1話 魔王、魔王になる
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「さあ、もっと、お前らの腸を見せてみやがれーっ!」
アンコールで出てくると、まず最初に俺が叫ぶ。
一気に観客の黄色い悲鳴が沸く。
俺がヴォーカルをしてるバンドはいわゆるヴィジュアル系なので、客の九割以上は女性である。
バンド名はディアボロス。
都内を中心に活動している4人組バンドである。
コンセプトはずばり悪魔。
その中で俺はルシアという名前で活動している。堕天使ルシフェルからとった名前だ。
「魔王! 魔王!」「まおー!」「マオウ!」
観客が魔王と絶叫する。
そう、俺は魔王と呼ばれている。
一方で、客のほうは――
「さあ、もっと祭壇に上がれ、奴隷どもー!」
俺が奴隷と呼んでいる。
魔王と奴隷の関係性がこのバンドのキモだ。
「それじゃ、最後のナンバーだ! 『アポカリプス』!」
◇ ◇ ◇
今日はツアーの最中なので、とくに打ち上げもなかった。
メイクを落として、衣装をごく普通のTシャツとジーンズに替えて、自分の車に乗る。
よほどとてつもなく売れているバンドを除けば、自宅まで送迎してもらえるだなんてことはない。
メジャーデビューしてるのに、バイトと大差ない収入のバンドも珍しくないのだ。
なにせ、バンドって四人や五人でやるからな。
売り上げなども分割されてしまう。
むしろ、送迎で言うと、俺がギターのメフィスを送り届ける役だ。
なお、メフィスの本名は中村孝一。ものすごく普通の名前だ。
「あのさあ、アルバムの曲順のことだけどさ」
メフィスが助手席で言う。また、その話題か。
「トラック3とトラック4を逆にしたほうがいいと思うんだよな」
トラックというのは曲のことだ。つまりトラック3とは3曲目のこと。
俺は普通に3曲目、4曲目と言うが、こういう言い方をする奴もいる。
「でも、4曲目ってスロウだろ。3曲目はまだ盛り上げたくない?」
俺もいつもどおりの意見を言う。
「逆だよ。そこで一度落ち着かせて、また次で盛り上げていくほうがいいんだって」
このあたりは感覚的な問題なので、どっちが絶対に正しいと言いようがない。
だから、余計にもめてしまう。
そのあともトラック7とトラック8も順番を考えるべきだとか言われた。
なかなかバンド全体が全会一致で納得できないな。結束力がなさすぎる。
俺はだんだんイライラしてきた。
あと、トラック○という言い方がどうも鼻についたのもある。
普通に○曲目でよくないか?
「うわ、トラック、トラック!」
「もう、トラックってうるさいな! かっこつけるのは客の前だけでいいだろ!」
「違う! そのトラックじゃない!」
その時、なぜか悪寒がした。
「トラックが来てる! 前見ろ!」
気づいた時には真正面から大型トラックが迫ってきていた。
◇ ◇ ◇
「いててて……なんだ、ここ……」
周囲はクリアブルー一色で、床も透けていて浮遊感がある。何かのセットだろうか。
そういえば、過去に「真性界」って曲のミュージックヴィデオを撮った時、こんなセットだったな。
床? に顔が映る。なぜかメイクをしていた。髪の色はもともとかなり強烈な赤に染めてるからそのままだが。
おかしいな。メイクは落としてたんだけど……。
「あなたは死んだのです」
女神みたいな純白のローブを着た女が立っていた。
「死んだ? ああ、そういえばトラックに……。そうだ、メフィスは?」
「とっさにハンドルを切ったので、助手席の彼は無事でした」
まあ、送迎役として最低限の義務は果たせたのか。それならよかった。
「それで俺はどうなるんだ? 悪魔的なバンドをやってたから地獄行きか?」
「いえ、ここに連れてこられる方は特殊な転生をされる方だけです。ちょうど、もともと魔王と呼ばれていたあなたに最適の転生先があるので」
女神は美人だったが表情に乏しかった。百年ぐらい笑ったことがないように見えた。
「最適の転生先? 歌手にでも生まれ変われるのか?」
「いえ。あなたの歌唱能力はそこそこレベルです。あなたより上手いヴォーカリストは腐るほどいます」
「丁寧語だけど、普通にディスってきた!?」
「あなたには魔王になってもらいたいと思っています」
「は? 魔王?」
「はい、すでに魔王はいるんですけど、ちょっとぱっとしないんです。魔王が弱すぎても均衡が保てません。ということでよろしくお願いします」
いや、よろしくって、俺、一言もOKなんて――
また意識が薄れていった。
次回は本日18時更新予定です。その次は本日23時を予定しています。