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唯一無二の《ニートマスター》  作者: ごぶりん
第2章 魔の力、その予兆
33/46

深夜の情報交換

こんばんは。ごぶりんです。


月末更新が間に合いましたね!!!!

なんせ今4/31ですもんね!!!!

もしくは4/30の24時25分ですからね!!!!(必死)


まあ内容は相変わらず亀の歩みなんで、のんびり楽しんでくだせえ。


では、どうぞ。

 


 開催を宣言したアラトは、集まったモノ達を見回して口を開いた。


「久しぶりの奴らが結構多いな。あんまり遊んでやれなくてごめんな? でも、個別の挨拶は省略させてくれ。まず確認したいんだが、お前ら、ここが前とは違うってのには気付いてるのか?」


 こっちで使役した虹翼狼以外、ほとんどのモノが頷いた。頷かなかったモノも気付いていないわけではなく、正直どうでもいいから反応を返さなかったようだ。そのうちの1体、《リドルドラゴ》の《ピコ》がアラトにじゃれついてくる。


「ああ、こらこら。ピコ、今は大事な話をしてるんだよ。また今度遊んでやるから、今は我慢してくれ。というか、後できちんと他の奴らに通達してくれよ? 《パメラ》、《リムダ》、お前らも頼むな」


 じゃれつくピコを説得しながら引き剥がし、《ナイトメアパピヨン》のパメラと《ドリームダック》のリムダにも改めて頼むアラト。ピコだけだと話の内容を伝えられるのか不安でしょうがなかった。

 リドルドラゴという種は、幼体と成体で容姿が変わらない。その代わりと言ってはなんだが、膂力や知性など、内面での成長は著しい。

 ピコは、幼体。それでも、アラトがソロで《智慧ある武器群》を使わなかった場合倒すのがかなり面倒臭いレベルには強い。野良モンスターでアラトがそこまで苦戦するのはリドルドラゴだけだった。


「話を戻すぞ。前とは違うこの場所、具体的に何処だか理解できてる奴はいるか?」


 今度は一斉に首が横に振られた。流石に、名前を把握できるというわけではないようだ。


「なら説明しておく。ここは《マーダースクラップ》っていうところだ。前の場所と魔技は同じと思っていいと思う。少なくとも、俺が適当に使ってみた感じ使えなくなってる魔技はなさそうかな。全部使ってみたわけじゃないからわからないけど」


 すると、ピコがアラトにブレスを放ってきた。自分の得意技が使えることの確認だろうか? 何にしても。


「あっぶねえ!? コラ、ピコ! 後で遊んであげるから!! 今は大人しくしてなさい!」


 アラトは難なく回避したが、あのブレスはリドルブレスと言って、どんな追加効果が発生するかわからない恐ろしいブレスなのだ。ちょっとしたステータス異常が起こるくらいならいいが、アレを食らったプレイヤーの中には『ストレージ内のアイテム全消失』とかいう、バグとしか思えない効果を受けた者もいる。急に撃たれるととても怖い。


 シュンとしたピコを一時放置し、認識の共有に努めるアラト。


「さて、俺が一番知りたかったのはドーズとソーズがやってたことだ」


『うむ?』


『旦那、俺らがやってたことってなんだぁ?』


「模擬戦の時、MPを0にしていただろ? アレ、何をどうしたらそうなったのか知りたいんだ」


 すると、ドーズとソーズは困惑するような雰囲気を纏った。


『何を、と言われてもだな……』


『俺らは防護魔法にMPを余分に注ぎ込んだだけだぜ?』


「そう、それだ。それ、どうやってやるのか教えてくれ」


『どうやって……難しいことを訊くな、主よ』


『ただ注ぎ込んでるだけだからなぁ……説明すんのは難しいぜ、旦那』


『────なら、実際に見てみればいいじゃん?』


 その言葉にアラトが振り向くと、斬撃が飛んで来た。

 狂童(クルト)だ。


()()が、普通の『斬撃弾(スラッシュショット)』。アラトなら、見ればわかるよね?』


 確かに、アラトはそれを『斬撃弾』だと認めた。

 納得がいかないのは、完全にアラトに当たる軌道でそれを撃ってきたことだ。


「狂童お前、わざと狙ってるだろ」


『え? 何のことだろ? 僕わかんないや。さてと、そんでこっちが────!』


 狂童が大きく仰け反り、斬撃の体勢を取る。

 その刀身が光り、『斬撃弾』を撃つ────と思いきや、中々発射されない。普通に撃ったのなら、もう斬撃が解き放たれているはずだ。



 10秒後。


()()が、MPを余分に入れて撃つ『斬撃弾』だよ!!』


 通常の『斬撃弾』の5倍程の大きさのモノが、アラト目がけて飛んできた。


「『上位中級防護魔法・反射半球(リフレクトドーム)』。多分、ギリギリで弾けるはず」


 アラトは強化された『斬撃弾』の威力を感じ取り、適切だと思われる防護魔法を選択した。……正確には、何が何でも返したかったので『反射半球』が使えそうか判断しただけだったが。


 ガガガガガガガガッ!! と、護りの結界に多大な負荷が掛かるが、アラトの推測通り攻撃を跳ね返すことに成功する。

 跳ね返された『斬撃弾』は、狂童目がけてまっすぐ飛んでいく。狂童は自身を強化して、『斬撃弾』を叩き斬った。


『もう、危ないなあ。何するのさ、アラト』


「危ないはこっちのセリフだ。さてと、やってみるか」


 ドーズとソーズを疑っていたわけではないが、間違いなくそういうことができるらしい。他のモンスター達も、周りの迷惑にならないように強化した魔法を撃ち出して証明してくれた。


「『下位初級水魔法・水球(ウォーターボール)』。……ダメだ。唱えた瞬間に必要なMPが持っていかれる。どうやるんだ?」


 アラトが首を捻っていると、助け舟を出してくれたのは狂童だった。


『…………もしかしてアラト、前いた所でやってたのと同じ感覚で魔法使ってない? アラトのセンスでできないってことはないと思うから、やり方間違ってるよきっと』


「え? 多分同じだと思うんだが……違うのか?」


『それじゃあできるわけないよ。だって前は余分なMPを使う、なんてできなかったでしょ? できなかったのと同じやり方でやってできるわけがないじゃん』


 ……言われてみればその通りだ。狂童に言われて気がつくなんて、ちょっと悔しいアラトだった。


「なら、どうやるのか具体的に教えてくれるか? どうやればいいのかさっぱりわからん」


 こういう時は、素直に教えを乞うのが一番だ。アラトは、自身に必要な場面で余計なプライドを発揮しない。


『はいはい。まずアラトがやってる魔法のプロセスを説明するよ。あのやり方は、魔法の殻とでも言うべき物を作る→その中に魔法発動に必要な量のMPを取り込む→殻を閉じて、そこに発動する魔法の要素を書き込む→発動って感じなんだ。要素ってのは、属性とかのことね。火・球形・維持・射出・燃焼の要素が書き込まれていれば『火球(ファイヤーボール)』、みたいな。これだと、MP取り込まれてから要素を書き込むまでが何故か自動で起こるんだよね。殻も閉じてるから、MPを追加することもできない』


 殻の役割は、体内の魔力と実際に使うMPが混ざらないようにするためだから。狂童はそう付け加える。


 言っていることはわかった。しかし、そんなプロセスが組まれていたとは、アラトは全く知らなかった。

 プロセスの後半が自動なのは、ゲームだからだろう。狂童の言うことは、魔法を分析するとそうなるというだけのことだとは思う。運営が狙って設定したわけではないだろうし。というか、こんなこと知っているプレイヤーはいないのでは? などとアラトが考えていると、狂童が続きを話し始めた。


『僕達がやってるやり方は、順番が違うんだよね。殻を作るのが最初。これは同じ。でも、この時点で殻に要素を書き込んじゃうんだ。殻は当然閉じない。なにせ、MPを入れてないからね。そして、MPを入れたいだけ入れる。使う魔法は要素によって決まってるから、必要最低限の量は判明してるはず。だから、それ以上入れないと魔法が発動しないよ。んで、撃つ。射出系の魔技だと撃ち出した後にMPを追加する、なんてことはできないけど、結界みたいに維持するタイプは発動後にMP追加することは可能だね』


「魔技って言ったってことは、技巧も同じやり方でいいんだな?」


 狂童が頷く。技巧も魔法と同様のやり方だとアラトに気付かせるために、わざと魔技という言い方をしてくれたらしい。


「────『下位初級水魔法・水球』」


 狂童の説明を思い返しながら、まずは前のやり方で魔法を発動するアラト。確かに意識してみると、先程狂童が言っていたプロセスが組まれている。ほんの一瞬だったが、アラトには感知できた。


 今度は、自分で殻を作るイメージから始める。自分の魔力を用いて、明確に体内と区分けする。


(──できた)


 自然と、アラトは理解した。殻を作り出せたと。


(──これに、要素を……)


 自然と、『水球』を形作るのに必要な要素が頭に浮かぶ。

 それを書き込むと、殻が『水球』専用になった感覚があった。


(──ここに、必要最低限のMP)


 体内の魔力を押し出し、魔法に必要なMPへと変える。

 魔法が完成する。


 と、そこでアラトはあることに気がついた。


「ん、これ……」


『どうしたのさ、アラト』


「このやり方で魔法を使うと、感知しにくいしされにくいな? 魔法完成前に魔力が溜まってる前のやり方と、魔力が溜まるのと同時に魔法が発動するこのやり方の差か」


『その通り。流石だね、アラト。悔しいけど、君のセンスは本物だ』


「お褒めに預かり光栄だ。さて、俺が訊きたかったことは解決したわけだが、お前らからなんかあるか?」


 すると、《スライムキング》の《マスラオ》がぷるぷると自己主張していた。


「お、マスラオ、どうした? なんかわかんないとこあったか?」


 マスラオはぷるぷるぷよぷよぼよんぼよんして意思を伝えてくる。

 使役しているモンスターとなら、話せなくてもある程度の意思疎通は可能な仕様なのが《マスパラ》だった。


「ああ、俺の目的? 俺のっていうよりはこっちに来た俺達プレイヤー全員って感じになると思うんだけど、魔王サマを討伐すればいいんだってさ」


『ぷぎゅ?』


「そ、魔王。どのくらい強いかはわからないんだけど、力を溜めて世界征服しようとしてるんだとさ。だから、必要になった時に喚ぶから、お前達の力を貸して欲しい。頼む」


『ぷぎ、ぷぎゅえー!』


「おお、頑張ってくれるか。ありがとな、マスラオ。まあ俺は魔王倒した後にもやりたいことがあるから、そこでもお前らの力を借りることになるかもしれない。そうなった場合も協力してくれると嬉しい。……ってことを、ここにはいない皆にも伝えておいて欲しい。頼めるか?」


 喧々囂々。その場にいるほとんどの存在がアラトに協力すると騒がしいくらいに言ってくれた。狂童は反応していなかったが、何だかんだ言って手伝うだろう。狂童はそういう奴だ。


「じゃあ、伝えてきてもらえるか? ────その後、俺と遊びたい奴は戻ってこい。相手をしてやる」


『!』


 その言葉にいの一番に反応したのはピコだ。キャオキャオ吠えて、パメラとリムダを急かしながらここにある自分達の住処へと戻っていく。

 他のモノ達も自分の場所へと戻って行く中、狂童だけは動こうとしなかった。


「おい、狂童。お前も1度は戻れよ? シイ、頼んだ」


 半透明な少女が、こくりと頷く。血塗れの宝剣が、ふよふよと宙を飛んで行った。


 シイが話の内容を伝えるのは、通常の呪われた武器にのみ。殺女や狂童のような智慧ある呪われた武器は呪われた武器としての格も段違いだ。格の違う武器同士で無理に会話させたくないアラトは、智慧ある方の伝令(メッセンジャー)に狂童を選んだのだった。


『嫌だよ! 話を伝えるってことは、殺女さんを起こさなきゃならないってことでしょ!? 無理無理!!』


「んー、そんなに殺女が苦手か?」


『苦手っていうか……普段はいいよ、僕にとって害にならないから。でもあの人、寝ているところを起こされるとめちゃくちゃキレるんだよ!! アレは怖い!! ってか普通に死ぬ!! アラトだけだからね、あんな起こし方して何ともないの!!』


「あーならまあ殺女には俺から伝えるから。他は頼む」


『他って!! 簡単に!! 言いますけどねぇ!? あのメンツは全員!! 話するの面倒すぎるでしょうが!?』


 狂童、本気のシャウト。マジで嫌らしい。


『ジジイは絶対こっちの話聞かないし!! 皇子(おうじ)は何考えてんのかわかんないし!! 残りとは仲悪いし!!』


「でもな、狂童?」


 思念(こえ)を荒げる狂童に、アラトは優しく囁いた。


「俺、これから外でやることもあって忙しい。お前、俺に喚ばれない限り暇。……暇人は、働け?」


『僕、人じゃないしぃぃぃいい!?』


「ほら、行った行った」


 アラトは屁理屈をこねる狂童を強制送還で送り返す。嫌でもやってもらわなければ困るのです。


 それから少し待っていると、何かが『異次元への穴』から飛び出してきた。

 ピコである。


「おう、おかえり。ちゃんと伝えてきてくれたか?」


『キャウ!』


「うん、いい返事だ。なら遊ぶかー。あ、リドルブレスはなしで。アレ使われるかもってヒヤヒヤしながらやりたくない」


『キャウ』


「うし、どっからでも掛かってこぉい!!」


『キャオオオオオオ!!』


 互いに気迫の声を上げ、アラトとピコのちょっとした戦い(あそび)が始まった。






 1時間と少し後。


「……何やってんだ? アラト」


 キララが『異次元地域(ディメンジョンエリア)』にやってきて、呆れながら疑問の声を投げた。


「ん? 見たらわかるだろ? こいつらと遊んでる」


 アラトはマスラオに下半身をはむはむされ、頭に《ブレイブコンドル》の《スマッシュ》を乗せて、ピコを抱いて撫でながら、先程の()()を記録した映像を眺めていた。

 その周囲には、アラトと触れ合いたいモンスター達が大勢いて共に映像を観ている。

 映像では、《ワイズワイバーン》の《クレハ》と《フレア・パニッシュ・ドラゴン》の《イラプ》が戦闘に乱入したところだ。すでにアラトは、ピコだけでなく《クリームドラゴン》の《プリン》と《ゴブリンキング》の《ミスタ》も纏めて相手にしていた。


 激戦の様相を呈してきた映像を横目に、アラトはキララに問いかける。


「そんでキララ、何の用だ? 皆もう風呂入り終わったのか?」


 キララの方を見て、アラトは少し驚いた。

 キララは風呂上がりなのか上気した頰を外気に晒している。服装は薄手のパーカーにショートパンツで、パーカーのチャックを半分程下ろしていた。中は薄いピンク色のシャツのようだ。少し、無防備な姿と言える。


「いや。今クリリが入ってて、あたしとクシュルは浴び終わってる。あたしはアラトの様子を見に来ただけだ」


「そっか。ならこのままここにいるか? て言っても、やることと言えばそいつらと戯れるくらいしかないけど」


 アラトに懐いているモンスター達を眺め、キララは優しく微笑んだ。

 その表情を見て、アラトは少し見惚れた。

 やはり綺麗だな、と思う。


「なあ、アラト」


 近くに寄ってきたスライム種を撫でながら、キララはアラトに声を掛けた。


「なんだ?」


「あたし、アラトのことが好きだ」


 突然の告白。

 アラトの思考が一瞬止まる。


「……ありがとう。急にどうした?」


「いや、あたしのは自爆した結果アラトに好きなのが伝わっただけで伝えたわけじゃなかったから。改めて伝えとこうと思ってさ。キッカケも変ではあったけど気の迷いとかじゃねーことも合わせてな」


 何とか持ち直して訊き返すと、そんな言葉が返ってきた。

 なるほど確かにとアラトが思っていると、キララは話を続ける。


「1日半くらいアラトと一緒にいて、少しだけどアラトのこともわかったし。やっぱり基本的に、アラトは優しいな。ゲーム内で見たこととか聞いた噂とかが、アラトの演技って可能性は低そうだ」


「告白してくれた相手から褒められまくるのはちょっとくすぐったいけど、嬉しいよ。ありがとな」


「ただ今日、アラトに信用されてねーなーとも思ったよ」


 それを聞いて、アラトは言葉に詰まる。すぐに否定しようとするが、何故か言葉が出なかった。それは、キララの言いたいことを察したからかもしれなかった。


「……信用してないってことはないと思うけど」


「信用っつーか、信頼? アラト、今日の草原での戦闘前にあたしらにマーカーみたいなの付けたろ?」


 キララとクリリであれば魔力の性質からどんな魔法か察することもできるだろうと思って付けたので、バレることは予想していたアラトは素直に頷く。


「それは別にいいんだ。あたしらの位置を把握するためには有効な手だし、帰ってくる頃には剥がれてたからな」


 でもな、とキララは続けた。


「あいつらの話にあったゴブリンの強い個体。アレの気配はアラトも感じてたはずだ。存在を強調するようなことをしてたからな」


「ああ、比較的わかりやすかったしな。でも、それが信頼の話とどう繋がる?」


「アラト、あの時なんであたしを助けに来た? 敵の気配のヤバさとしてはあたしの方が上だったけどな、それはあたしを助ける理由にはならねーよな?」


「…………」


 アラトは何も言えない。言える言葉がなかった。


「数の話をするのも意味がねー。あたしとあいつら2人ならあたしの方が強いからな。要するに、状況だけを見るならアラトはあたしの方じゃなくクリリ達の方に行くべきだった。でも、アラトはこっちに来た。なんでだ?」


「それは……」


 ここで、キララは真剣だった表情をフッと和らげた。


「その顔を見るに、自分でも気付いたみてーだな。そう、アラトは()()()()()()()()()()()()()こっちに来たんだ。自分の鍛えたクシュルなら何とかする、っていう信頼があるんだよ、アラトには。無意識だったろーけど」


 その断言を受けても、アラトは返す言葉を持たなかった。事実だと、アラト自身納得していた。


「ごめん、キララ。キララの言う通りだ」


「謝んなくていーよ。長く一緒にいた存在をより信頼するのは当然だ。だからこれは、悔しがるガキみてーなあたしのからの宣戦布告」


「え?」


 アラトが動揺する間も無く、キララは言い放つ。


「あたしは強くなる。アラトに『キララなら大丈夫だ』って思わせられるくらい、強くなってみせる。見てろよ、アラト」


「…………」


 唖然。アラトの状態を端的に表すならそれがピッタリだ。突然再度告白されたと思ったら今度は宣戦布告だ。もう訳がわからない。そもそも、キララはアラトに勝てるくらいには強いのに。


「告白も宣戦布告も、ただの意思表示だよ。あたしはアラトに認められてないって感じた。だから認めさせてみせるって宣言した。それだけ」


「……そうか、期待してる」


 返事はこれでいいか自信がなかったが、キララがニッと笑ったのでよかったのだろう。アラトは苦笑し、最初から思っていたことを告げた。


「ていうかキララ、その格好はちょっと無防備じゃないか?」


「ん? ……ああ、アラトになら別にいいかなって。外ではこんな格好しねーよ」


「よくないだろこちとら健全な男だぞ」


「あ、そっちまで気が回ってなかった。ごめん」


 素で気付いていなかった様子。


「俺が風呂入るって言った時の反応と全然違くないか?」


「慣れた。あたし、環境の変化に対応するのは得意だから」


「めっちゃ得意そうだなマジで……」


 アラトが呆れてジト目になると、キララは居心地が悪くなったのか無理矢理話を打ち切った。


「さ、さーて、あたしはそろそろ戻ろうかなっと」


『クルル……』


 その言葉に、ピコが反応した。

 というより、先程キララが宣戦布告した辺りからピコはキララを気にしていたのだ。


「ん、どうしたピコ?」


『クル、クル、クルル』


「あの女とも遊んでみたいって……もしかして、俺と遊び足りなかったか?」


『クルルル、クル』


「ただ()りたい? けどそれもあるのか。うーん、もしかして皆遊び足りないか?」


 アラトが見渡しながら訊ねると、力強い頷きが多く帰ってきた。

 アラトは頭を掻きながら考える。


「もう一戦するか? いやでもなあ……時間が時間だし……。キララ、もし()ることになったとしてお前はどうする?」


「あたしをご所望の奴もいるみてーだし、いいぜ。やってやるよ」


「そうか、やってくれるのはすごい助かる。んじゃあもういっちょ遊ぶかー」


 アラトは映像を切り、スマッシュを飛び立たせたのちマスラオの拘束から脱出する。


 キララも立ち上がり、首を鳴らしながら装備を換える。肩が凝ったのか、アラトは肩をぐるぐる回しながらキララの横に並んだ。


「キララ、俺達が遊ぶ時のルールとして、魔技は上位下級までになってるからそこんところよろしく。クリーンヒット1発もらうか、掠ったダメージの蓄積がHPの1割超えたら自主退場だ。俺とキララVSあいつらみたいな感じでいいか?」


「おう、あたしはそれで問題ねー。しかし下級までか……結構シビアだな」


「まあ相手によるんだが、そのくらいのハンデを付けないと厳しい奴らがいるから。強いモンスター相手にはめっちゃ不利になるけど、面倒だから一律で制限してるんだ。あ、モンスターの固有行動は基本的にはアリにしてる。ピコー! 今回もリドルブレスは禁止なー! 追加効果が怖すぎるからー!」


 キャオウ、というわかりたくないけど納得はしてる感溢れる鳴き声での返答があった。

 モンスター達も遊びたい組と観戦組に分かれて並び、準備が終わったようだ。


「さて、そろそろ始めるか。キララ、最後に言っておくことがある」


「ん? なんだ?」


「あいつら、俺と遊ぶ度に戦闘経験値積んでるから、結構強い。心して遊べよ?」


「え」


 キララの反応は、完全に予期せぬことを言われたといった風なものだったが、アラトはそれを意図的に無視して合図した。


「じゃあ────始めッ!!」


 その瞬間、飛行できるモンスター達が最速でアラトとキララに殺到した。






「『上位下級獄炎魔法・星形飛黒炎(スターエンブレム)』! これで、終わりだッ!!」


『キャルゥッ』


 キララの魔法が発動し、黒炎が宙を飛ぶ。それはピコに突撃しながら星の軌跡を描き、躱しきれなかったピコの蓄積ダメージが規定ラインを超えた。

 ピコの回避先を巧みに誘導し、逃れられないタイミングで魔法を決めたキララの作戦勝ちだ。


「そこまで! 俺達の勝ちだな。皆、満足できたか?」


 モンスター達の元気な返答。どうやら楽しく遊べたようだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ふっつーに戦闘じゃん!? 疲れたんだけど!?」


 珍しさ故か、キララと遊びたがるモンスターが多かった。一応アラトも援護したが、これは本気の殺し合いではなくじゃれ合いだ。本気でサポートしたわけでもないので、キララはかなりの数のモンスターを相手にしていた。


「いやごめん、いつもこんな感じだわ。後で風呂入り直していいから、機嫌直せ」


「いやまあ別に怒ってるわけじゃねーんだけどさ……。てかマジで強いのは強いな。あの《リドルドラゴ》幼体だろ? 多分ステータス成体並みじゃん。それに」


 キララは視線を1匹のモンスターへと向ける。

 そのモンスターは王冠を被り、錫杖を持っていた。

 ゴブリンの王、ゴブリンキングのミスタである。


「あいつが一番あたしの知る種族とかけ離れてる。なんでゴブリンキングが獄炎魔法と激流魔法を使えるんだ?」


 ゴブリンの王と言うだけあって、ゴブリンキングは《ゴブリンメイジ》が使える魔法も使えはする。だが、彼らが使える魔法は生活にも使える火魔法と水魔法、それに闇魔法だ。その上位魔法が使えるゴブリン種など、キララは聞いたことがなかった。


「元々ゴブリンキングってのは、スペック的な話で言えばそのくらいはできるんだよ。知識がないからできないだけで。つまり、使役してそれを教えてやればこの通りってわけ」


「それにしても力付けすぎだろ……近接戦闘能力も段違いじゃねーか。つか、大体皆接近戦強いな」


「ああ、それは俺に原因があるかな。上位下級までしか使えないから、俺があんまり魔法を使ってないんだよ。つまり近接戦闘することになって、経験を積むハメになるわけだ」


 キララも少し近接戦闘を披露したが、立ち回りではモンスターに完敗していた。


「いっつもこんなことしてたのか? アラトは」


「いや、タイミングは結構まちまちだよ。まあ、デカいクエストの後とかレイド戦に参加した後とか何も考えず遊びたくなった時によくやってたかな」


「……こいつらいたら、下手なギルドは潰せそうだなぁー」


 キララが遠い目をして呟いた。

 アラトは少し考え、結論を出す。


「うーん、こいつらだけだと多分無理だな。俺が《智慧ある武器群インテリジェンスシリーズ》装備して指揮していいなら、最高戦力がトッププレイヤー2、3人のギルドだったらなんとか潰せると思う」


「充分すぎるわ。つーか、そんなの《モンテパーリー》の奴らでも無理じゃね?」


 《モンテパーリー》とは、『調教師』に就職しているプレイヤーにのみ入団資格を与えているテイマーギルドだ。

 条件が『調教師』と緩く、様々な上級職に就職しているプレイヤーが所属していたため、多様性のあるギルドだった。

 ちなみにモンテとは、モンスターテイミングの略らしい。


 多様性のあるギルドとは言っても、アラトのようにガチ戦闘ができるメンバーはそう多くなく、最後にアラトが確認した際にはそのタイプのプレイヤーは7人だったと記憶している。その内トッププレイヤーは3人。主にモンスター同士の戦闘で経験値を稼ぐオーソドックスなやり方だった。


「まああいつらのテイムモンスターは同じ種族の野良モンスターとのタイマンなら普通に勝てる、くらいのもんでしかないからなぁ。すごい弱いギルドとかじゃないと落とすのは無理だと思う。さて、そろそろ戻るか」


「そうだな、結構時間も経ったし」


 アラトはモンスター同士で仲良くしている光景を見やり、声を掛けた。


「お前らー、今日は本当に終わりだー。各々ちゃんと自分の所に戻ることー。はい、10秒以内!」


 パンッとアラトが手を叩く。

 モンスター達が若干慌てながら、アラト達と遊んだ連中には労いの言葉(?)を掛けたりしつつ次々と『異次元への穴』に飛び込んでいく。

 アラトの宣言から8秒と少しで、全員がいなくなった。


「よし、行こう。クシュル達にも纏めて教えたいことがあるから、少し話す時間を取らせてくれ」


「あいあいー」


 アラトが狂童達の教えもあって習得した、新しい魔技の形。それをキララ達にも教えておこうと考えながら、アラトは『異次元地域』を後にした。




どうでしたか?

新しいキャラ(?)がたくさん登場しました。

アラトは彼らを育て、最も力を発揮できる場面で力を借りたりしていました。仲はよかった、と言っていいでしょう。

その関係は今も続いているというより、彼らが自我を手に入れたおかげでさらに深くなったと言えるかもしれませんね。


それと、《智慧ある武器群》であり《呪われた武器群》でもある『智慧ある魔刃:刻喰狂童』も前回登場しました。今回キャラが見えてきた感じです。殺女の同類。まあ立場的に下ですけどね。これからの話を盛り上げてくれるでしょう。


では、また次回。

次の話もお楽しみに。


感想とかレビューとかしてくれていいんですよ?(媚び売り)

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