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唯一無二の《ニートマスター》  作者: ごぶりん
第1章 すべてのはじまり
6/46

キララの妹

 


 《モディルスキュアの街》に向かっている途中、アラトが何か思い出したように声をあげる。

 ちなみに3人は今歩いている。3人の素早で走ったら、街で騒ぎになることが予想されたからだ。


「そういえばさ、キララのサポートNPCは呼ばないのか?」


 アラトにとっては純粋な疑問だった。

 このよくわからない状態で戦力が増えるのは喜ばしいことだし、それはキララも理解しているだろう。しかし、キララにはサポートNPCを呼ぶ気配はなかった。


「いや、実はアラトに声をかけられた時、『遠距離通信』操作の途中だったんだけどさ……アラトがいるから呼びたくないなぁ〜って……」


「なんだそれ?」


「いやだって、趣味丸出しだし……」


「趣味って言うとケモ耳か? それなら俺も好きなんだし問題ないと思うけど?」


 アラトはますます混乱してきた。キララが何を躊躇っているのかわからない。


「………笑うなよ?」


 キララが目を細めて念を入れてきた。

 アラトは困惑気味に頷く。


「お、おう? わかった、笑わない」


 アラトの言を受けて、キララは決意したようだ。メニューを操作して、『遠距離通信』を発動させる。


「あ、繋がった。うん、『側近転移』してくれるか? そう、今。……うん、よろしくなー」


 ちなみに、『遠距離通信』の相手の声は周りには聞こえない。

 声を出してもいいし頭の中で対話してもいいので、サポートNPCとの内緒話には持ってこいだったりする。


「切れた。来るぞ」


 キララの言葉の直後、キララの正面に光の粒子が集まり、瞬時に霧散する。

 そこにはキララよりさらに小さい、狐耳の女の子───────否、幼女が立っていた。巫女装束を着ている。

 幼女はキララを視界に収めると、パアァッという音が聞こえてきそうな程に表情を明るくさせ、キララに飛びついた。


「おねーちゃん!」


 ───そんな言葉と共に。


「ぶふっ……! おね、おねー、おねーちゃん……! ひぃひぃ、お腹痛いですぅ〜! その体型でおねーちゃんとかぁ、笑わせないでほしいですぅ〜!!」


 クシュルは早速吹き出した。

 外向きの顔が出てこないくらいツボに入ったらしい。腹を抱えて爆笑している。


 キララは幼女を抱きとめたまま声を張り上げる。


「笑うなって言っただろーが! ぶちのめすぞお前!!」


 しかし、クシュルはどこ吹く風だ。


「あれぇ、私は了承した覚えはありませんけどねぇ〜? なるほどぉ、趣味とはこれも含まれていましたかぁ〜。キララさんがちんちくりんだから、自分より小さな子におねーちゃんと言われたかったんですねぇ〜? ニヤニヤ」


 言葉に出したように、クシュルが嫌らしい笑みを浮かべながらキララをからかう。


「あーもうそうだようるせーな! 悪いか!? リアルの姉妹はあたし以外全員スタイルいいし! こっちは妹にまで頭を撫でられる始末だし! あたしだって自分より小さい妹にお姉ちゃんぶりたいんだよ!!」


「ふっ、哀れですねぇ〜」


「うるせー!!」


 クシュルがキララを完全に弄んでいる。


 いつ止めようか考えていたアラトは、そろそろサポートNPCを紹介してもらおうと、キララに声をかけようとした。


 そして2人をそっちのけでキララに抱きついていた幼女だったが、唐突に顔を上げて周りを見渡しアラトに視線を固定すると、キララから離れて満面の笑みを浮かべながらアラトに飛びかかる。


「おにーちゃん!!」


 今度はこんな言葉を発して。


「は?」


「え?」


「あ、やべ」


 悪意なく飛びついてきたのを躱すわけにもいかないので、アラトは受け止めるが状況が全然わからない。

 クシュルは呆気に取られて全く反応できていない。幼女がアラトに抱きとめられる様を黙って見届けた。

 キララは思い当たる節があるのか、片手で目を覆って空を仰ぎ見る。


「おにーちゃん、わたしの名前は、クリリです! 狐人族です! おねーちゃんとおにーちゃんが大好きです!」


 アラトにひしっと抱きつきながらニコニコ顔でそう自己紹介した幼女は、《クリリ》と言うらしい。


 狐人族なのは見ればわかる。

 キララと違い、目の色は黒。また髪の色も、キララのは神々しい輝きを放つ黄金色なのに対し、クリリのは野生の狐の色だ。言葉での明瞭な説明が難しいが、2人が横に並べば一目で違いがわかるだろう。尻尾もフサフサで触り心地がよさそうだ。是非ともモフらせてほしい。


 だが、最後の発言がよくわからない。

 いや、意味はわかる。あまり理解したくないが、わかってしまう。

 問題は、何がどうなればその結論に行き着くのかだ。


 アラトは、その疑問を解消してくれそうな存在に目を向ける。


「……キララ、説明してもらうぞ? クリリの性格、どういう風にした?」


 アラトのジト目気味な問いかけを受けて、キララは目を逸らしつつ答える。


「いやぁ……『天真爛漫、純粋無垢で、おねーちゃん大好きっ子で、おねーちゃんの好きなものも大好き』って言う設定……」


 最後の部分を聞き、アラトのジト目が強くなる。

 キララはこんなことで嫌われては堪らないと、慌てて弁明を始める。


「いやだって、あたし、可愛い妹と同じ好きなもので語り合うのが夢だったんだもん! まさかあたしが男を好きになるなんて思わなかったから……この設定は忘れてた! ごめん!」


「いやこれごめんで済む問題か!? 俺、特に何もしてないのにこの子に好かれてるんだけど!? 好かれる理由がないってことだろこれ!?」


「そうですよぅ〜! そんなので恋敵が増えたらたまったものじゃありませんよぅ〜!! どうしてくれるんですかぁ〜!」


 アラトとクシュルも突然の展開とまさかの理由に困惑し、声が大きくなる。

 しかしアラトの叫びは切実だが、クシュルは語尾が伸びていることからまだ余裕がありそうだ。何だかんだでこの状況を楽しんでいるのかもしれない。


「いやだからごめんって! これに関しては本当にごめん! でもあたしにはどうしようもない!」


 この言葉は事実で、1度設定してしまえば性格の変更はできない。


 だがよくよく考えてみると、この性格によって問題が生じるのはアラトだけだったりする。

 キララは別に問題ない。問題ないどころかむしろ、話が盛り上がりそうだと密かに喜んでいる。

 クシュルも特に問題はなさそうだ。彼女にとって問題があれば、もっと必死になるはずなので間違いないだろう。


 となれば、アラトがどうにかして折り合いをつければいいのだ。クリリもケモ耳を持っているし、デメリットばかりでもない。

 そしてアラトは。


「……そうだ! クリリの好意は、幼い妹が兄に対して持つ憧れのようなものだ。きっとそうだ、そうに違いない。と言うかそう思わないとやってられないし。家族の親愛って奴だな、うん」


 打開策を見つけた。


 これでもう大丈夫。そう安心したアラトに、かけられたのはこんな言葉。


「おにーちゃん。わたしは、1人の女としておにーちゃんが好きなんです! ちゃんとおねーちゃんと対等に見てくれなきゃ嫌です!」


(うわー、しっかりしてるなー)


 現実逃避気味に、アラトはそんなことを考える。


「……それとも、わたしみたいな子は嫌いですか……?」


 目を潤ませて上目遣いでそう言ってくるその姿は、非常に庇護欲を掻き立てられる。

 身長差が物凄いので、上目遣いの破壊力が抜群だ。

 アラトは、こんな小動物みたいな雰囲気を放つ生き物に抵抗する術を持たない。

 アラトは心の中で白旗を揚げた。








 アラトは白旗を揚げた後、少しの間現実から意識を旅立たせて(逃避して)いたが、つい先ほど帰ってきた。


 帰ってきてから一悶着あったが、いつまでも逃げているわけにはいかない。

 ぶっちゃけクリリをどう扱えばいいのか全くわからないが、ひとまずは戦力の確認だ。


「キララ、クリリの基本職は『魔法使い』で合ってるか?」


「もちろん! それがあたしの主義だからな!」


 予想通りすぎる回答に、アラトも苦笑を禁じ得ない。


「2人とも後衛とは……ある意味凄いな」


 ここまでロマンを求められるのも凄い。

 そういう意味では、アラトもかなりのものだが。


「んで、髪からしてもクリリはまだ狐人族だな?」


「そうだな。クリリは狐人族だ」


「キララさんは違うんですかぁ〜?」


 キララの、まるで自分は違うとでも言うような言い方に、クシュルが疑問の声をあげた。

 その疑問にキララが答える。


「ああ、違う。あたしは『妖狐族』だからな」


「なるほどぉ、『上位種族』ですかぁ〜」


 《マスパラ》に存在する『上位種族』。

 それは、一定の条件を満たした者が辿り着ける境地。

 有名なのは、『狐人族』の上位種族『妖狐族』や、『エルフ族』の上位種族『ハイエルフ族』などだ。

 上位種族のパラメータ補正は、元の種族とは比べ物にならない。

 上位種族が無いものもあって、『人間族』にはもちろんない。


 『狐人族』から『妖狐族』になると、髪の色が金色に変わる。

 ちなみに、髪の色を変えられるアイテムが存在するので、クシュルがキララの種族を瞬時に判断できなくても無理はない。


「あは、そんなことも思い付かないなんて、頭の悪いオバサンです。あ、耄碌ババアだったです。頭の回転が遅いのは当然でしたね、ごめんなさいです。配慮が足りなかったです。それに、雑魚がおねーちゃんの実力(ちから)を感じ取るなんて不可能だったです」


「ん〜? ちんちくりんのクソガキが、何か言いましたぁ〜? 私、乳臭いガキの声がよく聞こえないんですよぅ〜」


「それは可哀想です。治療院に行くことをお勧めしますです。補足しておくと耳のではなく頭のです。ぶりっこオバサンの症状も、まともになるかもしれませんです」


 納得したクシュルに、毒100%の言葉を浴びせかけたのは、クリリだ。

 今も、一切目を合わせずに舌戦を繰り広げている。女の恐ろしさの片鱗を知って、アラトは人知れず恐怖した。







 この事態が発生したのは、自己紹介の時のことだ。


 現実に帰還したアラトが、クリリに改めて自己紹介した。


「えっと、俺の名前は知ってるかもしれないけど、改めて。俺はアラト。人間族の『無職』だ。よろしくな」


 手を差し出してそう言うと、クリリは嬉しそうに手を握り返した。


「はいです! 知ってましたけど、おにーちゃんの口から直接聞けて、よかったです!」


 ニコニコしながら元気よく返すクリリに、アラトの顔も綻ぶ。

 妹がいたらこんな感じなのだろうか。でもリアル妹なんていいものじゃないという話もよく聞くし。あ、理想の妹ってやつかな? などとアラトが益体ないことを考えていると、クシュルが自己紹介を始めた。


「初めましてぇ〜、兎人族のクシュルですぅ〜。基本職は『旅人』ですぅ〜。よろしくですぅ〜」


 ここまではにこやかな空気だった。ここまでは。


「あ、オバサンのことは興味がないので自己紹介とかはいいです。わたしの大好きなおねーちゃんとおにーちゃんに迷惑はかけないでくださいです」


 これで空気が凍りついた。


 そして、さっきのような展開になったのだ。

 2人とも、どこでそんな罵倒を覚えたのか疑問に思うレベルでお互いを口汚く罵る。

 アラトも止めようとしたのだが、無理だった。アラトが話しかけると、2人とも普通に戻るのだ。そこで注意しても、聞く耳を持たない。

 アラトが説得を諦めて、今に至る。


「クシュル、クリリ。そろそろ街だから、一旦止めろ。それと、街の中で言い合いはしないでくれな。表面上だけでいいから仲良くしてくれ」


「はいです! おにーちゃんがそう言うなら、そうしますです!」


「私も納得いきませんが、ししょーの頼みなら聞かないわけにはいきませんねぇ〜」


 ご覧の通り、アラトが話しかければ普通(?)の対応である。


「ありがとな。でも、どうしてここまで相性が悪いんだ……?」


「あたしにもわかんねー」


「「はぁ……」」


 2人は揃って深いため息を吐いた。

 アラトとキララもお手上げ状態である。

 原因が全くわからない。これからアラトは苦労しそうである。


「あー、そういえば、装備のグレードを落としておいてくれ」


 アラトが先ほど思い付いたことを3人に伝える。言われた3人はキョトンとした。


「え? なんでだ?」


 3人を代表してキララが訊き返すと、アラトは言い淀むことなく答える。


「モリンシャンが言ってただろ? 冒険者になるのが手っ取り早いって。ゲームにはなかったシステムだけど、俺達は冒険者志願者ってことになるわけじゃん? そんな奴らが物凄い装備着けてて、下手な言い訳が通ると思うか? 創作でよくあるだろ、今まで辺境に住んでたって言い訳。俺達は正しい街の名前とかわからないわけだしその言い訳も使えるかもしれないけど、それならなおさら装備がおかしい」


 キララとクリリには、街の名前が違うことは教えてある。恐らく道や村の名前もそうだろうということも。

 そう言われて、キララも考え込んだ。


「確かに……あたしだったら信じねーな。どこが辺境で手に入る装備だよってツッコミたくなる」


「だろ? 俺の装備でさえ、共通装備の中では最強クラスだ。お前ら3人の装備に至っては、専用装備の中でもかなり上のクラスのものもある。この世界の人間が弱くて、目利きも大した事ないって可能性もないわけじゃないけど、用心するに越したことはない」


「そうだな。じゃあ早速」


「いや、ちょっと待って」


 納得してすぐさまメニューを操作しようとしたキララを、アラトが制止した。


「なんでだよ?」


「念のため、他者の目を誤魔化そう。俺達に備わっている技能が、この世界でも普通のものかわからないからな」


 今アラトが言った技能とは、言うまでもなくメニューのことだ。

 この世界が現実であることを考えると、データの塊であるメニュー機能がこの世界の人間に備わっているとは考えにくい。

 この世界の人間に見られるリスクは可能な限り排除したかった。


「……それもそうか。じゃあ、どうする?」


「まず道から外れて、『インビジブル』を使おう」


「わかった」


 ここ、《モールスキップロード》は、真ん中に舗装された──と言っても草が刈り取られて砂利や大きな石が取り除かれているという程度の──道があり、その左右200m程は草原が広がり、さらにその先には森が鬱蒼と茂っている。

 四人は道を逸れて50m程歩くと立ち止まり、アラトが魔法を使う。


「『中位下級光魔法・インビジブル』」


 側から見ている者がいれば驚いただろう。

 アラトが詠唱を終えた途端4人の輪郭が滲み始め、10秒も経てば何も見えなくなってしまったのだから。

 しかし魔法を使える者が見れば、そこに人の形をした魔力が4つ存在していることに感覚で気付けただろう。


 『インビジブル』は、光を屈折させて対象を見えなくする魔法だ。

 しかし、下級魔法というところからもわかるように、万能ではない。

 魔法を使える者からすれば何かいるのは1発でわかるし、動きが速いと正しい屈折が間に合わず、光学迷彩が揺らぐ。その上、発動中は常にMPを消費する。


 そういう理由で、アラトはクシュルと移動していた時には使っていない。

 そもそもクシュルとは、まるで走るかのように跳躍して進んでいた。周りは森に囲まれていたし、遠目でわかる者などほとんどいない。


 4人は、いそいそと装備を変え始めた。

 サポートNPCも個別のメニューを備えていて、装備の変更などは自由に行える。らしい。


 らしいと言うのも、ゲーム時代はサポートNPCに自我がなかったため、大規模なボス戦などに呼び寄せた時に『最強装備にしろ』と命令するか、装備を与えて『これを装備しろ』と言うしかなかったからだ。

 サポートNPCにもアイテムストレージはあるし、勝手にアイテムは拾っていたはずだが、プレイヤーが自由に弄ることはできなかった。

 これも『サポートNPCにも人権があるみたいでいい』と、《マスパラ》評価に繋がっていたのだ。


 ちなみにサポートNPCに暴行などを働くと、暴行を働いた瞬間のプレイヤーの精神状態や思考を読み取られる。

 そこに悪意があった場合アバターを強制廃棄され、それ以降《マスパラ》をプレイすることはできなくなる。脳波パターンが記録されているからだ。

 アラトがこちらに来る時まで、これに関する不具合は1つもなかった。ゲームから叩き出された人間は数十人いたが。


 アラトは装備を変えながら3人の様子を伺っていて、あることに気づく。


(この俺達を覆っているものが魔力なのか? この感覚が魔力…………お、確かに俺に中にもある気がするな。これを、他人に伸ばす感覚…………)


 アラトは意識を集中してみた。自分の中にあるこれを伸ばすイメージを作る。

 すると、キララに向かって魔力が伸びていく感覚があった。同時に、目でも確認する。確かに魔力の線がキララに向かって伸びている。

 それがキララに到達した時、アラトは繋がったのがわかった。


(これは……あの時の感覚か。なるほど、わかったぞ)


 試しに、キララに話しかけてみる。


『おーい、キララ?』


「え、何だこれ? パーティーチャットか?」


『そのまま頭の中で会話してみてくれ』


『えっと……こう?』


 できた。


 アラトはぎじパーティーチャットをおぼえた。


 と、ふざけている場合ではなく。


 アラトは魔力の繋がりを切って肉声での会話に切り替える。『インビジブル』は継続中だ。


「キララ、モリンシャンがやっていた魔力で俺達を繋ぐことに成功した。パーティーチャットに似たことができるぞ」


「ああ、あれ? アラトはすごいな。もうできたのか」


「多分キララにもできる。『インビジブル』の魔力が感覚でわかれば、自分の中にある魔力もわかるはずだ。それを伸ばせばいい」


「わかった、やってみる」


 そう言ってキララが黙ること十数秒。アラトは、キララから自分に向かって伸びてくる魔力を捉えた。


『アラト、聞こえるか?』


『ああ、大丈夫だ。成功だな』


「なるほど、こういう感覚なのか。ゲームの時にも似た感覚はあったな」


 魔力を戻しながらキララが感想を述べる。

 アラトもそれに同意した。


「そうだな。相手の攻撃魔法とかで感じた感覚だ。お、皆装備変え終わったか?」


 アラトの問いに3人が肯定の意を示したので、アラトは周りの目がないことを確認してから『インビジブル』を解除する。


 現れた3人は、大分様相が変わっていた。装備から迫力を感じない。

 アラトも人のことは言えないが。


「いい感じに弱そうになったな」


「同感だ。まったく、こんな装備をまた使うことになるとはなー」


 アラトの身も蓋もない言葉に同意して、キララが感慨深そうに呟く。


 キララは中級覚えたての時に使っていた装備と同等の装備、もしくはそのものを着けている。4人とも装備レベルは似たり寄ったりだろう。


 戦闘力の低下割合という面で見れば、一番弱体化したのはキララだ。

 種族専用装備と職業専用装備の最強クラスのものを外し、共通装備の下のレベルのものに変えたのだ。パラメータが著しく低下した。

 一番被害が小さいのは、言うまでもなくアラトだ。初めて『無職』で周りより良いことがあった。本当に良いことかと訊かれたら首を横に振るが。





 道に戻って歩き出し、先ほどの擬似パーティーチャットについてクシュルとクリリに教える。

 パーティー編成ができないなどの一連の説明を聞いて、クシュルがこんなことを宣った。


「あぁ〜。ししょーがパーティー組まないと思ったら、そういう事情だったんですねぇ〜」


「……いや、思ってたんなら言ってくれよ」


「ししょーが言い出さないなら何か理由があるんだろうと思って黙ってましたぁ〜」


 ここまでアラトを信用できるのは美点なのか欠点なのか。






 談笑しながら進み、街まであと5分も歩けば辿り着く、というところでアラトが小さく声を漏らした。


「…………ぁ」


「……おい、何だ今の『やべーことに気づいた』って声は」


 キララのジト目の問いかけを受けて、アラトが言いづらそうにしながらも答える。


「いや……創作だと、獣人族の奴隷ってテンプレだろ? このメンバー、大丈夫かなって……」


「あ」


 キララもその可能性には思い至らなかったようで、表情を固くした。

 サポートNPC組のクシュルとクリリにもその手の話は知識として入っているので、苦い表情を浮かべる。

 この4人のメンバー構成は、人間族、獣人族、獣人族、獣人族。まさかの獣人族75%である。


「………ま、いざとなったら、頼んだぜアラト」


「ええー、俺かよ……。キララは幻惑魔法使えないのか?」


 ある幻惑魔法なら、見た目を変えることができる。しかし、『中位上級』に属する魔法のため、アラトでは使うことができない。


「しゃーねーだろ、人間族がアラトしかいねーんだから。あたしは光魔法から使えねーからな。その上位派生である幻惑魔法は使えねー。つーか、こっちきたプレイヤーの5割は恐らく獣人族だぞ? 大丈夫かこれ?」


「……まあ、なるようになるだろ。と言うか本当に火力特化なんだな、キララは。取り敢えずお前らのことは守る」


 キララが結構重大なことに気づいた。

 獣人族の奴隷制度があった場合、中々に厄介なことになる。

 ちなみに残りの4割が妖精族で、1割が人間族だ。


 また、光魔法は直接攻撃に関わる魔法が少ない。なら補助魔法が多いのかと訊かれると、そうでもないと答えるしかないのだが。

 ともかく、攻撃魔法が少ないからキララは光魔法を覚えなかったのだろう。適性が高いわけでもないし。

 しかし、そうなるとキララは光魔法習得が必須の回復魔法を使えないことになる。それでいいのか魔法使い。


「頼りにしてるぜー。ま、第26回大会『特級』グループ優勝者のあたしと第27、28回大会『特級』グループ優勝者のアラトがいれば、大抵のことはどうにかできんだろ」


 大会とは、もちろんMSCのことである。

 アラトが優勝した1つ前の大会で、キララも優勝していたのだ。

 メンバーはたったの4人だが、かなりの戦闘力を持ったパーティーであると言えた。


「まあそうだな。お、そろそろか」


 もう少しで街の入り口だ。多少ワクワクしながら、アラト達は歩く速度を上げた。

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