二人は命の危険を感じて森の中へと逃げていってしまった。
追いかけても一円の得にもならないから放置しておこう。
さて、なんか強くなってるみたいだけど、これでは実感がわからんのだよな……。
あいつらはAランクパーティーとか言ってたけど、自称してるだけで、実はFランクのザコだったという危険もある。
もしかして、あれができるのか。
俺は半信半疑ながらその言葉を叫んでみる。
「ステータス・オープン!」
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ルシア
Lv∞
職 業:魔王
体 力:99999
魔 力:99999
攻撃力:99999
防御力:99999
素早さ:99999
知 力:99999
魔 法:ヘルファイア、ブリザード、メテオストライク、エヴィルライトニング、デスサイクロン、エクスプロージョン、低級除けのオーラ、レヴィテーション
スキル:無詠唱
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あ、これ、無敵のやつだ。
多分だけど、偶然すべてのステータスが99999なんてことは考えづらいから、これ以上の数値は表示できないということだろう。
けど、知力が99999だったらどうしようかなんて悩んでるこの状態がすでにおかしい気もするが。解決策が10通りぐらい浮かんでそう。
魔法は、これ、全属性の攻撃魔法がひととおり使えるってことかな。
とくに全種類必要なシチュエーションってなさそうだけど……。
まあ、あって困ることはないか。
できれば空腹無効化とか、そういう便利な力もほしかったが。
倒れてる樽の男の布袋を漁る。
銀貨と銅貨が数枚入っていた。
倒したモンスターからはお金を得ていい。これはRPGの鉄則だ。
決して泥棒ではない。
無実の罪で殺されかけたのだから慰謝料だ。
よし、これで村の食堂で何か食べるぞ。
これからのことはおなかいっぱいになってから考えよう。
…………。
……………………。
ある程度予想がついてたが、俺の顔を見るなり、みんな逃げ出した。
「あ、すいません、食堂とか酒場は――」
「うわあ! 助けてくれー!」
「俺は魔王じゃないんで安心してくだ――」
「魔王が来たー!」
そういえば、あのオッサンがすでに村に戻ってたんだよな……。
そりゃ、怖がられるのも当然か……。
ひとまず食堂が見つかったので、俺はそこに入った。
魔王到来の話にビビって逃げ出したのか、テーブルには料理が並んでいた。
「お金、置いときますよ」
誰もいないけど、一応言っておく。
ほとんど手をつけてないスパゲティ的な麺料理や鶏肉を焼いた料理があったので、それを食べる。
単純な塩味ばっかりだ。
旨味成分って概念が理解されてない時代の味だが、それなりに食える。
空腹は最大のスパイスである。
さて、ひとまず腹もふくれたし、宿を見つけて泊まるか。
だが、外から悲鳴のようなものが聞こえた。
「魔王が炎を起こしたぞー!」
俺、そんなこと一切してないぞ! さすがにひどいデマだ。
食堂の外に出ると――
森のほうから炎が村に迫ってきていた。
「な、なんで……?」
まだ村に残ってた村人が、
「魔王の炎だ!」「この世の終わりだわ!」
などと叫んでいる。
「それ、ぶっちゃけ風評被害だから!」
しかし、炎は現実だ。
誰だ、こんなことひどいことしたのは。
――ああ、あれだ。
森で出会ったオッサン、俺から逃げる時に灯かりをとるカンテラを投げ捨てて逃げやがった。
あの火が燃え広がって、ここまでやってきたんだ……。
な~んだ、俺は犯人じゃないんだな。よかった、よかった。
――なんて安心してる場合でもない!
ここにいたら巻きこまれる!
ステータス的に火事ぐらいで死ぬとは思えないが、あまり焼かれたくはない。
俺も炎のない方向に走った。
次回は明日昼12時を予定しています。