サポートNPC
アラトは、頬を引き攣らせながらも何とか言葉を返す。
「お、おう……久しぶりだな。ちょっと訊きたいことがあるから、『側近転移』してほしいんだが……できるか?」
『え〜、ししょーどれだけ寂しかったんですかぁ〜? 声だけじゃ足りなくて、私に直接会いたいなんて〜!』
「……おい」
『それに訊きたいことですかぁ〜? 私今フリーですよ〜! 彼氏募集中ですよ〜! プロポーズも受付中ですよ〜!』
「……話聞けコラ」
『というかぶっちゃけるとむしろししょーに迫られたいって言うか〜! あ、あとスリーサイズは〜』
と、ここでアラトの我慢の限界が訪れる。
「そんなこと誰も言ってないだろう!? くだらないことばっか言うその口今すぐ閉じろ! そんでつべこべ言わずにさっさと転移して来い!!」
『ウフフッ! ししょー、怒っちゃやですよ〜? そんなに私に会いたいと想ってくれるのは嬉しいですけどぉ〜』
「は・や・く・し・ろ!!!」
『もぅ〜、せっかちなんだから〜! わかりましたぁ〜! ししょー、私を受け止めてくださいね〜? 『側近転移』、は〜つどぉ〜!』
その言葉と同時に、『遠距離通信』が途切れる。
やっと彼女がアラトの言い付け通りにしたことで、アラトの口からため息が漏れる。
「はぁ……なんで呼び出すだけでこんなに疲れるんだ……?」
アラトの呟きと同時に、アラトのすぐ側に馬車が現れた。
それを横目で見て、通信相手が来たことを悟る。
アラトは億劫そうに、視線を上に向けた。
「しぃしょぉ〜!! 私を〜!! 受〜け〜止〜め〜て〜!!」
上から、何かが降ってくる。
アラト目掛けて真っ直ぐに。
アラトは彼我の距離を確認し、魔法を使う。
「『中位中級時空魔法・界内転移』」
その場からアラトの姿が消える。
現在下降中の彼女は、自分の斜め下にアラトが現れたことに気づいて、言葉を発しようとする。
だが、アラトがそれを許さない。
「お前はいっぺん反省しろぉ!! 『上位下級蹴撃技巧・月陽墜とし』!!」
「ぶぎゃらぷっ!?」
落下軌道に合わせて攻撃をかませるように予め体勢を整えていたアラトの、遠慮も躊躇も一切ない踵落としの2連撃が突き刺さった。
『界内転移』は、視界内の状況を把握できる場所ならどこにでも転移できるという使い勝手がいい魔法だ。
さらに転移先の体勢の応用も利くので、アラトはよく使っている。
そして『月陽墜とし』は、火属性と氷属性を宿した両の踵落としを僅かな時間差で叩き込む技だ。
上位下級の蹴撃技巧の中では、唯一の属性持ち技巧である。
踵落としされて加速し自由落下の数倍のスピードで地面に激突した存在の横に、アラトが空中前回りを繰り返した末に両足で着地する。
そして、何事もなかったかのように口を開いた。
「よお、クシュル。久しぶりだなー。着地も儘ならないほど疲れてるのかー? 体調管理はしっかりなー」
「い、いや、ししょーのせい……」
「なんか言ったかー?」
「………いえ、何でもありません。あの、ししょー、すみませんでした……」
「あー、わかればいいよ。ほら、さっさと起きろ。どうせ大したダメージになってないだろ」
ぱっちり大きな赤い目と白くきめ細やかな長髪を持った《クシュル》と呼ばれた少女は、プルプル震えながらもなんとか起きあがる。
少女は、ライトグリーンの羽衣と膝丈のスカートを身に纏っている。柔らかそうな印象を与える服装である分余計に、左右の腰に差されている鞘に収められた短剣が異質な存在感を放っていた。
クシュルが、辛そうに口を開く。
「いや、これちょっと堪えました……」
「ならこれに懲りてふざけるのやめろ」
「いやですよぅ〜! 私は私の道を行くぅ〜! あいうぃるご〜まいうぇい〜!!」
「うるさい黙れ」
「くぴぇっ!?」
アラトはいきなり元気になって叫び始めたクシュルの足を払い、完全に滞空したところに肘を叩き落とす。
再び地面に撃墜されたクシュルだったが、今度はすぐに復活する。
「ししょー、痛いですよぅ〜! はっ、これはまさか高度な愛情表現〜!? そんな、ししょーからの熱烈ラブコールだったなんて嬉しいぃ〜! ししょーもシャイなんだからぁ〜!」
「お前ホント黙れ。相変わらずウザ耳だな」
「なっ!? いくら愛しのししょーと言えども、私のキュートでラヴリィーなウサ耳を馬鹿にするのは許しませんよぅ〜!」
そう。クシュルの頭の上では、白くて大きなウサ耳が、めっちゃ動き回ってその存在を主張していた。
本人の性格と合わせると、ウザいことこの上ない。
「はぁ……『明るく社交的で、物怖じはしないが引き際はしっかり弁える、礼儀正しくすべき時は正しくできて親しみやすい』性格ってやつが、どうしてこうなった?」
アラトは深くため息を吐いてから、表情を真面目な物に変えてクシュルに向き直る。
「お前に訊きたいことがあるって言ったのは覚えてるな? これは真面目な話な」
「真面目な話!? やっぱりプロポ……」
「ふざけたら俺の全力の一撃を叩き込むからそのつもりで」
目が一切笑っていないアラトの笑みを見て、クシュルの動きが凍った。
「……ぜ、全力〜? あの、瞬間火力で《動ける固定砲台》をも上回ったししょーの全力ですかぁ〜?」
「そうだ、その全力だ。ほしければくれてやるけど?」
「………そうですかー。ししょーにそこまで言われちゃしょーがないですねー、あははー。真面目にやりますかー、あははははー」
アラトから目を思いっきり逸らして、冷や汗をだらだら垂らしながらクシュルがそう言う。
確かに、引き際を弁えているのは間違いない。
「頼むから、いつも今くらい素直であってくれ………」
アラトの心の底からの呟きだった。
「まず訊くけど、ここがどこかわかってるのか?」
「わかんないですねー。《マスパラ》の世界でないことはわかりますよー。微妙に異なる世界って感じですかねー?」
「ふーん、そういうことはわかるのか。じゃあさ、俺とお前の正確な関係って理解してるのか? 自我はあるみたいだけど」
「はいー。サポートNPCですよねー? 私は、アラトというプレイヤーのサポートNPCとして作られましたよー」
ちなみに、先ほどクシュルが使った『側近転移』は、サポートNPC専用魔法だ。サポート固有魔法には階級がなく、詠唱の際に階級を言う必要はない。
対象プレイヤーを中心とした半径50mの半球の内部ならどこでも、転移先を設定できる。さっきの真上のように。
もちろん、人や物がある場所には転移できないため、その場合はプレイヤーのすぐ側に行き先が変更される。
この魔法の便利なところは、サポートNPCが身に付けられないアイテムも一緒に転移できる点である。
先ほど馬車がアラトの側に出現した理由はこれだ。
「それも理解してるのか。なら、お前はここでどういう扱いになってる? この世界で生まれた設定とかになってないか? あと、俺達プレイヤーの扱いはとうだ、わかる?」
「残念ながら、私達サポートNPCはあなた達プレイヤーに付いてきたという扱いですねー。この世界の知識はありませんよー。プレイヤーの皆さんは、ふつーに異世界人っていう扱いだと思いますけどー」
こうして真面目にやれば優秀な分、いつもの残念さが余計にアラトの心に刺さる。
「チッ、役に立たねえ」
つい、愚痴をこぼしてしまった。
街の名前がわからなかった落胆もある。
「ちょ、それは流石に傷つきますよー」
「……確かにちょっと理不尽だった、悪い。でも普段から真面目にやってくれたら普通に褒めるんだけど。……そういえば、俺が瞬間火力であの火力馬鹿を超えたの知ってたんだな。ゲームの時から自我があったとか?」
アラトはふと思いついたことを訊いてみた。
一介のサポートNPCに過ぎなかったクシュルが、何故あのことを知っていたのか。
ちなみにあのこととは、アラトが《マスパラチャンピオンシップ》で優勝した時、決勝トーナメントの2回戦で《動ける固定砲台》の二つ名を持つ超火力マジックアタッカーと対戦した時のことだ。
彼女が放った最大威力の上位特級魔法攻撃を、たったの一撃とは言え、アラトは自らの持ち得る魔法と技巧の組み合わせで威力的に上回り、彼女に透過ダメージを与えたのだ。かなり無理矢理だったので、アラト以外にできた者はいない。
というか、下位上級までの攻撃魔法で特級魔法を使えるプレイヤーに挑むアホがそもそもいなかった。
そして、アラトはあの大会で優勝して《ニートマスター》の二つ名で呼ばれるようになったわけだが、この大会の戦い方が原因で《召喚奪取者》とか《道化を嘲笑う暴君》とか《刹那の超新星》などと呼ばれたりもする。
「そんなわけないですよー、自我があったらもっと喋ってますってー。こっち来て自我が芽生えた時に気づいたんですけど、私の中に知識としてありましたー。何だろう、記録した映像を眺めてる感じなんでしょうかー?」
「へえ、面白いな。てことは、俺が優勝した時の戦い、全部わかるわけか?」
「そーですねー。実感はないですけど、知識としてならありますよー」
「そっか。そういや、お前どのくらい強くなった? さっきの攻撃をかなり余裕を持って耐えたみたいだし、結構レベル上がってるだろ?」
アラトがクシュルのウザさに耐えきれなくなって、クシュルに仕事を押し付けて野に放ってから、現実世界の時間で2年以上経っている。
サポートNPCは、サポートする対象のプレイヤーがログインしていなくても勝手に行動しているというシステムになっていた(オンラインに誰か一人でもプレイヤーがログインしている限り、仕事をしているサポートNPCは活動を続けていた)ため、かなりの時間をかけて旅をしていたはずだ。
その間に、多くの戦闘があっただろう。
「ししょー、私のことが気になるんですか〜? それなら、身体の隅々まで教えちゃいます〜!」
真面目な話が終わったのを瞬時に理解していつもの調子で何かほざき始めたクシュルにチョップをかまし、アラトはそのままクシュルの頭を鷲掴みにする。
「俺は勝手に見るから、黙ってろよ?」
「はいぃ……」
サポートNPCに関するシステムで不便な物は、2つあると言われている。
無論1つは、リセットが利かないこと。失敗した時に、続行orアバターから作り直しになるのは厳しい。多くのプレイヤーが、涙を呑んで続行を選んでいる。
そして2つ目が、サポートNPCに直接触れていないとステータスを確認できないことだ。
今は関係ないが、遠くの地でサポートNPCが死にそうになっていても、プレイヤーにそれを視認する手段はないということだ。
そしてそのために、アラトは今クシュルの頭を掴んでいる。
クシュルをぶら下げているのとは逆の手でメニューを操作し、クシュルのステータスを表示した。
クシュルも何だかんだで気になるのか、一緒に画面を覗き込む。
──────────────
名前:クシュル
性別:女
種族:兎人族
職業:旅人・旅芸人・踊り子・吟遊詩人・行商・傭兵・宝物探求者・放浪者・拳闘士
Lv:726
HP:37872
MP:9468
攻撃:29982(+9100)
防御:22092(+7300)
魔攻:6312
魔防:12624
素早:56808(+42606)
習得魔法:固有・風・土・無・サポート固有
習得能動技巧:固有・曲芸・舞踏・歌謡・拳撃・蹴撃・切断・刺突・隠密・瞬動・手当・回避
習得受動技巧:固有・旅の心得・舞の心得・歌の心得・商売上手・機動力上昇・宝の匂い・哀れみの目・移動速度上昇・耐火・耐水・耐土・耐風・耐雷・耐闇・耐光・耐熱・耐冷・耐氷・回避上昇・耐毒・耐幻惑・耐麻痺・耐即死・HP回復速度上昇・被ダメ軽減・憎悪値増加・敵対行動確率低下・被クリティカル率低下・技巧冷却時間短縮・技巧硬直軽減・物理攻撃力上昇・技巧威力上昇・技巧発動時間短縮・反応速度上昇・観察眼・危機感知・危機回避・回避・気配察知
──────────────
「「………………」」
ステータスを見た二人は、沈黙していた。
男の方は、職業の欄に存在している『ある職業』を見て唖然として。
女の方は、『ある職業』が表示されている理由を察して冷や汗を流しながら、何を言われるか戦々恐々として。
当然というか何というか、それは同じ職業だった。
それは───────。
「………おい、なんで『放浪者』が入ってる? クシュル、これの就職条件は知ってる?」
「………はいぃ………」
「……言ってみ?」
「……所持金0の状態で旅をして金銭面のトラブルに見舞われた後に、他の人にお金を恵んでもらうこと……ですぅ」
「そうだ。何で条件を知ってるのかとか確認したいことと言いたいことはいっぱいあるが、ひとまずそれは置いといて。一つ言わせてくれ」
「…………はぃ」
アラトは大きく息を吸い込み───空気を全て吐き出すつもりで叫ぶ。
「何してんだお前は───────っ!!!!」
「すみませぇぇぇんっ!!!!」
流石のクシュルもふざける余裕はなく、全力で土下座した。
シャウトして落ち着いたアラトは、まずクシュルの話(言い訳)を聞くことにする。
「んで、言い分は?」
「え、えーっとですねー……。以前、《モンケショバイの街》に行った時にすごい好みのアイテムをいくつか購入したんです。すると、値段が所持金ちょうどで……。結局買えたからホクホクだったんですけど、仕入れがその直後にあったの忘れてて……。《マスパラ》は、仕入れする時にお金を払うのはご存知ですよね? 仕入れする物の状態も値段に関わるためですけど……。それで、お金がなくて仕入れることができなくて……その時、ツケにしてもらいましたぁ……」
サポートNPCは指示された仕事に関してはかなり忠実にこなすが、それ以外では勝手に動く。
しかし、そうは言っても───
「お前、馬鹿だろ」
「はうぅ〜っ!?」
アラトは温度を全く感じさせない視線をクシュルに向け、端的に罵倒する。
中々堪えたようで、クシュルは肩を落として両手を地面についている。
「一般人ならいざ知らず、商人たるもの、そんなことじゃダメだろうが」
「その通りですぅ〜……」
いつものウザ耳がしおらしくウサ耳になるだけでなく、尻尾までもが心なしかいつものフサフサ感を失っているように見える。
アラトはクシュルがこの件を心底反省していると判断し、最後にため息をついて、口調を明るいものに変える。
「はぁ……。ま、やっちまったもんはしょうがない。後でちゃんと払ったんだろ?」
「は、はいっ! それはもちろん!」
「なら俺がどうこう言う話じゃない。確か放浪者には金の入りがよくなる受動技巧があったはずだし、デメリットばかりでもないからな」
それを聞き、クシュルの表情から緊張が取れる。
ちなみに、その受動技巧とは『哀れみの目』である。
「………はぁぁぁあ〜〜! よかったよぅ〜! ししょーに嫌われたかと思ったぁ〜! 捨てられるかと思ったぁ〜!」
「いや、さすがにこんなことで捨てたりしねえよ。一応頼りにはしてるし」
「え、それって相思相愛じゃあ〜!?」
「調子に乗るな」
「あてっ!」
すぐ調子に乗るクシュルを拳骨で黙らせ、アラトは苦笑を浮かべるのだった。
「さてと。お前、結構頑張ったんだな。レベルかなり上がってるじゃん。仕事に出した時なんて中級覚えたてだったのになー」
《マスパラ》の最高レベルは1000で、200区切りで習得可能な級が昇級する。
初級はレベル制限なし、下級は201以上といった具合だ。
つまり、中級を覚えられるレベルは401以上。
本当に覚えたてだったので、クシュルは300以上レベルを上げたことになる。
高レベルになる程レベルアップしづらくなってくるので、アラトは素直に感心していた。
「そりゃあもう〜! ししょーの隣で戦えるようになりたかったですから〜!」
「そうか、頼りにしてるぞ。職業も『傭兵』に『宝物探求者』、『拳闘士』まで増えてるし。かなり戦いやすくなったんじゃないか?」
「そうですね〜、『拳闘士』に就職してからは楽になりましたぁ〜!」
《マスパラ》には転職システムはない。
ゲーム開始時に、数多の基本職から1つの職業を選び、ゲームを進める中で条件を満たし、上級職に新たに『就職』していくのだ。基本職の変更はできない。
上級職に就職することで、基本職が消えることはない。
また、『職業』と『種族』のパラメータ補正は重複する。
そして、『無職』には新たな就職先は用意されていない。世知辛い世の中である。
これらは、ゲーム開始時の職業選択時に説明される。
「あっと、そうだ。クシュルはなんで就職条件を知ってたんだ?」
「すみませんししょー、わかりません〜。上級職への就職条件は何故か理解できますぅ〜」
「なら、『調教師』にはならないのか? 確か派生先にあったよな?」
「え〜、嫌ですよぅ〜! ししょーと2人っきりでいちゃいちゃする時間が減っちゃいますからぁ〜!」
「ああ、まあいざとなったら俺が魔法使えるしいいか」
「うぅ〜。ししょーのスルースキルが高いぃ〜」
戯言をさらりとスルーして、アラトは次の話題に移る。
「ならお前、『後戻り』のやり方はわかるのか?」
『後戻り』とは、正確には『離職転換・初心帰り』という無駄に長い名前の、基本職習得システムである。
上級職への道筋は、一つではないものもある。
例えば『調教師』になろうと思ったら、『旅人』から『行商』を経るか『道具使い』から直接派生することでなれる。
『後戻り』は、ある上級職から離職することで、それに通ずる基本職に就くことができるシステムだ。
もちろんデメリットは存在する。
離職した上級職には2度と就くことができなくなる上、新たに習得した基本職からのその上級職への道のりも閉ざされる。
先ほど例にした『調教師』をまた例にとろう。
『旅人』から『調教師』になって離職し『道具使い』の基本職を習得した場合『調教師』になれなくなるだけだが、『道具使い』から『調教師』になって離職して『旅人』になると、『行商』にも就職できなくなる、ということだ。
よってプレイスタイルに特に拘りのない廃人プレイヤー(別名トッププレイヤー)は、いかに就職できない上級職を減らし、また補正の少ない上級職を犠牲にして新たな基本職を得るかということに腐心する。
「『離職転換・初心帰り』のことですかぁ〜? それが、わからないんですよぅ〜」
「あ、そうなの? なら無理してやる必要はないか。『後戻り』は条件がキツいからなぁ」
そう簡単に強くなられては面白くないという運営の方針で、『後戻り』の条件はめちゃくちゃ厳しい。
レベルを上げれば簡単というわけでもなく、そのプレイヤーのレベルに合わせた調整が施されるので難易度はかなり高かった。
プレイヤースキルの低い中級プレイヤーの中には、離職するだけして基本職習得クエストを達成できなかった者も数多くいるはずだ。
念のため補足しておくと、『無職』以外の全ての基本職を習得することはシステム上不可能である。ゲームバランス崩壊を阻止するためらしい。
「それはそうと、お前装備充実したな? この素早、兎人族の専用装備のおかげだな?」
「はい〜! 大きな要因は《兎人の跳靴》と《兎人の二双高剣》ですぅ〜! 兎人族の集落に行商に行った時にもらいましたぁ〜!」
「そうか、よかったな。魔法はなんか覚えたか?」
「あ、一番いいので中位上級の風魔法は覚えましたよぅ〜! 防御系統の魔法ですけどね〜」
「了解だ。さて、取り敢えず訊きたいことは訊けたし、そろそろ行くか。クシュルはどうする?」
「もっちろん〜! どこまでも付いていきますよぅ〜!!」
「オッケー。なら、行くぞ!」
アラトはメニューを操作して、クシュルの馬車をアイテムストレージにしまう。
名前の欄には、《クシュルの馬車》と表示されている。わかりやすい。
アラトの指示に、クシュルは嬉しそうに応えた。
「はい〜!」