草原での戦いの報酬
お久しぶりです。ごぶりんです。
今日は3月35日なんでバッチリ月末に間に合いましたね(白目)
いつも通り話の進みは遅いですぜ!
では、どうぞ。
場所は戻ってアラト一行。
サポートNPCになんて言葉教えてんだ問題を一旦脇に置き、アラト達は冒険者ギルドで手続きをしていた。
「では、冒険者カードの提示をお願いします」
「はい、お願いします」
アラトは受付嬢に言われた通りに冒険者カードを手渡した。
すると、受付嬢が箱型の物体に冒険者カードを入れた。蓋を閉じた途端、冒険者カードを入れた箱と受付嬢の背後の棚に魔力が流れ、棚から1枚の依頼書が吐き出される。受付嬢は後ろから飛んできたそれを見もせずに掴み取り、一切のタイムラグなく目を通した。
「……確認できました。アラト様、虹翼狼の討伐依頼ですね。1体討伐毎に2000ミース、群れの殲滅で報酬が追加されます。討伐証明をお願いします」
アラトは目の前の光景に驚きつつも、淀みなく虹翼狼の翼が入った袋を取り出した。『異次元地域』から。
その瞬間、ギルドに残っていた数人の冒険者から鋭い視線が飛んできた。
空間魔法使いか。引き抜きも視野に入るな。などの会話が漏れ聞こえてくる。
「これで全部です。23体分。群れは全滅させましたが、ボスの翼は上手く回収できませんでした」
アラトはその一切合切を無視して話を続ける。むしろその胆力の方に驚いたのか、受付嬢が少しだけ目を丸くした。
アラトは少し首を傾げることで確認を促す。受付嬢はハッとすると、アラトから討伐証明部位を受け取った。
そして、受け取った袋の中身を新たに取り出したカゴの中にぶちまける。
何か魔法が施されているのか、受付嬢は2、3度頷いた。
「失礼しました。確認いたします。…………はい、23体分、確認できました。ボスの翼は上手く回収できなかったとのことですが、一部だけでもお持ちでしょうか?」
「ええ、一応……でも、どうしてですか?」
「翼の大きさや艶などから、ボスの強さを予測するんです。普段はあまりしないのですが、今回は前代未聞の魔物の大量発生がありましたからね。何か少しでも気になるところがないか、徹底して調べるようにしているんですよ。その影響もあって冒険者1人にかかる時間が増えてしまって、混雑時間がとても長くなってしまったんですけどね」
「そういうことでしたら。これがボスの翼です。魔法で翼を撃ち抜いてしまって、途中で千切れてますけど……大きさは確か、これくらいでした。他の個体より1回りくらい大きいですかね?」
アラトは受付嬢の説明に納得し、『異次元地域』から半ばから千切れた翼を取り出した。
それは、確かに千切れていなければ先に提出したものよりも大きそうに見えた。
「ありがとうございます。…………これを見る限り、アラト様の記憶にある物より実物の方が大きかったようですね。これくらいかと思われます。隔絶した強さがあったわけではないようですが、それでも群れの個体より頭1つ抜けていたと推測されますね。……はい、ありがとうございました。翼の状態がいい方でしたので、これを討伐証明と認め、ボスも討伐数に加えます。アラト様の討伐数は24体ということになります」
「え、いいんですか?」
「はい。成果には適切な報酬を。ギルドマスターの口癖です。しかし数が多いですね……やっぱり大量発生が原因でしょうか」
驚いた表情を見せるアラトに、受付嬢は優しく微笑む。その直後、思案するような顔になった。
アラトの依頼報酬は、24体の討伐に群れの殲滅報酬である5000ミースを加えて、53000ミースとなった。
ちなみに、アラトが出したボスの翼というのは群れで2番目に強かった個体、つまり次のボスになるはずだった虹翼狼の物だ。
使役しているボスに、斃れた虹翼狼の中で1番強い個体はどれか確認した後、許可を得てからその翼をボロボロにしたのだ。
苦戦したアピールである。
報酬を受け取ったアラトは横に移動して場所を空ける。流石は53000ミース。嵩張る。
もう『異次元地域』を使えることは知られたので、周囲を一切気にすることなく53000ミースが入った袋を放り込む。ここまで雑に扱っても問題ないのだから、『異次元地域』は便利である。
お次は、クシュル。
受付嬢の前に立ち、冒険者カードを手渡す。
アラトの時と同じように受付嬢の背後の棚から1枚の依頼書が飛んできて、受付嬢はそれを速やかに読み上げた。
「はい、確認できました。クシュル様、森猪人の討伐ですね。1体毎に1400ミースで、森猪王を倒した場合は2000ミース。討伐証明部位の提出をお願いします」
その言葉を受けて、アラトが腕を振るのに合わせてクシュルの目の前に『異次元への穴』が出現する。
クシュルはそこに手を突っ込んで目的の物を探し始めた。
この『異次元への穴』と『異次元地域』、昔のアラトがクシュルに与えた物だ。ストレージに入らないものをクシュルが保持したくなった時にないと困ると思って、操作権・所有権を完全に譲渡した上で3セット程持たせていたのである。
《マスパラ》の生成・召喚系の魔法は、その所有権と操作権のどちらか、またはその両方を他人に貸与・譲渡することができた。ゲーム時代に渡していた物だが、ここでも使えるらしい。
今、わざわざアラトが『異次元への穴』を操作しているかのように見せた理由は簡単で、このパーティーにいる空間魔法使いはアラトだけだと周りに思わせたいからだ。
この国では奴隷という色合いが強い獣人族の立場で空間魔法など使う素振りを見せたら、面倒臭い勧誘の嵐になるのは容易に想像できる。
この後に控えているキララとクリリの分もアラトは演技する予定だ。
クリリの『異次元地域』は彼女の自前だが、キララにはクシュルと同様に『異次元地域』を譲渡している。《狂鎧幽鬼》の得物は、既にアイテムストレージから『異次元地域』に移されていた。
「よいしょっ……と」
話しかけても言葉が通じないのを理解しているクシュルは、特に言葉は発さずに会釈しながら袋を手渡した。
受付嬢も会釈を返しながら袋を受け取り、再びその中身をカゴの中に投入する。
「んっ……これもまた多いですね……。魔物の大量発生、本当に大変なことになるところだったんですね。はい、森猪人が41体と森猪王が1体の合計42体ですね。全部で59400ミースになります」
アラトはカウンターに置かれた報酬をさっさと持ち上げ、クシュルの『異次元地域』に放り込む。
何も言わなくても率先して動くアラト。
その態度はとても紳士的だったが、実は。
(稼ぎ負けた……いや、群れの大きさに左右されちゃうのはわかってるけどそれでもな……)
アラトより稼ぐ女、クシュル。
その事実に、結構本気で悔しがっているアラトだった。
次はキララ。
倒したのは4体だが、2体は『灼熱湖』の中で溶けて消えたので討伐証明が2体分しかなかった。
両方を浄化して提出したため、報酬の上乗せがあり合計5600ミース。浄化分の上乗せが1体1000ミースと高額だった。
この報酬は《狂鎧幽鬼》が日中の状態であると見なした場合の報酬で、実際は謎の現象により夜補正がバリバリ掛かっていたのだが、報告すると面倒なことになるとアラト達が考えたため放置された。
やってることは同じだったので、省略。
最後はクリリ。
《千色蜥蜴》1体の討伐報酬は1700ミース、クリリは全部で19匹倒していたので、報酬は32300ミースだった。
戦闘終了時には《千色蜥蜴》を『異次元地域』に放り込んだだけだったが、後でキッチリ殺していたらしい。
状態が良かったことを褒められ、報酬に1000ミースが追加された。
4人ともが自分の討伐依頼の報酬を受け取ったので、アラトは受付嬢に別件で訊ねることにした。
「そういえば、途中でこんな魔物を倒したのですが……討伐証明部位がわからずそのまま持って来ました。これでも報酬はもらえますか?」
「それは……! 《ジュエルカーバンクル》ですね。倒しにくいことで有名なんです、すごいですね」
受付嬢がモンスターの名前をすぐに教えてくれる。
そして、報酬の話を始めてくれた。
「もちろん、報酬を受け取っていただくことが可能です。ですが、討伐依頼を受けていない魔物の討伐報酬を受け取る際は、普段の半分の量となります」
つまり、今回は2体討伐してきたので、合わせて1体分の報酬になるということだ。
「なるほど、よくわかりました。では2体討伐済みなので、1体分の報酬をお願いします。ところで、この魔物の討伐証明部位はどこになるのですか?」
「全てです」
「え?」
「全てです」
2体のジュエルカーバンクルを受付嬢に手渡しながら追加で訊ねると、何とも端的な答えが返ってきた。
「この魔物は、額の宝石は装飾品に、毛皮は上質な防具や素材に、肉は高級食材に、骨は良い出汁に、臓器は薬の素材になります。なので、討伐証明部位は存在せず、死体そのものをお持ちいただく形になります」
詳しい説明が為されて、アラト達は納得する。
なるほど、全身余すところなく何かに使いきれる優秀な魔物らしい。
「あら、こちらはサファイアカーバンクルでそちらはトパーズカーバンクルですね。宝石の需要によって少々価値が変わるので……確認できました。現在の相場ですと、2体合わせて12560ミースになります」
「「たっか」」
「すげーな」
「……びっくりなのです」
素で驚きの声を挙げたのはアラトとクシュル。キララは驚きに目を丸くし、クリリは驚きのあまり反応が遅れた。
相場が変わるとはいえ、恐らく安くても1体で12000ミースはするのだろう。
今日の4人の稼ぎの合計から見れば極端に高いわけではないが、単価が破格であることは疑いようがなかった。
「討伐した魔物は以上でしょうか?」
「はい、ジュエルカーバンクルで最後になります」
「では、報酬の受け渡しは終了です。お疲れ様でした」
受付嬢にそう告げられ、互いに頭を下げあったのちアラト達はカウンターから離れた。
「さて、どうする? 今日は遅いから普通に帰るか?」
今日は、アラト達が話し合いによって決めたルールに従うならば寝るべき2日目である。
事実アラトは、それなりの疲労と眠気を感じていた。
ぶっちゃけた話、アラトはここに連れて来られるまで4時間以上ぶっ続けで《マスパラ》をしていたし、その6時間前には起きていたので、少なく見積もっても連続活動時間が24時間に近い。その上、疲労が溜まるに決まっている戦闘もこなしたのだ。寝れるなら寝たい。
「今日は流石にあたしも疲れた。眠い」
今日の相手はキララでさえ本気で戦わなければならない程だった。しかもポーションで回復したから傷はないが、狂鎧幽鬼からは相当重い一撃をもらっている。
精神的疲労はそうでもないが、肉体的疲労が大きかった。
「帰って寝るのに1票ですぅ〜」
「早くお風呂に入って寝たいです……」
サポートNPCであるクシュルとクリリが最も深刻かもしれない。
サポートNPCの特性上、プレイヤーが1人でもログインしているならば仕事をしていた。
そして、ゲーム開始から今まで、ログイン0の状況になったことがないと運営が発表している。
また、サポートNPCが勝手に寝ている姿は確認されていない。プレイヤーが自分の下に呼び寄せて『寝ろ』と命令すれば寝ることは判明しているが、それ以外では寝ないようだ、というのが現在の見解である。
NPCの一種であるのだから当然だ、とは言われていたが……この状況に照らし合わせると、場合によってはヤバいことになる。
この世界に来た時に眠気やら疲労やらがリセットされて、NPCであれば今まで規則正しい生活を送っていたことにする────みたいな謎設定になっていない限り、クシュルとクリリは恐らく4年程連続で活動していることになっている。
そうだとするといつぶっ倒れてもおかしくない。
「意見に行き違いはないみたいだし、帰って寝るか」
意見が合致し、《閑古鳥亭》に戻ることにしたアラト達。
冒険者ギルドを出るまで無遠慮な視線が向けられていたが、アラト達に声を掛けてくる輩はいなかった。
今は様子を見ることにしたようだ。
アラト達が《閑古鳥亭》に戻ると、ラスカに出迎えられた。
「おう、お疲れ。かなり大変だったらしいな。色々聞こえてきたぜ」
「ん、そんなにか?」
「ああ。あいつが言うにはどの店でも今回の魔物の大量発生の話で持ちきりだったそうだぜ」
ラスカが『あいつ』と言うからにはアミーのことだろう。普段から仕入れやちょっとした買い物などにアミラータが出ていることが窺えた。
「まあ、知ってるなら話は早いな。噂の通り結構しんどくてな……もう眠いんだ。夕食を頂いたら部屋に戻ろうと思ってる」
「わかった、すぐに用意しよう。今日の夕飯は肉がガッツリだったんだが、そっちを少なめにしてスープを多めにしたりする必要はあるか?」
消耗が激しい時、肉などの重い物をあまり食べられなくなる場合もある。その配慮だろう。
「いや、俺はそのままでいいや。皆はどうだ?」
「あたしもそのままで。なんなら肉を増やしてくれてもいいくらいだ」
「私のはお肉を少し減らしてほしいですねぇ〜。極端に減らす必要はないんですけど、そこまで大量に食べられるとも思えないので。スープは逆に少し増やしてもらえるとありがたいです〜」
「わたしはお肉をごっそり減らして、スープをどっかり増やしてほしいです。食事全体での肉とスープの比重を入れ替えるくらいでお願いしますです」
「おう、了解だ」
4人のリクエストを瞬時に頭に叩き込むと、ラスカは厨房へと引っ込んだ。
そして待つこと数分、ラスカは出来たてホヤホヤであることが明らかな料理を4人分運んできて配膳した。
「ほらよ、これがアラトのでこれがキララちゃん。こっちがクシュルちゃんのでこいつがクリリちゃんのだ」
湯気を立てるスープと肉汁が滴るステーキ、テカテカと輝くご飯を前にして、アラト達の食欲が刺激される。全員がほぼ同時に、『いただきます』をした。
アラト達が食べている間にも、ラスカは料理を解説してくれる。
「この肉は昨日出した奴の別の部位だ。1頭からあんま取れねえからちょいと希少なんだが、疲れが取れやすくなるって言われてる。こいつの欠点である腹を下しやすくなるって効果を抑える薬草を使いつつ味が苦くならないように調整したスープがこいつだ。他にも身体にいい野菜をいっぱい使ったからな、めちゃくちゃすげえスープであることは保証するぜ。んで、その米は最高級品を外から取り入れて使ってる。評判はいいんだぜ」
アラトとキララはここまで上質な米が作られていることに驚きはしたが、美味いので考えるのをやめた。
たぶん魔法的な何やかんやだったりいい土だったりがあるのだ。
「ご馳走様。今日の料理も美味しかったよ、ラスカ。いい料理の腕だな?」
アラトの褒め言葉に、ラスカは満更でもなさそうだ。
「おうよ。そこら辺の料理を提供してるとこの連中には負けてねえ自信があるぜ」
「この人は何度か、王城で料理長にならないかと打診されたこともあるんですよ。料理の腕には自信を持ってます」
厨房から出てきたアミラータがそう補足する。自分の夫の実力を誇っているようだった。
「おいコラ、俺を料理しかできねえ奴みたいに言うなよな。これでも幻惑魔法なら大陸中の奴に引けを取らねえと自負してるんだからよ」
「あら。それはごめんなさいね?」
先程と打って変わって、ラスカをからかうような雰囲気のアミラータ。このやり取りも、何度もしているのかもしれない。ラスカも本気で怒ってはいなさそうだし。
「それはそうと、スープの味付けはいかがでしょうか? 最後の調整は私がしたのですが、妙な所はございませんか?」
問題などなかった。むしろ美味しすぎて、手を加える必要があるのか疑問な程だ。
「へっ、俺の嫁の味付けが不味いわきゃねえだろう?」
それを伝えると、自信満々にそう言い放つラスカ。夫婦仲が円満で大変喜ばしいことである。
明らかに昨日の夜や今日の朝よりも素早く料理を食べ終えたアラト達。
全員が食べ終えたのを確認し、アラトは立ち上がりながら声を掛けた。
当然、挨拶はしている。
「んじゃ、そろそろ行くか。ラスカ、本当に美味かった。明日もよろしく」
「おう、任せとけ」
頼もしい返事を受け取り、アラト達は2階へと上がっていく。
「ふう、戻ってきたな」
「だなー」
自分達が借りた部屋に戻ってきて、肩の力を抜くアラト。
身体を伸ばしながら、言った。
「今日はキララ達から適当に風呂に入ってくれ」
「え〜、なんでですかぁ〜?」
「ちょっとやることがあってな。後で入る」
即座に理由を訊ねてきたクシュルにざっくり答え、アラトは魔法を使う。
「『上位下級空間魔法・異次元作成』」
昨日、ここで使ったのと同じ魔法を目にして、キララは軽く笑いながら訊いた。
「なんだアラト? また模擬戦でもすんのか?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ、あいつらと情報を共有してくる。共有した情報は後で皆にも伝えるから、ゆっくりお風呂に入っててくれ。一緒でも別々でも、それは任せるよ」
そう言い残すと、アラトは『異次元地域』に踏み込んで行く。
部屋に残された3人娘は、どの順で風呂に入るかを決めるためのじゃんけんを始めるのであった。
「あいつら面倒な言い合いとかせずにさっさと風呂に入ってくれるかな? キララが心労感じてなきゃいいけど。……さて」
アラトは黒い空間を適当な自然風景に変えたのち、ゆっくりと呟いた。
「────さあ、出ておいで、お前達」
詠唱はしない。別に戦闘中で急いでいるわけでもないし、魔力を余分に取られたところで問題ないからだ。
多数の『異次元への穴』が同時に出現し、徐々に大きくなる。そして、そこから現れようとする物達の存在感も大きくなってきた。
「────お前らからか、ドーズ、ソーズ」
最初に現れたのは、《智慧ある双剣》の2振りだった。
そう。アラトの情報共有相手とは、アラトが使役する武器やモンスターだ。
『主よ、何かあったのか? 感知した所、危険がないどころか主の下僕しかいないようだが』
『へっ、ドーズ! お前は頭が固ぇなぁ!? 旦那もたまにゃあ俺らと適当に話してえんだろうさ!』
ドーズは周りの『異次元への穴』を見てそう言い、ソーズがその真面目な意見を笑い飛ばした。
まあ、ソーズの意見もあながち間違いではない。適当に、ではないが、アラトの目的は会話だからだ。
「流石に目的はあるよ。でもまあ、お前らと話をしたかったのも事実だな。皆が出てくるまでちょっと待っててくれ」
ソーズの雑とも言える発言をやんわりと窘め、全員が出揃うのを座って待つアラト。
アラトのモノが続々集う。それらは、多様だ。
モンスターであれば、平原を移動しながら生活する種から《ダッシュリザード》、《サウンドバード》と《三角ウサギ》。森に住む種から《スライムキング》に《ゴブリンキング》、《ペガサス》に《虹翼狼》。ペガサスは他種族に自分の聖域を犯される(誤字ではない)のを蛇蝎の如く嫌うため、現れた瞬間に森に逃げ込んでしまったが、この場にいる限りアラトとの意思疎通は容易だ。故に放置する。
水棲の種────《マスパラ》に存在するモンスターで淡水と海水を区別するようなか弱い存在はいないので纏める────からは《マジカル☆ドルフィン》と《ウィングシャーク》、《ハンターフィッシュ》。こいつらはその辺の湖に飛び込んで行った。基本的に標高の高い場所にしか生息しない種からは《ブレイブコンドル》と《ワイズワイバーン》。極寒の地を住処にする種からは《フリーズバット》、《アイスゴーレム》に《クリームドラゴン》。マグマなどの灼熱と共にある種からは《コールドフロッグ》と《フレア・パニッシュ・ドラゴン》。
そして、《マスパラ》の裏シナリオボスがいたダンジョンにのみ生息する固有種からは《ナイトメアパピヨン》と《ドリームダック》、そこの野良モンスターの頂点に君臨する《リドルドラゴ》。
20種のモンスターが、アラトの命により一堂に会した。これでもモンスター達の代表として出てきた種しかいない。
アラトが『異次元への穴』を出現させた時の指示はこうだ────今から認識を共有するから、それぞれの異次元空間にいる全員に後で伝えて内容を理解させられるような代表者を選び抜いてからここに集まれ────その旨に従った結果、20種しかモンスターが現れなかったのである。先程彼らが出てきた穴の向こうには、数え切れない程の種類のモンスターが生息している。ぶっちゃけ何種類いるかアラトも把握していない。
武器も現れた。
斬撃武器、打撃武器、刺突武器、狙撃武器、防具それぞれから《智慧ある武器群》が1つずつ。
これで概ね揃っていたが、まだ足りなかった。
この場には、《呪われた武器群》が来ていない。
「はぁ……遠慮してんのか、あいつら」
普通の『呪われた武器』には、良識とでも呼ぶべきものが備わっている。設定上酷い目にあって呪いとなるに至った者達には、善人が多かったためだ。まあ、誰かに使役される前は呪いの性質が強すぎて暴れたりしているが。
アラトに使役されている『呪われた武器』達は良識を持つ物が多かった。その良識と、自分達が纏う呪力は普通の生物には害になるという知識が、彼らにこの場に現れることを拒絶させているに違いない。
「……なら、命令だ。《沿岸国の呪宝剣》と……うーん、あいつにするかぁ。《刻喰狂童》、来い。あ、お前らはちょっと離れてろ。嫌な気分になるぞ」
所有者に命令された上でそれを拒否できる存在はいない。《沿岸国の呪宝剣》が、遠慮がちな雰囲気を漂わせながらアラトの下に現れる。
アラトに事前に忠告されていたモンスター達は、距離を取っている。それでも呪力を感じ取って少し不快げな者達はいたが。
「うん、よく来てくれたな、シイ。偉いぞ」
アラトはシイを褒める。刀身を撫でると、シイは気持ちよさそうな顔をした。
しかし、待てどもアラトが呼んだもう1つの武器が現れない。
「……? おい、狂童? どうした?」
疑問に思い、《刻喰狂童》がいる場所へ通ずる『異次元への穴』を少し開いて声を掛けるアラト。
すると、思念が返ってきた。
『僕行きたくなぁ〜い。めんどくさいもーん』
「は? ごちゃごちゃ抜かしてないで来い」
先程の言葉を訂正しよう。
所有者に命令された上でそれを拒否できる存在はほぼいない。
『嫌だよー、めんどくさいって言ってるじゃん。僕そういう集会みたいなの嫌いなの』
「……武器の分際で所有者に逆らうな。『上位上級召喚魔法・智慧ある魔刃:刻喰狂童』。これで出てくるしかないだろ」
『あーっ、そういうのはズルいって〜。ちぇー、仕方ないなぁ……』
心底面倒臭そうな思念と共に、禍々しくも美しい短剣が『異次元への穴』から現れる。深緑色の刀身は、見る者を魅了しそうな妖しさがあった。柄の白さも相まって、何を考えていたのか忘れてしまいそうな何かがある。
《智慧ある魔刃:刻喰狂童》。
正式名称を、《命奪刃:刻喰暴子》。《生鏖刀:月寵殲姫》と同様に、『智慧ある』の名を冠する呪われた武器だ。
アラトがこれを入手した際、自分の呼びやすい名前を付けた。
殺女を含む『智慧ある』の名を持つ呪われた武器達に説明させるために喚んだのに、それを面倒だと放棄されてはたまったものではない。殺女達の中では、狂童が一番まともに話ができる。
「はぁ、逃げんなよ。お前が戻れるのは説明を聞き終わった後だ。それに、殺女達に説明することを約束させるからな」
『ぶーぶー、横暴だー』
「うるさい、所有者の言うことに従え。ああ、このままじゃお前らの瘴気が気になって話を聞けなくなる連中がいるから、シイと狂童が呪力を取り込むことを許可する。ほらシイ、やるの初めてだろ? 一緒にやるぞ」
アラトが優しく《沿岸国の呪宝剣》を手に取り、呪力を取り込む感覚をシイに掴ませようとする。
────その時、後ろから、猛烈な覇気が迸った。それは最早、殺気に値しそうな程だ。
それを放ったのは、狂童。
『……へぇ、いいの? 僕が纏っている呪力を取り込むということは、アラトの支配から解放されることを意味するんだけど……?』
何だかんだアラトに心酔している殺女とは違い、狂童は無理矢理使役させられていると言っても過言ではない。
普段は反抗すること自体が封じられているが、呪力を取り込めるのならば話は別だった。
「確かに呪力を取り込んだお前なら、俺の枷を振り切って俺に敵対することも可能だろうな。やりたければやれ。ただしその場合、お前に明日は来ないわけだが」
狂童の方を向くことすらなく、狂童にぶつけられたモノ以上の威圧を叩きつけるアラト。その指向性は完璧で、アラトの目の前にいるシイが威圧を感じ取って怯える様子はなかった。
『ッ……そんなこと言っちゃって、ホントにいいの? 僕、アラトを殺しちゃうかもよ?』
少しは怯んだようだが、狂童は声を震わせることなくアラトを挑発する。
チラリと。アラトが半分だけ振り返った。
「さっきも言ったが、やりたいならやればいい。でもな、狂童。俺は、多少支配を逃れることができた程度で調子づいて敵対するような欠陥品を許して使い続けてやる程お人好しじゃないぞ? 必ずお前を壊す。俺の道具に甘んじているこの状況と反抗した結果迎える死という現実をしっかり天秤にかけて判断しろよ」
アラトの発言は脅しだが、実行に移せないということはない。アラトは必要に駆られればやる。そして、それをこの場で一番理解しているのは、皮肉なことに狂童だった。
『…………やだなぁ、冗談だよ。僕がアラトを殺すだなんて、するはずがないじゃないか』
「そうだな。お前は俺に負けたあの時に、俺から逃れられないことを悟っていた。お前がどんなに全力を出そうとも、補助魔法を唱える前に俺を仕留めることは不可能だと理解してしまった。あれ以来、俺達の関係は所有者と武器で固定されている」
『……チッ。やっぱり僕、アラトのこと嫌いだよ』
これ以上ないくらい不愉快そうに、狂童は思念を吐き捨てる。
その剣呑な雰囲気に一切頓着することなく、アラトは言葉を返す。
「そうか。まあ反抗的な奴がいるくらいでちょうどいいさ。この世界で暮らしていれば、お前に食事させる機会もあるだろう。その時は素直に言うことを聞いてくれ」
『ふんだ。いつか殺してみせるもんね。食事はありがたくもらうけどさ』
「ま、頑張れ。お、シイその調子だ。上手だな」
自分の呪力を7割程取り込めたシイを褒めるアラト。
もうそろそろ話ができそうだと考えていると、呆れを多分に含んだ思念が飛んできた。
『いや、あのさぁ……そんな弱い武器に時間かけてやり方教えるくらいなら、アラトが押し込んじゃえばいいじゃん。なんで無駄なことしてるのさ?』
「狂童。お前、呪力を取り込んだら俺に反抗できる自分が偉いと勘違いしてないか? 一生懸命新しいことを覚えようと努力してるシイのが億倍偉いからな。というかお前ももうちょい呪力抑えろ。微妙に滲み出てるぞ」
『え? あ、ホントだ。さっき全部取り込んだのにいつの間に……』
本当にわかっていなさそうな狂童に、アラトは優しく答えを教えてあげた。
「お前が俺のこと嫌いって言った時だ。その瞬間に制御甘くなってたぞ。……よし、シイもできたな。それをキープするんだ。できそうか? ……頑張ってみるか。厳しそうだったら言ってくれ。手伝うから。────さーて、待たせたなお前達。主に俺のための、情報共有の時間だ。お前達の間で認識にズレがないかも確認するから、真面目に参加しろよ?」
アラトは周りにいるモンスターと武器を見渡し、宣言した。
「では、第1回! 知識を増やすための情報共有会を始める!」
『名前だっさ』
「『下位上級幻惑魔法・無形の痛み』」
『いっだあああああああ!?』
アラトが気になっていることを解消するための話し合いは、こうして喧しく始まった。
というわけで、報酬いっぱいもらった後に色々やりました。
『月寵殲姫』、『刻喰暴子』と智慧ある呪われた武器が2つ出てきました。アラトはこのシリーズをまだまだ所有しています。いずれ登場するでしょう。
狂童とアラトは決して仲がいいとは言えませんが、何だかんだ言ってお互いその強さは認めてる感じです。なんだ仲いいじゃん。
次回は1月か2月で投稿できるんじゃないかなぁと思います。
誤字脱字、質問等ありましたらいつでもどうぞ。
では、また次回。