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唯一無二の《ニートマスター》  作者: ごぶりん
第2章 魔の力、その予兆
47/47

戦いが終わって

お久しぶりです。

前話の投稿日は2021年……2021年!?

5年前らしいです。サボりすぎで草。

ちなみにこの話を書き終わったのは2年くらい前です。投稿すらサボってて草。


……ごめんなさい。

これからも気ままにやっていきます。

 


『オオオオォォォ────ン!!』


「ちっ、狂童(クルト)! 俺は離れても大丈夫か!?」


『大丈夫、任せて! 吸い尽くす!』


 狂童が『刻喰みタイム・アブソープション』を使った直後、大型が暴れ出した。

 とても取り付いてはいられず、アラトはなんとか距離を取る。

 振り回される腕に、先程の勢いはなかった。


 恐らく、エネルギーを攻撃に転化させることよりも身体を動かすこと────暴れて狂童を振り落とすことを優先したのだろう。

 結果だけ見れば、深々と突き刺さった狂童をその程度の衝撃で振り落とすことは不可能だし、エネルギーを無駄遣いする方が狂童に対する嫌がらせにはなる。

 しかしそれは、自身の生存を諦めることに他ならず、生存本能がある存在に期待するのは酷な話でもあった。


 アラトが距離を取ってから数十秒後、大型は地に倒れ伏す。

 そして、大型の身体が崩れ、風化し、砂になった。

 『刻喰み』の使用条件は、狂童が刺さっていて、対象がアラトを格下だと判断していないこと。

 序盤は圧倒的に大型優勢だったので舐められていた可能性はあるが、後半の巻き返しで脅威になりうる存在だと認識させることはできていたようだ。


 アラトはそれを見届けてから、砂に埋もれる狂童を回収する。

 戦闘が終わった。


「狂童、お疲れ。どのくらい回収できた?」


『最大倍率で2秒分ってとこかな……割りに合わないね』


「仕方がないさ。強敵だった」


 『刻吐きタイム・ディスチャージ』を使わなければ回避できない攻撃に、満足に距離を取ることもできない移動速度。

 それらを他のモンスターから吸い取ったエネルギーで為してくる相手に、こちらもリソースを吐き出すことで無理やり戦闘を成立させていた。

 戦闘時間が延びるほどお互いのリソースは消費され、最後に回収できるエネルギーは目減りしていく。

 しかし、即座に戦闘を終わらせられるような弱い相手ではなかった。

 だから、仕方ない。それは狂童もわかっている。


『わかってても、思っちゃうんだよ』


「まあ、それは俺も思うよ。……はぁ、流石に疲れた。ぐっ、イッてぇ……」


 気が緩んだためか、ひしゃげた腕の痛みが無視できなくなってきた。

 正直、意識が飛びそうだ。


「……『影法師』、回復魔法を頼む……」


 大型との戦闘中はいつ影法師のサポートが必要になるかわからなかったため、腕の回復などにMPを使わせるわけにはいかなかった。『再誕』という切り札をもう1発使えるかギリギリのラインだったことも大きい。

 だが、もう戦闘は終わった。このくらいの処置は必要かつ許容範囲内だろう。


 影法師による回復魔法と、ついでに唱えてくれた『増血(ゾーチ)』のおかげでアラトの状態はある程度改善した。

 それを感じ取り、ホッと一息吐く。

 まだ敵の領域にいることには変わりないのでこれ以上気を抜くことはできないが、少し落ち着くことができた。


「多少なりともMPが回復したら、先に進まなきゃな」


『そうだね、頑張って。僕は、その辺の死骸を食べてくるよ。最低倍率での足しにはなるだろうし』


「そうか、任せる。俺はもう少し休んでるよ」


 狂童がふよふよと飛んでいくのを横目に、アラトは大型について考察する。


(大型が纏っていた金属……アレは、間違いなく何者かの手が加えられたものだ。それを大型は使いこなしていた。元から存在したモンスターに金属を装着させて訓練させた、ってパターンも絶対ないとは言い切れないけど……たぶん、()()()()()()()()()ってのが正解だ)


 大型には、後天的に得たモノを扱っている者特有の雰囲気がなかった。

 自分の身体を当たり前に操っている。そんな空気感。


 アラトは、自分が器用な自覚はある。余程特殊な武器でなければ、すぐに使いこなせるのだ。その上で、練習を怠ったりはしない。

 しかし、そんなアラトであっても、武器を扱っているという認識は中々切り離せない。武器を手足のように扱う────それは、本当に極まった才能を持つ者に許された特権だ。


 あの大型は、恐らくそうではない。

 金属を纏った状態で造られた人造モンスターだろうと、アラトは推測する。


 問題は、()()がまだ敵側にいるのかどうかということ。あの強さのモンスターを簡単に造り出せるとなれば、驚異度は跳ね上がる。

 モンスターが纏っていた金属の性質が変わればこちらの対応も変わるし、モンスターに掛けられるバフも考慮しなければならない。

 その辺りの調整がどの程度自由にできるのかも問題だ。



 などとMPの回復を待ちながら考えていたアラトは、ふと思いつく。


(あ、智慧ある武器インテリジェンスウェポンにMPパサーしてもらえばいいんじゃん)


 どうせ考え事をしながら時間を無為に過ごすだけなのだ。ならば、譲渡に3分掛かるMPパサーを使う方が効率的だ。


「MPもギリ足りるくらいには回復してるか? そうと決まれば早速……『中位中級召喚魔法・智慧ある短杖インテリジェンス・ワンド』」


 アラトの呼び出しに応えて、『異次元地域』から短杖が現れる。それは、木の枝を削って作られたことがわかるかのような、黒く短い杖だった。


「久しぶりだな、クレバー。元気してたか?」


『お久しぶりです、アラトさん。ええ、貴方が呼んでくれなかったので。HPが減るようなこともなく、元気でしたとも』


「む。言うねぇ」


 確かに短杖────クレバーの言う通り、アラトが彼を呼ぶ機会はかなり少ない。理由は単純で、アラトの戦闘スタイルにあまり合わないから。


 以前にも述べたように、アラトは補助的に魔法を使った上での近接戦闘を好む。攻撃魔法が使えないということはないし、熟練度もしっかり高めている。が、性に合わないのだ。

 身体を動かしてバチバチの近接戦闘をする方が、やり合っている感があってテンションが上がる。


 クレバーを装備すると攻撃魔法に若干の上方補正が入るため、魔法戦闘メインになってしまうのだ。しかも、物理的な技巧の適性も低い。故に、アラトは中々クレバーを使わないのである。


『事実でしょう?』


「まあ、否定はできないな。しかも今回も期待に添えそうにない」


『ええ、そうでしょうね。明らかに戦闘が一段落した雰囲気を感じますし。それで、私は何をすれば?』


「俺に『MPパサー』を使って欲しいんだ。実はMPがほぼ枯渇状態でな」


『……はぁ、仕方がないですね』


「悪いな」


『量は?』


「7割ももらえれば充分すぎるかな」


『わかりました』


 ため息を吐きながら『MPパサー』を行使するクレバーにアラトが申し訳なさそうに謝る。

 実際、ちょっと酷い扱いかなと自分でも思っていた。

 この扱いでクレバーの最大MPの7割を要求しているのだ。厚かましすぎる。


「いやホント、悪いな」


『いえ、構いませんよ。もちろん戦闘で使ってもらいたい気持ちはありますが……使役者の役に立てるならこれも悪くはありません。それに、私は貴方に逆らえませんからね』


「逆らえはするだろ。心情的に難しいかもしれないけど」


『支配されているために逆らえないのも、厚遇されているために逆らわないのも同じですよ。心理的に縛っていることに変わりありません。アラトさんはその辺り上手いですから』


「それ褒めてないな?」


『もちろん』


「『アッハッハ』」


 仲が良くて何よりだなぁ、と離れたところで死骸から刻を奪っている狂童は思った。


『まあ、私はそのどちらでもない理由で逆らわないんですけどね』


「今の話が急に意味を失ったな」


『いえ、繋がりはありますよ。私、貴方と一緒にやりたいことがあるんです』


「なるほど、戦闘で使う云々の話にかかるわけか」


『ええ。貴方と私だけで裏ボスを撃破してみたいんですよね』


「あいつをかー」


 アラトの脳裏に、あの厄介な敵の姿が浮かびあがる。

 《星屑の世界スターダスト・ワールド》のフルレイドを全滅させ、そのうちの12人のトッププレイヤーによる少数精鋭2パーティですら苦戦せしめた最強のボス。

 アラトはそれを単独撃破しているが、あれはプレイヤー数に換算されない『智慧ある武器群』を自身が指示できる最大数呼び出して戦ったからだ。

 フルレイドの半分くらいの数で挑んでいるので、実質ズルである。


 それを、2人で撃破。


「…………無理かなぁ」


『やってみなければわからないでしょう。何事も挑戦ですよ』


「まあ、それもそうだな。帰ったらやるか」


『その意気ですよ。とはいえ、向こうに戻ったら私の自我がどうなるか不明ですが』


「そこは残念になる可能性もあるけど、こっちにあいつがいたとしても絶対に戦いたくないぞ俺は」


『同感です。下手しなくても全滅しますからねアレ』


「ホントだよ。何回死んだと……お」


 雑談に花を咲かせていたアラトとクレバーが淡い緑色の光に包まれる。

 『MPパサー』が実行されたのだ。

 智慧ある武器の中ではMPがトップクラスに多いクレバーからの『MPパサー』を受け取り、アラトのMPが一気に回復する。5割以上のMPの確保に成功したアラトは満足気に頷いた。


「よし、これで取り敢えずは問題ないかな。助かったよクレバー」


『ええ、どういたしまして。では、私はここでお役御免ですかね?』


「いや、せっかくならもう少し一緒に────クレバー、力を貸せ(、、、、)


()()()()()()


 アラトが急に遠くを見据え、真剣な声音でクレバーに命令する。

 一切の疑問を挟むことなく、クレバーはアラトの指示に従った。

 アラトの手元に収まり、アラトが起動する魔法の補助を行う。

 どんなにくだらない雑談をしていても、多少険悪に見える言い合いをしていても、戦闘時に必要とあらば即座に反応する。

 それがアラトとクレバーが築いてきた関係性であり、絆だった。


「『上位中級雷魔法・降雷蹄(サンダーフォール)』」


 物理的に雷が落ちる。

 轟音が響き渡り、落下地点では砂煙が舞い上がった。


『今のは、何を狙ったんです?』


 クレバーが訊ねる。クレバーには、アラトが何もないところを攻撃したようにしか見えなかった。

 しかし、アラトは戦闘中のブラフ以外でそんな無駄撃ちはしない。何かあるに決まっていた。


「さあ? よくわからん」


『ほう?』


 クレバーが驚きの声を漏らす。わからないとはどういうことなのか?


「あそこに何かあったのは間違いない。恐らくは監視用の何か。落ち着いてみれば、視線を感じたんでね。でもそれが何なのかはわからない。あそこに物体があったかも不明。魔法的なリンクかもしれないし。手応えはあったからたぶん落としたけど」


『なるほど』


 理解はできた。

 アラトは感覚と理屈、双方を大事にしている。どちらか一方に依存することなく、柔軟に比重を変えて立ち回っている。

 今回は感覚に従って行動し、その後で理屈が追いついたのだろう。

 『降雷蹄』は電気信号を阻害もしくは破壊する追加効果を持つ。対人戦で使えば確定で2秒のスタンを与えられる魔法。その追加効果が魔法的なリンクを切断した可能性もあるわけだ。

 クレバーはさらに訊ねる。


『他にはなさそうですか』


「ああ、多分。さっき感じた視線は消えてる。アレはダミーで監視は物理的にしていて、危険を感じたから引いたって線もありえるけどな」


『それはないね』


「狂童」


 死骸を食べて僅かでもエネルギーを回復していた狂童が合流してきた。アラトの魔法行使を受けて食事を切り上げたのだろう。

 クレバーがアラトの手から離れ、狂童となるべく距離を取る。呪われた武器と智慧ある武器は基本的に相容れない。呪われた武器の瘴気が負担になるためだ。


「自信満々な根拠は?」


『この空間の範囲、アラトなら何となく掴んでると思うけど。このサイズで僕が生体を見逃すことはあり得ない』


「なるほどな、説得力がある」


 となると、何らかの力で監視されていたが、それを破壊することで妨害したのが現状ということだろう。


「監視されてるなんて穏やかじゃないし、そろそろ行くか。クレバー、こっちに。狂童は少し離れていてくれ」


『わかりました』


『はいはい。でも、なんでそっちを?』


 単体スペックを比較するなら明らかに上回っている狂童ではなく、クレバーをメイン装備にしたアラトに狂童が疑問を呈す。


「俺の知識に遠隔で監視できる魔法は存在しない。この空間が『異次元地域』系統のものであることを考えると、ここの条件設定に付けられたものか、未知の魔法かのどちらかだ。未知の魔法の場合、魔防を上げておきたいからな」


『なるほどね』


 確かに、対魔法性能で言えばクレバーに軍配が上がる。

 そしてアラトの懸念は、それだけではなかった。


「空間の条件だとしても厄介なことがあってな。監視に中々気付けなかった理由(わけ)、強力な幻惑魔法だと思う。効果を限定的にすることで、魔法の隠匿性と幻惑効果を高めてたんじゃないか? そんなテクニカルなことができそうな奴、俺は1人しか知らない」


『へえ、なんて奴?』


 狂童の問いかけに、アラトは答えるか迷うような間を空けてから、結局はその名を口にした。


「……ジョーカー。俺が向こう(ゲーム)でよく(つる)んでたうちの1人で、《マスパラ》内最強の幻惑魔法使い。刹那主義で快楽主義のヤバい奴だよ」






 大型を倒した直後から出現していた空間の揺らぎに飛び込んだアラトは、別の空間に降り立っていた。

 空間の移動中に何かしらのちょっかいをかけられることもなかった。

 色々と準備したことが無駄になりそうだが、被害があるよりマシだと切り替える。


 空間を歩いていくと、また揺らぎがあった。


『次の空間へのワープだね』


 ふよふよと浮遊してアラトについて来ている狂童が見たままを告げる。

 アラトは頷きでそれに応えた。


「ああ。さっきした備えは切れてないから、このまま突っ込むぞ」


『はーい』


 アラトが空間の揺らぎに飛び込む。

 またもや、一切の妨害はなかった。


 地面に降り立ったことを感触から把握したアラトは、小さく呟く。


「この空間は、もしかすると……」


「今日も考察か? いつもご苦労なこったな」


「ッ!?」


 その小さな呟きに反応する声。

 気配に全く気付いていなかったアラトは、慌ててそちらに振り向く。同時に、一瞬で狂童を『異次元地域』にしまった。


 そこには────ノイズの塊がいた。


「よっ、《ニートマスター》」


「……やっぱりお前か、《万物を欺く者(オールフェイカー)》」


「俺がいることも予想済みかい。怖いねぇ」


 ノイズの輪郭がブレる。声音から、ケラケラと笑っているのが感じ取れた。


「なーにが怖いだよ適当抜かしやがって。今お前、テンション上がりまくりで絶好調だろ」


「あ、わかる?」


「幻惑魔法が()()過ぎてる。そんだけキレッキレなら、お前も相当に()()()ないとおかしいだろ」


 《マスパラ》には奇妙な仕様があった。運営が発表している乱数以上に、魔技の効果が増減するのだ。

 ゲームの仕様解明を生き甲斐にしている検証班の頑張りの結果、そのブレは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことがわかった。

 あくまでも推測だが、検証班及び上位プレイヤーの間ではほぼ確定情報として扱われている。


 幻惑魔法が使われていて、相手の姿や気配を知覚できないのはまだいい。

 アラトは種族や職業由来の幻惑魔法耐性を持たないからだ。そこを幻惑されたら察知できなくなるだろう。

 だが、普通は()()()使()()()()()()ことはわかる。


 意識ごと幻惑魔法に取り込まれる場合(=直接幻惑魔法による攻撃を受けた場合)は、結果的に幻惑魔法が使われていることを認識するのは難しい。発動の瞬間に察知できたとしても、幻惑魔法に取り込まれた後でその認識を書き換えられてしまうからだ。

 だが、今《万物を欺く者》が使用している幻惑魔法は自身に常時掛けているモノ。

 こういった形式は幻惑の内容を見破ることは難しい場合はあれど、使用の有無自体は把握しやすい。

 現にアラトは、《閑古鳥亭》の内部から使用されていたために外からは感知しにくい幻惑魔法すら見抜いた。

 その《閑古鳥亭》でラスカの使用していた『多重合体幻覚』を見抜けなかったのは、他の幻惑魔法も使用されていたから。アレは森の中に隠れた木だったと言える。

 そんなアラトの魔法感知で把握できないなど、早々あり得ないことだ。


 ノイズが、フッと笑った気配がした。


「その通り。流石はアラト、俺のマブダチだな」


「ニュアンスは伝わるけど、いつの言葉だそれ」


「昔の言葉だよ。まあ親友的な」


「ジョーカーの親友認定は薄ら寒いものを感じるんだよなぁ……」


 プレイヤーネーム、ジョーカー。《万物を欺く者(オールフェイカー)》の2つ名を持つ男からの評価に、アラトは思わず遠い目になった。





「……で? 本題なんだけど、お前は敵ってことでいいんだよな?」


「敵だなんてそんな。まあ確かに、アラトのことを監視はしてたけどよ」


「俺を、じゃなくて俺達を、だろ。ホンットくだらない言葉遊びが好きだな」


「ありゃりゃ、バレちまったか」


「隠す気もないくせによく言う……」


「くっくっく」


 ノイズが本当に楽しそうに笑う。

 アラトはジョーカーとの会話に慣れているから問題ないが、あまり関わりのない者なら会話の主導権を完全に握られてしまう頃だろう。

 まあ、ジョーカーが言葉遊びレベルで済ませていることも影響しているだろうが。


「ま、どっちでも────」


「次はっと────あ、アラト!」


 アラトが思うところを述べようとしたその時、後ろで誰かが着地する気配。

 見なくても声でわかる。キララだ。


「おっすキララ。お疲れ」


「アラトも無事だったか。他の2人は?」


「わからない」


 そう訊いてくるということは、キララも2人を見ていないのだろう。

 そうだろうなとアラトは思う。アラトにはとある確信があった。


「チッ、しゃーねー。勝ってることを信じるっきゃねーか。……で、そのノイズ野郎は? 予想はつくけど」


「ジョーカーだよ」


「クソ、やっぱりそーかよ」


「いよう、《魔法を支配する者(スペルドミネーター)》。元気してた? てか、お前の状況理解を待ってあげる俺優しくね?」


 キララが登場してからここまで、ずっと黙っていたジョーカーが言葉を発する。

 それにキララは、鋭く一言。


「うるせー死ね」


 キララはゲーム(向こう)でジョーカーにコテンパンに負かされたことがある。

 それ以来リベンジができていないので苦手意識があり、かなり当たりが強かった。


「うわー辛辣。なあアラト、お前んとこのおチビさん、ひでえぜ? こっち来ない?」


「期待もしてないこと提案するな。お前、それで俺がお前の側ついたら萎えるくせに」


「うーん、よくわかってらっしゃる。わかってるついでにもう1つ、アラト、サポキャラの2人が来ないのに慌ててねぇな? なんでか教えてくれね?」


「理由は2つ。お前がここにいて、そのテンションだからだ」


「???」


 キララの頭にクエスチョンマークが並ぶ。

 気になる話題なのでアラトが落ち着いていられる理由を知りたかったが、これだけでは理解できなかった。


「ヒュ〜、さっすがぁ! ま、《魔法を支配する者》がまだ理解できてないみたいだから、詳しい説明よろ」


「……まあいいか。1つ目、ジョーカーなら必ず、俺達が合流できる場所で待つ。俺達と敵対することになるなら、絶対にそうする。その場合、他の場所では出会えないようになってるよな。この空間、多分トンネルだし。2つ目、ジョーカーは俺達の戦いを観ていた。もしもクシュルとクリリが期待外れだったら、ここまでハイテンションになってないと思う。多分、お前から見て何か光るものがあったんだろ?」


 ノイズが、大きくブレる。

 堪えきれずに笑みを浮かべたかのようだった。


「大正解。それでこそ俺の親友だ、アラト」


「えっ!?」


 キララが驚きの声をあげる。明らかに、アラトの考察ではなくジョーカーのセリフに反応していた。


「ご褒美に教えてやる。《ニートマスター》、お前のサポキャラは多分無事だ。敵を倒したのは確認してる。自滅ワンチャンってくらいか。《魔法を支配する者》、お前のサポキャラはわからん。俺の罠にハマったとこまでしか見届けてないからな」


「なっ、てめー!?」


「そうカッカするな。俺は幻惑魔法の使い手だぜ? 相手を罠に掛けてなんぼだろうが。今更何にキレてんだよ」


「ぐっ……」


 キララが憤るのも無理はないが、ジョーカーの言うことにも一理ある。

 騙し合いは戦いの場では当たり前のことだからだ。幻惑魔法使いであるなら、よりそれに特化する。

 しかし、論点すり替えであることに違いはない。


「キララ。今はクリリを信じよう」


「……ああ」


「ジョーカー。ご褒美ついでにお願いがあるんだが」


「お? なんだ?」


「お前の今の……同僚、か? この場のトップに会わせて欲しいんだがな。魔王配下の八幹部が七番だったか」


 そう。アラト達の目的はそれだ。そのために危険を冒してここまで来ている。

 敵を追い詰めている今、そこはしっかりと確認しておきたい。

 キララも、アラトがお願いと言いつつも脅迫に近いスタンスなのを理解したのだろう。

 徐々に魔力を練って高めていく。


「あー、それ? 悪いんだけど、会わせるのは無理」


「なっ……庇おうったってそうはいかねーぞ!」


「決めつけるなよ《魔法を支配する者》。厳密にはそうじゃなくて、あいつはもうここにはいない。俺が逃げるよう提案したのは事実だけどな」


「なっ……」


「へぇ? お前にしてはえらく慎重だな?」


 キララがジョーカーの先読みの行動に驚きで言葉を失う中、アラトは淡々と問いかける。


「だってアラト、会えたら殺す気だったろ?」


「そりゃもちろん。チャンスだし」


「みすみす殺させるほど俺も適当に生きてねえんだなこれが」


「お前なら自分で凌ぐことに楽しさを見出しそうだけどな」


「もう少しして何度かやり合ってからならそれもアリだけど、ファーストコンタクトでそれはなぁ。リスクが高過ぎる。そういう奴もいるかもだけど、俺の方針とは合わない」


 2人のやり取りを側で聞いていたキララが、驚きのあまり声を漏らす。


「なんつーか、ジョーカーってもっと自信家なイメージだった……幻惑魔法に耐性のないアラト相手に引くなんて……」


 その呟きを拾ったジョーカーは、これ以上ないくらい呆れた声音で答えた。


「あのなぁ……《魔法を支配する者》? 本気で言ってるのか? 本気で言ってるなら、考えなし過ぎるぞ」


「どーいう意味だよ」


 キララが食ってかかるが、ジョーカーはさらに呆れを濃くした声音で返答する。


「どーいうも何も、お前の隣に立ってる奴のことを考えろよ。アラトは耐性が緩いだけのただのプレイヤーじゃない。事前準備と考察の果てに、《マスパラチャンピオンシップ》で2回の優勝を果たした傑物(バケモン)だぞ? 俺1人が逃げるだけならどうとでもするが、他人を庇いながら逃がせると断言する自信はない」


 実際、そうするつもりだっただろ? とジョーカーに問われ、アラトは頷いた。


「まあ、できるかはともかくとして、殺害を狙いはしたな」


「ほらな? こいつは俺の魔法をある程度対策してからここに来てるはずだぜ」


「褒めても何も出ないぞ」


 アラトとジョーカーの気安いやり取りの内容にキララは驚きっぱなしだ。そこで、2つの着地音がした。

 ほぼ同時だが、アラトとキララから見て左から聞こえた物の方が僅かに早い。


「あ、ししょ〜! やっと会えましたぁ〜!」


「おねーちゃん! 合流できたのです!」


「お、やっと全員揃ったな」


 左右からクシュルとクリリが2人に駆け寄るのを一切妨害せず、ノイズはモゾモゾと動きを見せる。


「おねーちゃん、アレは?」


「ジョーカーってプレイヤーだ。あたしらの敵になるらしい。何する気だ、あいつ……?」


「ッ、ジョーカーさんですか!? ししょー!?」


「ああ、間違いない。あいつの性格を考えれば違和感もないよ」


 キララの発言を疑うわけではないだろうが、クシュルは驚きを隠せない。

 アラトとジョーカーは、向こうではかなり仲良くしていた。本当に? という思いが隠せないのだろう。


 だが、これはジョーカーのことをどれだけ深く知っているかの差だ。ジョーカーの行動に対して、当然そうするだろうという納得がアラトにはある。


「お、あったあった。────さーてお前ら、俺からのプレゼントだ。ありがたーく受け取ってくれ」


 そんなやり取りをしている間に探し物を見つけたのか、ジョーカーが何かを放った。

 ノイズ塗れのそれはジョーカーの手を離れたキッカリ3秒後にノイズが剥がれ、その姿を現す。


 それはアラト達にも見覚えのある、水晶の塊────。

 アラトがキャッチしてその名を呟く。


「『記録結晶』か」


「ああ。その中には、お前達が会いたがってる奴からのメッセージが入ってる。それをやるよ」


「へえ、ありがたいことだ。で、見返りは?」


「俺をこの場からそのまま帰すこと……なんてのは、どうだ?」


「却、下。」


 そう言うが早いか、アラトがいきなり攻撃を仕掛ける。既に『記録結晶』はストレージにしまっていた。

 眩い光輪がノイズを囲い、そこから何条もの光線が突き刺さる。


 光線は明らかにノイズを貫通しているが────。


「ちっ。本当に絶好調だな、ジョーカー」


「ククッ、お前こそ。その杖の特性だったか? 遅延発動(ディレイ)なんて小洒落たテクまで使って『光暴縛鎖(ホーリーポージェン)』ぶち当てようとするたぁ、俺をメタる気満々じゃねえの」


 ジョーカーの声が、正面にあるノイズ以外の場所から聞こえる。

 アラトの準備してきたジョーカー対策の本命は失敗に終わったようだった。


 『下位上級照射魔法・光暴縛鎖(ホーリーポージェン)』。この魔法は、幻惑魔法使いにとって天敵とも呼べるものだ。

 5つの光輪が順々に出現し全てが揃った瞬間、中心に向けて数多の光線が放たれる。

 それが幻惑魔法を使っている本人もしくは幻惑効果を与えられた物体に当たった場合、特攻によるダメージ上昇が乗った上で幻惑が解除される。

 今回の場合、ジョーカー自身が魔法使用者で魔法の対象であるため、特攻倍率が加算されることになっていた。


 幻惑魔法に対し効果的なこの魔法だが、欠点が2つある。

 1つは、魔法発動から攻撃完了までの時間が長いこと。光輪が揃ってしまえば攻撃は一瞬だが、揃うまでが遅い。光輪1つにつき1秒。たっぷり5秒もの時間をかけて、攻撃が放たれる。

 もう1つは、光輪の中心に幻惑魔法の起点がないと効果を発揮しないこと。5条の光線の交点に起点がある場合のみ、特攻のダメージ上昇と魔法解除効果が上乗せされる。


 アラトは今回、遅延発動(ディレイ)と呼ばれるテクニックを使って1つ目の欠点を強引に潰した。

 遅延発動は、一部の装備によって使用できる魔法補助だ。

 事前に唱えた魔法が効果を発揮する直前の状態で維持しておける。維持コストとして毎秒消費MPの1%を消費し続けることになるが、その性能は破格の一言に尽きる。


 相手の目の前で詠唱せずに魔法を使えるという点では『詠唱破棄』も同じだが、2つ大きな違いがある。

 『詠唱破棄』は威力減衰を起こすことと、あくまでも魔法を使うだけということだ。

 もし『詠唱破棄』しながら『光暴縛鎖』を使うと光輪が出現し始め、その5秒後に攻撃が発生する。

 今回の場合だと奇襲にならないので、『詠唱破棄』は適さないわけだ。目的に応じて差別化されていた。

 遅延発動は特定の装備の特性であることも差別化要素である。クレバーはその特性を有している分、武器としてのステータス補正は低めになっていた。


「今の『光暴縛鎖』を避けるとかマジか……!?」


「……流石ですね」


 キララは驚き、クシュルは唸った。


 『光暴縛鎖』は通常対人戦で用いられる魔法ではない。詠唱完了から攻撃まで時間がかかり過ぎて、その場を離れられるからだ。

 だからこそ、今の攻撃を回避するためには『光暴縛鎖』が使われると読んだ上で、いつになるかもわからない発動の前に狙いの位置から移動しなければならない。


 それを当然のようにやってのけた。

 ジョーカー、並大抵のプレイヤーではない。


「お前が『記録結晶』投げてきた時の出所にぶち込んだんだけど、どうやって避けたんだ?」


「さてね。秘密だ」


 アラトが問いを投げかけるが、その答えがどこから返ってきたのかわからない。

 空間全体が答えているかのように反響している。


「んじゃ、俺はここらで失礼させてもらうわ。俺らがいなくなって暫くしたら空間が壊れて、お前らは入ってきた場所に吐き出されることになる。安心してくれ」


「……敵になるって言ってる奴の言葉を信じろって?」


 キララが剣呑な声音で返す。

 キララの言うことも最もだ。信じるに値しない戯言だろう。

 しかし、アラトの考えは違った。


「あいつのことだ、どうせ嘘は吐いてないよ。今回は引き分けってところか」


 敵は逃がしてしまうものの、こちらも誰1人欠けることなく帰還できる。

 前に出てきた敵を倒しきれないのは痛いが、相手の戦力を削ることには成功した。

 この結果をアラトは引き分けと評した。


「ちぇっ、揶揄い甲斐がねぇなぁ。もうちょい俺の言葉に翻弄されてもいいんじゃねえの? 親友」


 どんどん声が遠くなっていく。

 それでもなお全体に声が響くので違和感が凄まじかった。

 どうせ声は拾っているだろうと、アラトは普通に受け答えする。


「嫌だね。次会う時は覚悟しとけよ、親友。逃がさないからな」


「ククッ、告白かぁ? 熱烈な殺意(アタック)を期待してるぜ、(あらた)


「本名で呼ぶなよな、(ゆずる)


 くっくっく、というジョーカーの笑い声が急速に聞こえなくなる。

 どうやら、行ったようだった。


「…………」


 アラトは少しの間無言で佇んでいたが、軽く首を振ると振り返る。


 そして何か言いたげな表情の3人を見て苦笑を浮かべ、言った。


「じゃあ、戻ろうか」

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