21話 魔王、勇者の仲間を泊める1
俺もちょっと戸惑っていた。
勇者の一味がまさか、ここに宿を乞うとは……。
ここ、今の魔王と元幹部たちしかいないぞ……。
絶対泊まったらダメなところだぞ……。
「あ、あの、シャンファさん、ここから町まで普通の人の足でも一時間も歩けば着きますが」
さりげなく町へと誘導しよう。
「そっちのほうが気兼ねなくていいのかもな~なんて。道はこちらで案内しますし」
「ああ、亭主の方かな。実はちょっと森で足をくじいてしまってな。歩けなくはないが、ペースも遅い。ここでゆっくりして明日に出ればちょうどいいかと思ってな」
くそっ! これで無理矢理歩かせたら人でなしな感じになる!
というか、魔王なんだから人でなしでいいのではなかろうか。まあ、いいや。
「そういうことでしたら、ここにお泊まりください……」
なし崩し的に勇者の仲間が泊まることになった。
「ありがとう。いやあ、カーテンがかわいいピンク色だったし、きっと女性の住んでいるところだから安心だと思ったんだ」
ザフィーラが一瞬、ピョンタンのほうをにらんだ。
ピョンタンもまずいと思ったのか、顔をそらした。
「このかわいさを気づいてもらってうれしいウサ……」
「おお、そちらの獣人の方が考えられたのか。よいセンスであるな」
あんたの存在だけでもややこしいから、模様替えの話を再燃させないでほしい。
ということで、ひとまずシャンファにはテーブルについてもらって、その間に別室で会議をすることにした。
「まあ、普通に一泊させて帰ってもらおう」
俺としては話がこじれるとややこしいので、それしか考えてなかった。
「ルシアさん、ここはチャンスです。殺しましょう」
穏便にする気ゼロかよ……。
「勇者メンバーの一人とはいえ、所詮今は一人。私の破壊魔法で撃破できます」
「見た感じ、悪い人じゃなさそうだし、許してあげない?」
「ダメです! だいたいいい人かどうかは関係ないですよ! 向こうだって魔王様がいい人でも討伐に来たはずですから!」
まあ、そりゃ、そうか。
「ピンクのカーテンを評価してくれる人だから攻撃したくないウサ」
模様替えをすべての判断の基準にするな。
「冷静に考えよう。仮にザフィーラが戦ったとして、お前が負ける可能性だって、その……万に一つぐらいはあるかもしれんだろ」
「万に一つもないです」
自信家め……。
しょうがない……。
俺はザフィーラをいきなり、ぎゅっと抱き締めた。
「なっ、何ですか、突然……」
「俺はお前が傷つくかもしれない作戦なんて選べない……」
愛で押し切る作戦。
まあ、言ってる内容は事実だから問題ないだろう。
「ルシアさん……」
ザフィーラの声が甘いものに変わる。
「俺の気持ち、わかってくれるか?」
と、その時、ドアが開いた。
「すまぬ、申し訳ないが、トイレを貸して――うわ! 本当に申し訳ない!」
シャンファがドアを開けてきた。
「ひゃあああ!」
ザフィーラは顔を赤らめて飛びのいた。
意外とシャイなんだな。
いきなりのことで驚いたというのもあるだろうが。
「ああ、トイレは廊下を奥行って右です……」
シャンファがトイレに消えたあと、ザフィーラが怒りを燃え上がらせていた。
「おのれ、勇者の仲間め……」
ものすごく、厄介なことになった。
◇ ◇ ◇
そのあと、ザフィーラは料理を作ると言ってキッチンにこもった。
俺がシャンファの相手をすることになった……。
なお、ピョンタンは床でごろごろしている。本当にペットっぽい。
というか、こいつは勇者一行にそこまで恨みがないのか。そんなに攻撃的じゃない。
まあ、今、戦うべきじゃないと心得ているだけかもしれないが。
あまりこっちのことをぺらぺらしゃべると馬脚を現しそうなので魔王封印の旅についてうかがうことにした。
「ぜひ、勇者のパーティーのお話をお聞かせください」
「勇者のパーティーの話は実のところ、あまりないのだよな」
「そんなことはないでしょう。きっと、いくつもの武勇伝があったかと」
「いや、実際のところ、我々もまだまだ未熟だった。討伐にも時間がかかりそうだった。仕方がないので封印のみに特化したパーティーで向かってな。貴重なアイテムを駆使して、魔王の動きを一時的に止めて封印した。パーティーを組んでから三か月だった」
短っ!
なんだ、それ。学校の二学期より短いぞ。
「魔王が攻撃魔法中心ということはわかっていたので、攻撃魔法を跳ね返すアイテムを全員装備してのぞんだ。跳ね返っても魔王には効かないのだが、とにかくこちらのダメージはない」
「けっこう合理的な戦い方してますね……」
「そして、あとはひたすら勇者が封印の魔法を唱え続けたのだ。ついに十四回目に魔法が効いた」
ゴリ押しか!
「魔王は能力上、どんな魔法もまったく効かないわけではないと神託を得ていた。5パーセントぐらいの確率で効果を受けてしまうらしい。なら、100回試せば5回は封印できる。作戦は成功したのだ」
けっこうセコいな……。
いや、最速クリアを目指すような奴なら、この方法を使ってもおかしくない。
「ところでシャンファさんのステータスってどんなものなんですか?」
「見せて威張れるようなものではないぞ」
「いえ、せっかくなんで」
これは個人的な興味だ。




