14話 邪神神官、真面目に神官魔法を教える
その後、俺たちは北洞窟をクリアしたということで金貨100枚をもらった。
そこそこのサラリーマンの年収ぐらいの金額だと思われる。
よし。
これで、しばらくはだらだら暮らせるな。
冒険者ギルドでたまにしょぼい仕事をしたりして過ごした。
なお、ベルクの件については当然黙っている。
15層でモンスターを倒したけど、倒した途端に消滅してしまったということにした。
霧状のモンスターだっているはずだし、信じてもらえるだろう。
ベルクは町の部屋を借りて住み、そこで神官魔法の教室を開いた。
邪神神官の魔法ではなく、あくまでも神官魔法である。
人間の神官が使うようなやつだ。
本人は渋っていたが、魔法の方向性は近いらしく、初歩を教える程度ならわけがないらしい。
「まあ、どうせこんなの人は来ませんけどね。小さな町に神官魔法を志す人間がいくらもいるわけないですし」
ベルクははじめる前、そう言っていた。
人と接する気もこいつにはないので、閑古鳥が鳴くぐらいでちょうどいいのだ。
こいつ、人間にものを教える気ないな……。
だが、結果は大ハズレだった。
塾は好評で、入塾希望者がひっきりなしだという。
理由は簡単だ。
あいつが普通にイケメンだったのだ。
王都などであれば貴族の子弟などもうじゃうじゃいるだろうが、街道沿いの町となれば、そんな気品ある人間も住んでないはずだ。
そこにイケメンの神官(もちろん表向きだけど)が来たとなれば、注目も集める。
その証拠に塾生の大半が若い女性だ。
急に神官職が女性人気になったなんてことはないだろう。
「人間に魔法を教えるなんて、魔王軍第11軍団長として恥ずかしい……」
そんなことを言っていたが、教え方は基本的に丁寧らしくて、評判はいい。
人間嫌いだから、女子生徒に手を出すようなことも当然ながらない。
そこでかえって、真面目ないい先生という評も立っているというから、知らぬが仏というものだ。
ちょうど暇な日があったので、ひやかしで塾を見にいくことにした。
毎日、暇だろうなどと言ってはいけない。
たまにはギルドで仕事もしている。
見学者用の席に座る。
「あっ、魔王様、わざわざこんなところまで……」とあいさつに来られた。
「お前、魔王って言うなよ……。そこは黙っとけ……」
たしかに女子率が高い。
若い女子7人に男が1人だ。
一つの町で神官魔法を8人が習うというのは、かなり高い比率だと思う。
ほかの日に来る人間もいるだろうから、やはり多い。
「では、本日は毒を治癒する魔法を教えます。詠唱に合わせて手を動かしてくださいね」
そして順番に生徒が詠唱している横でチェックをしつつ、適宜、手の動かし方などを腕などに触れながら指導している。
何人か、顔を赤くしている生徒がいた。
イケメンによる直接指導だからな。
本人は無自覚だろうが、ベルクは生徒にかなり顔を近づけている。
(ベルク)「はい、ここでもっと腕は前に伸ばすほうがいいですね」
(生徒)「は、はい……」
(ベルク)「伸ばしきると同時に詠唱が終わるようにするのがコツです」
(生徒)「は、は、はい……」
お嬢様っぽい雰囲気の生徒は、これ、完全に恋してるな。
(ベルク)「緊張していますか? 硬いですね」
(生徒)「す、すいません……。あの、居残りで個人指導してもらってもいいですか?」
この生徒、押してきたな!
(ベルク)「熱心ですね。いいですよ。神も喜んでいることでしょう」
(生徒)「ありがとうございます! お礼に今度、お菓子を作って持ってきます!」
ほかの女子生徒がその生徒をにらんでた。
露骨な抜け駆け行為を咎めてるのだろう。
ううむ。
真面目に神官魔法を教えてる邪神神官。
恋愛目的で神官魔法を習いに来てる一般人。
これはどっちがよこしまなのか、判断の分かれるところだ。
それでその日の一般の授業のほうは終わった。
「すいません、魔王――じゃなくて、ルシアさん、居残りで教えないといけない人がいますので、今日のところはこれで」
「うん。ひとまず上手く溶け込んでるようでよかった」
これなら善良な市民としてずっとやっていけるだろう。
「いえ、あくまでも私はルシアさんによる世界の統一を!」
「あ、そこは声のトーン、落としてね……」
これでまだまだまったりライフが過ごせると思った。
が、そうでもなかった。
その日、帰宅したら、
「ルシアさん、気になる仕事がギルドで出ていましたよ!」
ザフィーラが元気に紙をつかんで走ってきた。
たしかにそろそろ厄介ごとに巻きこまれるころあいだと思ってたんだよ……。
次回は夜23時頃の更新予定です!




