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唯一無二の《ニートマスター》  作者: ごぶりん
第2章 魔の力、その予兆
31/46

戦いの終わり、診療所でのバイト

こんばんは、ごぶりんです。


すいません試験勉強してて1ヶ月で書き上げるとか無理でした2ヶ月になりましたね。


あと、前の後書きで「今回はギルドで報酬を受け取るところまでは書けると思う」的なこと言ってたんですけど、字数的に18000とか行きそうだったんでギルド行ってません。次に回します。


前書きはこれくらいで。

では、どうぞ。

 





「よう、お疲れさん! その様子じゃ全員無事みたいだな」


 非常用の通用門を抜けて王都に戻ったアラト達を出迎えたのは、衛兵のハイギスだった。


「ああ、ハイギス。俺達は問題ないよ。他の人達はどんな感じなんだ?」


「なんとも言えないな。幸いにも死人は出てないが、結構手酷くやられてる連中もいる。まあ、そういうのの大半はこれを機にデカく稼ごうって馬鹿なことを考えてた奴らだけどな。不幸なのは自分達より上のランクの魔物に襲われた連中さ。何とか逃げ出せたり、強いパーティーが助けたりで命からがらって感じだ」


「ああ、いるだろうな、そういうのも。てことは、教会や診療所とかは人でいっぱいか?」


「冒険者の数が数だからな。全体から見れば多くないとはいえ、総数だけで言えば怪我をしてる奴はかなりいる。ギルドも含めて今頃人でごった返してるだろうよ」


「うーん、そうなるとすぐ向かっても時間を無駄にしちゃうかもしれないか。どうしよう?」


「何も思いつかねーな。でもここで突っ立ってても時間の無駄じゃね?」


「ですねぇ〜。とはいえ人混みで待つのは反対ですぅ〜」


「何かできるお仕事があるといいと思うのです」


「お、クリリ、ナイス。それ採用だ。なあハイギス」


「うん? どうした?」


 獣人族の会話は理解できていないため、いきなりアラトが納得して問いかけてきたという状況のハイギス。取り敢えず問い返しておく。


「なにか俺達にできる仕事ってないか? この大変な状況で無駄に時間を過ごすっていうのもなんだから、手伝えることがあるならしたいんだけど」


 内容的には確かにこんなことを話し合ったが、その実情は待つのは嫌だという消極的なものだったはずだ。

 それをよくもまあこんな好青年が率いるパーティーのような空気にできるものである。

 アラトの口先のスキルは、日々こうして鍛えられているらしい。


 ちなみに、こうして話している間もハイギスは仕事をしていた。

 アラト達が王都の外に出る時にも言っていた、冒険者の出入場管理とやらをしているのだろう。


「ああ、俺達のところは特に手伝ってもらいたいこともないな。それに包み隠さず言うと、衛兵ってのはあんまり冒険者に仕事は頼まないんだ。どうしても費用がかさんでしまうからな。仕事はひと段落つきそうだから、話相手くらいにはなれるが……あ、そうだ」


 ハイギスは通用門の横に設置されている部屋から出てきた衛兵から用紙の束をもらって、それを書き写していく。

 アラト達も帰ってきた時に名前を確認されたので、それが記されている用紙なのだろう。

 素晴らしいスピードで用紙を処理しながら、ハイギスは思い付いた何かを教えてくれた。


「診療所に行ってみたらどうだ? 今は怪我人の治療で回復魔法持ちは何人でも欲しいはずだ。アラトは使えるんだろ?」


 アラトは王都を出る前、ここで冒険者を治療した。

 それを覚えていたようだ。


「よく見てるな……。まあそういうことなら、行ってみるか。どこにあるんだ?」


「衛兵は周りをよく見ていられないとダメなんだよ。診療所は冒険者ギルドと逆方向、広場から右の道に入って進むとある。薬草の看板が立っているところだ」


「薬草の看板か……わかった、行ってみる。助かったよ、ありがとう」


 礼を言って歩き出そうとしたアラト達に、ハイギスは慌てて付け加える。


「おおっと、待て待て。診療所の通りを進むと教会がある。これは念のために言っておくが、間違っても教会で治療の手伝いをするなんて言うなよ。神官達は少し頭が固くてな、自分達以外の存在が回復魔法を使うなんてあり得ないって本気で考えてる人もいるくらいなんだ。気をつけておくに越したことはない」


 それを聞いて、アラト達はぎょっとした。

 まさかそんなことがあるとは予想していなかったのだ。


「そうなのか……気をつける。そんなこともあるんだな」


「あんまり数はいないけどな。教会のお偉いさんとかはそういう思考の人が多いんだ。あの人らに目を付けられると厄介だからな……。あっと、これを俺が言ってたってのは内緒にしてくれよ」


 最後はお茶目にウィンクを添えて、ハイギスは話を終える。

 アラト達は改めて礼を言って、診療所に向けて歩き出した。









「ここが診療所か」


 薬草の看板が立っている建物があったので、その目の前まで来ているアラト達。看板の下部には小さめの文字で、『診療所』と書かれている。

 目の前の清潔な扉の奥から、怒鳴り声の指示が聞こえていた。


「すごい修羅場っぽいな」


「ま、ぐだぐだしててもしゃーない、行こーぜ」


「行くのです」


 中の状態を想像して若干腰が引けたアラトとは違い、キララが勇ましく扉に手を伸ばす。

 というか、キララは回復魔法を使えないので気が楽なのだろう。仕事を振られることはないはずだから。



「お邪魔しまーす」


「おいケビンてめぇ何サボってやがんだあぁん!? そいつらにまとめて『低級範囲回復(レッサーエリアヒール)』掛けろって言っただろ早くやれダァホぶっ殺すぞ!! キャシー!! おめぇもサボんな死人出るだろうが!? さっさとそこでノビてる奴に『正統回復(ピュアヒール)』を掛けろ!! 死ぬから!! そいつ死ぬから!? だぁーっ、清潔な布が足りねぇ!! 補助班早く持ってこぉぉぉいい!!」


 挨拶が帰ってくるとは思っていなかったが、まさかここまで酷い言葉の群れだとも思っていなかった。

 これは指示とかではなく説教である。

 4人が面食らう中、回復魔法を掛けていた1人がアラト達に気づいた。


「オジキー」


「んだマール!?」


「また冒険者ー」


「俺は今手が離せねぇ!! お前が診て振り分けろ!!」


「なんかそういうのじゃなさそうー」


「あぁん!?」


「だって怪我してないー」


「今は健康な奴の相手してる暇はねぇんだよぉぉぉおおおお!!」


 全力でシャウトしながらも、視線をアラト達の方へ向けるオジキと呼ばれた男。話を聞いてくれるつもりはあるらしい。

 余裕もなさそうなので早速切り出すことにするアラト。


「俺はアラト。回復魔法を使える。手伝おうと思ったんだが、俺に仕事はあるか?」


 回復魔法を使える、と言った辺りで、診療所の職員らしき人達の瞳がギラリと光った(気がした)。


「おい! お前らちょっとこっち来い!」


 オジキと呼ばれた男が回復魔法を使いながらアラト達を手招きする。

 近くに寄ると、怒涛の勢いで話しかけてきた。


「アラトとか言ったな。お前、相当腕が立つだろ? この時間にここに来るなら冒険者だよな。今日、魔物の大量発生なんていう異常事態が起こったってのに魔力に余裕があるなんて、かなりの実力が伴ってなきゃありえねえ。だが、そんな強くて回復魔法も使える冒険者がこの国にいたのなら、俺が知らないはずがねえ。最近他所(よそ)から流れてきたクチか? って、んなことはどうでもいいんだよ。そんなに強いならお前、『高級回復(ハイヒール)』は使えるな?」


 もはや質問が断定だった。まあ実際使えるので、アラトは頷く。


「ああ、使える。何をすれば?」


「キャシーと一緒に重症患者を診てくれ。基本的に『高級回復』かけまくってくれりゃそれでいい。あと、そっちの3人は回復魔法使えねえのか?」


「こっちのクシュルは手当技巧が使える。キララは無理だったよな。クリリは?」


 そういえば、アラトはクリリのステータスに関して何も知らない。キララのことだから、自分と似たようなビルドにはしていると思うが。

 アラトから訊ねられたクリリは、首を横に振って答えを返す。

 クシュルがクリリを横目で見やったが、特に何を言うでもなく視線を戻した。


「ほー、俺達の言葉が理解できるのか。そりゃあ話が早くて助かるぜ。なら、手当技巧を使えるあんたは俺達職員の手当を優先してくれ。『疲労回復』を頼むぜ。それくらいなら魔力も保つだろ。それが終わったら……まあ、声かけてくれや」


 オジキが言い終わるのとほぼ同時で、建物の奥から白い布を持った数人が現れる。


「おいお前ら!! ここにいるちっちぇえ獣人族の嬢ちゃん2人がお前らの手伝いをしてくれる!! 俺達の言葉はわかるみたいだから、指示を飛ばして手伝ってもらえ!!」


「「「うっす!」」」


「さて、じゃあよろしく頼むわ」


 そう言うと、オジキは自分の患者に向き直る。

 キララが「誰がちっちぇーだ誰がぁー!?」とキレていたが、クシュルが羽交い締めにして止めていた。










「いやー、正直助かったわ!!」


 1刻弱の時間が経った後。

 診てもらっていた者達は全員が診療所を後にしていた。


 アラト達を含めた全員を集めて、オジキはガハハと笑う。

 アラトは緩く首を横に振った。


「いや、俺達も冒険者ギルドで待つだけ、みたいな無駄な時間を過ごさずに済んだよ」


「そうかそうか、それならよかった。アラトの回復魔法はもちろんのこと、獣人族の嬢ちゃん達の働きもかなり助けになってたぜ。ありがとうな! おっと、名乗り忘れてたな。俺の名はオウガ。ここの診療ギルドのギルドマスターをやってる。ま、オジキでもオウガでも好きに呼んでくれ」


 オジキ改めオウガが手を差し出してくる。

 握手を求められていると察したアラトは、快く受け入れた。オウガの大きな手をしっかり握る。


 と、そこでアラトと一緒に回復魔法を掛けていたキャシーという女性が、アラトの顔をじろじろ見てから頷いた。


「うーん、やっぱりイイ男。ねえアラト、今晩アタシとどう?」


 その発言を受けて後ろからヤバい気配が漂ってくるのに加えて、キャシーの周りでも中々騒がしいことになっていた。


「えぇー、そういうことなら俺ともしてくださいよー姐さんー」

「俺も俺もー」

「あー、俺もお願いしたいなーなんて」

「アンタ達じゃ話になんない。身の程を弁えて」

「「「そんなー、そりゃないぜ姐さんー」」」


 一方、いきなり爆弾を放り込んできた女を冷たく一瞥し、オウガとの会話に戻るアラト。


「それにしても、ただの診療所じゃなくてギルドとして経営してるんだな。診療ギルドか」


「ああ。冒険者ギルドと提携して上手くやってくには、ギルドにしちまった方が何かと都合がいいんだ。街にある診療所のほとんどがギルド傘下だぜ」


 なるほどとアラトが内心頷いていると、キャシーが会話に割り込んできた。


「ちょっとぉ〜、無視しないでよぉ〜。ねぇ、アラトぉ〜」


 後ろからの殺気がすごいことになっている。

 きっとウサ耳と黄金色の狐の尾が張り詰めたように立っているのだろう。


 アラトは再度キャシーを一瞥すると、疲れたようにため息を吐いた。


「はぁ……あとで相手してやるからちょっと待っててくれ」


 その瞬間、キララの濃密な殺気が突き刺さる。先程までは漠然と発していただけだったが、今はピンポイントでアラトを貫いていた。

 クシュルはむしろ殺気を引っ込めた。


「うわ、やったぁ。わかったよ〜」


 キャシーは嬉しそうにしてから周囲の男に説教を始めた。要約すると、もっと強い回復魔法を使えるようになってから出直してこい、ということらしい。


 アラトはそんな様子に興味がないのか、すぐに視線を外した。


「さて、そろそろ」


 そして、オウガに向けて手を差し出す。掌を上にして。


「……はっ、なあなあで済ませるつもりはないってか。いい性格してるぜ」


「当たり前だ。俺は『仕事はあるか?』と訊いて、受けた。仕事には報酬で応えるものだろう? それにオウガさん、多分あんたこういう考え方嫌いじゃないんだろ。顔に出てるぞ」


 アラトの言う通り、オウガはこういう強かで図太い人間が大好きだった。

 ニヤリと笑い、報酬の話に応じる。


「へっ、まあな。なら交渉と行こうか。どのくらい欲しい?」


「なら、これくらい……と言いたいところなんだが、残念ながら俺はこういう時の相場を知らない。だから、オウガさんが決めてくれ。俺達の仕事ぶりにどれくらいの価値を見いだす?」


「ほぅ……知らねえってのは嘘じゃなさそうだな。なら……4人で6000ミースでどうだ?」


 その瞬間。ざわりと、診療ギルドの男達が動揺を見せた。

 反応を見ていたアラトは首を傾げる。


「なあ、それ……だいぶ高く買ってないか? 周りの反応から察するに」


 そう。周囲の反応は、『そんなに高く!?』といったものだった。

 ちなみに、キャシーは無反応を貫いていた。驚いていないというよりは、反応を悟られないように希薄にしているといった感じだ。


 よくよく考えてみれば、平均1500ミースなら1人でBランクのモンスターを討伐するのに相当する。

 ただ30分ほど回復を施すだけで、危険が伴う冒険者と同等以上に稼げるのは確かに過剰な気もする。


「お前ら、顔色読まれてんじゃねえよ。ま、自主的に手伝いを申し出てくれた礼だ。本当に助かったのは事実だしな」


「……オウガさんがいいなら、こっちに文句はないんだけどさ」


「なら決まりだ。おい、6000ミース持ってこい」


「は、はい」


 オウガに声を掛けられた少年が、奥の部屋に姿を消す。

 少しして戻ってきた彼の手には、小さな布袋が握られていた。


「6000、詰めてきました」


「内訳は?」


「1000が4、500が3、100が3、50が3、10が5です」


「上出来だ」


 オウガは布袋を少年から受け取り、それをそのままアラトに渡す。


「ほらよ、報酬の6000ミースだ。なんならここで確認するか?  算術機ならあるが」


「いや、大丈夫だ。このままもらっていくよ、ありがとう」


「そうか。なら、この突発的な依頼も終了だな」


「ああ。それじゃあ、俺達は行くよ。またな」


 依頼達成を依頼主のオウガから聞き出すや否や、踵を返そうとして出て行く姿勢を見せるアラト。

 その失礼な態度を見て、オウガは苦笑いを浮かべていた。どうやらアラトがこうすることを予測していたようだ。

 ケモ耳3人娘の中で、反応できたのはクシュルだけ。この行動の迅速さはアラトの行動を読んでいたのだろう。毎度のことながら流石である。

 アラトがわかりやすいのかと言えば、そうではないはず。何故なら察しているのはクシュルとオウガだけで、他の者は全員がポカンとしているからだ。キララやクリリ、キャシーまでも。


 いち早く復帰を果たしたのは、キャシー。慌ててアラトに言い募る。


「ちょっと、どういうこと? この後色々決めるんじゃなかったの?」


 それに対するアラトの返答は、あまりにも素っ気なかった。


「悪いな。貴女に興味はないんだ。他をあたってくれ。じゃあな」


 そのままクシュルと連れ立って、キララとクリリを促して出て行こうとする。

 たまったものではないのはキャシーだ。自分に興味がないと言われ、感情が昂ぶる。


「興味がないとは何よ! 後で相手をするってあなた言ったじゃない!」


「あの時はオウガさんとの話を進めたかったからな。貴女が黙ってくれるならなんでもよかった。一番穏便に済みそうな言葉を選んだだけだ。それに、貴女の望み通りに抱いてやるなんて一言も言っていないが?」


 背中を向けられたまま放たれた言葉に、キャシーの感情が爆発する。


「なっ……あなたが入れ込んでるその兎人族の娘がどれだけ()()のか知らないけどね、ペットとしかしたことないなんて絶対後悔す……ッ!?」


 キャシーが言葉を詰まらせる。

 急に押し黙った理由……いや、正確には『黙らされた』というべきか。それを齎したのは、アラトが放つ威圧感だった。


「おい、コラ」


 低く、重い声音と共にアラトが振り返った。

 相手を射抜く眼光は冷たすぎて、キャシーは思わず身震いする。


「もし今の発言が、自分が認めた俺の価値を下げないように、という配慮の基に出たものだったとしたら、その配慮には感謝する。それに、騙して会話を打ち切ったことも謝る。悪かった。……だがな? だからといって、俺の大事な相棒をペット呼ばわりして侮辱していいことにはならない。俺は言ったはずだぞ、キャシー。お前に興味はないと。お前の生き方を否定するつもりはないが、俺とは相容れない。次、そんなことを言ったらその時は────」


 アラトがキャシーとの距離を詰め、トドメの一言を言おうとする。


「まあ、待ってくれ」


 それを、オウガが阻んだ。


「こいつがお前さんの大切な相棒に対して失礼なことを言っちまったことは謝る。完全にキャシーの失言だしな。でも、そこまでにしてやっちゃくれねえか。アラトの行動にも多少の問題があったわけだし、こうやって時折やらかすしサボり癖がひどいが、こんなんでも診療ギルド(ウチ)一員(かぞく)なんでな」


 間に他人が入ったことで、アラトの頭が冷える。

 どうも、クシュルのこととなると沸点が急に低くなってしまう。この癖は治す方がいいだろう。

 アラトは吸い込んだ息をただ吐き出し、ペコリと頭を下げる。


「すまない。感情的になってた。キャシーも、ごめん。でも、俺は初めて会った女とすぐに寝るつもりはないんだ」


 オウガがキャシーの頭をガシガシ撫でながら言う。


「ま、キャシーは性急すぎるきらいがあるからな。アラトの感性が普通なんだぞー?」


「う、うるっさい! オジキのバカー! アホー! 手を退けろー!!」


 義父娘(おやこ)喧嘩を繰り広げる2人を前に、アラトは踵を返す。


「んじゃ、今度こそ行くよ。改めて、さっきはごめん」


「いいってことよ。アラトは謝ってくれたし、途中で止めてくれた。キャシーも反省しただろうしな。また来てくれ」


「ああ、また。今度どっちで来ることになるかはわからないけど」


「お前さんが客で来るところが想像できねえな。……ほら、キャシー」


「……ば、バイバイ」


 ぎこちなく小さめに手を振るキャシー。

 それにアラトは苦笑を返し、軽く手を振った。


「ああ、またな。まあ、仮にそういうことをするにしても、まずは友達から始めよう」


 こくこく頷くキャシー。

 そうして、アラト達は出て行く。


「ほらお前ら、号令!」


「「「お手伝いいただきありがとうございましたー!!」」」


 背後で扉の閉まる音。暗くなっている空に見下ろされながら、アラト達は歩き出した。






「しっかし、変な女だったなー」


 冒険者ギルドへ向かう道すがら。

 キララがキャシーについて言及する。


 クシュルとクリリに異論はないようで、うんうんと頷いている。


「ものすごい急でしたねぇ〜」


「流石に唐突すぎるのです」


「あの見た目でな」


「「ああいう女のことを────」」


 キララの見た目に関する発言を受けて、クシュルとクリリの言葉が被る。


「清純風ビッチって言うんでしたよねぇ〜」

「清純風ビッチと言うんだったと思いますです」


 内容はほぼ一緒。お前ら打ち合わせでもしてたのか。

 それはさておき、アラトの動きが止まる。予想外の言葉がクシュルの口から飛び出たからだ。


「…………クシュル、お前その言葉、どこで覚えた?」


「え、男性プレイヤーさんですよー。ししょーのフレンドの方達ですね。仕事してる途中に会って、話の流れでそうはならないでくれと言われました。意味は後で調べたんですー」


「は? 具体的に誰なのか覚えてるか?」


「はいー、映像として覚えてますからねー。えっと……ゼピュロさん、ケイさん、パンケーキさん、ミンテスさんとロイドさんが主です」


「あいつら今度会ったらぶちのめしてやる」


 アラトが並々ならぬ決意に肩を震わせていると、クリリが自分で申告してきた。


「おにーちゃん、わたしはおねーちゃんに教わったです」


「……キララ、またかお前」


「いや違っ……違くねーけど! アレだぞ! アラトんとこのサブマスを説明するのに使っただけだからな! そんな形容されるあいつが悪くね!?」


「いや、流石にそれは責任転嫁だろ……まあ、あいつがアレなのは認めるけどさ」


 確かに、アラトのギルドのサブマスターはクソビッチ呼ばわりされても仕方のないような性格をしている。男にだらしないわけではないので厳密には異なるのだろうが、イイ性格をしていることには違いない。

 まあ、アラトはああいう無駄に芯の通った面白い人間が大好きなので、信頼もしているし仲がよかったりもする。

 そのアラトでも、彼女が変人であることは否定できなかったが。








 ────アラト達がいるところから遠く離れた小さな島の一画。


「くちゅん」


 長く艶やかな黒髪をたなびかせる女性が小さくくしゃみをした。

 大和撫子然とした、雰囲気の柔らかなその女性は可愛さと美しさを見事に同居させた顔を傾ける。


「あら、アラトさんが私の噂でもしているのかしら……? ふふっ、なんてね。でも、早くアラトさんに会いたいわ。1人旅は、つまらないもの」


「ガアアアアアアア!!」


 唐突に道の横にある林からモンスターが現れ、彼女に襲いかかる。ゲーム時代には見たことないモンスターだ。

 熊に酷似した外見のそのモンスターは、全身が体毛の代わりに鋭い金属の針に覆われていた。見た目だけならば二足歩行しているハリネズミのようでもあった。その性質はハリネズミとは全く違うが。


「────行動が美しくないわね。死んでくださる?」


 蹴りを1発。


 それだけで、モンスターはその命を狩り取られた。


「ふぅ。……アラトさんでなくてもこの際いいわ。あの面白い子達の誰かと出会わないかしら……」


 そのまま立ち去ろうとした彼女だが、目を細めて立ち止まる。何かに気がついたようだ。


「……囲まれているわね。でも、いつの間に? さっきまでそんな気配、なかったのだけれど」


 林のあちこちから感じられるようになった謎の気配。そのどれもが彼女から見れば格下だが、数の問題で面倒なことになりそうだった。


「はぁ……見逃してはくれなさそうね。でも、実力の差もわからないのかしら?」


 林の気配は戦闘する気満々の雰囲気を漂わせていた。

 それに対して彼女は本当に不思議そうな表情で首を傾げる。明らかにレベルが違うと思うのだが。


「ま、いいわ。……どうぞ、いつでもかかってらっしゃい?」


 やるとなったら全力だ。周囲に圧を解き放ち、一気に空気を重くする。このプレッシャーの中、動けるなら相手をしてやる。そんな気持ちだった。


 最初に林から出てきたのは先程と同じモンスター。この付近がこいつらの縄張りなのかもしれないが、恐らく違うと彼女は推測する。

 だって、他の気配がする。林の中にいるのは、多種多様の存在だ。ただの縄張りでは、ない。


「せぇいっ!!」


 再び、蹴りを1発。それだけでまたしてもモンスターは絶命させられる。


「何度やろうと同じことよ? 私は、一撃でモンスターを仕留めるわ」


 その言葉は通じなかったのか、次に襲いかかってきたのは先程までと同じ針熊(仮)が1体と身体の表面をスライムのような流動体に覆われているイノシシらしきモンスターが1体。流動体の中には紫電が走っていた。針熊(仮)はこの個体で最後だろう、林から似た気配を感じない。


(あらら、ハッタリだって見破られちゃったかしら……? いえ、それにしてはモンスターに怯えが見えるわ。これはアレね、多分言葉が通じてないだけね)


 冷静に分析する彼女。

 実は先程の彼女の発言は嘘、ただのハッタリだ。

 2度モンスターを一撃で沈めた攻撃は『下位上級蹴撃技巧・心身襲蹴(しんしんしゅうしゅう)』。1回の蹴りで相手の心と臓器をぐちゃぐちゃにする、殺傷性の高い攻撃だ。


 さっきは冷却時間(クーリングタイム)が終わったから連発できたが、今はそうもいかない。

 他の手段を以ってこれを突破しなければ。


 前方から迫ってくる2体のモンスターを前に、彼女は驚くほど冷静だった。

 それどころか、自ら前に駆け出す。


「『上位中級空間魔法・位置撹拌(ポジションシャッフル)』」


 彼女が魔法を唱えた直後、異変が起きた。針熊(仮)、イノシシを含めた3個体の位置が全て入れ替わったのだ。

 針熊(仮)がいたところに彼女が。イノシシがいたところに針熊(仮)が。彼女がいたところにイノシシが。

 全てが入れ替わり、そして終わった。


 グシャアッ!! と凄まじい音を立てて針熊(仮)とイノシシが衝突する。正面衝突の結果、辛うじて生き残ったのはイノシシだった。流動体が衝撃を僅かながら緩和したらしい。

 彼女はその様を隣で悠々と見届けた後、軽く跳躍した。空中で身体が横に倒れるように跳ねた彼女は、腰を捻り右脚を振る。その行為は鋭い回し蹴りへと変貌し、イノシシの首をへし折った。流動体のクッションなど全く意味をなさなかった。


 と、ここで林の中で動きがあった。多数の気配の中に1つだけあった、人が林道に出てきたのだ。

 それは男で、狼の耳を生やした狼人族だった。

 男は叫ぶ。


「ちくしょう!! 密猟の帰りに人と出くわすだけでツイてねえのに、人間族の癖になんて強さだ!! 商品を4つもダメにしやがって、死ねええええ!!」


 その男は、さっきのモンスター達よりは強かったのだろう。

 ただ倒すのではなく、使役していたのだから。

 魔物調教師(モンスターテイマー)のような『職業』だったのかもしれなかった。


 だが、意味はない。


 ドウッ!! という鈍い音と共に、男の体内で臓器が弾ける。

 冷却時間が終わった『心身襲蹴』が直撃していた。


 『心身襲蹴』の臓器破裂効果に抵抗(レジスト)できないようでは、彼女には到底届かない。

 林の中のモンスターの気配が離れていく。使役状態が解除されたのだろう。


「うーん。言葉、通じてるように思えましたけど……?」


 しかしさしたる興味もなく、彼女はその場を後にする。

 複数の死骸だけが、寂しく風に曝されていた。






どうでしたか?


診療所に変な女が出てきました。

キャラは勝手に湧くもの(断言)


最後の彼女はお分かりかと思いますが、アラトのギルドのサブマスターです。

アラトとの出会いも考えてあるし、ギルドメンバーも色々考えてはいますが、このペースだと出てくるのはいつになるやら。

3年後くらいですかね?

まあ気長にお待ちを。


次こそちゃんとギルド行って報酬もらいます。

次は1ヶ月更新を目指したいなぁ!?

まあなるべく早く書き上げます。


では、また次回。

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