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唯一無二の《ニートマスター》  作者: ごぶりん
第2章 魔の力、その予兆
37/46

魔王幹部とやらの所へ殴り込み

お久しぶりです、ごぶりんです。

先月は忙しすぎて投稿できませんでした。


今回の話、大きな欠点がありますが楽しんでください。


では、どうぞ。

 






「また来たか……ほい」


『ピュルエエエエエエ!!』



 その後も、敵は次々襲いかかって来たが。



「めんどくせー。おら、死ね」


『ギイイイイイ!!』



 油断のなくなったアラト達からしてみればそれが脅威になることはなく。



「これで、お終いですねー」


『グモオオオアアアアアア!』



 ただ、立ち塞がる存在を淡々と蹴散らして。



「食らえです!」


『キュロオオオオオ!!』



 アラト達は、ついにここまでやってきた。





「ここ……変だな。結界か? どう思う、キララ?」


「認識阻害系の空間魔法だろーな。魔力の質と隠蔽具合から見ても、結構いい術者じゃねーか?」


 アラトでは確信が持てなかったのだが、キララは断言した。

 そのやり取りで気づいたが幻惑魔法への耐性補強が切れていたので、このタイミングで掛け直す。すると、アラトにも断言できるくらいハッキリと、空間魔法が認識できた。


「幻惑魔法の使い手は面倒なのが多いので相手したくないんですけど……」


「諦めるしかないです。やらなきゃこっちがやられるです」


「それはわかってますよぉ〜。いいですよねクリリは、幻惑魔法が効きにくくて」


「ふふん、これぞ狐人族の特権です」


「チッ、可愛げのないガキですね」


「そのガキに下らない嫌味を言うなんて、さぞかし人間のできたお姉様なんでしょうね」


「あ?」


「お?」


 クシュルとクリリは、軽口の応酬からすぐさまガンの飛ばし合いに発展していた。

 流れが鮮やかすぎる。

 だがまあ、前ほど険悪な雰囲気ではなかった。2人の間でも何か変化があったようだ。


「はいはい、注目」


 本気でやり合っているわけではなさそうだったが、念のためアラトが注意を自分に向けさせた。

 最後の注意事項だ。


「この幻惑魔法、素の状態の俺を違和感がある程度には誤魔化せるってことはそこそこの使い手が発動した魔法のはずだ。キララもそう判断してくれているしな。何がいるかわからない。心してかかろう」


 アラトの言葉に3人が頷く。


「それと、今から『記録結晶』を起動しようと思ってるんだが、どうだ?」


 アラトの提案に、キララが疑問を示した。


「『記録結晶』? なんでまた」


 『記録結晶』。以前、《星屑の世界スターダスト・ワールド》VSシナリオ裏ボスの戦いの映像は公開されたと話したと思うが、その時に用いられたのもそれだ。起動すると、自分の視界を録画することになる。効果時間は最長6時間。長くて優秀である。


「ヴィンセンスさんに見せるためだ。敵は魔王幹部って話だろ? でもそんな話、実際に見ないと信じられないはずだ。そのための証拠だよ」


 アラトの説明に、ケモ耳娘が納得する。


「あー、なるほどな。そーゆーことならいーんじゃね?」


「ですね。しっかり危機管理をしてもらわないと」


「じゃあ、皆起動するです?」


 クリリの疑問にアラトが頷くのに合わせて、キララが質問を挟む。


「ああ、ちょっと待て。戦闘の手の内────っつーか、あたしらの実力がバレることになるけど、それはいいのか?」


 これに関しては、事前に考えていた。


「この際仕方ないと考えてる。相手の強さだったり、俺達の存在の説得力だったり。信憑性が増すことには繋げられるだろうしな。反対意見はあるかな? あるなら考えなきゃならないから」


「私はないですよぅ〜」


「わたしも、リスクリターンを考えると仕方ないかなと思うのです」


「いや、あたしも反対ってわけじゃねーんだ。どう考えてるのか聞きたかっただけでさ。そーゆーことならりょーかいだ」


 3人の返答を聞き、アラトは再度頷いた。


「じゃ、『記録結晶』持ってるならお願いしたいかな」


「はいよー」


「わかりましたぁ〜」


「起動するのです」


 アラトも含めた全員がメニューを開き、アイテムストレージから『記録結晶』を選択して起動した。


 アラト達の視界の右上に赤丸とRECの文字が。

 録画開始だ。



「よし、行こうか」


 三者三様の返事とともに、アラト達は一歩を踏み出した。








 抜けるような青い空が、見える。

 今は夜なので、これは幻影か設定した風景の類いだろうか。


「……あん?」


 空間魔法との境界を踏み越えたアラトは、違和感を覚えた。


 もしやこれは、ただの空間魔法の結界などではなく────。


「────やっぱり、皆いないか」


 アラトの嫌な予感通り、クシュル達の姿はなかった。

 はぐれた、というよりは別々に飛ばされた、と言った方が正しいか。


「罠だったってわけね。用意周到なことで」


 アラトが最初に覚えた違和感。アレは、ここが異空間になっていたからだ。普通の空間とは違う空気、それをアラトは感じ取った。

 ここは『異次元地域』とほぼ同様の空間のようだが、環境条件の設定などはできなさそうな不便さをアラトは感じていた。『異次元地域』の劣化魔法のようなものが、この世界にはあるのかもしれない。

 ちなみにこの場所は、1つの部屋になっている。一辺100mと少しの底面に、高さが50m弱の直方体の空間。そのことも把握する。


 色々と考えてみたが、要するに。


「敵には空間魔法の使い手と、恐らくだけど幻惑魔法の使い手がいるわけだ……面倒(めんど)くさ。それに────手荒い歓迎だな」


 アラトの前方では、かなりの数の魔物がアラトのことを待ち構えていた。


 敵から視線は逸らさずにアラトは考える。


(見える分には、角ウサギやゴブリン系統が多いか。あれらの個体全てが、()()角ウサギと同等に強化されていたとしても俺なら負けることはない、はずだ。いざとなったら《智慧ある武器群インテリジェンスシリーズ》を召喚すればいい。それなら間違いなく負けない。ただまあ、『記録結晶』で録画している以上、可能な限り手の内は見せたくないんだよな……頑張ってみるか)


 皆にはああ言ったが、アラトの本心としては手の内を晒したくはない。実力は別として、(わざ)は極力隠す方針だった。

 そこまで考えたアラトは、腰に差していた2本の短剣を引き抜く。《宵闇の双短剣》だ。


 手の中でくるりと半回転。逆手だったのを順手に持ち替えて、全力の威圧を解き放つ。

 前方の魔物共が一斉に後退ってぶるりと震えた。一拍置いて、恐怖を振り払うかのような咆哮。

 個々としてはアラトより弱いだろうが、その数の圧は確かな迫力となってアラトを襲う。


 アラトも、負けじと吠え返した。


「かかって来いッ! 全員まとめて、肉塊に変えてやるッ!!」







 同時刻。


 クシュルは、多数のスライムと対峙していた。

 直径が200mはある、円形の高台のような場所。その中心にクシュルはいて、完全に囲まれていた。


「はぁ〜……相性最悪の相手ですぅ〜」


 スライム。粘度の高い水性の身体を持ち、打撃への高い耐性を誇る種族だ。また、種類によっては斬撃や魔法攻撃への耐性を獲得していることもある。

 これだけ聞くと、大変強いモンスターである。だがそれに反して、スライムは大して危険視されていなかった。何故か。

 スライムがあまり恐れられていないのは、熱や火に弱いため対処が容易で、種族単位で基礎パラメータが低いことに起因する。打撃耐性が高かろうが、斬撃耐性を備えていようが、スライムを丸々叩き潰してしまえば死ぬのだ。また、()()のスライムには明確な弱点である核があり、それを割ることでも倒すことができる。


 弱点も多く、いざとなればステータスでごり押せる。

 スライムは、恐れる相手ではない。


 しかし、クシュルは知っていた。()()()()()スライムは、方向性が違うだけで強さ的には下位の龍種に匹敵する。


 アラトの話では角ウサギの上位種が今までに確認された形跡はなく、であるなら()()角ウサギは調教(テイム)されて鍛えられたものだろう、という結論が出ていた。

 相手側には調教師(テイマー)がいて、モンスターを強化している。

 なら、目の前のスライム達が強化されていないということはあり得るか?

 ────いや、あり得ない。


 クシュルはげんなりしながらも、意識を切り替える。全員で臨む気楽な攻略から、単騎で挑む難易度の高い攻略へと。

 アラトの使役するスライム達を相手していると思って、本気で行く。消耗は気にしない。というか、消耗を気にしていたらアラトのスライムには勝てない。経験済みだ。


「────────!!」


「ええい、やってやりますよぅー!!」


 音もなく飛びかかってきたスライム達を、迎え撃つ。


 無音で跳ね回るスライム。

 声を出して気合いを入れるクシュル。

 この戦場は、クシュルの声だけが響くことになりそうだった。












「げっ、こいつらは……」


 立方体の部屋に転移してきて早々に呻き声を上げたのは、キララ。

 乙女がしてはいけない表情で、前方の敵を見つめている。



 視線の先にいたのは、細身の長剣と不可思議な形状の盾を持った《骸骨(スケルトン)》。《骸骨戦士(スケルトンウォーリアー)》と呼ばれる種類だった。

 骸骨戦士は、どうでもいい。いや、どうでもよくはないが、キララに取っては大きな問題ではなかった。


 問題は、奴らが手に持つ盾。


 嫌な記憶が蘇る。ゲーム開始2ヶ月の、まだまだ初心者だった頃のトラウマが。



 取っ手以外の全てが触手で形成されているこの盾、実はモンスターだ。

 《大食漢の触手ハングリー・テンタクル》。触手の中心、取っ手を身体に貼り付けた存在が本体であり、通常は目にすることはできない。移動能力は低く、触手で地面を押してズルズルと動くことしかできないので、常に背後を取り続けることも可能ではあるだろう。

 厄介なのは、こいつらの特性だ。魔法に対する完全耐性。これは正しい意味での完全であり、被弾する魔法の威力が上がろうが数が増えようが対応できないことはない。

 大食漢の触手ハングリー・テンタクルの主食は魔力であり、魔力を用いたあらゆるモノを食う。攻撃魔法、補助魔法、魔法武器などなど。

 その反応範囲は半径50mにも及び、かなりの速さで触手が伸びてくる。見た目からは考えられないような速さと伸縮性なのだ。


 こいつの反応範囲内にいると満足に魔法が使えなくなるので、魔法使いはこいつを倒そうとする。

 物理攻撃には適度な耐性しか備えていないので、簡単に殺せる────と思いきや。そうもいかない。

 大食漢の触手を物理で倒そうと接近すると、必死に距離を取ろうとしながら再生の早い触手を伸ばして攻撃してくる。これに突き刺されると当然の如く魔力(ゲームでいうMP)を持っていかれ、さらにその魔力は触手の再生に使われる。ほとんど永久機関だった。


 こいつはどの三大種族でゲームを始めようとも、ちょうど2体目のGQ(グランドクエスト)ボスを倒す頃に現れる。その進行度にしては強めな魔法も使えるようになってきた初心者達を叩きのめす悪魔、と呼ばれていた。

 幸い動きは鈍いので、こいつの反応範囲外に出ることが一番の対策とされていた程だ。




 大食漢の触手は、2体目のGQ(グランドクエスト)ボス討伐少し前から3体目のGQボス討伐後少しの間出現し続ける。《マスパラ》の魔法職プレイヤーに多大なトラウマを叩きつけたこいつは、その後しばらく出てこなくなる仕様だった。

 具体的には、8体目のGQボス前まで。


 以前、《マスパラ》はどの三大種族でゲームを始めようと戦うことになるボスの種類は変わらず、進行度に応じてボスの強さや行動パターンが変化すると述べた。

 アレは、6体目・12体目のGQボスを倒すと他の三大種族の始めの街へと移動する必要があることによるのだが、進行度に差があっても、出てくるモンスターの種族に大きな変更は為されず、その強さが変化する(角ウサギのような対初心者用モンスターを除く)。

 つまり、大食漢の触手も同様に、強化されて再登場するのだ。


 それが、目の前にいるこいつら。見た目はそのままである。

 この骸骨戦士(スケルトンウォーリアー)と戦闘する時点では骸骨(スケルトン)との戦闘経験もあるので、プレイヤーは戦うモンスターの特性は理解している。


 スケルトンというと、多くの作品で打撃が弱点である描写がなされていた。

 確かにただの骨なわけで、叩いたら折れそうだし、砕けそうだ。

 そのイメージを裏付けるように、《マスパラ》の少し前に発売されたファンタジー系のゲームでも、スケルトンの弱点はハンマーのような打撃系の攻撃だった。


 だが、《マスパラ》の開発陣の考えは違った。


 ヒトが生活できるのは、頑丈な骨が身体を支え、強靱な筋肉が身体を動かしているからだ。

 それを骨だけの身体でやろうとしたらどうなるのか? 骨に、両方の特性を持たせるしかない。


 なるべく物理法則に則ろうという、開発陣の無駄で頭の悪い努力だった。



 結論としては、骨にその頑丈さに加えてしなやかさや伸縮性、強靱さを付与する。


 筋肉は、衝撃にはそこまで弱くない。断裂に対する抵抗性はないが、骨の硬さが切断に対する解答になる。骨と筋肉、互いの弱点を補い合うことで、骸骨(スケルトン)の骨は物理攻撃に対する高い耐性を手に入れた。


 しかし、ファンタジーの全ての骨が伸縮性を持ちしなやかで頑丈、などという設定だと言い張ることは流石の開発陣にもできなかった。そんなに便利な物があるなら、全ての生物が骨の身体へと進化(退化?)していくのが自然だからだ。そうはしたくない。

 そこで彼らは、骸骨(スケルトン)の弱い魔法により骨の性質が変えられた、という設定を付け加えた。その魔法を吹き飛ばせば、骸骨(スケルトン)は死ぬ。


 以上のことから生まれた《マスパラ》の骸骨(スケルトン)は、物理攻撃に対してはかなりの耐性を持つが、魔法攻撃には大して強くない存在となった。



 さて。そんな骸骨(スケルトン)が装備するは、魔法への完全耐性を持つ大食漢の触手ハングリー・テンタクル

 最悪のアンハッピーセットだ。


 この組み合わせは、誇張抜きで現トッププレイヤーの全員を1度は殺している。

 トッププレイヤーのラインは色々な意見があるが、800レベルを超えている者は基本的にそう見做される。人数にして50万人に届くかどうか。その全員を、である。


 現在トッププレイヤーの枠に入っている彼らは《マスパラ》開始初期から頻繁にゲームで遊びまくり、攻略の最前線を突き進んできた猛者達だ。

 時にGQボスに地力で負けて普通にぶっ殺されたり、時に初見殺しにハメられてぶっ殺されたりしながらも経験を積んでいた。8体目GQボス攻略目前ともなれば現在でも初心者は脱したと評価されるレベルで、これは大雑把に言えばほとんどの基本的なことに自力で対応できる段階だ。

 当時の彼らは現在に比べ情報がない中を手探りで進んでおり、現在と当時の同じ進行度のプレイヤーを比較すると、経験の質・量はともに当時のプレイヤーのが2枚は上だ。

 そんな彼らでさえ、初見では誰1人として突破口を見出せずに虐殺されたというのだから、大食漢の触手を装備した骸骨戦士の強さがよくわかる。


 当時こいつらは、『触手盾の骸骨戦士(シールドスケルトン)』と呼ばれ恐れられた。



 それの、恐らくは強化された個体が12体。

 この状況はキララにとって、厳しいなどという表現では足りなかった。


「はぁー、キッツい。あたしこいつら未だに嫌いなんだよな」


 《マスパラ》でなら、怠いと言うだけで済んだ。仮にやられても、多少のデスペナルティが発生するだけ。それくらいならまた稼げる。

 だが、ここは現実。下手をすれば死ぬ。それをキララは正しく理解していたし、ぶっちゃけた話、恐怖で少し震えていた。


 ────ただ、それでも。


「……震えてたって、なんにもなんねー。死にたくねーなら、やるしかねーんだ。いつもの『負けたくねー』が、『負けられねー』になっただけ。これは、あたしの意地の問題だ……!」


 ゲーマーとしての意地。《マスパラ》トッププレイヤーとしての意地。そして、《マスパラ》最大規模の魔法職ギルド《マジックストライカーズ》ギルドマスターとしての意地。

 魔法使いが苦手な敵と戦うというだけで尻込みすることは、キララのプライドが許さなかった。


 無論、これはまだ命の危険が迫っていないからこその虚勢かもしれない。実際に追い詰められれば、みっともなく泣き喚いてしまうのかもしれない。

 でも、それは今じゃない。ならば、最初から臆することはしない。してはいけない。


 何度も言うが、恐怖はある。負け=死というのは、ゲーム時代にはなかった恐ろしさ。それを感じないほど、キララはイカれてはいない。

 可能なら、逃げられるのなら、この場から去りたい。

 しかし、現実はそれを許さない。戦うしかない。


 だから。キララは、気丈に、嗤うのだ。



「さぁ!! 戦お(やろ)うぜ、骸骨(ほね)ども!! ここは、通してもらう!!」


 部屋の大きさから考えて、敵を1箇所に押し込まない限り、キララの魔法は全て()()()()

 如何にして敵を固めるか。それを考えながら、キララは戦闘の流れを物にするべく、自分から突っ込んで行く。












飛龍(トカゲ)の群れ、ですか。よくもまあこんなものを用意できたものなのです」


 比にしてキララがいる空間の3倍はある立方体の中に飛ばされたクリリは、上空を飛び回る《飛龍(ワイバーン)》を見つめてそう零した。

 群れの個体数は5体と少なめだが、クリリはその厄介さを正確に把握していた。


 あの群れは、成龍の(つがい)とその子で形成されている。

 成龍が3体、ほぼ成龍の幼龍が1体、明らかな幼龍が1体。

 あそこまで成長した子龍は普通親元を離れて自立する。なのにそれがないということは、そうしないように躾けてきたということ。つまり、かなり昔から調教(テイム)しているということだ。それこそ、あの成龍となった子龍が幼龍の時からとか、そんなレベルで。

 幼龍が成龍になるのに必要な期間は、飛龍(ワイバーン)なら30年程度。その間鍛えられ続けたのだとすると、あの番は特に強いはず。


「向こうの虎の子、ってことなんでしょうか。めちゃくちゃ面倒です」


 龍種に共通して見られる特徴だが、自立できない年齢の子龍を殺すと親龍は発狂する。自立してしまえば子供ではなく他の同族と見做すらしいのだが。

 発狂すると暴走(バーサク)状態という固有の状態異常を獲得し、各パラメータがなんと10倍になる。思考能力は無いに等しい状態になるものの、他の状態異常に掛からない仕様により小細工が一切効かなくなるので正直あまり意味はない。

 10倍というと、相手の攻撃が直撃したらクリリは間違いなく死ぬ。掠っただけでもかなりのHPを削られるだろう。

 よって、暴走状態にさせるのは危険すぎる。


 なら、(つがい)から殺せばいいのか?

 実はそうでもない。


 これは飛龍(ワイバーン)等の弱い龍種に見られる傾向で、親龍を殺されるとその群れの子龍の能力が上昇する、番の片方を殺すと残された方の能力が劇的に上昇する、というものがある。

 種族にもよるのだが、それぞれ1.5〜2.5倍程度、3〜5倍程度の上昇になる。飛龍(ワイバーン)は龍種としての格は最低なので、上昇率は最大だ(龍種は格が高くなる程、他の個体に対する関心や執着が薄れる傾向にある)。

 なので親龍のどちらかを殺してしまうと、残された親龍は5倍程のパラメータ上昇、子龍は2.5倍程のパラメータ上昇を果たすわけだ。


 それはそれで、非常に面倒臭い。

 飛龍(ワイバーン)の群れというのは、実はかなり処理が大変な代物なのだ。


 ちなみに腐っても龍種のため、飛龍(ワイバーン)の魔法抵抗性は高めだ。魔防とは別に、そもそも魔法が効きにくい。

 そういう意味でも、クリリとの相性は悪かった。



 それらを全て理解した上で、クリリは。


「うーん、まあ、取り敢えず……あの成体の子龍を()()()()()


 飛龍(ワイバーン)の群れのパラメータ上昇に繋がる要素のない個体に狙いを定めて、当たり前のように殺害を宣言した。


 クリリはゲーム時代、キララに呼び出されて2人でそれなりに高位の炎龍の番を倒したことがある。その経験は記憶(きろく)としてクリリの中にあった。

 1人でその流れを完璧に辿ることができるかはわからないが、やるだけやるしかない。


 ため息を吐きながら、先制で魔法をぶちかます。


「はぁ……『下位上級深淵魔法・過剰加重アディショナル・グラビティ』です」


 突きつけられた指先から黒線が射出され、成体の子龍を射抜く。

 それは衝撃も痛みも飛龍(ワイバーン)に与えなかったが、疑問を抱く暇もなく対象に異常を来たす。

 いきなり自重を保っていられなくなり、加速しながら落下していった。


 龍種は翼を羽ばたかせることによる浮力で飛んでいるわけではなく、魔法による飛行を行っている。

 それを上回る下方向への推進力を叩きつけてやれば────龍は、墜ちる。


 飛龍(ワイバーン)が身を攀じる。特に理由もないただの悪足掻きだろうが、魔法の性質上前後左右に動かれてしまうと墜とせなくなる。

 それは、許さない。


「むっ、させないのです。『中位下級無魔法・加速する行動(アクセル・アクション)』」


 クリリは目の前に出現した星型の塊を引っ掴んだ。硬くはないのだが柔らかくて形が変わるわけでもない不可思議な物体を、墜落中の飛龍(ワイバーン)に向かって全力で投げつける。

 星型は飛龍(ワイバーン)に触れると同時に吸収され、その墜落速度を見てわかる程に跳ね上げた。


 身動ぎすらできなくなった飛龍(ワイバーン)は衝撃に備えることもできず、腹から地面に叩きつけられて絶命した。

 一撃。


 同族を屠られたことに群れは憤るが、パラメータ補正はなさそうに見える。

 ────ここまでは、想定通り。


飛龍(トカゲ)、まずは1匹です」


 飛龍(ワイバーン)4体の口腔から放たれる火球を躱すために走り出しつつ、クリリは戦略を練る。

 主導権は渡さない。

 これは、クリリ(わたし)のゲームメイク。








「──────あれま、ちょっと意外だわ」


 アラト達がいる空間とは別だが、それらから繋がる空間にて、1人の男が戦いの様子を見ていた。

 ここを作り出した空間魔法使いのレベルはその男から見てかなり低く、作成時に設定した各空間の環境を変更することはできないし、空間を作り変えて中にいる自分達だけが脱出することもできなかった。

 だが、その風景を俯瞰することはできたのだ。


「うーん、だーれもビビってねえ……しかも、一番最初にモンスターを撃破したのが《魔法を支配する者(スペルドミネーター)》のサポキャラだってのが驚きだ。《ニートマスター》の『威圧』もやべーしなぁ。あそこにはそこそこの強さの奴も配置するように言ったんだが……」


 男は、アラトを捉えている俯瞰映像に目をやった。雄叫びを上げながらアラト目掛けて走るモンスターの中には、強そうな奴もちらほら見える。

 向こうがこっちの助言を忘れたわけではない。


「あれを一律で黙らせるのは……まあ、俺にもできるたぁ思うが、自信はねえや。相当強くなってんだな。あー面倒臭え面倒臭え。他の奴らもあんな感じってことだろ? いやー、()()()()に着くのも楽じゃないねえ」


 男は、アラトやキララのことを知っているようだった。油断のない目付きで、4人の戦いを眺めている。

 口では楽じゃないと言いながら、その口元はだらしなく緩んでいる。楽しんでいるのが明白だった。


「つーか、なーんで誰もビビんねーわけ? しくじったら死ぬってこと、わかってねえんじゃねえの? わざわざ相性の良くねえ相手をプレゼントしてやったってのになぁ」


 アラト達は与り知らぬところだが、マッチングを決めたのはこの男だ。

 4人が幻惑魔法の境界を越えた時に男の全力で意識誘導を掛け、4人に男の望み通りの移動マーカーを踏ませた。


 結果、広範囲攻撃魔法の火力に乏しく、単体への一撃の威力も悲しい器用貧乏な『無職』にはそこそこ精強な大軍を。

 火魔法や熱魔法の技量が低く、物理主体のために物理耐性が高い敵の突破が困難な『兎人族』にはスライムの団体を。

 トッププレイヤーの一角であり超高火力を持つものの、()()()()()()()()()()()()()()()()()の《魔法を支配する者》には『触手盾の骸骨戦士(みんなのトラウマ)』を。

 《魔法を支配する者》に比べて魔法の威力と技術で間違いなく劣るためにある程度の魔法耐性で殴り合えそうで、4人の中では最も崩しやすそうに見える『狐人族』にはここの持ち駒の中で最強のワイバーンの群れを。

 それぞれぶつけた。


 男は1人呟く。


「これ以上の相性はねえ。攻めるための4つの道には奴らがいる。誰か1人でも落とせれば異空間の特性を利用して上手く行き違いにすることは可能だろうが、もしこの戦いを全て持っていかれたら……撤退しかねえな」


 男はもう、厭らしい笑みを浮かべてはいなかった。

 真剣な表情で戦況を見守りながら、勝ちの可能性を概算し始める。


 映像の中で、場が少しずつ動いていく。

 ────こちらの、不利な方向に。


「……こりゃあ、撤退かもなぁ。……いや、強え。強えよ、お前ら」


 その言い方は、決して現状を喜ぶものではなかったが────。


「……うん、すげえ、強え」


 口が笑みを形作るのを、抑えきれてはいなかった。





いかがでしたか?


ぜんっぜん話が進んでねえ!という大問題さえ除けば、色々と楽しく書いてました。

続きは頑張って早めに挙げるので許してください何でも(ry。


次回からはアラト達の個人戦が始まります。

前回の草原での戦いと違い、完全に空間ごと分断されているのでアラト達がお互いをフォローすることはできません。どうなることやら。


では、また次回。

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