20話 魔王、模様替えと戦う
冒険者になって上機嫌なピョンタンと帰宅したら、ザフィーラがすごく怒っていた。
どうやら出かける俺たちと帰宅するザフィーラと入れ違いになったらしい。
「ちょっと! 模様替えなんて聞いてないわよ!」
「今のほうがかわいいウサ」
たしかにカーテンはピンクになり、テーブルにも赤い布が敷いてある。
急激な赤推しである。
「魔女にこんなのは似合わないし、落ち着かないわ。せっかくシックにしてたのに」
「かわいくないウサ。つまんないウサ」
「だから、かわいさで決めてたんじゃないの!」
これは好みの問題でしかないから決めるのは大変だな。
ちなみに俺の結論としてはどっちでもいい。
文字通り、どっちでもいいのである。
ただ、この表現は鬼門だ。
大昔、彼女にどっちの服が似合うかと言われたことがある。
どっちでもいい、と正直に答えたら、そりゃ、怒られたね……。
率直な意見を聞かせてって言われたから、率直に答えたのに、相当怒られたね……。
怒る感覚はわからなくもないが、冷静に考えるとやはりおかしいと思う。
だって、たとえば歴史小説に興味がない人に、どっちの歴史小説がいいかと本を二冊出しても、どっちでもいいとしか答えようがないだろう。
たしかにヴィジュアル系バンドだったので、衣装自体にはこだわりがあったが、ああいうのはコンセプトが先にあるので、あまり迷うことはなかった。
それにデザイナーさんとかの意見ももらえたし。
それで、今の状況である。
これは自分に被害が来る前に逃げるのが正しい。
空いている部屋にでも移動しよう。
「あの、ルシアさん」
その前に呼ばれた。
「ルシアさんはどっちがよろしいとお思いですか?」
来たか…………。
「そうウサ。ご主人様に尋ねれば、どちらかが多数決で勝利するウサ!」
うわあ、どっちと答えても俺が片方からは悪者になるパターンじゃん。
ここは喧嘩両成敗的なノリで、あえてどっちでもいいと答えて、両者から軽蔑されるという手もある。
人格者だったらあえてそういうことをするかもしれない。
でも、俺、人格者じゃないし、できれば軽蔑もされたくない。
ここは詭弁で誤魔化すしかない。
「ど、どちらも素晴らしい」
「それではどちらのほうが素晴らしいんですか、ルシアさん?」
ザフィーラ、基本的に負けず嫌いなんだよなあ……。
「どっちも百点で、イーブンです」
ちょっと丁寧語になってしまった。
「いえ、厳密に同じなどということはないはずですよ。ルシアさんにも好みはあるはずですし、どうか率直なご意見を」
「率直なご意見」を求められた!!!!!
ここで、どっちでもいいとは言えん!
よし、ルシアよ、知恵を働かせろ。
これでも魔王だろう。
「どちらも捨てがたいので、一週間おきに模様替えするとかはどうだろう?」
これなら両立しうるのではなかろうか。
「いえ、そういう平等にするみたいなのではなく、どちらがいいかはっきり言ってください」
なんで気まずくなる方向に持っていくんだよ!
「大丈夫です。私のシックなほうが選ばれる確信がありますから!」
自信家には何を言っても無駄か!
「ふん! ピョンタンが負けたら裸で町を一周してやうウサ! なぜならピョンタンのほうがかわいいからウサ!」
そっちも自信満々かよ!
くそ……。
ついに年貢の納め時か……。
ただ、いざ決断するとなると、どっちでもいいんだよな……。
どっちでもいいのに片方が敗者になるって、それはいいのだろうか……。
「ええと、その……」
――ドンドン、ドンドン。
ドアが叩かれている。
いったい、誰だろう?
ベルクの魔法で頭の角や髪の色は誤魔化せているはずだが、効力の期間があいまいで怖いので帽子をかぶる。
「見に行ってくる」
「いえ、ルシアさんにそんなことはさせられません」
「ピョンタンも行くウサ」
結局、3人で行くことになった。
ドアの外には二十歳ぐらいの娘がいた。
見た感じ、魔法使いという印象だ。
雰囲気だけでもガチの冒険者ということがわかる。
「申し訳ない。一泊お願いできないだろうか? もう日暮れが迫っていてな」
俺は問題ないと思うが家の持ち主ではないのでザフィーラのほうを見た。
「はい、どうぞ。ところで、魔法使いの方ですか? 私も破壊魔法を少々やってまして」
「ああ、そうだな」
にっこりと相手は笑った。
「私はシャンファ・ラクトールというものだ」
「あれ、どこかで聞いたことがあるような……」
ザフィーラの反応だと相当高名な魔法使いなのだろうか。
「魔法使いとして勇者のパーティーに加わっていた時期がある。まだまだ未熟だった頃のことで恥ずかしいがな」
「うわーっ!」
ザフィーラが大きな声をあげた。
「勇者のパーティーの一人じゃないですかー!」
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