ギルドマスター
お久しぶりです。
ごぶりんです。
………………話の展開が遅いッッ!!
我ながら書いててビックリしております。
ただでさえ話の更新がのんびりなのに、その話の展開まで遅いとか何事……。
本当に、のんびりとした気持ちで読んでいただけると幸いです(震え声)
「んで? なんで演技なんてしてたのかは教えてもらえるんだろうな?」
アラトは立ち上がった大男に問いかける。
アラトに斬られたはずの場所に手を当てて首を傾げていた大男は、アラトの問いを受けて口を開いた。
「む、そこまで気づかれていたのか。元より説明する気ではあったが……」
「ああ。えーっと……いた。あいつと、そいつと後そこの奴。その3人で、俺たちを見張ってただろ? 途中で消えたから気にしてなかったが、あんたらの中に紛れ込んでたら話は別だわな。それに、あんたは敵意を小出しにしてただろ。演技だと見破るのは簡単だったよ」
アラトが指を差して示したのは、確かにアラトたちを見張らせていた3人だった。大男の目が驚愕で見開かれる。
さらにアラトの観察眼に感嘆しながら、先ほどから疑問に思っていたことを述べた。
「ところでお主に訊きたいことがあるのだが」
「ん? なんだ?」
戦闘を観客席で見ていたケモ耳娘3人を手招きで呼び寄せていたアラトが、視線を軽く男に戻して先を促す。
大男はアラトの了承の意を汲み取り、質問内容を口にした。
「何故俺は怪我をしていない? お主に斬られたはずなのに」
「ああ、それなら峰打ちにしたからだよ。他の奴らも同じさ」
「むぅ、それにしては斬られた感触があったのだが……」
大男が納得いかないような表情で唸っている。しかし実際に傷がない以上、男にはアラトの説明を否定する術はない。
アラトの言っていることはもちろん嘘で、実際は《無殺の短剣》の効果だ。《マスパラ》には部位欠損というシステムがある。これは、相手の腕などを斬り落とすなどすると相手の行動やステータスに支障を生じさせるもので、戦闘時に狙えるなら狙った方がいいものだ。
しかし《無殺シリーズ》は、自分より弱い者と一緒に遊ぶためにしか使えないと言っていい。それなのに上級プレイヤーが簡単に部位欠損を起こさせてしまっては、他の者も楽しくないだろう。それに、部位欠損を狙うならば普通の武器で攻撃しても然程大きなダメージにはならない。
以上の理由から、《無殺シリーズ》で攻撃しても傷が付かないようになっているのだ。こういう類の効果は武器本体に与えられている性質なので、問題なく発生する。
「ア〜ラ〜ト〜!」
「アラト様〜!」
「おにいちゃ〜ん!」
3人がアラトたちのいるフィールドに降りてきた。クシュルは外向き用の言葉遣いだ。
「よう、無事に勝ったぞぅぼふぉう!?」
アラトが3人に片手を挙げて笑みを向けると、クリリにタックルされる。変な声を出してしまった。ちょっと恥ずかしい。
「おにーちゃん、カッコよかったです!」
「ケホッ、おう、ありがとな」
抱きつきの勢いが強くつい変な声をあげてしまったが、そこは仮にも男の子。軽く息を吐き出しいつもの調子に戻る。多少虚勢ではあったが。
「キララ、ちょっと」
「ん、何だ?」
アラトがキララを手招きして呼び寄せる。
アラトはキララの耳元に口を寄せて小さな声で用件を口にした。
「回復魔法使っても大丈夫だと思うか……? 《無殺の短剣》で追撃すれば回復するとは思うけど、あまりこのシリーズの性質を悟られたくはないし……。でも回復魔法も光の上位派生だしなぁ……うーん」
キララは少し考え込むと、アラトに自分の考えを耳打ちする。
「最終的な判断はアラトに任せるけど……あたしは何もしない方がいいと思う。じきに回復するだろーしな」
「……それもそうか。よし、放置しよう」
アラトとキララがそんな相談をしている間に、大男が動いた。壁際に集められた男達の元へ行き、1人1人頬を軽く叩いていく。
「オイコラ、起きろお前ら。さっさと説明するぞ」
しかし男達は呻き声を上げるだけで起きる気配はない。
「まだ時間かかりそうだし、ギルドの方に戻ってていいか?」
「ああ、なら受付の奴に『第1応接室に案内しろ』って俺が言ってたって伝えといてくれ」
アラトが大男に尋ねると、そんな答えが返ってきた。アラト達を案内するよう配慮してくれたらしい。その厚意はありがたく受け取る。
「わかった」
アラトはキララ達を連れて闘技場を後にした。
「なあ、あそこってゲームの時は空き地だったよな?」
左右にケモ耳娘を侍らせながらトンネルの様な通路を歩くアラトが、今出てきた闘技場を指差して疑問を口にする。
その疑問にキララが答えた。
「あたしもそう記憶してる。だだっ広い土地が広がってたから、なんでここには何も建てないんだろうとは思ってたが……」
「こういう使い方もあったわけだな」
ゲームでは設定を考えるのが面倒だったとかそんな理由だろうが、こちらの世界では土地が有効活用されていた。
ちょうど疑問が解消されたところで、ギルドの受付に出る。2人の受付嬢が目を見開いて4人で出てきたアラト達を見ている。
「お、さっきは観客席があること教えてくれてありがとな」
「ありがとうございました」
「ありがとうなのです!」
キララが受付嬢に礼を言う。クシュルとクリリも続けて礼を言うが、2人は首を傾げるだけだ。
そこでアラトは、ハイギスが言っていたことを思い出した。
「そっか、言葉がわからないんだっけ?」
確認するように受付嬢に尋ねると、2つの頷きが返ってきた。
「はい、申し訳ありませんが我々ではお連れ様の言語を理解しかねます」
「種族によるものなら仕方がないさ。観客席があることを教えてくれてありがとうって」
アラトが通訳すると、2人の受付嬢は得心がいったように頷いた。
「いえ、お力になれたのであれば幸いです」
「でも、どうやってこいつらの要望を知ったんだ?」
言葉がわからないなら、キララ達の願いもわからないと思うのだが。会話しながら疑問に思ったアラトが問う。
「そこは推測しました。お連れ様方は貴方様の言葉を理解できているようでしたので、こちらからの一方的なコミュニケーションは成り立つと考え、戦いを見たいのではと推測して……」
「なるほど。っと、そうだ。あの一際デカイおっさんから伝言だ。俺達を『第1応接室に案内しろ』だってさ」
納得して頷くアラトが本来の用件を口にする。2人の受付嬢が再び驚愕に目を見開いた。しかしすぐに瞑目すると、1人が立ち上がってアラト達の側までやってくる。
「かしこまりました、こちらへどうぞ。ご案内します」
先導する受付嬢について行くアラト達一行。
「そーいや言葉が通じないんだっけ……アラトには通じるからつい忘れちまうな」
階段を上っている最中にキララがそんな呟きを漏らす。
「ですねぇ〜。まあ私は楽ですけどぉ〜」
無意識で口調を変えるクシュルは気楽そうだ。あの外向きの口調は無意識になるものだが、精神的疲労はかなり溜まるらしい。実際、アラトは向こうでダレるクシュルを何度も見ている。あの状態のクシュルは少々面倒なので、アラトとしてもありがたい。
「ババアのぶりっこを聞くのはウンザリしてたので、ちょうどよかったです!」
「ハッ、乳臭いガキはいつも煩いですねぇ〜」
「ババアが何か言いましたです?」
「いえ何も〜」
アラトを挟んで舌戦が繰り広げられる。どうしてここまで言い合いができるのか。疲れるからやめてほしいとアラトは思っている。
「お前らさぁ……今アラトは注意したくてもできねえんだから察してやれよ……」
3人だけで話してる間は何を話しているかは受付嬢には伝わらないが、アラトが口を開けば話は別だ。注意すれば確実にクシュル達が喧嘩していたとバレる。それは嫌だった。アラトが代表みたいな感じになっているため恥ずかしい。
クシュルとクリリが見上げてきたので、少々厳しい表情を作って頷いておく。2人は目に見えてシュンとした。アラトはクリリの隣を歩くキララに苦笑を向けて頷く。キララからも苦笑が返ってきた。
と、話してる間に2階を越えた。まだ上るらしい。
「ここは寝床も提供してるのか?」
「はい、冒険者の方々に提供していますが……何故そうお思いで?」
「いや、今の階にも部屋があったみたいだからな。そこを応接室にしないなら寝床なのかと思っただけだ」
「なるほど……応接室の上に寝室があるのは不便と」
「まあそんなとこかなと思った」
受付嬢は納得したのかどうかは定かではないが、一旦引いた。
アラトの推測は適当だ。このギルドホームは2階に寝室が付いていたことを覚えていただけ。つい訊いてしまったので、それらしい理由を急いででっち上げたのだ。
受付嬢について行くこと数分。3階に辿り着いたアラト達は、その一番奥の部屋の前に立っていた。
(オイオイ……この部屋は……)
「ここが第1応接室です」
アラト達に声をかけて受付嬢が扉を開ける。両開きの重厚そうな扉は思いの外あっさり開き、来訪者を招き入れる。
まず目を引くのは正面の壁際にある木製の大きな机だ。存在感が桁違いである。その机の手前に、机に対して垂直になるように低い縦長のテーブルとソファーが2つ置かれている。どちらも清潔感があり、高級感に溢れていた。部屋には絨毯が敷き詰められており、豪奢な印象だ。他にも本棚などの家具は目につくが、どれもできのいい物のようだ。
この部屋は……ゲーム時代と同じ用途で使っているように思える。その用途とは────。
「そちらのソファーにお掛けください。ただいま飲み物をご用意いたします」
受付嬢に促されるまま、アラト達はソファーに座る。アラトがキララを見ると、彼女も少なからず驚いているようだった。
右後方から魔力を感じたのでアラトが咄嗟に振り向くと、受付嬢が透明なティーポットのようなものに魔力を注いでいた。
まずティーポット内に水が溜まり、それが温まっているようだった。少しして沸騰したお湯を用いて適切な処理をして、受付嬢が見事な手捌きでティーカップに紅茶を淹れる。魔導具。そんな単語がアラトの脳裏に浮かんだ。ゲームにもあったように、この世界にもあるらしい。まあ、ゲームにはこんなティーポットはなかったが。
「どうぞ」
「あ、ああ。ありがとう……」
「いえ、お気になさらず。では、しばらくお待ちください」
全員に紅茶を配り終えると、受付嬢は部屋を出て行った。
アラトは紅茶を一口飲む。美味しい。少し気持ちが落ち着いた。
「毒とかは入ってない。大丈夫だ」
一応その報告はしておく。仮にもギルド職員がそんなことをするとは思えないが、念のためだ。この4人には生半可な毒は効かないが、それでも念のためだ。
他の3人も紅茶を飲んで一息ついたところで、アラトが切り出した。
「さて……この部屋、何だと思う?」
「断言する。ギルマスの部屋だ」
「っぽいですよねぇ〜」
「わたしもそう思いますです!」
「だよなぁ……ゲームとそっくりだもんな」
ゲーム時代と同じ用途。それは、ギルドマスターの部屋だ。部屋の造りと家具の数々。まんまゲーム時代のギルマスの部屋である。
「第1応接室って、ここの隠語だったのか……てことは、あのおっさんはここのギルマスなのか?」
もしそうならば、大男の強さも納得できる。あのくらいはできなければギルマスなど務まらないだろう。
「そういえば、観客席と闘技場は直通の通路があったのか? 早かったよな?」
取り敢えずの疑問が解消されたので、次に思っていたことを訊く。その答えは、キララから返ってきた。
「ああ、あったぞ。分岐してたって言えば伝わるか? 通路が受付と観客席、闘技場の3つに繋がってるんだ」
言われてアラトは思い出す。そういえば通ってきた通路にも分かれ道があった。
「それにしても、何でこんなことをしたんでしょうか〜?」
クシュルが疑問を呈する。だがまあ、
「それはあいつらに直接訊けばわかるだろ。来るまではくつろいでようぜ」
「だな」
「です!」
「……そうですねぇ〜」
アラトの提案で、4人はくつろぐことにした。
十数分後。魔力の感覚に慣れるために、魔力を用いた索敵をしていたアラトが複数人の魔力の気配を捉えた。
「どうやら、おっさんが来たみたいだな」
「誰か来るのはわかったけど、あたしにはその人物を特定することまではできないな。推測ならできるけど。どうやったんだ?」
ケモ耳をピクピク動かしてキララが言う。
「多分キララもできる。魔力を感知する感覚があるだろ? それを網みたいに広げる感じかな……」
「ずっと目を閉じてると思ったらそんなことしてたのか……。………………ん、できねー!? 何だこれ!? 難っ!?」
「……おっさんが来るまではもう少しあるな。キララ、やってみるか?」
「ああ、もちろん! 何事も挑戦だぜ!」
キララが迷いのない瞳をしているので、教えてみることにする。だが、アラトにも上手く説明できる自信がない。
「まず最初に、この部屋の中にある魔力を持つものを感知できるか? 俺達も含めてだ」
「ああ、それならできるぞ」
キララはそう言って、微量の魔力を放つ。
キララの放った魔力は半球状を維持しながら突き進み、アラト達にぶつかると揺らいだ。
確かに、これでも相手の位置は判断できるが……アラトがやっていたものとは違う。
「キララ、確かにその方法なら魔力を持つ相手の場所もわかる。でもな、魔力を放出しちゃダメなんだ」
「は? どういう意味だよ」
「説明が難しいんだが……今のだと相手にバレるよな? 魔力を放出されたらわかるだろ?」
「そりゃあな。……あれ? さっき、アラトが何してるかなんてわかんなかったぞ……?」
キララがそこにやっと気づいた。さっきからアラトは魔力を解き放つことはせずに魔力体を感知していた。ゲーム時代、そんなことは実質不可能だったのにも関わらず。キララは、そのためにアラトが何をしているのか把握できなかった。
「そう、そこがミソなんだ。キララ、俺が擬似パーティーチャットの練習した時、魔力を感じられたな?」
「ああ。と言っても、アラトに言われるまで気づかなかったけどな」
「もしアレと同じだけの魔力を消費する攻撃魔法だったらどうだ? キララは気づくことはできたか?」
アラトのその言い方に、キララが食ってかかる。
「アラトお前、あたしを馬鹿にしてんのか?あの時伸ばされたのと同程度の魔力の放出に気づけなくてどうやって魔法使いとして戦っていけると……いや、アラトが言いたいのはそういうことじゃねーな」
何か思い至った様子のキララに、アラトが笑みを向ける。
「そう。『放出』ではなく『延長』ならば、気づかれにくくなるんだ。理由はわからないけど、多分俺達という魔力体に繋がってるからだと思う。魔力が漏れ出しにくいんだ」
これはアラトの完全な推測だが、今重要なのは根拠ではない。事実だ。
魔力を伸ばすだけなら、他者に気づかれにくいという事実。
「それをさっき思い出したからさ。あの時は魔力の束だった。それでやっと、言って気づくレベルだったんだ。魔力感知はこの中じゃトップのキララでさえ」
一旦言葉を区切り、喉を潤わせてから続ける。
「なら、糸だったらどうなるか? 使う魔力量はあの時伸ばした分とあまり変わらなくても、触れる箇所それぞれが極小レベルになったら? 結果はこの通り。触れた先の魔力の特徴は魔力を通して伝わってくるしね。今も伸ばしてるんだけど、キララはわかる?」
「え!?」
「そんな……っ!? わたしもさっきから、おにーちゃんの魔力を探ろうとしてるです! なのに、全然感知できないです……!?」
「……私には、さっぱりですよぅ〜」
クシュルは魔力感知に長けているわけではないからともかく、キララとクリリは魔法関連の技量ではかなり自信を持っている。その2人でさえ、一切わからなかった。種明かしをされた今でもだ。
それに加えて恐ろしいのは、アラトの天才的なまでのセンスだ。擬似パーティーチャット習得の際、キララはその伸ばす感覚を掴むまでに十数秒を要した。それもかなり集中してだ。そしてあの時キララは、集中を欠いたら即座に繋がりを保てなくなると感覚で理解していた。
アレでも中々難しかったはずなのに、それより繊細なコントロールを要求されるであろうことを平然と会話しながらやってのける。アラトの途方もないセンスの高さが垣間見えた。
「やっぱりわからないか。ま、タネはそんなところだからこの後練習してみたら? 向こうはキララ達の言葉がわからないようだし、それなら話す必要もないだろ。多分あのおっさんは余程多くの魔力を放出しない限り気づかないだろうし」
これは直接戦ったアラトの勘だ。ほぼ間違いないと断言できる。何故なら『炎の絨毯』の前兆に一切反応しなかったからだ。あれほどの魔力も感知できない程度の力量なら心配ない。
キララとクリリは頷くと、同時に目を閉じた。アラトがじっと見ていると、魔力の線が伸びてくる。が……。
「2人とも、まだまだ太い。もっと細くするんだ。そこから裂いていくイメージにすれば少しはやりやすいと思うよ」
一応アドバイスしておく。さっきアラトが実践した方法だ。直接成功に繋がったわけではないが、成功した後の調整には大いに役立った。
そして、そろそろだ。
扉が外に開き、室内に人が数人入ってくる。先頭はもちろんあの男だった。
「すまない、待たせたな」
「気にすんな。堪能してたよ」
そう言って手に持つティーカップを掲げてみせる。大男は苦笑すると、正面の木製の机──────まあ執務机だ──────の椅子に腰掛け、机に肘をついて、顎を組んだ手の上に乗せた。残りの連中は左右の壁際に並ぶ。
「さて、まずは名乗ろう。────俺の名は、ヴィンセンス・ツヴァイ・ベレク・アロディア・ルーティカ・ペラフ・アレクサンドル・プリーツ・キュルリー・スキラ──」
「ちょっと待ってくれ!! え、何!? それ名前なの!? あと何語続くの!?」
「ん? あと13語あるが」
「長いな!? オイそこのあんた!! なんか略称とかないのか!?」
あまりの長さに耐えられなかったアラトが声を荒げて壁際の1人を指差して尋ねる。
その彼は平然と答えた。
「ギルマスですね」
「そのまんま!!」
アラトのシャウトが響き渡る。
大男──ギルマスは意気消沈しながらアラトに告げる。
「また、長いと言われた……呼び名の通り、ここのギルドマスターをやっている。俺のことは、ギルマスかヴィンセンスと呼んでくれ」
1度シャウトして心の落ち着きを取り戻したアラトは、静かに頷いた。
「………わかった。ヴィンセンスさんと呼ばせてもらう」
「おう。早速だが、なんであんなことをしたかと言うと……」
「推測の域を出ないが、俺達の度胸を試そうとしてたんじゃないのか? 俺達、というよりも俺なのかもしれないけどさ」
ヴィンセンスはしっかりと頷く。
「その通りだ。冒険者志願者は多いんだが、腰抜けも多くてな……あの程度で動けなくなる奴は無駄死にするだけだ。それなら最初から他の稼ぎを見つけた方がいい」
沈鬱そうな表情でヴィンセンスはそう告げる。
恐らく、過去にそんなことがあったのだろう。
「てことは、やっぱり何回かあんなことをしてるってことか」
「ああ。だが、俺達に喧嘩を売ってきたのはお主が初めてだぞ」
苦笑とともにヴィンセンスにそんなことを言われる。
「そうなのか? 血気盛んな奴らもいただろうに」
少々の驚きとともに訊くと、笑みの苦味を深くしてヴィンセンスが答える。
「自分の腕に自信がある奴や俺達の挑発に乗って俺を相手に戦った奴はいても、俺達の挑発を軽く受け流した挙句に挑発し返して俺達全員を相手取ったのはお主が初めてだ。しかも勝ってしまうんだからお主はすごい」
アラトの頬に一筋の汗が垂れる。
(結構やらかしたっぽいぞ……)
時既に遅しである。
「まあ何にせよ、俺達がお主に無礼なことを言ったのは変わりない。この場を借りて謝罪する。すまなかった」
「「「すみませんでした────!!!」」」
壁際の連中も同時に頭を下げた。
体育会系のノリにアラト達が気圧される。
「いや、俺も挑発しすぎたし……お互い様ってことにしとこうぜ」
「うむ、そうしてくれると助かる。さて、お主らの名前を教えてもらってもいいか」
「なんでだ?」
まあ何となく予想はつくが、一応確認する。
「お主らの冒険者資格の証明になるカードを作るためだ。これは証明証の代わりにもなる」
案の定な理由が返ってきた。だがここで、次なる疑問が湧き上がる。
「それって、適性試験みたいなのは受けなくていいのか?」
アラトが尋ねると、笑いが起こった。アラトは何が何だかわからない。
「な、なんだ?」
「オイオイ、この国で20番目に強いって言われてるギルマスを倒しといて適性試験も何もねーだろ!」
「なあ!」
アハハハハッという、快活な笑いだ。演技の時と違って嫌な感じは一切しない。
しかし、聞き捨てならないことが。
「に、20番目? 本当にか!?」
「お、ちょっとビビったか?」
「すげえだろ!? ギルマスより強い人がこの国だけで19人もいるんだぜ!」
壁際の男達が若干誇らしそうに語るが、その19人の内何人が即座に動ける人間なのか。また、他国にはどれだけの実力者がいるのか。この国と他国との力関係は。それを考えると、何故ここまで純粋に誇れるのか理解できない。
いやそもそも、アラトが驚愕したのは────
(ヴィンセンスさん程度で20番目!? そんな上なのか!? たかだか500レベルオーバーでトップ20に食い込めるとは……俺達全員トップ10には入れそうな勢いじゃねえか。モリンシャンが魔王について言っていたが、下手したら人類は全滅するぞ……!)
弱すぎる。その一点だった。
しかし、アラトの驚愕を他所に話は進む。
「本当ならその嬢ちゃん達は適性試験を受けてもらわないとダメなんだが……今まで気づかなかったが、そこそこ肝が据わってるようだし冒険者になるのは問題ないだろう」
適性試験とアラトが言った瞬間に、ヴィンセンスは指向性のある殺気をキララ達3人に向けていた。本気ではなかったようなのでアラトは無視していたが……3人の度胸を試していたらしい。周りにいる男達にも出したことを気づかせない、的確にキララ達に向けた殺気だった。
「でもさ、ギルマスであるあんたがカードを作るわけじゃないだろ? 組織のトップがそんなことをするはずがない。ヴィンセンスさんに名前を教える必要はないと思うんだが?」
「お主……どれだけ組織の運営に詳しいんだ? セリシャも気になったというようなことを言っていたし……まあいいか。お主の質問に答えるとだな、俺が興味を持ったからだ。純粋にお主の名前が知りたい」
アラトは推測で言っただけで、別に組織の運営に詳しいわけではない。今回は偉い人が下っ端の名前まで把握するかな? という疑問から出た、確証も何もないただの勘だ。
ついでに、セリシャって誰? などとアラトは思ったが、そこは気にせず取り敢えず質問に答える。
「まあそういうことなら……俺の名前はアラトだ。よろしくな、ヴィンセンスさん」
「アラトか、覚えたぞ。それと、4人とも適性試験は合格だ。冒険者カード作成のための手続きに入ろう。レイル!」
「はい」
壁際の連中の中から1人の男が出てくる。1人だけレベルが360近辺だったあの男だ。引き締まった肉体をしているのが見るだけでわかる。彼の名前はレイルと言うらしい。
「4人を手続き部屋に案内しろ。手続き自体はセリシャにやらせとけ」
「了解です。では、どうぞ」
レイルが4人に立つよう促す。アラト達はそれに従い、ギルドマスターの部屋を後にする。
と、部屋を出る直前にヴィンセンスに声をかけられた。
「ああ、そうそう。お主と戦った連中からいきなり謝られるかもしれないが、適当に受け流してくれ」
「喧嘩売ってきたら買っていいんだよな?」
「誰もお主に喧嘩を売ろうとは思わないと思うけどな。まあそうなったらやってもいい。ただし! ギルドに迷惑はかけるなよ」
アラトは苦笑気味に言ってきたヴィンセンスに笑いかける。
「わかった。じゃあまた」
「おうよ」
壁際に立っていた男達は全員が頭を下げていた。
「では、セリシャを呼んできますので」
手続き部屋と呼ばれた部屋に連れてこられたアラト達は、再び待たされることになった。
ヴィンセンスとの会話中もずっと魔力の網を張り巡らせていたアラトは、レイルが遠ざかって行くのをしっかり把握していた。
「どうだ? 2人とも、できるようになったか?」
会話中だけでなく、この部屋に連れてこられてからもずっと集中しているキララとクリリにアラトが声をかける。
2人とも集中しすぎていたので、ここまでアラトが手を引いて連れてきたくらいだ。
ゆっくり目を開いた2人は、しかし頭を振った。
「ダメだ……あたしはアラトほど広げられない。この部屋が精一杯だ。集中を途切れさせてもアウト。ここまで歩いてくるので集中切れたぜ」
「わたしもです。集中に関してはここまで歩いてくるくらいなら維持できましたが、感知の範囲は広くありませんです。この部屋全体すらカバーできませんです」
「そうか……まあ、地道にやって行くしかないと思うよ」
アラトが慰めの言葉をかける。2人はコクリと頷いた。
「ん、誰か来るな。この魔力は……案内してくれた受付嬢かな?」
数十秒後。
「お待たせしました。冒険者カードの手続きに入りましょう」
ガチャリ。扉を開けた人物は、アラトの言った通りの人だった。
なるべく誤字脱字がないように心掛けています。
理由として、自分が小説を読んでいるときに誤字脱字があったらちょっと萎えるからです。
なので、推敲と見直しは注意深く行ってますが……それでも人ですので、見落とし等々があると思います。
何かお気づきになりましたらコメントお願いします。