16話 魔王、ペットを手に入れる
山にも一部にモンスター、つまり魔族が出現した。
魔王が封印されたあとも低級魔族は野生化して残っているようだ。
こうなると、オオカミやクマみたいな純粋な動物との差はほとんどないが。
ただ、やっぱり俺たちの雰囲気に押されたのか、一度も攻撃を受けることはなかった。
まあ、俺のほかにも元幹部が二人いるから、そのへんはわかるのだろう。
「とくに山に出没する魔族が強大化してるわけではないみたいね」
ザフィーラが独り言の形式で感想を述べた。
「となると、幹部が部下を指揮して住み着いたわけでもないのか。せいぜいベルクみたいな野良幹部がいるぐらいか」
「野良幹部って言うな! 私はあれから部下も増やして、洞窟を本格的に塔のような内装に変えていくつもりだったのだ!」
そこは邪神神官としてのプライドがあったらしい。
「でも、洞窟の魔族もあなたに仕えてなかったじゃない。まだまだね」
「そう言われるとつらい……」
やはり魔王がやられた影響は大きいということか。
歩いている間、一応、俺は状況の変化を見ていた。
のんびりハイキングしてるわけじゃないぞ。
あ、この山の景色、ミュージックヴィデオの撮影によさそうだな。
……やっぱり、のんびりハイキングの要素ありました、すいません。
山頂に近づいてきたあたりで違和感を覚えた。
「これ、井戸だな」
どうも比較的最近に作られたと思しき井戸がある。
あと、その掘り方も周囲を螺旋状にして、ちょっとずつ掘っていったものだ。
実は垂直に掘るのは技術的に難しいので、うず状に螺旋を作って掘っていく文化のところもある。
「山頂に山小屋でもあったんじゃないですか?」
ザフィーラの意見ももっともではあるが。
それだと今はモンスターが怖くて放置されて、荒れている可能性が高い。
この井戸は現役可動してるっぽいんだよな。
となると、これはモンスター側が使ってる井戸だ。
つまり人間に近い奴が住み着いてることになる。
しかし、それだと、ウサギのモンスターだという話と矛盾する。
どっちが正しいんだ?
まあ、どっちにしても、もうすぐ答えは出るんだろうけど。
そして、さらに山頂に近づいて、俺たちはそいつに出会った。
ウサギの耳をした獣人の女に。
服はかなり汚れているが、庶民が着るようなものを身につけている。
耳以外は人間の少女と変わるところもない。
ザフィーラと比べると、けっこう胸があるけど――いや、そういうのはどうでもいい。
「ああ、そういうことか」
ウサギでもあり、人でもあったというわけだ。
「また、性懲りもなくやってきたウサね! ぶっ殺してやるウサ!」
「ああ、こいつだったのか」
ベルクは心当たりがあるらしい。
「魔王様、こやつめは前の魔王様のペットだった者です」
「ペット!?」
ウサギだからということか。
「ちなみに名前はピョンタンです」
「やけにかわいらしい名前来たな!」
魔王がペットにつけていい名前じゃないだろ。
いい人感が出ちゃうだろ。
「そうか、魔王様が封印された時に同じくやられたと思っていたが、生きていたのだな」
「むっ、お前は幹部の邪神神官ウサね」
向こうの獣人もベルクに面識があるらしい。
よかった。
今回は戦闘にならずにすみそうだ。
「ピョンタン、この方は新しい魔王様である」
ベルクが俺のほうに手を向けて紹介した。
「お前もこの魔王様に仕えるがいい」
しかし、ピョンタンの顔が一気に赤くなる。
「断るウサ! ピョンタンのご主人様は前の魔王様だけウサ! こんな奴は認めないウサ!」
そりゃ、そうだよな。赤の他人だもんな。
上司が代わりました、よろしくーって話じゃない。
「そこの魔王を名のる男、本当に魔王を名乗れる次元か、ピョンタンが見極めてやるウサ!」
あっ、やっぱり戦闘になる流れだ……。
「ピョンタンは魔王様のペットとはいえ、その実力は軍団長に匹敵するウサ! さあ、五秒で血祭りにあげてやるウサー! ウサウサウサー!」
一秒で勝ちました。
「つ、強すぎるウサ……」
ピョンタンはしばらくショックで起き上がれないようだ。
「まあ、ステータス的にはほぼ無敵だからな」
「ルシアさんこそ、新たな魔王にふさわしい方なのよ。わかった?」
なぜかザフィーラが自分のことみたいに威張っていた。
まあ、妻だとすれば身内ということになるのか。
「はいウサ、今からピョンタンは新たな魔王様をご主人様と認めるウサ! ペットとしてかわいがってほしいウサ!」
ピョンタンは俺の前に肩膝をつく。
そんな武人めいたペット嫌だ。
見た目はウサ耳少女だけど、ノリとしては武道家ってところか。
「ピョンタンもご主人様を探していたところウサ。奴隷のように黙々と働くウサ!」
いや、勝手にペット宣言や奴隷宣言されても。
「ちょっと! ルシアさんの奴隷はこの私なのよ! その地位を脅かさないでほしいわね!」
奴隷って脅かされるような地位なのだろうか。
底辺の中の底辺だと思うのだが。
なお、ザフィーラの中では魔王に仕える奴は奴隷みたいなものらしい。
別に俺が夜な夜なザフィーラに鎖をつけることを要求したりしてるわけではない。
「わかったウサ……。では第二奴隷ということにするウサ……」
「それならかまわないわ」
まず俺の許可を得ろ。
「ひとまず、これで一件落着ですね、魔王様」
ベルクが締めた。
「うん、ギルドのクエスト的な意味では解決したんだけど」
まだ気になっていることがあった。
「ピョンタン、お前、なんでこんな山に住んでたんだ?」
絶対何かあったとしか思えない。
ピョンタンの顔がそこではっきりと曇った。
★魔王軍の配下
3人
次回は夜11時頃の更新です。




