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祖父、登場

その日、俺はいつものように“てれび”を見ていた。男は掃除や洗濯と、鼻歌を歌いながら家事をこなし、母はまた泊り込みで働きに行っていた。

柔らかい布で出来た長椅子に座り美代子と幸恵と太郎の三角関係を、固唾を飲みながら見守っていたとき、それは来た。


ピンポーン…


「はーい!」


男は手に持っていた洗濯カゴを長椅子の側に置き、ばたばたと足音をたてながら戸口へ向かう。うるさいな、と思いつつも太郎の下手な言い訳を幸恵が問い詰める場面から目が離せない。あなたの鞄から出てきたこのハンカチ、香水の匂いがするけど私のじゃないわ、一体誰と会っていたのよ。そ、それは電車が混み合っていて…そのときに…。あらそうなの、電車の中で。あ、ああ、そうなんだよ。それにしてもおかしいわね、電車で入り込んだにしては随分と奥から出てくるなんて。そ、それは…。

太郎が黙り込んだところで今日の分の物語は終了した。ほう、と体から力が抜ける。我知らず緊張していたらしい。

さてこの物語、どう転ぶか。俺の予想では幸恵か美代子が相手に毒を盛る、というのが有力だ。美代子は既に幸恵の存在を知っている。幸恵もこの件で美代子の存在を知るだろう。どちらも賢い女だ、証拠を残さず上手くやるだろう。

明日が楽しみだ、と鼻唄混じりに別の番組を見ようとりもこんを手に取ったときだった。


「この子が洸輔か。ほうほう、ちっこいのォ」


誰だコイツ。


「まだ4歳だよ?これから大きくなるって。…こーくん、この人はね、こーくんのお爺ちゃんだよー。怖くないからねー」


男はそんなことを言いつつ俺を抱き上げた。俺を覗き込む老人と目線がぐっと近くなる。…祖父?今まで話を聞いたことがなかったから父方母方共に死んでいると思っていた。生きていたのか。


「おい、その呼び方はやめんか。洸輔がなよっちく育ったらどうする」

「いやまだ子供だし、小学校に入ったらやめるよ。いつまでも子供扱いするのもアレだし。っていうか、アポなしで家に来る父さんにそんなこと言われたくないんだけど」

「お前も父親なら父親らしくせんか。そんなだと洸輔にナメられるぞ」


2人は親子関係にあるらしい。義理か実かは分からんが。というか今聞き流せない言葉があったぞ。


「いつも藤宮の小倅にしているみたいにすればいいだろうに。そうすりゃ尊敬されること間違いなしじゃぞ」

「嫌われたくないから嫌だ」

「全く…まあいい。折角来たんじゃ、茶の一杯も貰おうかの」

「突然押しかけて図々しい…」


男はブツブツ文句を言いながらいつも飯を食っている台へ行き、俺を専用の椅子に座らせてから茶を淹れに台所へ行った。その際「こーくんはこんな大人になっちゃだめだよ」と俺の頭を撫でながら言っていたが、それはお前みたいな大人になるなと言っているのか?祖父と男なら祖父のようになる方がましだと思う。

さて、男がいない今、祖父だという人物と二人きりな訳だ。

全体的に品がある、と言えばいいのか。ふとした所作に育ちの良さを感じる。穏やかな印象だが、眼に強い光を宿し気力が充実しているのが見て取れる。年の割りに髪は黒い。さすがに白いものが混ざってはいるが。


「なんじゃ、儂に興味津々か?洸輔や」


おっと、つい癖で観察していたか。しかし相手に悟らせるとは、幼子の体とはいえ腕が鈍っているのか…?


「儂のことは、お爺ちゃん、と呼ぶといい。じいちゃんでもよいぞ」

「じっちゃん」


あ、つい前の祖父の呼び方をしてしまった。


「じっちゃん…うむうむ、好きに呼びなさい」


祖父…じっちゃんは満足気に頷いた。呼ばれれば何でも良かったのか?


「じっちゃん、ききたいことがある」

「ふむ?」


そう、さっきから気になっていたのだ。


「おれのちちおやって、あいつ?」


俺が指差した先には、茶を淹れて戻ってきた男がいた。


長くなりそうなので続きます

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