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唯一無二の《ニートマスター》  作者: ごぶりん
第2章 魔の力、その予兆
30/46

騒動の収束

お久しぶりです。

ごぶりんです。


先月は投稿できませんでした。

クッソ忙しかったんや。許してください、なんでも(ry


前回は『なんか強いゴブリンソルジャーが出てきて《四色獣》とクリリがピンチ!でもクシュルが颯爽と登場、助けたよ!さあ、ゴブリンソルジャーフルボッコタイムだ!!』ってとこで終わってました。

覚えてないなら是非とも読み返しましょう、第1話から。


今回はというか今回もかもしれないけど、説明が多いです。そして、これからも説明したくなったらとにかく説明するので話の進み具合は遅いです。

それでもいい人は今後も気長に待ってやってください。


前書きが長くなりましたね。

では、どうぞ。

 







 ────おかしい。


 ゴブリンソルジャーは、違和感を覚えていた。

 別に不利な状況にはなっていない。

 なのに、真綿で首を絞められているような感覚が拭えない。


 たった今飛んできた『火球』を避ける。余裕は、ある。


 そのはずなのに違和感の原因が理解できず、ゴブリンソルジャーは多大なストレスを感じていた。


「……あと50cmですか。やりますね」


 その時、目の前の敵が何かを呟いた。

 意味は理解できないが、不快感が増す。

 苛立ちをぶつけるように攻撃し、その悉くを弾かれ躱された。

 ストレスから攻撃が雑になり、軽く対応されることで苛立ちが増してストレスが溜まる。

 ゴブリンソルジャーは完全に悪循環に陥っていた。





「……うん、ちょうど50cmです」


 クシュルが感心していた時。クリリは、結果を確かめるように頷いていた。


 今撃った『火球』が11発目。

 クリリは、1発撃つごとにゴブリンソルジャーに5cmずつ近づけていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うのに、だ。


 両者の動きの予測、ゴブリンソルジャーの回避反応と回避行動の精度、そして自分の攻撃のコントロール。

 それら全てを完璧に把握した上で狙わなければ実現しないことを、クリリは大した苦労もなく実行していた。


 再度、恐ろしい精度と速度で魔力を練りながら、クリリは考える。


(うーん、そろそろわたしの狙いを相手に伝えるべきでしょうか? なんていうか、プレッシャーの理由を正しく理解していない感じがすごいんですよね。わけがわからないまま負けられても、困るんですけど……)


 また『火球』を射出。詠唱は無意識のうちに。

 クリリから見てゴブリンソルジャーの真横を『火球』が通り過ぎた時、ゴブリンソルジャーまでの距離は45cm。

 考え事をしながらでも、これくらい朝飯前。

 これが、クリリの本気だ。

 『火球』自体の速度も、最初の1発に比べれば明らかに速くなっていた。


(うん、そうです。やっぱり伝えましょう。伝えた上で、真っ向から勝つです)


「『下位下級無魔法・伝心爆弾(テレパシーボム)』」


 一瞬で魔法を発動し、アンダースローで優しく放る。

 爆風はクシュル達をしっかりと包みこみ、クリリの意図を強制的に理解させた。


 魔法効果が切れてハッとしたクシュルとゴブリンソルジャーを出迎えたのは、クリリからの『火球』だった。







 ゴブリンソルジャーは、今までで一番驚愕していた。


 あの敵の意思は、最後にこう言ったのだ。

『避けられるものなら、避けてみるのです』と。

 あの言葉には、絶対の自信があった。こちらが何をしようと絶対に距離を合わせて追い詰め、終いには当てる自信が。


 ────負けられない。


 ゴブリンソルジャーはそう思った。


 敵は何故一撃で殺しに来ないのか?

 敵の腕が本当にそれ程にあるのなら、自分を一撃で殺すことなど造作もないはず。それをしない理由。

 それは、意地だろう。これだけは譲れないという、生物としての意地。

 このゴブリンソルジャーも特殊な出生であり、それが理解できる知能があった。

 理解してしまったからには、負けるわけにはいかない。


 ──魔法使い(メイジ)などに、負けるわけにはいかない!


『がぁぁぁああああああああ!!』


 ゴブリンソルジャーは、吠えた。

 気合いを入れ直し、まずは目の前の敵を排除せんとする。

 プレッシャーの原因もわかった。これで、『意味不明わからないこと』に怯えることはない。


 身体能力に物を言わせ、眼前の敵の突破を図る。

 ……その敵が、口角を上げた。


「ん〜、甘いですねぇ〜。貴方くらいのパラメータで、ごり押し突破なんてできると思わない方がいいですよぅ〜? なにせ私は、貴方と同等()以上のステ()ータスで技()術を使う人()に散々扱かれてきたんですから」


 シャッ! ────捌かれる。

 キンッ! ────弾かれる。

 ギンッ! ────受けられる。


 ──今までも、優勢ではなかった。

 押されているわけではないが、突破は困難。

 だがそれも、こちらが力をセーブしているから。

 ……そう、思っていたのに。


「ほら、わかりました? 貴方は、私を、倒せない」


『がああああ……ッ!?』


 攻撃の尽くを抑えられ、吼え猛り……驚愕した。


 ────今、『火球』が自分の腕を掠めていった────。


 気付かなかった。()()()()()()()!!


 ハッとして敵を見据えると、もう奴は『火球』を用意していた。それと、あの意思の塊────。


 それが放り投げられる。弾ける。意思が叩き込まれる────。


『クシュル、もう大丈夫です。止まってください。これをど真ん中に当てます。……避けられるものなら、避けてください?』


 前半は目の前の敵に。後半は、こちらに。


 ────────受けて立つ!!


『っっっがああああああああああああ!!!!』


 敵の『火球』発射と同時に、横に跳ぶ!!


「『行くです(GO)』」


 敵の口が動き────────。




『がっ……? ……こふっ』


 ゴブリンソルジャーが最初に認識したのは、自分が倒れているという事実だった。


 自分の状態に意識を向ける。胸に風穴。ただの『火球』に()()()()()身体は、心臓と肺の8割を抉り取られていた。

 貫通すると同時に表面を焼かれたのか、出血はほぼない。

 だが……蒸発した血が、多すぎた。

 身体に空洞ができたとゴブリンソルジャーが理解した時には、その命の灯火は消えていた。





「お疲れ様です、クリリ。やればできるじゃないですか」


「…………今回は、お礼を言いますです。助かったのです」


「……お礼というのは、そんなぶっきらぼうに言い放つものではないと思いますけどねぇ〜。あと、ですです言うキャラ付けやめてくれますかぁ〜? ただただウザいので〜」


「その言葉、そっくり返します。毎度毎度語尾を伸ばしやがって、ぶりっ子ですかウザったい」


「…………」


「…………」


「……私達しかいない時は普通に話しますか、クリリ」


「……そうですね、クシュル」


 無益な言い争いの1つが終戦を迎えた。

 と、クシュルが疑問を呈する。


「そういえば、なんで35cmの距離から最後の1発まで飛んだんです? 30、25……ってどんどん近づけていくのかと思ってたんですけど」


「は? それだとクシュルに当たるじゃないですか。威力を落としていたとはいえ、普通に火傷はしますよ? 馬鹿ですか?」


「馬鹿は貴女です。いや、あんな『火球』に当たるわけないじゃないですか。普通に私が接触直前で回避して、ゴブリンソルジャーだけを甚振っていくものだと思ってました」


「あん?」


 あの程度の『火球』なら避けられると言われ、クリリの顔が凄いことになる。絶対に幼女がしていい顔ではない。


「……わたしを助けたからって調子に乗ってません? クシュル程度がアレを避けられるわけがないです」


「はぁん?」


 あの速度の『火球』を避けられる力はお前にはないと言われ、クシュルの顔も凄いことになる。美少女が台無しである。


「いやーははは、面白いことを言いますねクリリは。私が? あの程度の速度の『火球』を? 避けられない? いやいやあり得ないですね、目を瞑っていても避けられますよ」


「なーに大法螺吹いちゃってるんですかクシュルは。貴女が? あの速度の『火球』を? 見ないで避けられる? いやいやあり得ないですね、あの75%の速度でも無理でしょ」


「は?」


「あ?」


 物凄い至近距離でメンチを切り合う幼女と少女。キスでもできそうな距離だが、そんな雰囲気微塵もない。


「えっと、死にたいんですよね? 死にたいんですよね?? それならそう言ってくださいよ、助けに来る必要なかったじゃないですか。あ、いえ違いますね。助けなかったら私が貴女を殺せませんでした。というわけで、殺されたいんですか? クリリ」


「そういうクシュルこそ、自殺願望でもあったんですか? わたしの『火球』を避けるなんて出来もしない見栄を張って、死にたいとしか思えないんですが? もー、それなら早く教えてくれればよかったのに。全身全霊でお手伝いしますよ。というわけで、死にますか? クシュル」


 ……この2人の相性の悪さは、どうなっても治らないらしい。






 語尾論争よりもさらに無益な言い争いを一旦終え、クリリは気になっていたことを口にする。


「そういえば……《四色獣》の人達は大丈夫でしょうか。あの人達を助けるために無茶をしたのに、助かってなかったらやりきれないんですが」


「ああ、彼等なら撤退してますよ。今も聴い()ています。順調に門の方へ向かっていますね」


「そうですか、よかった」


 クリリはホッと息を吐く。別に彼等に思うところは特にないが、死にそうなのを見逃すのは流石に気分が悪い。


「さて、これからどうしましょうねー」


「他に強い気配は特に感じないです」


 クシュルの呟きに、クリリが反応する。今2人は、ヤバそうな気配を感じ取っていなかった。


「そもそも疑問なんですけど、このゴブリンがししょーの言ってた高いランクのクエスト対象なんですかね?」


 クシュルは足元を見下ろし、そこで生き絶えるゴブリンについて考える。

 確かに、そこそこ強くはあったが……。


「違うと思います。これは、見た目はただのゴブリンソルジャーです。ですが、その実力は段違い。昨日の夜に戦った角ウサギと同じ感じのイレギュラーなんじゃないですか? クエストが発生する時────たぶん遠くから発見したとかそんなところだと思いますけど、その段階で判断できる事柄じゃないと思うんです」


「……それもそうですね。となると、他の高ランククエストは他の冒険者が受けたと考えるのが自然ですか。じゃあ、ししょーと合流するのでいいですかねー」


「そうしましょう。クシュル、おねーちゃん達の場所がわかるんですか?」


 クリリが純粋な疑問を述べる。

 クリリにはキララの場所などわからない。魔法職の方がそういった探知系に精通しているはずなのに、クシュルの方が秀でているのだろうか。それとも、『側近転移』でも使うつもりなのか?


 クリリが色々と予想していると、クシュルが自慢気な表情で答えてきた。


「ふっふっふー。私、今回の戦いで色々と覚醒しまして。音を聴いて状況を判断できるようになったんですー。ついでに気配もですね。そんなわけで、今もずぅーっとししょーの気配を聴い()ています」


「は? 頭でもおかしくなりました?」


 気分良く解説したクシュルに贈られたのは、クリリの真顔と罵倒だった。


「……随分な言い草ですね。流石に失礼でしょう。貴女の気配も聴い()て駆けつけたんですよ」


「それはどうもありがとうございました。ストーカーみたいで気持ち悪いんでやめた方がいいと思いますけどね」


 むすっとしたクシュルが言い返す。

 だが、一瞬でクリリに切って捨てられた。

 正直に言い過ぎているため、普通に険悪な雰囲気だ。


「…………もし今度模擬戦をする機会があれば、貴女を真っ先に殺します、クリリ。覚悟しておいてください」


「ハッ。それよりも早く貴女をぶっ殺せば全部解決でしょう? 無様な姿を好きな人に見られる前に踏み止まるのが得策だと思いますよ、クシュル」


 倒す、ではなく殺すと宣言する辺り、やっぱり2人は相入れないようだ。かなり不機嫌である。


「フンッ。まあ今はいいです、ししょーの下へ向かいましょう。こっちです、付いてきてください」


「はーい」


 クリリは『異次元地域』を新たに作り出し、ゴブリンソルジャーの死体を放り込む。

 そっぽを向きそう告げて走り出したクシュルを、やる気のなさそうな返事をしたクリリが追って行った。






「あ、クリリ。10時の方向、冒険者が苦戦中です。適当に援護お願いします」


「りょーかいです」


 クシュルに言われた方向に視線をやったクリリは、無詠唱で適当に魔力を使って作った『下位初級水魔法・水球(ウォーターボール)』を放つ。

 飛んで行った『水球』は見事モンスターの武器に直撃し、冒険者が体勢を立て直す隙を作り出した。






 そんなことを2、3回してからは何もなく、クシュル達はアラトとキララの下に辿り着いた。


「ししょー、こっちは終わりましたぁ〜。ししょーの方はどうでしたかぁ〜?」


「お、クシュル。こっちも……まあ、何事もなくってわけじゃないけど終わったよ」


「それはなんなのです?」


 クリリが、アラト達の足元で倒れている見たことのない生物に言及する。額に楕円の宝石のようなものが嵌っており、脚先が鉱物のようになっている。

 クリリはぱっと見で判断できなかったが、それは、息絶えていた。


「あたしらがこれからどうするか話し合ってた時に、こいつに襲われたんだ。て言っても、物理的なダメージは受けてないんだけど」


「俺達が見たことないモンスターだから、持って帰ってギルドに提出する。……討伐証明がどこかもわからないしな。こいつ、結構強い幻惑魔法を使うみたいだ」


 アラト達の話を聞いて、クシュルは察した。

 だが、クリリが腑に落ちないような表情をしている。


「あー、ししょーが掛かったんですね」


「そういうこと。幸いにもキララがいたから、こいつは瞬殺されて俺の幻惑も解けたってわけ」


「体感だが、ラスカの幻惑魔法よりはだいぶ弱い。あの時ほどガッチガチな耐性付けなくても普通に時間を稼げると思うぞ」


「だろうな。あの時みたいな危機感は覚えなかったし。でもこいつ、隠蔽だけならラスカ並みじゃないか? キララも魔法を撃たれるまで接近に気づかなかっただろ?」


 その言葉に、クリリがハッとした。違和感の正体の正解をもらったからだ。


「それです! おねーちゃんがいるのにそのモンスターが足元で倒れているのがすごく引っかかっていたのです!」


「あたしもすげービビった。気づいたら脚に触れられてたからな」


「はい、注目」


 熱が入ってきて情報交換ができなさそうだと感じたアラトは、手を2回叩いて3人の気を引いた。


「クエストは終わりだ。俺とキララは森に行くかどうか話し合ってたんだけど、その最中に攻撃された。この世界は未知の存在が多い。やっぱりゲームとはかなり違うんだ。俺は準備を怠るべきではないと判断する。皆の意見は?」


「同意」

「ししょーの意見に賛成です〜」

「同じ考えなのです」


 4人の意見が一致する。未知が多いこの状況で、すべきことを見誤る愚か者はここにはいない。


「なら、戻るぞ。ざっと見る限り、戦いもだいぶ落ち着いてきてるみたいだし。戻りながら情報交換だ」


「おう」

「はい〜」

「わかったのです」


 アラトは新たに『異次元地域』を作り出し、死骸を放り込んだ。

 と、そこで1つ思いつく。


「……なあ、ちょっと戦闘準備をしてもらえないか? 対象は、さっきの奴だ」


「え? ししょー、今いるんですか?」


 クシュルの問いかけに対して、アラトは首を横に振る。


「わからない。魔力の網に触れててもわからないんだ。だから──」


 恐らく、体内の魔力を空気中の物と同化させているのだろう。もしくは、こちらが誤認させられているのか。

 アラトの目が鋭くなる。

 嫌な予感がした3人は、アラトから距離を取った。


「──炙り出す! 避けろよ、3人とも!」


 ドッ! と、アラトから圧力が放たれる。

 どうということはない。

 アラトは大量の魔力を直接放出、地面に叩きつけたのだ。

 魔力は地面にぶつかると、その密度を保ったまま周囲に広がっていく。

 3人娘は慌てて跳躍、それを回避する。


「────いたっ! クシュル、そっちに1匹!! 仕留めろ!」


「は、はいっ! セェイッ!」


 クシュルには魔力の差などよくわからないが、アラトの魔力に中てられて揺らいだ存在は視認できた。

 そこに向かって、抜き放った《兎人の二双高剣》を振り下ろす。

 骨らしき抵抗があったものの、クシュルの得物は敵を通り抜けた。

 すると、姿を隠すことはできなくなるのか、頭の落とされた先程と同種のモンスターがいた。


「もしかしたらと思ったけど……本当にいるとはね。ありがとう、クシュル。助かった」


「いえ、ししょーの命令ですから。それにしてもこの世界、結構油断できませんねー」


「ああ。だからこそ今は戻って、しっかり準備してからの探索にしよう」



 アラトは3人を促して、一緒に歩き出した。

 草原が戦場でいられる時間は、終わりに近づいている。




 4人は王都へ戻る道すがら、情報交換をしていた。

 ケモ耳3人娘を一番驚かせたのは、アラトが虹翼狼から聞いたモンスターの大量発生の原因だ。


「めんどーな奴がいるみてーだな」


「流石に強いでしょうからね〜」


「具体的な強さがわからないところも面倒なのです」


 早くも声音に警戒を滲ませた3人とは違い、アラトは深く考え込んでいた。

 クシュルから齎された『レベル制限のせいで覚えられない魔法・技巧も、この世界では時間とMPをかければ発動できる』という情報のためだ。

 これが本当ならば、アラトは種族固有のものを除く()()()()()()()()使()()()ことになる。以前感じた予感が、現実のものとなるのだ。





 少し話は変わるが。

 ────アラトは昔、《マスパラ》のとあるスタッフと話をしたことがある。

 その頃には200レベル区切りで覚えられる階級が増えることは周知の事実となっていたのだが、そこで浮かんだ疑問をぶつけたのだ。


 ──なあ、無職の設定、面倒じゃなかったのか? 200レベル毎に覚えられる魔法の階級が増えるのに、無職は801以上で下位上級を使えるようになって終わりなんだろ? これだと、システムを作る時に『無職のみ最後の階級を覚える際、下位の物しか覚えられない』っていう別のパラメータを打ち込まなきゃいけなくなるんじゃ……? 200毎に階級が解放されていくっていうルールも上手く機能しなくなりそうに思えるんだけど。


 その話相手は、アラトの問いを受けてこう答えた。


 ──別にそうでもないよ。君がちょっと勘違いをしているせいもあるかな。そもそもの前提として、200区切りで初級、下級、中級、上級、超級という5つの階級が1つずつ解放されていくって捉え方が間違いなのさ。基本設定はこうだ────レベル200区切りで、下位、中位、上位も含めた15階級のうち3つずつ下から解放される。後はこれに無職用の2つのパラメータを加えるだけ。『魔技解放に関して、無職は最初のレベルを1の代わりにー199とする』『無職は3つずつの魔技解放を3回終えた後、1回毎に1つの魔技解放に変更する』。これで君が心配していたような『無職に下位上級を覚えさせるための新たなパラメータ』は必要なくなるというわけだ。


 その時アラトは、ひどく感心したものだ。

 確かにそれなら、設定するパラメータもそれ程多くなくて済むだろうと。


 ちなみに魔技とは魔法・技巧のことである。

 会話の時はこのように省略する者が多かった。


 ──てことは、俺達はレベル1801になった時に全部の魔技を覚えられるわけだ?

 ──そういうことになるね。まあ、1000レベルを超える抜け道なんて用意していないけど。


 そのまま笑いあって、アラトとそのスタッフの会話は終わった。




 話を戻して。

 レベル2000にはなれなくても、レベルでの制限を乗り越えられるというのなら。

 アラトは、『無職』という職業は────とても、強いのではないか?


 アラトは力強く拳を握る。

 もちろん、付け焼き刃の魔法・技巧で無双できるほど《マスパラ》は甘くなかった。

 だが、どこまで強くなれるのか────試してみる価値はあるだろう。


(これは、その第1歩だ)


 思い出す。

 場面は、《マスパラチャンピオンシップ》で初優勝した時の決勝戦。《闇夜のキリニャン》に使われ、大苦戦を強いられた深淵魔法。

 それを、模倣する。

 大丈夫。あの時は魔力の流れなど理解できていなかったが、現在(いま)の知識で過去(むかし)を思い起こせば手に取るようにわかる。

 同じ流れで魔法を使うくらい、造作もない────。


「『()()()()深淵魔法・影法師』」


 アラトの詠唱と同時、アラトの影が切り離されて立体的に立ち上がり、アラトに向かって一礼した。


 周りの3人は驚いている。無理もない。

 『影法師』は上位上級魔法。アラトは本来使えないからだ。クシュルの話に出てきてはいたが、アラトがいとも容易く使ったことも原因だろうか。


 だがアラトは、気にせず力を試す。

 『影法師』には、本人が使える魔法・技巧のうち最高位以外のものを扱えるという特性がある。

 それに従えば、この『影法師』は『中位特級』まで使いこなすはずである。


(『下位特級幻惑魔法・多重合体幻覚(マルチユニオンハルシネーション)』……いけるか?)


 心の中で指示を出し、『影法師』に使わせるのはラスカも使っていた魔法。

 あらゆる要素において周囲を騙す、幻惑魔法の最高峰。



 ……その現象は、もしかしたらキララにも理解できなかったのかもしれない。

 一瞬のうちに『影法師』はいなくなり、そこにはただアラトの影が伸びていた。


「あ、アラト……今の『影法師』は? 魔法の維持に失敗したのか?」


 一部の魔法──特に幻惑魔法に多いのだが──には、集中が切れると魔法が維持できなくなるものがある。

 キララは、今回の現象はそれだと思ったようだ。

 クリリからの反応もない。表情を読むに違うと感じているようだが、何が違うと説明できずにもどかしい思いをしているらしい。

 クシュルはもう何が何やら、目を白黒させている。素の可愛らしさが出ていて、微笑ましい。


 ────この場で、当事者であるアラトだけが状況を正確に理解していた。


(これは、『()()()()()()()()()()。『()()()()()()()()()()。だって『影法師』は、まだそこにいる)


 出現したアラトの影は、『影法師』がそうあると幻覚で見せている物だ。

 アラトが一歩踏み出すのに、『影法師』が映す幻覚は完璧について来た。


 難しいことを容易くこなす凄まじい集中力────そう考えかけて、アラトは思い留まる。違う。


(こいつは、別に難しいことをしているわけじゃない……()()()()()()()()()()()()をしているだけなんだ!)


 その通り。『影法師』には意思がない。緊張もしなければ、集中もしない。『影法師』は受けた指示を淡々と実行する。それができようとできなかろうと、絶対に。そしてそれが成功したならば、妨害を受けるまで切れることはないのである。

 今回『影法師』は、アラトの『多重合体幻覚』という指示を受けて正しく実行しただけだ。その内容にしても、アラトがこの場で一番効果的だと考えていたものを汲み取ったに過ぎない。


 でも、そうだとしても。


 アラトは続けて考える。


 何故、『影法師』の使った幻惑魔法はキララを一瞬で欺くほどの完成度になっていたのか?


 通常、こういった純正の魔法召喚物が使う魔法・技巧は、本来の使用者が使える魔法・技巧の威力を超えることはない。

 模擬戦でキララが使った四神もそうだ。アレはキララが自分でも使える威力の魔法を、砲台の数を増やしてぶっぱなしているだけである。

 まあ、一応魔法適性が違うので若干召喚物の方が威力が高かったりするのだが。

 だが今回、厳密に言えばアラトは『多重合体幻覚』を覚えている扱いにはなっていない。その場合、魔法・技巧の威力はどうなるのか。


(まさか……俺の覚えている幻惑魔法全ての熟練度の合計とか言わないだろうな!?)


 アラトのこの考えは不正解だ。

 だが、正解にかなり近いものではあった。

 正しくは、『アラトが今まで使ってきた幻惑魔法の総合熟練度』ではなく『アラトが今までに使ってきた下位特級魔法が全て『多重合体幻覚』であったと仮定した場合の総合熟練度』だ。

 そしてむしろこっちの方がアラトにとっては有利に働く。

 アラトは幻惑魔法をあまり使わないが、特級の魔法なら補助魔法で使いまくっているからだ。


 1度でもアラトが自分で『多重合体幻覚』を使えば、魔法を覚えたという扱いになり『影法師』に使わせた際も覚えたての魔法として扱われるだろう。

 だが逆に言えば、アラトが『影法師』を経由して特級魔法を使う分には勝手に熟練度が換算されるということだ。

 それは、長時間《マスパラ》というゲームをプレイしてきたアラトにとってかなりのアドバンテージになる。

 そして、魔法・技巧は明確にイメージができてMPが足りるのなら誰にでも使える。


 こんな細かい事情はアラトは知らなかったが、それでも直感した。自分が新しく魔法・技巧を覚えるのはやめた方がいいと。


 『影法師』は成功した。ならば、この先コストなども必要なく維持される。使用者のステータスを少し低下させたものが『影法師』のステータスになるので、自動MP回復などもしているはずだ。



 ちなみに、アラトがクシュルやギルドで戦った冒険者のように覚えられない熟練度の魔法発動に時間がかからなかった理由だが、『無職』のレベル換算は魔技解放にしか影響しないためだ。使うだけならばアラトは上位特級まで使える。

 というか、そうでなければアラトは補助魔法を使わなかった。




 動揺しているキララ達に『影法師』のことを説明しながら、アラトは上機嫌で王都に戻る。


 ────原因不明の魔物の大量発生、取り敢えずの解決────

いかがでしたか。


アラトくんが超強化!

……あれぇおっかしいな。なんでこいつこんな強くなってんの?

マジでこんなぶっ壊れ性能にする気はなかったんだけど、話の展開でなんかそうなってました(白目)

まあいいや、この先もアラトくんには楽しく頑張ってもらおう。


次回はギルドに戻って報酬を受け取ることはすると思います。他に何するのかは知りません。こいつら勝手に動きまくるんだもの。

今度は1ヶ月くらいで出せると思います。気長にどうぞ。


では、また次回。

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