彼女
彼女はいつも、何かを探していた。
「何かって?」
“何か”──それがわからないんだ。
見かけたときには、いつも、どこかへ向かっていた。
「どこかって?」
“どこか”──それも、わからない。
後を追ったことは何度かあるのだが、いつの間にか、見失っていた。
「ちゃんと追わないと」
……面目無い。
「で、彼女って、ダレ?」
“彼女”は、彼女だ。
「だからその彼女って?」
──行こうか。
「どこへ?」
彼女がいそうな場所へ。
「それってどこ?」
あっち。
「どっち?」
そこを出て。
「出たけど、どっち行けばいいの?」
あっち。
「だからどっち?」
こちらだ。
「ちゃんと先導してよ」
──そこを曲がって。
「ここ、入っていいの?」
そちらではない。
「え? だってここ、行き止まりでしょ?」
いいや。
──押してみて。
「……え?」
いいから。
「……ふぁっくしょいっ」
大きなくしゃみだな。
「ズズッ……埃っぽぉいッ」
ああ。
見てのとおり、あまり使われていないからな。
「で、どこ、ここ?」
物置だ。
まっすぐ進んで。
「──ここ壁だけど?」
そこ。
「どこ?」
これだ。
「……?
窓の外にいるの?」
いいや。
「──何、これ?」
広い物置にある、背の高い、ぎっしりと物が詰まった棚の隣。
月の光に照らされて、布を被った一枚の絵がある。
忘れ去られて久しいそれは、一枚の肖像画だった。
彼女の絵だ。
『──戻しなさい』
その声は、背後からきこえた。
──ほら、いただろう?
「え?」
少女が振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
「──彼女って、お母さん!?」
君の母だったのか。
その女性は、肖像画とよく似ていた。




