お出かけ
かれーとの出会いを果たした翌日、俺は“てれび”なる箱をじっと見つめていた。“てれび”は凄い。なんと絵が動くのだ。それもとんでもなく精密なやつが。流石に味やにおいまではわからないが、見た目だけでも美味そうだ。涎が出そうになる。
「こーくんなに見てるのかなぁ〜?…カレー特集?」
かれーには様々な種類があるらしい。緑色のかれーには驚いたが、そのあとの“しーふーどかれー”は少し気になった。海老やら烏賊やらが入っているかれーだそうだ。
めくるめくかれーの世界を堪能していると、“てれび”はかれーの絵ではなく生き物の絵を写すようになった。“しいえむ”という、幕間の時間に写す宣伝用の絵だ。この世界では珍獣を一箇所に集めて見物料を取るという商売があるらしく、新しくおーぷんしたから見に来いと女の声で言っている。今なら子連れで行くとさんじゅっぱーせんとおふらしい。意味が分からん。さんじゅっぱーせんとおふとは何だ?…ふむ、そう言えば食べ物を売る店の“しいえむ”でも似たような事を言っていた。値引きでもするのだろうか。
「こーくんこーくん、動物さん見てみたい?動物園、行ってみる?」
うるさいぞ、俺は今考え事を…
「それじゃあ、明日行こうかあ!丁度ママも帰ってくるし、三人でお出かけしよう!」
だからうるさい!
*****
…何故こうなった。
「ほらあれがお猿さんだよこーくん。かわいいねー。でも一番かわいいのはこーくんだから!」
「虎!虎がいるわよ洸輔!虎!」
俺は今、動物園という場所にいる。それはいい。珍獣を集めていると思っていたが、俺にとっては馴染みの深い馬や兎もいた。あと猿。 猿など見飽きてるわ。前世で散々畑を荒らされたからな。虎は初めて見たが…寝ている。こんなにも無防備で大丈夫なのか?威厳もなにもないが。
「アルパカもいるのねー。ほーら洸輔、モフモフー」
母に抱かれてのんびり動物共を見ていたらいきなり毛玉をまとった、馬?に近付けられた。やめろ、触らせようとするな、毛玉、お前もこっちに来るなッ、あ、いや、お願いします来ないでくださいーーー舐めるなぁぁぁぁぁ‼︎やめろぉぉぉ!やめてくれ頼むからぁぁぁぁぁぁ……
…結局、顔中を舐めまわされベタベタになった。母は爆笑していた。息子がこんな目にあったのだから少しは心配してほしい。俺の知る『母親』はそういうものだったが、ここでは違うのか?よくわからない。
男はおろおろしながら濡れた手拭いで俺の顔を拭っていた。しきりに「大丈夫?こーくん、痛いところない?」と言い、母に「大丈夫大丈夫!このぐらいでケガなんかしないって!」と背をバシバシ叩かれていた。多分だが苦労性だこいつ。今後はもう少しだけ優しく接してやろうと思った。
とりあえず、動物園には二度と来たくない。