25話 魔王、城を目指す
「あなた、名前は何という……?」
シャンファが尋ねた。
「ベルクと申します」
そこ、偽名にしなくていいんだろうか。
ばれてないからいいけど。
「まさか、町の神官魔法の講師がここまでやり手だったとは……」
しかも本職は邪神神官なので、さらにややこしい。
「ぜひ勇者のパーティーに入っていただきたい……。悔しいが、私のパーティーの神官よりはるかに強い……」
また魔王陣営を勧誘している……。
「勇者のパーティーにはどうしても入れないのです」
「わかった……。もし気が向いたら教えてくれ……」
シャンファは肩を落として町のはずれのほうに歩いていった。
一方、ベルクのほうは、完全に町の英雄みたいになってしまっていた。
「勇者のパーティーに勝つなんて、とんでもねえ!」
「この町はどんな奴が攻めてきても安泰だな!」
「ベルク様に武術も教えてもらおうぜ!」
「あの杖の技術なら、熟練の冒険者もイチコロだ!」
「あ、あの……皆さん、落ち着いてください……」
ようやくベルクも自分が祀り上げられていることに気づいたらしい。
「あの、あくまでも力試しに戦っただけで、彼女を倒して名を上げようとしたわけではなくてですね……」
「だとしても先生が強いのは事実です!」
「先生はこの町の誇り!」
「結婚してください!」
誰だ、どさくさに紛れて、結婚しろって言ったの。
これ、このあと、どう収拾するんだろう。
まあ、自分で蒔いた種だから知らないけど。
「おい、ベルク」
こっちに気づいてないので、声をかけた。
「あっ、すいません……。つい、町でシャンファを見つけたもので……」
「町を離れる仕事があるんだけど、ついてくる?」
「はい、ぜひ!」
ベルクは翌日からの一週間、塾の臨時休講を決めた。
入塾希望者が殺到する恐れもあったので、ちょうどいいだろう。
まあ、城のクエストが終わった頃に、ほかの町から評判聞きつけてやってくる奴がちょうどきそうだけどね。
そこは自己責任ということで、どうにかやってくれ。
◇ ◇ ◇
翌日。
俺のパーティー4人は北に向けて出発した。
かなりの遠出なのでレヴィテーションを使っての空中飛行である。
例によって、俺の背中にピョンタンは乗っている。
「やむをえないとはいえ、ルシアさんの上に乗るなんて、無礼な話です」
やはり、ザフィーラとしては納得できないらしい。
「ルシアさんに乗ったり、乗られたりできるのは私だけですからね!」
飛びながら噴いた。
「ザフィーラ、そういうことは言うなって……」
「あ、すいません……口がすべりました……」
いや、夫婦仲は悪くないと思うけど、あんまりそういうエロネタは好みじゃないのだ。
「ザフィーラ、お前こそ神聖な魔王様を辱めるようなことは言わぬようにな」
邪神神官が神聖という概念持ち出すのもなんかおかしいが、まあ、その概念がなかったら神官が成立しないか。
せっかくなので、城に一番近い町で一度降りて、ここからは徒歩で行くことにした。
城までの道は最低限、把握しておかないと城を解放したと言っていいか怪しいからである。
途中まではかつて通じていた道があったので比較的歩きやすかったが、やがて、その道も森に入るうちに途切れた。
「これ、完全に廃道になってるな……」
かろうじて、かつて道だったところだけ、あまり木などが生えてないのでそれを手がかりにできるが、夜になって日が落ちたら確実に迷うだろう。
おそらく森のほうに迷いこんだら出てくるのは困難だと思う。
モンスターじゃなくてもオオカミにでも襲われたら終わりだしな。
さらに進むと、周囲がぬかるんできた。
「湿地帯か。天然の堀だな」
戦国時代など、周囲がぬかるんでいるところの高台に城を築くことが多かった。
敵がそうそう攻めてこれないからだ。
それに湿地帯なんかで陣を張ったら、病気が蔓延しやすい。
まあ、モンスターが病気になるのかわからないが、すぐに落とされないことを意図していたことだけは確実だ。
そして、ついに城の姿が見えてきた。
道が悪かったとは信じられないほどに大きな城だ。
周囲も二重の水堀で覆われている。
「ルシアさんのお城にしてはまだ小さいですが、人間への反撃の狼煙にはちょうどいいですね」
まあ、国の拠点なんて超巨大なお城ではないからな。
当たり前だが籠城してる兵士などいないので、堂々と正面から進むことができた。
木でできていた橋はもちろん朽ちたりして何も残ってないが、そこはレヴィテーション一つで問題なく堀を越えていく。
扉もとくに閉まってないようなので、正面から入る。
――と、すぐにいくつもの気配が現れた。
オオカミの群れが俺たちを囲んでいる。
目が真っ赤なので魔族だな、こいつら。




