19話 魔王のペット、冒険者になる
徐々に魔王のメンバーが増えてきました。
「え、本当にボルガドット山のクエスト解決しちゃったんですか……」
冒険者ギルドに行ったら、シエナさんに素で驚かれた。
「はい、すでに近くの村の住人にも確認してもらいましたが、通行は問題なくなっています」
「冒険者ギルドとして確認をしますので、もうしばらくお待ちください……」
まあ、数日後にはまとまった金が入るだろう。
とはいえ、城を建てるには最低50倍ぐらいのお金がいるけど。
帰宅すると、ピョンタンが家で掃除をしていた。
「ピカピカにするウサ!」
さらに、ピョンタンとしては内装に納得いかない部分があるらしく、
「もっとかわいらしさをプラスするウサ!」
部屋の模様替えを強行していた。
これ、あとでザフィーラともめそうだけど、まあ、もめた時に考えよう。
「けっこう疲れてるだろうし、今日はゴロゴロしてていいぞ」
ペットという扱いなんだし、ゴロゴロするのが仕事みたいなものだ。
ウサギがいくつも仕事を受け持っている家なんて、そんなにないだろう。
猫の手も借りたいという言葉があるけど、本当に借りてもたいして使い道がない。
ウサギの手でももちろんダメだ。
「働いてないと罪悪感を覚えるウサ。働きたいウサ!」
ニートが聞いたら死ぬような台詞だな……。
ということで、冒険者ギルドに連れていった。
本日二度目だ。
ちなみに魔王って呼ばないように事前に言っておいた。
「獣人の方とは珍しいですね……」
シエナさんも面食らっていた。
獣人の冒険者が皆無ってことはないだろうけど、特殊なケースなのは確からしい。
「ピョンタンウサ! 冒険者として登録したいウサ!」
うん、今のところはとくにトラブルもないな。
獣人ということで変な目で見ている奴もいるが、ここでたむろしているゴロツキまがいに人権意識を持てと言うのも無理な話だ。
「ご主人様のペットにして奴隷ウサ!」
あっ、余計なこと言った……。
その言葉にゴロツキたちがこっちをにらんできた。
にらむらだけじゃなくて、数人やってきた。
「おいおい、兄ちゃん、獣人飼って楽しんでるみたいじゃねえか」
「見せびらかしてくれちゃってんじゃねえの」
「この娘、俺たちにも貸してくれよ?」
前もこういうこと、あったな……。
冒険者ギルドの中では現時点で俺はBランク冒険者だ。
うかつにケンカ売るとケガするぐらいの認識はされてもよさそうなのだが、経歴自体は短いので、詳しく俺のことを知らない奴らもいる。
ゴロツキを以前に倒したことを知らない奴なんだろうな。情報弱者め……。
――と、ピョンタンが大の字になって俺の前に割って入った。
「何をしてるウサ! ご主人様に危害を加えることは許さないウサ!」
思った以上に鬼気迫る態度だった。
そうか、過去にピョンタンは自分の主人を守れなかった苦い過去があるのだ。
だとしたら俺を守ろうとするのもうなずける。
それはピョンタンなりの贖罪なのだろう。
「おっ、こいつとなら楽勝で勝てるぜ」
「そのルシアって奴はヤバいって噂もあるしな」
「じゃあ、嬢ちゃん、何か賭けて勝負しようぜ」
ゴロツキって学習しない生き物だな……。
ゴロツキが決闘について記した誓約書を持ってきた。
「ピョンタンは字が読めないウサ」
今度、教える必要があるな。
しょうがないので「飼い主」の俺が内容を確認する。
ピョンタン一人に三人で戦うことになっている。
今回は騙したとかではなくて、あわよくば三人での対決に持ちこんで確実に勝とうということだろう。
こいつら、多少はプライドとかないのか。
「ピョンタン、ステータスってわかるか?」
「こんな感じウサ」
=====
ピョンタン
Lv34
職 業:格闘家
体 力:304
魔 力: 0
攻撃力:276
防御力:243
素早さ:332
知 力: 88
特 技:二回攻撃
=====
なるほど。
弱い冒険者なら、たしかにピョンタンに勝てなかっただろう。
二回攻撃を繰り出されたら、パーティーで挑んでも回復が間に合わない。
まあ、負けることはないだろうけど、敵のステータスは知らんしな。
「俺も一緒に参加するっていうことでいいか?」
男たちに納得させて、決闘ということになった。
といっても、ピョンタンの腕を確認するのが目的だが。
決闘場所は過去に使ったところだ。
そこでやるのが一つの定式になっているんだろう。
敵はたんなる三人の寄せ集めではなく、純然たる三人組だった。
じりじりとピョンタンを狙って、囲むように動いてくる。
連携がとれていて、動きは悪くない。
なんでもCランク冒険者らしい。
こいつらと俺でランクが一つしか違わないのは腹立たしいが、別にランクを上げていくのが目標でもないしな。
「さあ、囲んで一網打尽にしてやるぜ!」
一方でピョンタンのほうは落ち着いている。
一歩もその場から離れない。
まるで剣豪のようだ。
目まで閉じている。
そして、おもむろにカッと目を見開くと、
「そこウサ!」
一気に飛び出して正面の敵に正拳突きを食らわす。
顔を強打した男がそのまま沈む。
ああ、もう見るまでもないな。
残り二人も同じ要領で一撃ずつでKOして、ピョンタンが勝利した。
戦闘終了後、シエナさんに、
「本当にルシアさんの家はみんな強いですね……」
と引かれるとほど驚かれた。
多分、俺の本気を見せたら気絶じゃすまないと思う。
結局、ピョンタンもCランク冒険者からスタートすることが認められた。
ザフィーラも含めて、なかなかの冒険者一家になってきた。
金曜から大阪のオバチャンがお好み焼きを異世界で布教する話もはじめています。よろしければこちらもお読みください!
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