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11話 魔王、Bランク冒険者になる

 ゴロツキたちは決闘前の決まりに従って、ギルドから除名され、セルリスの町からも追放された。


 冒険者じゃなくなって、これで正真正銘のゴロツキになるしかないのかな。


 でも、大ケガした奴も多いし、そう悪事もできないだろう。


 さて、冒険者ギルドに戻ったら、俺とザフィーラはシエナさんに奥の部屋に通された。


「もしかして、ねぎらいのお酒でもおごってもらえるんですか?」

 祝勝会みたいなのを、ちょっと期待した。

 この国の酒はけっこう度数が高いようだが、俺はいける口なので嫌いじゃない。

 ロックバンドは打ち上げなどで酒をよく飲むのだ。


「いえ、お酒とかそういうのではないです」


 だとしたら何だ?

 もしや魔王ってバレたんじゃないだろうな……。


「お二人には特例でBランクからスタートしていただこうかなと思いまして」


「そんなことできるんですか?」


 さっき、Fランクからって聞いたが。


「だから、特例です」


 ああ、奥の部屋に通されたのもそのせいか。

 冒険者たちがいる前でえこひいきみたいに見えることはできんよな。


「初心者をいじめてたあの人たちは確かに腕がなまり気味とはいえ、多くがCランクでした。その10人を相手にお二人は無傷で全滅させましたよね。これはBランク相当は確実と考えるべきですので」


「さすがです、ルシアさ――あなた!」


 夫婦という設定なのでザフィーラが言い直した。


「いや、ザフィーラも同じBランクを提案されてるんだぞ」


 あんまり目立ちたくないけど、決闘で無双しちゃった時点でもう遅いな。

 まあ、武術が強い人という設定で町では生きよう。

 武術がメインなら村を焼き討ちにした魔王とは結びつかないはずだ。


「もし、この町にも魔王が襲ってきたら、戦ってくださいね」

 シエナさん、その魔王が俺です。

「おそらく、魔王はこの町を攻めることはないでしょう。勘ですけど」

「夫はこう言ってますが、もしやということもあるかもしれないです」

 おい! ザフィーラ! 俺は滅ぼさんからな!


「Bランクになるのはいいんですけど、年会費がけっこう高くつきそうな……」

 自分が一銅貨分も働いてないので、そっちが気になる。


「特例ですので登録費は無料、年会費も今年は免除ということで、どうでしょう」

「じゃあ、それでいいです」


 横でザフィーラもうなずく。

 まあ、これからは町がザフィーラを見る目もかわいい女の子から、凄腕の魔法使いに変わるだろうけど、とくに問題はないだろう。


 シエナさんも話がまとまって、ちょっとほっとした顔になっていた。


「実のところ、厄介な人がいなくなってギルドとしてもうれしいのですが、かといってギルドからお金を出すわけにもいかないんですよね。決闘のルール上、お二人にはお金も入ってきませんし」


 それでお得なプランの提供で帳尻を合わせようとしたってことか。


「ありがとうございます。じゃあ、Bランク冒険者として頑張ります」


「はい、ところで、ずっと気にかかっていたのですが」


 シエナさんの目が俺の顔に向かう。


「室内でも帽子とらないんですか?」


 どきりとした。


「これは、その、俺の武術の流派のポリシーみたいなもので……帽子はお風呂ぐらいでしかとらないんです……」


「へえ、そういうものなんですね」


 なんとか納得してもらえた。


 俺の髪はこの世界の人からすると、異様なほどに赤いらしい。


 髪が赤い人ぐらいいるんじゃないかと言いたいが、たしかに日本人で地毛が真紅の人なんていないし、そんな子供がもし昔に生まれたら忌避されそうなので、しょうがないのかもしれない。


「あと……失礼に聞こえたら申し訳ないんですが……八重歯、かっこいいですね……」


 シエナさんが顔を赤らめて言う。

 今度は牙も指摘された。やはり目立つのか……。


「ああ、これですか……。ありがとうございます……」


「こほん」


 ザフィーラがなぜかむすっとした顔をしている。


「夫に何か?」


「いえ、何でもありません……ごめんなさい……」


 なんでシエナさんが謝ったのか謎だが、まあいいか。


 さてと、じゃあ早速何かお金になりそうな仕事がないか見てみるか。


「Bランク相当の仕事あったら見せてもらえますか?」


「あっ、はい、ちょっとお待ちを」


 シエナさんが紙を持ってくる。


 Bランクともなると、銀貨10枚とかそこそこ割りのいいものも多い。


 ただ、要人警護とかになると、時間拘束が長いので、面倒そうなんだよな。


 その中で気になるのがあった。


===

内容:町北部のダンジョン攻略

対象ランク:Bランク以上推奨

最低でも地下15層まで続いている本格的ダンジョンの攻略。

なお、15層目を探索して生還した者はいない。

地下14層までの探索でも可。

報酬:もし15層目を攻略し、その証拠があれば金貨100枚。

その他、攻略内容などにより、報酬を支払う。

未達成時の罰金:なし

===


「これ、面白そうですね」


「ああ、北洞窟の探索ですね。けっこう死者が出ちゃってるんですよね……」


 シエナさんが顔を曇らせる。

 おそらく知ってる冒険者の中にも犠牲者がいるのだろう。


 ちなみに魔王は封印されているが、魔族自体はいろんなところに住み着いているし、ダンジョンなんてところは魔族だらけだ。


 逆に言えば、そういうところに足を踏み入れなければ、けっこう平和ということだが。


 このあたりの話はザフィーラから聞いている。


「詳しいことはわからないんですが、どうも15層目にボスがいるらしいんです。14層目までは進んだ冒険者の方は割と多いのですので」

 シエナさんから有益な情報が聞けた。


 ボスか。


「まあ、その可能性が強いですよね。1層変わった途端、敵が無茶苦茶強くなるというのも不自然で――」

「これ、やります!」


 食い気味にザフィーラが言った。


 え、何なの? もしかしてダンジョンマニアとかそういう趣味なの?


 俺はよくわからないまま、その仕事を受けることにした。

 仕事というか、勝手にダンジョンに入れってだけのことだが。


 町からの帰路、人の目がないところまで来て、すぐにザフィーラに尋ねた。


「なんで、あんなにダンジョンにこだわるんだ?」


「わかりませんか、ルシアさん。ボスがいるんですよ」


「ボスを倒して、いいアイテムのドロップでも狙ってるのか?」


「違います。上級の冒険者が生きて帰れないようなボスですよ。それって――魔王軍の幹部である可能性が濃厚なんですよ!」


 あ、なるほど!


「魔王軍復活のための貴重な戦力かもしれないんです! 行くしかないじゃないですか!」


 ザフィーラはずっと魔王軍の復活を目指してたものな。


「あと、今日は人間を欺くためとはいえ、夫と呼んでごめんなさい……。私なんて所詮、奴隷なのに……」


 そこで気まずそうな顔をするザフィーラ。

 そんな顔されたら俺だってつらい。


 すぐに抱き締めた。


「お前は奴隷のつもりかもしれないけど、俺にとってはザフィーラは奥さんだからな」

「ルシアさん……」


 その日も、夜は二人で愛を語らいあった。

 できれば、そろそろ「ルシアさん」じゃなくて「あなた」などと呼んでほしいが、まあ、部下としての立場ってものもあるんだろう。

明日は翌日昼12時半ごろと、夜11時頃の二回更新予定です。

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