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唯一無二の《ニートマスター》  作者: ごぶりん
第2章 魔の力、その予兆
41/46

それぞれの戦い クリリ その①

4話同時投稿!(4/4)

前3話を読んでいない人は読みましょうね。ていうか読んで。


クリリの戦い風景。

彼女は先制で1発かまして、1匹倒していましたね。

この流れのまま行けるかどうか。


では、どうぞ。


 




『ギャルォォォォオオオオオオ!!』


 怒りの咆哮と共に飛龍(ワイバーン)が放ってくる火球の軌道を読み、先んじて回避行動を取るクリリ。そこに読み違えはなく、クリリの回避には一切の無駄がなかった。


 アラトやクシュルから見た場合あまり活躍ができていないクリリだが、そもそも彼女はトッププレイヤーの1人《動ける固定砲台》や《魔法を支配する者(スペルドミネーター)》の異名を持つキララのサポートNPCだ。

 この世界に来た時はたまたま2ヶ月近く会っていなかったが、キララは1〜2ヶ月に1回の頻度でクリリを呼んで、一緒に何がしかの攻略をする習慣を付けていた。

 基本的にアラトに放置され行商していたクシュルと違い、強いモンスターとの戦闘経験やクエストの達成回数などがクリリは豊富で多い。

 そのため、レベルもクシュルと比較した場合高いクリリ。激しい魔法戦を何度も繰り広げている彼女が、飛龍(ワイバーン)の火球程度先読みできないわけがないのだ。


(さてさて、1匹墜としましたが。本当に面倒で大変なのはここからです)


 熱を感じられる程の至近距離に火球が着弾しても表情を変えずに駆けるクリリは、大元となる戦闘プランを考えていた。

 既にクリリの周囲は土煙でいっぱいだった。

 飛龍(ワイバーン)の放つ火球も見えないが、それは魔力の網で察知して対処できるはずだ。


(うーん、取り敢えずこの土埃に乗じて1発入れることは決定事項なのですけど……どれを狙うかが問題です。どうやれば上手く()()()()()()()()()()()のですかね)


 飛龍(ワイバーン)達はまだ火球を撃って来そうだが、そのペースが少し落ちてきている。仲間を殺された怒りを受け止め始めているのだ。

 不意打ちで一撃叩き込むためには、すぐに方針を決定しなくてはならないだろう。じっくり考え込む時間はなさそうだ。


(────うん、決めたのです。成長している大きい幼龍。アレを狙うのです)


 実際に頷きながら、クリリは魔力を整える────。



 そもそもの話、クリリは何を狙っているのか?

 以前述べたように、龍種は下手に殺すと厄介なことになる。

 幼龍を最初に殺せば親龍が怒り狂ってステータスアップ。

 親龍を最初に殺せば他の個体が防衛本能を刺激されてステータスアップ。

 まあ、このステータスアップは最初に何を殺したかのみに依存し殺した数には依存しないから、何を最初に殺すかだけを悩めばいいのだが。幼龍を2体ぶち殺したからといって、親龍のパワーが元気100倍! とはならない。


 今、クリリはどの飛龍(ワイバーン)を殺すのかを悩んでいた()()()()()()。それはもう決めている。小さい方の幼龍だ。クリリはアレを最初に殺す。


 だが、それにはいくつか問題があった。

 まず、親龍のステータスアップの問題。前も言ったが、いくら飛龍(ワイバーン)といえども10倍のステータスと真っ向からやり合ったらクリリは負ける。

 これは、事前に親龍のHPを魔法数発圏内まで削っておき、発狂後に速攻で倒すことで一応の対処は可能だ。

 そのためには、親龍を上手く削れたところで幼龍を殺す必要があるのだが……ここで、2つ目の問題点。

 それは幼龍といえど、一撃で殺すのは難しいこと。

 理想は、執拗に親龍を狙ってから一撃で幼龍を吹き飛ばすことだ。

 だが、奴らは仮にも龍種。魔法耐性・魔法抵抗力ともに低くはなく、何より火属性への耐性が高めなので、クリリの得意分野での攻撃は効果が薄いのだ。幼龍も地道に削るしかない。


 ちなみに、子の成龍が一撃で絶命したのはダメージが原因ではない。あの成龍が墜落した瞬間、HPは1/3削れていればいい方だっただろう。

 だが、比較的柔らかい腹から落ちた衝撃で内臓がグシャグシャになったはずだ。そのダメージに耐えられず、奴は死んだ。

 この世界が現実であることを、クリリは上手く利用していた。


 さて、敵のHPは地道に削るしかないと結論が出たわけだが、まだ問題はある。

 親龍は幼龍が狙われると護ろうとする傾向にあるのだ。これが3つ目の問題。

 クリリとしては全ての飛龍(ワイバーン)をギリギリまで削ってから幼龍撃破、続けて2匹の親龍を討伐し最後に大きい幼龍を処理したい。

 しかし、奴らは積極的に子を庇う。そうするとダメージ調整にしくじってしまい、親龍を先に殺すことになってしまうだろう。


 ステータスの上昇率は低いのだし、それでもいんじゃね? と考えるプレイヤーもいることだろう。別にそれが間違っているわけでもないし。

 ただ、クリリは『思考能力を残した上でステータスが上昇する3匹の飛龍(トカゲ)を相手にするより、思考能力を失う代わりにステータスが急上昇する2匹の飛龍(トカゲ)+1を相手にする方が楽』だと考えている。


 その差はプレイスタイルに起因する。

 接近戦主体のプレイヤーは、10倍のステータスの相手なんてしていられない。こちらの反応速度を上回る攻撃を叩き込まれる可能性があるからだ。

 逆に、魔法戦主体のプレイヤーは、思考能力が残る方が厄介だと感じるはずだ。敵の動きが速くなり狙いを付けにくくなるのだから。思考能力を失わせてしまえば、向こうは最短距離で突っ込んでくる。敵がどんなに速くても、そこに魔法を合わせるだけで攻撃は当てられる。


 つまり、クリリが悩んでいた内容は『如何にして幼龍のHPを上手く削るか』ということだ。

 結果、クリリは初撃で大きい幼龍を狙うことにした。その後もしばらく大きい幼龍を狙い続けるつもりでいる。


 大きい幼龍を執拗に狙う姿勢を見せることで、小さい幼龍への庇護の意識を分散させる。

 これがクリリの考えだ。


「では……『上位上級激流魔法・海王の勇槍ポセイドン・ブレイブランス』です!」


 魔力の網を展開し続けているので、飛龍(ワイバーン)の居場所は手に取るようにわかる。

 大きさを小さくして敵から見えにくくした『海王の勇槍』(自在に大きさを変えられるだけで威力はそのまま)を、大きい幼龍に向けてぶっ放した。


 ビュッ! ドチュッ!


『グルォォォオオン!?』


 肉を抉る嫌な音の直後、飛龍(ワイバーン)の鳴き声が轟いた。命中だ。


「よしよし、この調子で行くのです」


 クリリは満足そうに微笑んで、こちらを狙う火球を避けるため再び走り出した。





 数分後。


「『中位上級暴風魔法・小さきモノの反乱(ダストハリケーン)』! さあ飛龍(トカゲ)、場を荒らした報いを受けるのです!!」


 クリリが指定した範囲から竜巻が巻き起こる。その範囲は、半径20mの正円。

 『小さきモノの反乱(ダストハリケーン)』は、底面積の合計が400π平方m以下になるように範囲を設定し、そこから竜巻を発生させる魔法だ。竜巻は細くなったり膨らんだりするので、発生範囲が厳密な円柱になる、ということはなかったが。

 もちろん、効果はこれだけで終わりではない。そんなショボい魔法なら上級魔法として設定されるわけがなかった。

 この竜巻には『通過した範囲に存在する直径1cm未満の粒子を凝集させて、直径3〜5cmの塊を作り出す』という効果がある。新しくできた塊はご丁寧にしっかりと固められるので、ぶつかった程度では壊れない。

 そんな物が暴風に乗って叩きつけられる。そのダメージは馬鹿にならない。

 そして先程、ここでは何度も土埃が舞った。飛龍(ワイバーン)が撃った火球によって。

 それを、ありがたく再利用させてもらう。


 この魔法が発動した瞬間、範囲の上にいる存在は一瞬動きを止められる。生命活動以外の行動を全て中断させられ、微動だにしていなかったことにされるのだ。

 今回、飛龍(ワイバーン)達は全員がこの魔法の範囲内にいたため、動きを止められる。

 動きの止まった状態から、この竜巻を避けることは不可能に近い。


 荒れ狂う暴風が竜巻となって舞い上がり、飛龍(ワイバーン)達を包み込む。


 風が激しすぎるために飛龍(ワイバーン)の鳴き声は聞こえないが、相応のダメージを負っていることだろう。


(ふぅ。いい具合に大きい幼龍を狙いつつ、他も少しですが削ったです。そろそろ大きい幼龍を庇わなければならない、と刷り込まれる頃だと思うのですが……)


 一旦敵の動きを封じたため、落ち着いて状況を見直すクリリ。

 小さい幼龍を削りに行きたいのだが、いい頃合いだろうか。


 ちなみに、クリリは基本的に対象が1体の魔法を使って攻めていた。

 何故広範囲魔法でいっぺんに攻撃しないのかというと、複数を攻撃の対象にしてしまうと魔法抵抗力が合算されるためダメージを大して与えられないことと、ダメージを調整できないためにHPの多い親龍を上手いこと削れる前に幼龍が倒れてしまうことが理由だ。

 『小さきモノの反乱』は魔法で直接ダメージを与えるのではなく、魔法で固めた物体をぶつけることでダメージを与えているので魔法抵抗力の影響を受けない。状況に応じて適切に魔法を使用できる辺り、クリリの魔法へ対する理解の深さが窺えた。


(ん……『小さきモノの反乱』の効果、そろそろ終了ですね。準備はしておくのです)


 クリリはポーチから即時型MP回復ポーションを取り出して口に含んだ。

 効果値が3000とそこまで高くない物の服用だったが、これでいい。クリリはこの戦闘の序盤で火球を避けていた時に『MP自動回復速度上昇』と『MP自動回復力強化』を唱えていたし、後々ヤバくなる可能性を考えると、その時のために効果値の高いポーションの使用は温存しておきたかった。


 MPが回復したのを確認したクリリは魔法を詠唱する。

 それと同時に、『小さきモノの反乱』が拘束力を失ったかのように膨らんだ。


「『上位上級暴風魔法・鷲獅子の覇嘴自恣グリフォン・メガフォン』」


 バシュッ! と、『小さきモノの反乱』から粒子の塊が四方八方に解き放たれて、竜巻は消滅した。その礫の中にはクリリ目掛けて飛んできている物もある。

 これは、『小さきモノの反乱』の欠点。粒子を固めて形成した固体を、魔法終了時に周囲に無差別に放ってしまうのだ。


 だが、そんなもの知っていれば対処は容易だ。


 ドォゥンッ!! と、クリリを中心にして周りの空気を押し退ける爆風が吹き荒ぶ。それは飛来した小さな固体など押し返し、弾丸として再利用した。

 完全に偶然だが、その弾丸は大きい幼龍の身体に強かに打ちつけられた。


『キュオオオオン』


 か細い悲鳴が上がる。

 集中して狙われて、だいぶ参っているようだ。


(いい傾向です。ここから、狙いを分散させて上手く削っていくです)


 考えながら、クリリは飛龍(ワイバーン)の様子に注視した。

 大きい幼龍以外の個体も多少なりとも傷付いている。ダメージはまだまだ蓄積していないだろうが、物理攻撃が効果的なことを確認できたのはよいことだ。


 と、クリリが満足気に観察していた時。


『『クォン・クォォ────ン』』


 (つがい)の雌が、鳴いた。


「……あん? あの飛龍(トカゲ)、まさか」


 その鳴き方に、クリリは猛烈に嫌な予感を覚えた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 雌の飛龍(ワイバーン)から柔らかい光が溢れ、全ての飛龍(ワイバーン)を包み込む。

 その光に触れている部分は徐々に傷が塞がっていて────。


「ッ、飛龍(トカゲ)の分際でぇ!! 回復魔法なんて使うんじゃないです!! 『下位上級深淵魔法・身中の毒芽(トロイ・ポイズン)』ッッ!!」


 クリリは右手の上に出現した(まだら)模様の歪な球体に指示を出し、飛龍(ワイバーン)の方へ嗾ける。

 斑球が回復魔法の光に触れる寸前、その光が搔き消える。

 雌の飛龍(ワイバーン)が魔法を中断したのだ。

 クリリの攻撃の種類を察したのだろう。


「…………ふぅぅぅぅうううう。落ち着くのです、クリリ。ここでムキになっても、いいことはないのです。これ以上回復魔法を使われるわけにはいかないですし。…………気は乗りませんが、仕方ないです」


 龍種の回復魔法とかマジで嫌な思い出しかないクリリ。

 その経験のためか少々取り乱したが、心が乱されていてメリットなどない。



 クリリ、貴女(わたし)は奴らの行動を止めるために何をすればいい? ううん、もうわかっているんですよね? さあ、やりましょう────?



 クリリは持続型HP回復ポーション、持続型MP回復ポーションをポーチから取り出して飲む。

 その最中から、クリリは莫大な魔力を練り始めていた。


 戦闘技能が極端に魔法に偏っていて、魔法に対する造詣も深いクリリ。

 彼女の豊富な知識と確かな経験が、奴らを止めるのに最適な方法は現在自分が使えない魔法を使うことだと告げていた。


 本当は、クリリはこんなことしたくなかった。魔法使いが魔法を使うのに時間を掛けるなど、自分の実力不足を喧伝しているようなものだ。

 本来使えない魔法を時間を掛けて無理矢理使うなどクリリのプライドが許せなかったが、それ以上に、あの飛龍(トカゲ)どもに負けることは我慢がならなかった。


 また、飛龍(ワイバーン)が回復魔法を使う。

 妨害したくてウズウズしてくるが、今は魔力を練っている途中。集中を途切れさせて妨害に走るなど本末転倒だ。目的を見失うな。


 ────5秒後、クリリは魔法を使う準備を整えた。

 クリリは知る由もないことだが、クリリが今からやろうとしていることの用意を数秒で終えるのは、正直言って常軌を逸している。

 本当に、才能の塊のような少女だった。


飛龍(トカゲ)ェ! お前のふざけた行動もそこまでです!! 『上位特級固有魔法・妖祠之快封陣(あやしぼこらのかいふうじん)』ッ、発動(はつど)ォ!!」


 クリリの魔法が発動した瞬間、この立方体の空間の6面全てに超巨大な魔法陣が出現した。

 魔法陣は妖しく輝いており、その光は淡く揺らめいている。また、その色も紫に近い色である、という共通点があるだけで、不規則に変化していた。


 だが、飛龍(ワイバーン)に何か攻撃が実行されている様子はない。

 飛龍(ワイバーン)達も不気味に思っている様子だったが、気にしないことにしたらしい。回復を続けていた。


 そこに、クリリが待ったをかける。


飛龍(トカゲ)がっ、いつまで呑気に回復してるんです!? もう1度、『下位上級深淵魔法・身中の毒芽(トロイ・ポイズン)』! おりゃあなのですッ!」


 今度は目の前に出現した斑球に射出の命令を下し、飛龍(ワイバーン)の回復の妨害を試みる。「なのですッ」などと可愛げに付け加えてはいるが、先程からの振る舞いがあるので全く可愛くなかった。


 ちなみに、『身中の毒芽』は回復魔法の光にぶつかると効果を発揮する魔法だ。

 あの斑球は回復の光に当たった途端、溶けるようになくなる。というか、『ように』ではなく実際に溶けている。

 回復魔法の光に染み込んだ毒は回復対象の体内に取り込まれ、そこで芽吹く。身体の内部、警戒が薄くなるところを攻めたてるトロイの木馬として。


 敵の体内に入ったが最後、かなりの時間内部からダメージを与え続けるので、戦闘を有利に進めたいという意図もあったのだが……また飛龍(ワイバーン)は回復魔法を中断した。えらく警戒されている。


「チッ、勘のいい飛龍(トカゲ)です。大人しく食らっていればいいものを。……まあ、いいです。主導権は、渡さないのです」


 クリリは瞬時に魔力を練り上げた。何なら今すぐ撃つこともできるが、まだ撃たない。

 クリリは、タイミングを図っていた。


(────来るです!)


『『クォン・クォォ────ン』』


 クリリが攻撃してこない隙に、また少しでも回復しておこうとしたのか。

 雌の飛龍(ワイバーン)が高く鳴いた。


「『中位上級暴風魔法・嵐風投槍(テンペストジャベリン)』!!」


 同時に、クリリも叫ぶ。

 攻撃するのは、この時を措いて他にはない────。


『ク、クルォン!?』


 ────回復魔法が不発に終わり、飛龍(トカゲ)どもが動揺する今この瞬間(とき)以外あり得ない!!


 クリリが放った攻撃は、狙い過たず大きい幼龍にぶち当たった。



「さあ、もうここはわたしの世界です! 一緒に遊ぶのですよ、飛龍(トカゲ)!!」


 追撃に『海王の勇槍』を撃ちながら、クリリは笑う。

 さあ、共に踊ろう。ダンスの主導権は、渡さない。









「……馬鹿な!? アレは、『妖祠之快封陣』は、『妖狐族』の固有魔法のはず! 何故あの『狐人族』が使える!?」


 4つの戦場を観賞していた男が、動揺を露わにして叫ぶ。

 あのサポートNPCは、どう見ても『狐人族』で間違いない。髪の色からしてそうだ。

 髪の色を変えるアイテムもあるにはあるが、アレは実は幻惑魔法の効果を半永続的に付与するというものなので、この男には効果がない。その程度の幻惑耐性は備えている。


 つまり────。


「……俺が知らねえ()()がこの世界にはあるってことか。今日この場を切り抜けたら検証だな」


 先を見据えて考えをまとめる男。

 どのような検証を行うか大まかに決めた途端、口の端が吊り上がる。


「いやぁ、しかし……『狐人族』で『妖祠之快封陣』を使うサポキャラとはね。ハッ、本当に退屈しねえなぁ……あーあ、楽しみが多くていけねえや……」


 男のニヤニヤ笑いは、しばらく(おさま)らなかった。

 男にとって楽しみが増える4つの戦場は、その激しさを増していく。









 魔法陣に取り囲まれた空間で。


『『クォン・クォォ────ン』』


 雌の飛龍(ワイバーン)が、再び回復魔法を行使する。

 しかし、それは効力を発揮しない。


「いい加減諦めたらどうです!? 無駄なんですっ、その行動は!! 回復なんて、できないんですよッ!! 『中位上級深淵魔法・誘引爆撃(アトラクト・ナパ)』ァームッ!!」


 クリリの魔法によって空中に出現した闇が急に膨らみ、引力を得る。それは飛龍(ワイバーン)達を強烈に引き付け、中心部で衝突させた。衝撃を受けた闇がさらに膨張し、飛龍(ワイバーン)達を呑み込んで弾ける。衝撃が飛龍(ワイバーン)の身体を叩いた。


 飛龍(ワイバーン)の身体が、流される。


「逃がすわけないのですっ!! 食らえ、『下位上級界凍魔法・氷塊破鎚(アイスブレイクハンマ)』ァァァ────ッ!!」


 爆発の中心部から4体の飛龍(ワイバーン)の距離が開かないうちに、クリリの重い追撃が叩き込まれる。

 出現したのは、直径30mに達する超巨大なハンマー。氷塊で形成されたそれは、密度も硬度も魔法で補強されていた。

 弱い種族とはいえ、仮にも龍種の鱗を全力でぶん殴ったにも関わらず欠けすらしない『氷塊破鎚』。

 その衝撃は先の『誘引爆撃』の比ではなかったらしく、飛龍(ワイバーン)は抵抗すらできずに地に落とされた。墜落スピードからして、それも多少のダメージにはなっただろう。


 殺すためにはまだまだダメージが足りないが、間違いなくクリリが優勢だった。



「ふ────っ……。はん、飛龍(トカゲ)如きが回復魔法なんて使うからそうなるんです。わたし、絶対にあんなことしたくなかったですのに……クソが、です」


 『誘引爆撃』を使った時といい、クリリのセリフが完全に悪役だった。

 まあ、飛龍(ワイバーン)が回復魔法を使った辺りから不機嫌が極まっていたので、それも致し方ないのかもしれないが。クリリは特に、現状時間を掛けないと発動できない魔法を使わされたことにイラついていた。



 『上位特級固有魔法・妖祠之快封陣(あやしぼこらのかいふうじん)』。キララ達『妖狐族』の最上級固有魔法だ。当然、本来なら『狐人族』であるクリリに使える魔法ではない。


 妖狐を奉る祠の近くでは、何人(なんぴと)たりとも新たに回復行動を取ることができない。

 妖狐とは、言うなれば神に最も近い(あやかし)。そのような存在の前で、回復しようなどと不敬である。


 妖狐の祠に描かれている陣を投射するこの魔法の範囲に入ると、新たに回復することができなくなる。

 新たに、なので常に続いている自動回復には影響しないし、事前に使用した持続型回復ポーションの効果も無効化されない。

 故にクリリは、『身中の毒芽(トロイ・ポイズン)』を使って飛龍(ワイバーン)の回復行為を中断させたのだ。1度切ってしまえば、もう回復できなくなるから。


「あ、持続型ポーションの効果が切れたです」


 『妖祠之快封陣』発動前に使用したポーションの効果が切れた。

 ここからは、クリリも自動回復のみで戦わざるを得ないというわけだ。


「まあ、このまま押していくだけです! 『下位上級獄炎魔法・集中点火(フォーカス・イグニッション)』!!」


 クリリの頭上に、砲台のようなものが現れる。『集中点火』の発動によるものだ。

 クリリは魔法発動とは別に魔力を注ぎ込んだ。

 その魔力量に応じて火球が出現し1つ、2つ……と増えていく。その数が15になったところで、クリリは魔力を注ぐのをやめた。この間、1秒と少し。


 『集中点火』は生成した火球をストックして任意のタイミングで攻撃できる魔法だ。火球を作るタイミングは魔法発動時のみ。その時に作った火球は、ストックしている間消えたりせず、魔法行使者はストック中に他の魔法を使うこともできる。


 では、15個の火球をストックしたクリリはというと。


「『点火(イグニッション)』!!」


 全てのストックを一気に放出した。

 火球は砲台を経由して射出される。その速度はクリリが放つことができる最速の0.8〜1.2倍で調整できるのだが、クリリは最初の3発は0.8倍で、残りの12球は最高の速度で解き放った。


 当然、狙いはある。

 小さい幼龍と他3体を分断するためだ。すぐに回復できない現在、飛龍(ワイバーン)どもは間違いなく回避に重点を置く。


 標的は、大きい幼龍。奴が回避の過程で集団から遠ざかるように火球で追い立てる。

 そうすれば────。



(ほら、(つがい)の親龍が幼龍を護るために近寄ったで────す? あれ、雄の親龍が積極的に庇うんですか。大きい幼龍を? むしろ雌の親龍は小さい幼龍を気にしている……?)


 通常、このような構成の群れの場合、戦闘能力の高い雄が小さい幼龍を護り、そこそこ戦えるようになっている大きい幼龍は雌とカバーし合うように動く。


 そのため、違和感を感じたクリリだったが────。


(まあ、大きい幼龍を狙い続けたことで上手く奴らの警戒を釣れたということですかね。そのまま、行くです)


「『下位上級天罰魔法・審判の籠ジャッジメント・ケージ』です!」


 突如雷の檻が現れ、寄り添っていた雄の親龍と大きい幼龍、クリリが無理やり効果範囲を広げたために少しだけ2体から離れていた雌の親龍ごと中に取り込んだ。


 クリリは知らないことだが、この魔法は模擬戦でアラトが使ったものと同じである。しかし、その規模と強固さは比べるべくもないものだった。


 囚われた番の飛龍(ワイバーン)は必死に檻にタックルし脱出を試みているが、雷に身体を灼かれるだけで檻が揺らぐ気配はない。

 それもそうだろう。『審判の籠』は魔法発動前に時間を掛けて条件付けをすることが可能なのだが、中に捕らえているモノが条件を満たせば満たす程に籠の堅牢さが増していくのだから。

 条件はほとんど自由に付け加えられるので、時間さえあれば上位特級の結界も同然である。


 今回、クリリが設定した条件は。

 1つ、複数である。2つ、同種である。3つ、有鱗種である。4つ、有翼種である。5つ、耐性を30種以上獲得している。6つ、平均で3割以上のHPを失っている。7つ、集団のレベルの範囲は400〜500である。

 以上の、7つ。

 このうち、条件を満たしたのは5つ。

 幼龍が耐性を30種獲得していなかったのかそれは満たされず、またレベルの範囲も違ったようだった。

 まあ、これは当たればラッキーくらいの感覚で設定した条件であったので、クリリも落胆はしていなかった。

 というより、5つも条件を満たせばそれは防御に特化したトッププレイヤーの、補助なしの最高の防御魔法に匹敵するレベルの耐久を誇る籠の完成だ。

 飛龍(ワイバーン)如きにすぐに破れる物ではない。



 ────そして、それだけの時間があればクリリは残り1匹を仕留められる。


「ふふっ……ふふふっ……あははははははッ!! あははっ、飛龍(トカゲ)、いいですか!? お前を惨たらしく殺して、お前の親には発狂してもらうのですよ!! 『審判の籠』のおかげで、あの(つがい)もいい具合に削れそうですし……そのまま倒してやるのです! 油断はしない……最後までキッチリ詰めるですよ!! 『上位上級風魔法・暴君の風斬タイラント・スラッシュ』!!」


 セリフが本当に悪役そのものだし、表情も幼女が浮かべちゃいけないくらいに強烈なものになっていた。余程根深いトラウマがあるらしい。


 クリリが片手を掲げると、その先に風が集まって剣を形作る。

 全長100mはあるだろう風の大剣が、1匹だけ引き離された飛龍(ワイバーン)目掛けて振り下ろされた。


 小さい幼龍はこれを必死に回避、何とか直撃は避けた────。


「逃がすと思ったんですか?」


 ────かに思われた瞬間、クリリが風を操った。

 風の大剣が鞭のようにしなり、小さい幼龍を薙ぎ払う。

 小さい幼龍は姿勢制御すらできずに、150m先の空間の壁に叩きつけられた。


 飛龍(ワイバーン)に攻撃を避けられた瞬間、クリリは風の大剣の制御を手放すことで暴風を巻き起こし、小さい幼龍を吹き飛ばすこともできた。

 その程度の風で揺らぐ程、今の『審判の籠』はヤワではない。デメリットは何もなかった。

 それでもそうしなかったのは、強力な一撃を直撃させたかったに他ならない。



『ギャオオオオオ、グルォォォオオオオン!!』


 距離が離れてしまった小さい幼龍の下へ歩き始めたクリリの背中に、怒り狂った咆哮が届く。


 そんな物は聴こえていないとでも言うのか、一切反応することなくクリリは歩く。


 いつでも魔法が発動できるように魔力を全身に漲らせながら、クリリはニコリと愛らしく微笑んで、言った。



「さて、狩りの時間ですよ、飛龍(トカゲ)甚振(いたぶ)られる覚悟はいいですか? まあ、できていなくても関係ないですけど」



 その声音はきっと、クリリのトラウマを知っているキララが聞いても苦笑いが引き攣るような、そんな昏い感情を伴っていた。



 クリリは冷静に、冷徹に、飛龍(ワイバーン)を追い詰める。



というわけで、それぞれの戦いの様子でした。

まだ誰も決着!とはいかなさそうですね。


多少余裕がありそうなのはクリリだけかな?って感じですね。

結構強いんですよ?あの子も。



さて、4話同時投稿とか初めてやって、意外となんとかなったけど次からは多分しません。1話ずつ出すと思います。

この子の話の先が早く見たい、等の意見があればそれ優先するかな、って感じです。なければ俺が見たい・書きたい戦闘が早く仕上がることでしょう。


それと、しばらく本腰入れて勉強するので、多分来月と再来月投稿できません。

暇な時間あればぼちぼち書こうとは思いますが、いつも書いてる量と同じくらい書けるとはちょっと思えないので、先に伝えておきます。


文句は感想かどっかに投げてください(適当)。


では、また次回。

続きが気になる方は再来月に投稿されることを祈っていてください。


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